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21 必勝!エルフ流 学力向上マル秘対策 9(やる気)
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「素田教頭先生、例の報告書は作成できそうですか?」
「え、ええ、何とか……」
「それは良かったですね……まあ、これで当分は責められずに済むでしょう……」
「そうでしょうか?……」
例のごとく、校長室では小声で密談が進められていたんだ。
校長先生は、意外にさっぱりとした表情で細かいことは意に介さない態度なのだが、実際に報告書を作成した僕にしてみれば、後ろめたい気持ちはいつも残っている。
まったく学校ってやつは、“目的”と“取組”と“結果”をつながりのないところから無理やり引っ張ってくる感じがする。それを傍目には、時間軸だけで、さも関連があるような理由付けが後からされるんだ。
「……本当にこれでいいんでしょうか?」
僕は、自分のしたことが、エルと子ども達に汚点を残しているような気がして、どうしてもすっきりしないんだ。
「田中校長先生、エルフィーナ先生達は、子ども達の“やる気”を一番に考えて取組を計画しました。決して、全国対応の学力テストのためではありませんでした。…………それを“文共局”への報告書には、“学力テストの対策として、学力向上のため下位学年の学び直しを自主的に体験し、主体的な学習態度を身に付け、自らの学習計画の立案に役立てる”なんていう趣旨の報告に改ざんしたんですよ……」
僕は、自分を責めていたが、そのほとんどはエルフィーナ対して顔向けができないことだと感じたんだ。
すると校長先生は、落ち着いた態度で僕に諭すように話し出したんだ。
「素田教頭先生は、なんてまっすぐな人なんだろうね、だからエルフィーナさんも信じたんだと思うんだけど、よく考えてごらんなさい。たぶん今子ども達がやっていることは、きっと学力テスト以上の成果を上げてくれるはずですよ。そうなったら、学力テストに向けての取組なんか、どうってことがありませんから心配しなくて大丈夫です。あなたの信じるエルフィーナさんでしょ、きっとものすごい成果を出してくれますよ。私達が信じないで誰が信じるんですか? 一緒に夢を見ましょうよ、ね、素田教頭先生!」
校長先生にそう言われて、僕はふと我に返った。
“文共局”も“学力テスト”も関係なく、ただ子どもの願いに寄り添って一緒に頑張っているエルフィーナの顔を思い出したのだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
6年生の取組が始まって1週間が過ぎようとしていた頃、校内はとんでも無い状況になっていた。
「田中校長先生、また報告があがってきましたよ……」
「今度は、どこの学級ですか?」
「……えっと……4年1組と3年1組です。ああ、これで、大里山小学校のすべての学級は、6年生の学級訪問を受け入れることになりましたよ……」
はじめは、3つの学級だけだったが、6年生の取組のすばらしさを聞きつけた他の学級が、『うちにも、うちにも』と、お願いが入ったのだった。
「いやーすごいですね6年生の評判は。特に低学年のよいお手本になっているようですからね」
「私なんか、この間の全校集会で集まった時、6年生が居ないのには驚いてしまいました。6年生が集会に遅刻したんだと思ったんですよ。そしたら、他の学年にバラけて混じっていたんです。そして、上手く先導を務めて体育館迄誘導したんですね。その後、下の学年が体育館に並んだら、6年生があっという間に自分の列に並び直したんですよ。10秒もかからなかったんですよ……私、計ったんですから……」
「ほーそりゃ、すごいですね……」
校長先生は、さほど驚いた様子ではなかったが、満面の笑みは浮かべていたんだ。僕は、さも自分の手柄のように話し、溶けそうな表情になってしまっていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
※ここからは、エルの視点
「みんなーこれで、どの学級へ行っても、みんなの取組には協力してもらえるけど、あまり無理はしないでね。相手のこともそうだけど、自分のことも考えて行動して下いね。今週も任せるからね」
「エル先生、実はね、隣の1組の小池君と仲良くなったんだ。おれ、他の学級っていったけど、6年1組に行って勉強を教えてもらっちゃった、えへへ……」
「へー、そういうのも、あるんだね……」
「私はね、掃除に行ったの、1年生に雑巾の絞り方を教えたわ。でもね、力が無くて絞れないのよ、小さい子って、あんなに力が無かったよのね。私もそうだったと思うんだけど、忘れてたわ。うちには弟や妹が居ないから、とっても良かったわ」
「いい経験になったのね……」
「私ね、学校で褒められるから、家でも勉強しちゃった。なんかやる気が出ちゃってさ……」
「僕もなんだよね……今度は、4年生に地図を教えたいから、自分でも復習しちゃった」
どの子の顔も生き生きしているの。勉強だけじゃなく、もちろん勉強が得意じゃない子は、遊びや運動などで他の学年と関わりたいという希望をたくさん持てるようになっていたわ。
人と関わりたいと思えば思うほど、自分の実力を上げたくなるのね。そう思うのも当たり前なのよね。でも、子ども達にしたら、きっとものすごい進歩なのかもね。
「……うーん、どの子も自分のスキルを上げたいと思っていますよね……ひょっとして、これが、校長先生のいう“当たり前”なんでしょうかね……」と、山田先生が、私に何気なく聞いてきたの。
以前、校長先生の年度経営の説明の時、私は、“誰の当たり前”なのかを質問したんだけど、今、子ども達にとっての、学びの当たり前が順調に機能し始めた証拠なのかもしれないと、山田先生は考えたのかもしれないわね。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
※ここから直人の視点に戻る
全校的に気分が高まった1週間が過ぎ、いよいよ6年生は全国を対象にした学力テストが行われた。
正式に採点が行われるのは、少し後になるが、どうしても文共局は傾向を分析したいがために、自校で採点して結果の分析を届けるようにという通達も出して来た。
この時点で、国語、算数、外国語ともに、前年度と比べてさほど変化した点数ではなかった。
ただ、はじめからテストのための取組ではなかったので、6年団の教師も、ボクも、もちろん子ども達も、気にはしなかった。
それよりも、6年生が他の学級へ行く取組は、今後も続けることが決まったので、子ども達は、大いに喜んだ。
付け加えると、他の学級の先生や子ども達の方が大喜びしたようである。
ただし、6年生の授業も今後は、いろいろあるので、週に数時間と少なくはなるようだが、大いに学校全体が活気づく取組は残ったのである。
そして、これは後に発覚するのであるが、この取組は、学力テストのアンケートにおいてとてつもない結果を残していることが明るみに出た。そのお話は、今後また……。
「エル先生、この学力テストが終わると、世の中はゴールデンウィークになりますね……」
事務机に座りながら伸びをして、平野先生がつぶやいいていたのが聞こえた。
「ゴールデンウィーク?……何ですか、それ?」
「そっか、エル先生は、ご存じないか……少し、長い休みが続くんです。今年は、8連休ですよ……エル先生も、慣れない仕事で、この4月、疲れたでしょ……ゆっくり素田教頭とお休みして、楽しく過ごしてくださいね」
「は……」
最近、エルは忙しくて僕とゆっくり話もできていなかったなあ。僕は、ちょっとゴールデンウィークに、何かエルを喜ばすことができないかと考えてみたんだ。
(つづく)
「え、ええ、何とか……」
「それは良かったですね……まあ、これで当分は責められずに済むでしょう……」
「そうでしょうか?……」
例のごとく、校長室では小声で密談が進められていたんだ。
校長先生は、意外にさっぱりとした表情で細かいことは意に介さない態度なのだが、実際に報告書を作成した僕にしてみれば、後ろめたい気持ちはいつも残っている。
まったく学校ってやつは、“目的”と“取組”と“結果”をつながりのないところから無理やり引っ張ってくる感じがする。それを傍目には、時間軸だけで、さも関連があるような理由付けが後からされるんだ。
「……本当にこれでいいんでしょうか?」
僕は、自分のしたことが、エルと子ども達に汚点を残しているような気がして、どうしてもすっきりしないんだ。
「田中校長先生、エルフィーナ先生達は、子ども達の“やる気”を一番に考えて取組を計画しました。決して、全国対応の学力テストのためではありませんでした。…………それを“文共局”への報告書には、“学力テストの対策として、学力向上のため下位学年の学び直しを自主的に体験し、主体的な学習態度を身に付け、自らの学習計画の立案に役立てる”なんていう趣旨の報告に改ざんしたんですよ……」
僕は、自分を責めていたが、そのほとんどはエルフィーナ対して顔向けができないことだと感じたんだ。
すると校長先生は、落ち着いた態度で僕に諭すように話し出したんだ。
「素田教頭先生は、なんてまっすぐな人なんだろうね、だからエルフィーナさんも信じたんだと思うんだけど、よく考えてごらんなさい。たぶん今子ども達がやっていることは、きっと学力テスト以上の成果を上げてくれるはずですよ。そうなったら、学力テストに向けての取組なんか、どうってことがありませんから心配しなくて大丈夫です。あなたの信じるエルフィーナさんでしょ、きっとものすごい成果を出してくれますよ。私達が信じないで誰が信じるんですか? 一緒に夢を見ましょうよ、ね、素田教頭先生!」
校長先生にそう言われて、僕はふと我に返った。
“文共局”も“学力テスト”も関係なく、ただ子どもの願いに寄り添って一緒に頑張っているエルフィーナの顔を思い出したのだった。
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6年生の取組が始まって1週間が過ぎようとしていた頃、校内はとんでも無い状況になっていた。
「田中校長先生、また報告があがってきましたよ……」
「今度は、どこの学級ですか?」
「……えっと……4年1組と3年1組です。ああ、これで、大里山小学校のすべての学級は、6年生の学級訪問を受け入れることになりましたよ……」
はじめは、3つの学級だけだったが、6年生の取組のすばらしさを聞きつけた他の学級が、『うちにも、うちにも』と、お願いが入ったのだった。
「いやーすごいですね6年生の評判は。特に低学年のよいお手本になっているようですからね」
「私なんか、この間の全校集会で集まった時、6年生が居ないのには驚いてしまいました。6年生が集会に遅刻したんだと思ったんですよ。そしたら、他の学年にバラけて混じっていたんです。そして、上手く先導を務めて体育館迄誘導したんですね。その後、下の学年が体育館に並んだら、6年生があっという間に自分の列に並び直したんですよ。10秒もかからなかったんですよ……私、計ったんですから……」
「ほーそりゃ、すごいですね……」
校長先生は、さほど驚いた様子ではなかったが、満面の笑みは浮かべていたんだ。僕は、さも自分の手柄のように話し、溶けそうな表情になってしまっていた。
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※ここからは、エルの視点
「みんなーこれで、どの学級へ行っても、みんなの取組には協力してもらえるけど、あまり無理はしないでね。相手のこともそうだけど、自分のことも考えて行動して下いね。今週も任せるからね」
「エル先生、実はね、隣の1組の小池君と仲良くなったんだ。おれ、他の学級っていったけど、6年1組に行って勉強を教えてもらっちゃった、えへへ……」
「へー、そういうのも、あるんだね……」
「私はね、掃除に行ったの、1年生に雑巾の絞り方を教えたわ。でもね、力が無くて絞れないのよ、小さい子って、あんなに力が無かったよのね。私もそうだったと思うんだけど、忘れてたわ。うちには弟や妹が居ないから、とっても良かったわ」
「いい経験になったのね……」
「私ね、学校で褒められるから、家でも勉強しちゃった。なんかやる気が出ちゃってさ……」
「僕もなんだよね……今度は、4年生に地図を教えたいから、自分でも復習しちゃった」
どの子の顔も生き生きしているの。勉強だけじゃなく、もちろん勉強が得意じゃない子は、遊びや運動などで他の学年と関わりたいという希望をたくさん持てるようになっていたわ。
人と関わりたいと思えば思うほど、自分の実力を上げたくなるのね。そう思うのも当たり前なのよね。でも、子ども達にしたら、きっとものすごい進歩なのかもね。
「……うーん、どの子も自分のスキルを上げたいと思っていますよね……ひょっとして、これが、校長先生のいう“当たり前”なんでしょうかね……」と、山田先生が、私に何気なく聞いてきたの。
以前、校長先生の年度経営の説明の時、私は、“誰の当たり前”なのかを質問したんだけど、今、子ども達にとっての、学びの当たり前が順調に機能し始めた証拠なのかもしれないと、山田先生は考えたのかもしれないわね。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
※ここから直人の視点に戻る
全校的に気分が高まった1週間が過ぎ、いよいよ6年生は全国を対象にした学力テストが行われた。
正式に採点が行われるのは、少し後になるが、どうしても文共局は傾向を分析したいがために、自校で採点して結果の分析を届けるようにという通達も出して来た。
この時点で、国語、算数、外国語ともに、前年度と比べてさほど変化した点数ではなかった。
ただ、はじめからテストのための取組ではなかったので、6年団の教師も、ボクも、もちろん子ども達も、気にはしなかった。
それよりも、6年生が他の学級へ行く取組は、今後も続けることが決まったので、子ども達は、大いに喜んだ。
付け加えると、他の学級の先生や子ども達の方が大喜びしたようである。
ただし、6年生の授業も今後は、いろいろあるので、週に数時間と少なくはなるようだが、大いに学校全体が活気づく取組は残ったのである。
そして、これは後に発覚するのであるが、この取組は、学力テストのアンケートにおいてとてつもない結果を残していることが明るみに出た。そのお話は、今後また……。
「エル先生、この学力テストが終わると、世の中はゴールデンウィークになりますね……」
事務机に座りながら伸びをして、平野先生がつぶやいいていたのが聞こえた。
「ゴールデンウィーク?……何ですか、それ?」
「そっか、エル先生は、ご存じないか……少し、長い休みが続くんです。今年は、8連休ですよ……エル先生も、慣れない仕事で、この4月、疲れたでしょ……ゆっくり素田教頭とお休みして、楽しく過ごしてくださいね」
「は……」
最近、エルは忙しくて僕とゆっくり話もできていなかったなあ。僕は、ちょっとゴールデンウィークに、何かエルを喜ばすことができないかと考えてみたんだ。
(つづく)
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