31 / 57
31 エルフィーナの休日 4 ~露天の朝風呂~
しおりを挟む
「さあ、行くよ! あんた達! 起きた、起きた……こんなところで寒くなかったかい?(本当に、布団で寝ればいいのに、もう……まったく)」
お母ちゃんは、笑っていた。
「……え?……あ、お母ちゃん……あの、こ、これは……その」
「いいから、いいから。ほれ、エルちゃんも支度してね、温泉いくよ!」
「温泉?……昨日……行きましたよ?……」
僕もエルもまだ少し寝ぼけ眼で、お母ちゃんの話について行くがやっとだった。
「朝に行くのも、楽しいの!」
「だって、お母ちゃん、まだ暗いよ!」
「だから、いいんじゃないの!!……お前も一緒に行くの!」
僕達は、日の出前に朝風呂に行くとになった。夕べ行った十階の大浴場に入ると、さすがにお客さんは誰もいなかった。
お母ちゃんは、浴室に入る前に直人に一言だけ指示をした。
『いいかい、風呂に入ったら、すぐに露天へ行きな! できるだけ女湯の方に近づいていなさいよ! わかったね』
と、だけ言い残して、自分達はさっさと浴室に消えた。
「朝っぱらから、露天風呂か~寒そうだな……」
あまり気乗りはしなかったが、言う通りにしないと、お母ちゃんに怒られそうだったので、すぐに浴室に入った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「エルちゃん、夕べは行かなかったお風呂があるんだよ……こっちだよ」
お母ちゃんは、エルの手を引いて、ゆっくりと露天風呂の扉を開けた。(なんとなく気配でわかったの! 覗いてないからね)
夕べ入った浴室の一角には、外へと通じる扉があるのだ。(これは、男湯も女湯もおなじだったんだ)
そこは、目隠しの木々や簾が掛かっている屋外のお風呂だった。
そう、つまり“露天風呂”だ。
室内のお風呂と違うのは、湯船やその周りの装飾が、自然に近いものに似せてあるので、大きな岩や草原、大木などでできているんだ。
「わああーー、何だか懐かしい気がします……」
あ、エルの声が聞こえる!
エルフであるエルフィーナにとっては、外で水浴びをする方が自然なのかもしれなかった。ただ、それが温泉ならば、別である。
「ああああああああ…………、ここも温泉なんですね。すごいわ~外なのに、温かい温泉なんて……うううんんんんん~~なんて気持ちのいい………」
「すごいでしょ!」
「……すごいわ……お母さん……」
エルは、お湯に浸かりながら、身も心もとろけそうな声を出していた。
『……直人~~、来てる~~』
お母ちゃんは、隣の簾に向かって声を掛けてきたんだ。
『恥ずかしいから、あんまり大きな声出すなよ、お母ちゃん……』
簾越しに声をかけるなんて。他に人はいないけど……。
「あ、いたいた。エルちゃんも、呼んでごらんよ! 直人だよ……すぐ隣が、男湯になっているんだ。露天風呂はね近いんだよね」
ニヤニヤしながらお母ちゃんは、エルを焚きつけているぞ。
『直人~、そこに居るの~? エルだよ~』
エルが、思ったより大きな声で、叫んできた。恥ずかしいけど、ちょっと嬉しかった!
『ああ、いるから、心配しないで……大丈夫だよ』
するとお母ちゃんが、エルに向かって、何か話し出した。
「エルちゃんさ、今は直人の顔は見えないだろう? でもね、ちゃんと声は聞こえるんだよ。直人の手を直接握ることはできなくても、直人はちゃんとエルちゃんの方を見ているからね。そして、エルちゃんのことをいつも考えているんだよ。直人の気持ちが分かったら、少しは安心できるんじゃないかい? 例え、見えなくても、触れられなくても、相手の気持ちが分かったら、大丈夫って思えるんじゃないかなあ……」
その時、東の空が薄っすらと明るくなってきた。
「見てごらん、エルちゃん。日の出だよ。温泉に入りながら、太陽の出るのを見られるなんて、すごいじゃないか。直人も向こうで、同じものを見ているんだよ」
『直人~見てる~~?』
『見てるよ~、エル~~……きれいだよ~』
『お前~覗いているんじゃないでしょうね?~』
『日の出のことだよ……まったくも~』
『あははははあ』
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その日の夜、家に帰ってきた僕は、エルに大きな包みを渡した。
「エル、これ温泉のお土産だよ」
「そういえば帰りにもう一度お土産物屋さんに行って何か買ってたわね……開けていい?」
「どうぞ」
中から出てきたのは、大きなゴリラの柔らかな縫いぐるみだった。顔は愛嬌があって可愛いのだが、手足は長く、特に手の平は滑らかで気持ちのいいものだった。
「……なあ、手が似てるんだ……いつもは握ってあげられないけど……これ……」
エルがしばらくゴリラの縫いぐるみを抱きしめた後、
「ねえ、手を貸して」
と言って、ゴリラの手と直人の手をしばらくつなぎ合わせて、何か祈っていた。
「……でもね、時々は、本物の手も……お願いよ」
「あ、ああ、わかってるさ……一緒の夢を見るんだもんな……」
「そうよ……見るのよ……同じ夢を……」
(つづく)
お母ちゃんは、笑っていた。
「……え?……あ、お母ちゃん……あの、こ、これは……その」
「いいから、いいから。ほれ、エルちゃんも支度してね、温泉いくよ!」
「温泉?……昨日……行きましたよ?……」
僕もエルもまだ少し寝ぼけ眼で、お母ちゃんの話について行くがやっとだった。
「朝に行くのも、楽しいの!」
「だって、お母ちゃん、まだ暗いよ!」
「だから、いいんじゃないの!!……お前も一緒に行くの!」
僕達は、日の出前に朝風呂に行くとになった。夕べ行った十階の大浴場に入ると、さすがにお客さんは誰もいなかった。
お母ちゃんは、浴室に入る前に直人に一言だけ指示をした。
『いいかい、風呂に入ったら、すぐに露天へ行きな! できるだけ女湯の方に近づいていなさいよ! わかったね』
と、だけ言い残して、自分達はさっさと浴室に消えた。
「朝っぱらから、露天風呂か~寒そうだな……」
あまり気乗りはしなかったが、言う通りにしないと、お母ちゃんに怒られそうだったので、すぐに浴室に入った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「エルちゃん、夕べは行かなかったお風呂があるんだよ……こっちだよ」
お母ちゃんは、エルの手を引いて、ゆっくりと露天風呂の扉を開けた。(なんとなく気配でわかったの! 覗いてないからね)
夕べ入った浴室の一角には、外へと通じる扉があるのだ。(これは、男湯も女湯もおなじだったんだ)
そこは、目隠しの木々や簾が掛かっている屋外のお風呂だった。
そう、つまり“露天風呂”だ。
室内のお風呂と違うのは、湯船やその周りの装飾が、自然に近いものに似せてあるので、大きな岩や草原、大木などでできているんだ。
「わああーー、何だか懐かしい気がします……」
あ、エルの声が聞こえる!
エルフであるエルフィーナにとっては、外で水浴びをする方が自然なのかもしれなかった。ただ、それが温泉ならば、別である。
「ああああああああ…………、ここも温泉なんですね。すごいわ~外なのに、温かい温泉なんて……うううんんんんん~~なんて気持ちのいい………」
「すごいでしょ!」
「……すごいわ……お母さん……」
エルは、お湯に浸かりながら、身も心もとろけそうな声を出していた。
『……直人~~、来てる~~』
お母ちゃんは、隣の簾に向かって声を掛けてきたんだ。
『恥ずかしいから、あんまり大きな声出すなよ、お母ちゃん……』
簾越しに声をかけるなんて。他に人はいないけど……。
「あ、いたいた。エルちゃんも、呼んでごらんよ! 直人だよ……すぐ隣が、男湯になっているんだ。露天風呂はね近いんだよね」
ニヤニヤしながらお母ちゃんは、エルを焚きつけているぞ。
『直人~、そこに居るの~? エルだよ~』
エルが、思ったより大きな声で、叫んできた。恥ずかしいけど、ちょっと嬉しかった!
『ああ、いるから、心配しないで……大丈夫だよ』
するとお母ちゃんが、エルに向かって、何か話し出した。
「エルちゃんさ、今は直人の顔は見えないだろう? でもね、ちゃんと声は聞こえるんだよ。直人の手を直接握ることはできなくても、直人はちゃんとエルちゃんの方を見ているからね。そして、エルちゃんのことをいつも考えているんだよ。直人の気持ちが分かったら、少しは安心できるんじゃないかい? 例え、見えなくても、触れられなくても、相手の気持ちが分かったら、大丈夫って思えるんじゃないかなあ……」
その時、東の空が薄っすらと明るくなってきた。
「見てごらん、エルちゃん。日の出だよ。温泉に入りながら、太陽の出るのを見られるなんて、すごいじゃないか。直人も向こうで、同じものを見ているんだよ」
『直人~見てる~~?』
『見てるよ~、エル~~……きれいだよ~』
『お前~覗いているんじゃないでしょうね?~』
『日の出のことだよ……まったくも~』
『あははははあ』
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その日の夜、家に帰ってきた僕は、エルに大きな包みを渡した。
「エル、これ温泉のお土産だよ」
「そういえば帰りにもう一度お土産物屋さんに行って何か買ってたわね……開けていい?」
「どうぞ」
中から出てきたのは、大きなゴリラの柔らかな縫いぐるみだった。顔は愛嬌があって可愛いのだが、手足は長く、特に手の平は滑らかで気持ちのいいものだった。
「……なあ、手が似てるんだ……いつもは握ってあげられないけど……これ……」
エルがしばらくゴリラの縫いぐるみを抱きしめた後、
「ねえ、手を貸して」
と言って、ゴリラの手と直人の手をしばらくつなぎ合わせて、何か祈っていた。
「……でもね、時々は、本物の手も……お願いよ」
「あ、ああ、わかってるさ……一緒の夢を見るんだもんな……」
「そうよ……見るのよ……同じ夢を……」
(つづく)
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる