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第1章 一番大切なもの
第1章第2話 秘密のポイント
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僕は、恐る恐る職員室に入った。
「……おはよう……ございま~す」
「おはようごさいます」
「あ、おはよう……」
「北野先生、おはようございます」
そこにいた数名の先生達から返事が返ってきた。いつもと何ら変わらないので、少し安心した。
「あのー…………」
僕は、自分の席に着き、隣で仕事をしている主任の先生に声をかけてみた。
「なに?……北野先生。どうかしたの?……ああ~成績付けが思う様に進まないのね」
「あ、いえ、そうじゃないんです。……僕の……ここ………………変じゃないですか?」
主任の早央里先生は、ちょっと年上のしっかりしたお姉さんという感じの人だ。面倒見がよく、何でも丁寧に話しを聞いてくれる。だから、僕も思い切って聞いてみた。
「え?……」
主任先生は、ちょっとだけ僕を見て、それほどびっくりする様子も見せず、にっこり微笑んだ。
「北野先生、いっぱいがんばったのね。これで、あなたも一人前よ」
「ど、どいう事ですか?」
「何言ってんの。これが見えるんでしょ……ということは、一人前の教師になったということよ」
そして、僕に近づいて来て、声を潜めて話し出した。
「……あのね、大抵の先生はね、見えるのよ。でもね、みんなじゃないの。だから、見えない人には黙っているのよ。それが、優しさかな? ん~どうかなあ? 見えない方がいいのかなあ?…………あなたもきっとすぐわかるわ」
僕は、席を立って、もう一度洗面所で自分の頭の上をよく見た。確かにそこには、数字が浮かんでいるのである。
右手で触ろうとするとうっすらと透けるようになり、手が遠ざかるとまたはっきりと見える。決して邪魔にはならない感じだ。
「ふー」
小さなため息をついたが、気分はまだ晴れない。しかたなく、また席に戻った。
「あのー、早央里先生…………」
「はいはい、わかっているわよ。ちょっとまってね。……あ! 鎌田単語先生、ちょっといいですか?」
主任の早央里先生は、同じ学年を組む鎌田先生を呼ぶと、奥の会議室を指さした。僕ら3人は、その会議室に向かったんだ。
「いい? ここで話すことは、とても大事なことなんだけど、みんながみんなに当てはまることじゃないの。だから、絶対に他の人に言ってはダメよ。あなたは、真面目だから大丈夫よね!」
「そんなに、恐ろしいものなんですか?」
「恐ろしいんじゃないんだ。これは、難しいというべきだと僕は思う。僕なんか、見え出した時、3年ぐらいは一人で悩んだもんな。特に成績づけの時なんかひどかったなぞ!」
普段余計なことはしゃべらない鎌田先生が、妙に興奮したように話している。やっぱり、すごい事なんじゃないかなあ。
「北野先生、この数字は、子ども達の頭にも見えたの?」
「はい。今朝、学校に来る途中、出会った子達、全員の頭の先についていました」
「そう。それで、何か感じなかった?」
「何となく、みんな違ってました。それに、高学年の子の数字が、大きかったです」
「え?それだけか?」
「あと、……………………」
「なんだよ、言ってみろよ」
「…………鎌田先生より、早央里先生の数字の方が大きいです」
「あー、はい、はい。それで、何か、わかったのかい?」
「……何となくですが……成績というか、成果というか、できというか、……そうだゲームでいうところのステータスのようなものじゃないかって思いました。数字が大きい方が、レベルが高くて、いろんなことができるみたいな……」
「そう、その通りだ。これは、教師だったら、みんなが悩む『憧れの評価ポイント』なんだよ!」
「今は、北野先生も成績を付けているからわかるだろうけど、なんか簡単に評価が数字でポンと出る機械があったらいいなって思わないか?」
「あ、はい。……い、いえ。…………そんなことは、思いません! 決して思いません!!」
「無理するなって、北野先生」
「あのね、いつからなのか、どうしてなのかは、わからないわ。その数字が正確なのかもわからないの。でも、本当に真剣に評価について考える教師にだけ、この数字が見えるようになるってことは、言い伝えになっているの。しかも絶対にそのことは、表に出ないようになっているのよ」
早央里先生は、妙に真剣に、そして真面目に考えながら話しているのが分かった。
「どうしてだかは、分からないわ。だから、この話は私達の間で会話として行われるのは、これが最後なのよ」
「いいかい北野先生。僕だって、この話をするのは、2回目さ」
普段は無口で冗談も言ったことが無いんじゃないかと思う鎌田先生も、いつも以上に饒舌に話し出した。
「1回目は最初に見えるようになった時、やっぱり先輩の先生に、今みたいな話をされたんだ。だから、北野先生も次に話をするのは、若い先生が初めて『憧れの評価ポイント』が見えるようになって驚いているときだと思うよ」
2人は、時間の許す限り、僕が落ち着いてこの数字に向かい合えるように、自分の経験を聞かせてくれたんだ。
(つづく)
「……おはよう……ございま~す」
「おはようごさいます」
「あ、おはよう……」
「北野先生、おはようございます」
そこにいた数名の先生達から返事が返ってきた。いつもと何ら変わらないので、少し安心した。
「あのー…………」
僕は、自分の席に着き、隣で仕事をしている主任の先生に声をかけてみた。
「なに?……北野先生。どうかしたの?……ああ~成績付けが思う様に進まないのね」
「あ、いえ、そうじゃないんです。……僕の……ここ………………変じゃないですか?」
主任の早央里先生は、ちょっと年上のしっかりしたお姉さんという感じの人だ。面倒見がよく、何でも丁寧に話しを聞いてくれる。だから、僕も思い切って聞いてみた。
「え?……」
主任先生は、ちょっとだけ僕を見て、それほどびっくりする様子も見せず、にっこり微笑んだ。
「北野先生、いっぱいがんばったのね。これで、あなたも一人前よ」
「ど、どいう事ですか?」
「何言ってんの。これが見えるんでしょ……ということは、一人前の教師になったということよ」
そして、僕に近づいて来て、声を潜めて話し出した。
「……あのね、大抵の先生はね、見えるのよ。でもね、みんなじゃないの。だから、見えない人には黙っているのよ。それが、優しさかな? ん~どうかなあ? 見えない方がいいのかなあ?…………あなたもきっとすぐわかるわ」
僕は、席を立って、もう一度洗面所で自分の頭の上をよく見た。確かにそこには、数字が浮かんでいるのである。
右手で触ろうとするとうっすらと透けるようになり、手が遠ざかるとまたはっきりと見える。決して邪魔にはならない感じだ。
「ふー」
小さなため息をついたが、気分はまだ晴れない。しかたなく、また席に戻った。
「あのー、早央里先生…………」
「はいはい、わかっているわよ。ちょっとまってね。……あ! 鎌田単語先生、ちょっといいですか?」
主任の早央里先生は、同じ学年を組む鎌田先生を呼ぶと、奥の会議室を指さした。僕ら3人は、その会議室に向かったんだ。
「いい? ここで話すことは、とても大事なことなんだけど、みんながみんなに当てはまることじゃないの。だから、絶対に他の人に言ってはダメよ。あなたは、真面目だから大丈夫よね!」
「そんなに、恐ろしいものなんですか?」
「恐ろしいんじゃないんだ。これは、難しいというべきだと僕は思う。僕なんか、見え出した時、3年ぐらいは一人で悩んだもんな。特に成績づけの時なんかひどかったなぞ!」
普段余計なことはしゃべらない鎌田先生が、妙に興奮したように話している。やっぱり、すごい事なんじゃないかなあ。
「北野先生、この数字は、子ども達の頭にも見えたの?」
「はい。今朝、学校に来る途中、出会った子達、全員の頭の先についていました」
「そう。それで、何か感じなかった?」
「何となく、みんな違ってました。それに、高学年の子の数字が、大きかったです」
「え?それだけか?」
「あと、……………………」
「なんだよ、言ってみろよ」
「…………鎌田先生より、早央里先生の数字の方が大きいです」
「あー、はい、はい。それで、何か、わかったのかい?」
「……何となくですが……成績というか、成果というか、できというか、……そうだゲームでいうところのステータスのようなものじゃないかって思いました。数字が大きい方が、レベルが高くて、いろんなことができるみたいな……」
「そう、その通りだ。これは、教師だったら、みんなが悩む『憧れの評価ポイント』なんだよ!」
「今は、北野先生も成績を付けているからわかるだろうけど、なんか簡単に評価が数字でポンと出る機械があったらいいなって思わないか?」
「あ、はい。……い、いえ。…………そんなことは、思いません! 決して思いません!!」
「無理するなって、北野先生」
「あのね、いつからなのか、どうしてなのかは、わからないわ。その数字が正確なのかもわからないの。でも、本当に真剣に評価について考える教師にだけ、この数字が見えるようになるってことは、言い伝えになっているの。しかも絶対にそのことは、表に出ないようになっているのよ」
早央里先生は、妙に真剣に、そして真面目に考えながら話しているのが分かった。
「どうしてだかは、分からないわ。だから、この話は私達の間で会話として行われるのは、これが最後なのよ」
「いいかい北野先生。僕だって、この話をするのは、2回目さ」
普段は無口で冗談も言ったことが無いんじゃないかと思う鎌田先生も、いつも以上に饒舌に話し出した。
「1回目は最初に見えるようになった時、やっぱり先輩の先生に、今みたいな話をされたんだ。だから、北野先生も次に話をするのは、若い先生が初めて『憧れの評価ポイント』が見えるようになって驚いているときだと思うよ」
2人は、時間の許す限り、僕が落ち着いてこの数字に向かい合えるように、自分の経験を聞かせてくれたんだ。
(つづく)
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