先生の憂鬱

根 九里尾

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第1章 一番大切なもの

第1章第3話 簡単な事なの?

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 2人の先生の話を聞いた後、僕は改めて周りの人を観察した。

 不思議だよなあ。目の前にいる子ども達の頭の上に数字が見えるんだ。昨夜あれだけ悩んだ成績が、この数字を並べれば解決だなんて。本当なんだろうか?

 僕は、授業中もこの数字を観察してみた。




「……じゃあ、この計算のまとめは……。大事なことは、……。教科書の○ページの問題をやってごらん。……」


 みんなの数字が、少しずつ大きくなっていった。どうしてだ? そうか、授業をすると勉強したことが分かって、できるようになるから成績も上がるんだ。




 ……ん?あの子だけ、逆に数字が、少し減ったぞ?

「どうしたんだい? 問題を解かないのかい?」

「だって先生、この問題おかしいよ。どうして、10個の飴玉を4人で分けるのに、余ったらダメなの? 絶対に余るよ……」
「そりゃ、今は小数の割り算の勉強だからね。割り切れるまでやろうっていう問題なんだ」

「でもね、先生。飴玉は、固いし、小さいんだよ。そんなに簡単に割れないんだ。だから、余った2個を半分には、割れないんだよ」
「そっか、……そりゃあこの問題が悪いんだね。わかったよ」



 この子はよくわかっているじゃないか。誰よりも問題の意味が分かるんだ。

 ………ん? 今ので、この子の数字が大きくなってきたぞ。どういうことだ?


「じゃあ、答え合わせをするよ。黒板の方を見てね」

 答えが合っている子の数字が上がって、間違った子の数が下がったぞ。すごいな、本当にこれは『憧れの評価ポイント』なのかもしれないな。

 とりあえずメモっておいた方がいいかもしれないな。そっか、よく先生達が、子ども達をのぞき込んでいたのは、この数字をメモっていたのか。



 夕べ、あんなに悩んだのが嘘のような気がする。今日も放課後になったら、また続きをしないといけないと思っていたんだ。
 でも、今日一日で、教務手帳何ページ分も「例の数字」を書き溜めることができたんだ。 これで、あとは集計してしまえば、評価は完璧さ。


「北野先生、何か嬉しそうね」
「あ、早央里先生、え、まあ。ところで、早央里先生は、評価は終わったんですか?」

「それが、なかなか進まないのよ。今回、算数のテスト結果はいいんだけど、どうも授業の中で説明を求めるとうまくできないのよね。何か、大事なことが理解されていないような気がするの。明日の算数で、もう一度復習の授業をやってみることにするわ」

「え!テストの結果がいいんでしょ。それでは、だめなんですか?」

「そうね。小学校の評価って、人間の価値を決めてしまうものじゃないの。何が足りないか、足りないものを増やすためにどうすればいいか考えるために調べることなの。だから、本当に大切なのは、評価した後に何をするかだと、私は思うのよ」


 僕は、びっくりした。僕の頭の中では、評価してしまえば、もうそれで終わっていたのである。確かに、評価することは大変だ。目に見えないものを計らなければならない。そのために、たくさん材料を集める。

 でも、本当に大変なのは、評価した後なんだなあ~


 どうも府に落ちない事がある。あの時、早央里先生や鎌田先生は、『ほとんどの先生は、あの数字が見えている』と言っていたけど……。
 
 あれから気をつけて、周りの先生を見てるけど、子どもの頭の数字をメモったり、数字の話をしたりしている人は、誰もいない。それどころか、やっぱり評価の話になると、みんな頭を悩ませているんだ。

 不思議だ。あの数字が見えるんだったら、簡単なはずなのに……。

 今日も、また、あの数字を頼りに子ども達の様子を記録していこうかな。



(つづく)
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