先生の憂鬱

根 九里尾

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第1章 一番大切なもの

第1章第4話 その意味するところ

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 また今日も、僕は頭の数字のことを考えながら廊下を歩いていたんだ。

 すると、教室の前で、こちらを見て元気に手を振ってかけてくる男の子がいた。マー君だ。そういえば、昨日は国語のテストで100点だったのに元気がなかったなあ。例の数字は、クラスでもピカ一の数字でいいと思ったんだけど。


「せんせー、おはよーございまーす」
「おはよー。マーくん。どうしたんだい。教室に入っている約束じゃないかな?」

「でもね、でもね、早く先生に教えたくて、待ってたんです」
「何を教えてくれるのかな?」

「昨日ね、テストで100点取りましたよね」
「ああ、知ってるよ」

「それでね、お母さんに見せたんです。そしたらね……」
「そしたら?」

「いつもは、『100点で、よかったね。』しか言わないのに、『ここの問題の意味がよくわかって、登場人物になりきって、セリフが書けたのね。』って、言ってくれたの。それにね、『ここの漢字がとっても上手だよ』って褒めてくれたの」

 
 あれ?そんなこと?……でも、いつもは言われてないの? 100点だって言われてもうれしくない?……点数じゃわからない?


「……そっか、よかったね。お母さんは、ちゃんと見てくれたんだね。あのテストは大事にしまっておくんだよ」

「うん、先生ありがとう!じゃ、先に教室へ行ってるよ」


 あんなに、喜んでいるのに、頭の上の数字は変わらないんだ。変なの?……変?……おや?……何が変なんだ?


 僕は、教室の戸を開ける前に必ず立ち止まる癖がある。そんなに臆病ではないが、いつも考えてしまうんだ。
 子供達は、どんな目で僕を見つめるのだろう。時にはまぶしく、時には冷たく、感じる時がある。

 でも、いつも何かを期待しているのは間違いないと思うんだ。それに答えることができているのかなあー僕は。

 ほんの短い時間なんだけど、いつも頭をよぎるんだ。

 左手には算数の教科書や資料。資料と言っても俗にいう赤刷りという指導書だ。答えや解答のポイント、目標、評価規準などが書かれている教師の虎の巻だ。それに、授業の中で使う問題プリント。これだけあれば、万全だ。

 戸は右手で開ける。横に滑らせる。廊下は、いたって静か。今日は、教室の中も静かなようだ。

 まだ、さっきのマー君の笑顔が頭に残っている。昨日返したテストの話をどこかですべきだろうか?

 そんなことを考えながら、戸を開けた。



「おはようございます」

「「……「「「おはようございまーす」」」……」」

 いつものように元気な声が返ってきた。

「姿勢を良くしましょう!これから朝の会を始めます!」




 日直の号令で、学級朝の会が始まった。



(つづく)
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