先生の憂鬱

根 九里尾

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第2章 本当の研修

第2章第3話 表と裏

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 翌日、僕は教頭先生に、研修願いを提出したんだ。

「ほー、北野先生も、この研修会に参加したいのか……ふぅー、いよいよだな……まあ、しっかりやってきなさい」

 意味ありげな笑顔を見せながら、教頭先生は僕の書類を受けとってくれた。

「あーそーだ、3日目は少し遅くなるから、連絡はいらないよ。どうせ、飛行機は次の日だろ? 研修終了の報告連絡はしなくていいからね」
「あ、はい、分かりました」

 研修に出かけると、必ず研修終了の報告を求められていた。研修先から電話連絡を入れるんだ。
 あれだけ普段は煩く言うのに、「今回は必要ない」って、なんだか変な感じだ。ひょっとして夜の懇親会でもあるのかなあ。

 以前は、大きな研修会だと、最終日に慰労も兼ねて主催者が懇親会を企画することがあったが、最近はめっきり減った。経費と時間の節約だって言っているが、実のところ、みんな面倒くさいんだと思う。

 ま、とりあえず来週木、金、土と、3日間の研修会参加が決まった。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 いよいよ今日から研修会だ。僕と片桐先生は、夕べ、夜の飛行機で東京に着き、10時を回ったころにようやくホテルにチェックインした。昨日は、疲れもあってすぐそのまま眠ってしまったんだ。

 研修会場は、ホテルのすぐ近くの文化会館を貸し切って行われた、全国の学校関係者が集っているので、2000人以上にはなっている。

「北野先生、一つだけ忠告しておく。1日目の研修は、絶対に寝るなよ! 講義の内容なんて聞かなくてもいいから、とにかく寝ないことだけ頑張るんだ! 分かったな!」

「は、はい。がんばります?」


 いつにもなく、片桐先生の迫力ある眼力に押されて、僕は緊張してしまった。それにしても、寝ないことが第1だなんて、研修会を馬鹿にしているのか? それとも、何か秘密があるのか? 僕にはさっぱり分からなかった。

 とにかく、初日は2000名以上が大ホールに集められ、何人かの講話を黙って聞くだけの研修会だった。
 特に変わった講話も無かったが、一般的な生徒指導の実践や子どもの心理についての分析などが話された。

 午後2時過ぎには、すべてのプログラムが終了して、1日目は〈お開き〉となった。ただ、帰りに受付で、明日の会場が書かれたカードを渡されたんだ。


「おい、北野先生は、会場変更になったか?」

 片桐先生が、少し興奮気味に僕が受け取ったカードを覗いて来た。

「えっと、……あ、少し離れたビジネスホテルの会議室になってますね」
「お! やったな、俺と同じだ……それにしても、今年は少ない人数になったなあ」
「え? どういうことですか?」

「だって、このビジネスホテルの会議室は、100人も入らないんだぜ。2000人が100人に減ったというこさ」
「え? だって、他の人は、別の会場で研修受けるんですよね……」

 受付で同じようにカードを貰っている人をキョロキョロ見渡しながら、片桐先生に尋ねた。

「いいや、……黙って見てな。………………ほら、ほとんどの人は、今日と同じ会場を指定されているんだ。つまり、別会場を指定された者だけが、選ばれたのさ」

「え!選ばれた!」

「しっ!……声がでかい!……後は、まあ晩飯でも食べながらにするか」

 片桐先生は、毎年のことなのか、いたって平然としていた。この後、2人でホテルに戻り、最上階のレストランで、晩ご飯を食べることにしたんだ。



(つづく)
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