先生の憂鬱

根 九里尾

文字の大きさ
17 / 17
第3章 天気に恵まれたら

第3章第6話 お天気お姉さん

しおりを挟む
「やあ、サオちゃん。この間は、ありがとね」

 僕と早央里先生が、天日去先生の噂をしていると、急に後ろから声を掛けられたんだ。振り返った見ると、噂の本人で、僕は少し焦ってしまった。

「あ、あ、天日去せ、先生! この間は、ありがとうございました」
「やーね、北野先生ったら、何、そんなに緊張してんのよ!……あ、分かった。サオちゃん、また、私の噂してたんでしょ!」

「うへっ! バレたか! あははは」

 正直に白状したような形になったが、笑いながら早央里先生は、天日去先生に隣の席を勧めた。

「やっぱりね。だって、この間、北野先生が相談に行くから『よろしく!』って言ったから、ピン! と、来たのよね」
「ところでさ、あーちゃん。あの話、北野先生にしていい?」
「いいわよ、どーせ、前半の可哀そうなところは、もう終わったんでしょ」

「えへへへ、まあね~」

 本当に2人は仲がいいのが分かった。いや、それだけじゃなく、きっとお互いに信用しているんだとも感じた。
 だって、あんな秘密を隠そうともしないんだもの。


「……ん~、私が“晴れ女かどうか?”でしょ。……実はね、“晴れ女じゃないのよ”私はね。……どっちかと言うと“お天気お姉さん”かな?」

「お天気お姉さん?」

 僕は、どちらも晴天に恵まれているということで、同じではないかと思ってしまった。

「あのね、“お天気”って、『晴れ』だけじゃないのよ。あたしの彼氏の話は、聞いたんでしょ?」
「ええ、まああ……」
「だったら、分かったと思うけど、天気は、私にとって最善で決まるのよ!」

「え?最善?」

「そう、あの彼氏は、私にとって最悪だったの。だから、天気はデートの邪魔ばかりしたのよ。……邪魔することが、私にとって最善だったのね」
「え? そうすると、晴れ以外にも天気を自由にできるって言う事なんですか?」

「んー、自由にっていうより、私が気持ちよく暮らせるように天気が決まるって言った方がいいかな」
「じゃあ、雨の方が、天日去先生にとって良ければ、雨が降るということですか?」

「まあ、そんな感じかな」


 ここで、早央里先生が、付け足しのように話してくれたことがあるんだ。

「だって、あーちゃんってば、あの彼氏の時は、悪い天気ばかりだったのに、今の旦那さんと知り合ってデートしてた時は、周りがどんなに天気が悪くても、あーちゃんがデートで行くとこだけは晴れたもんね!」

「そうそう、あんときサオちゃんなんか、自分のデートを決める時、まず私に聞くのね。『どこ行くの?』って。……そして、自分のデートも、私達のデートと同じ場所にしちゃうのよ」

「いやあ、あの時は、とっても助かったわよ……お陰で、あたしも旦那とすぐに結婚できたしね」
「ホントにサオちゃんは、ちゃっかりしてるんだから!」

「へー、驚きです! 天日去先生って、凄いんですね!」

「んー自分では、そうは思わないよ。自分は、ただ必要なことを毎日真面目にやっているだけなの。……それを天気がちょっとだけ、味方してくれているだけなのよ、きっとね!」

「なるほど、だから“お天気お姉さん”なんですね」

「だからね、この間北野先生に頼まれた遺跡見学の日程ね、本当は3日間とも私は研修で文化会館に缶詰めだったの。普通だったら、こんな研修の時に、晴れたら悔しいじゃない、絶対3日間とも雨だって思ったの。……でもさ、サオちゃんのお願いだからって思って、あの日の研修は、プログラムを変えてもらって、あたしもあそこの遺跡見学に行ってたのよ。楽しそうだったわね、北野先生。私も居たのよ! えへっ!」

 嬉しそうに笑う天日去先生の顔が、なぜか真ん丸に輝くお日様に見えたんだ。



(第3章 完 ・ 物語もお終い)
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

なほ
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模るな子。新入社員として入った会社でるなを待ち受ける運命とは....。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...