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第3章 天気に恵まれたら
第3章第5話 “天気”は、晴れだけじゃない
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「……あれは、私達がまだ結婚する前のことなの……」
早央里先生は、懐かしそうに話し出したんだ。
職員室に先生達の姿は少ない。増してや僕達の近くには誰もいなかった。少し離れたところで、低学年の先生達が打合せをしいるくらいだったんだ。
放課後なので、ほとんどの先生は、自分の教室で何かしらの作業をしてるんだ。
僕は、少し小さな声で相槌を打ちながら、早央里先生の方を見ていた。
「あの時、あーちゃんに彼氏ができたのよ。隣の学校の先生で、歳は2つぐらい上だったかな。あーちゃんは、嬉しそうだったなあ。……あ! 彼女ね、旧姓は、“明日輪”って言うの。“あーちゃん”って言うのは、独身の頃から、そう呼んでたのよ。
結婚しても“天日去”だから、ちょうどいいでしょ」
早央里先生は、まるで自分の楽しい思い出を話すように、嬉しそうだった。ところが、急に笑顔が消え、僕の方を見たかと思ったら、ちょっと低い声で続きを話し出した。
「デートの日程は、もちろんあーちゃんが決めたのよ! だって、デートは天気がいい方が楽しいでしょ。……私も力を貸したわ。一緒に遊べる遊園地とか、美味しい料理を食べることができるレストランとかね」
「早央里先生は、そういうのに詳しいんですか?」
「あー、えー、……んとね、詳しくは無いのよ。……でもね、丁度その頃、私も彼氏ができてね、いっぱいデートしてたの……まあ、それがウチの旦那なんだけどね!」
そっか、だから早央里先生も、その頃楽しかったんだ。
「あーちゃんは、一生懸命考えて、デートの日を決めたの。もちろん天気予報も見たわよ。
……私のデートの日も相談したわ。全部、快晴だったの。例え天気予報が雨でもね」
「じゃあ、天日去先生のデートの日も天気が良かったんですね」
「……ところがよ……ダメ。……全部、外れだったの。休日に、彼女がデートに出かけると、急に雨が降って来るの。レストランで食事をしていても、急に竜巻が発生して停電になったわ。彼女が選んだ遊園地だけ雨が降ったりもしたのよね。……散々だったのよ」
「“晴れ女”じゃなかったんですか?」
「そうね、私もずーっと、彼女は“晴れ女”だと思っていたの。……まあ、そんなことが続いてデートも上手くいかず、自然に2人の仲は醒めたみたいなのよね」
「残念でしたね」
僕は、やっぱりそんな天気を自由に当てられる人は居ないのかとガッカリした顔になっていたと思う。そんな僕の様子に、早央里先生は、すぐに気づいたらしくて、慌ててその先の話をし出した。
「ああ、えっとね。その時は、少し残念がってたの、彼女もね。……でもね、すぐに彼女は“良かったよ~”って、報告してくれたの。実は、そのお付き合いしていた彼は、とってもお酒癖が悪くて、すぐに威張り散らすことが分かったの。あーちゃんと別れてから、別な女性とお付き合いしたんだけど、やっぱり上手くいかなかったんだって! まあ、次にお付き合いした女性も、私達と同じ学校の同僚で、すぐに情報は入ってきたのよね!」
「へー、そうなんですか。じゃあ、天気予報が当たらなくて良かったじゃないですか」
天気予報が当たらなかったと、僕は勝手に思い込んでいたけど、早央里先生は勝ち誇ったように自慢げに僕の言葉を訂正してきたんだ。
「当たらなかったんじゃなくて、天気が彼女を守ってくれたのね……きっと!」
僕は、益々意味が分からず、口を開けたまま、早央里先生を眺めてしまった。
(つづく)
早央里先生は、懐かしそうに話し出したんだ。
職員室に先生達の姿は少ない。増してや僕達の近くには誰もいなかった。少し離れたところで、低学年の先生達が打合せをしいるくらいだったんだ。
放課後なので、ほとんどの先生は、自分の教室で何かしらの作業をしてるんだ。
僕は、少し小さな声で相槌を打ちながら、早央里先生の方を見ていた。
「あの時、あーちゃんに彼氏ができたのよ。隣の学校の先生で、歳は2つぐらい上だったかな。あーちゃんは、嬉しそうだったなあ。……あ! 彼女ね、旧姓は、“明日輪”って言うの。“あーちゃん”って言うのは、独身の頃から、そう呼んでたのよ。
結婚しても“天日去”だから、ちょうどいいでしょ」
早央里先生は、まるで自分の楽しい思い出を話すように、嬉しそうだった。ところが、急に笑顔が消え、僕の方を見たかと思ったら、ちょっと低い声で続きを話し出した。
「デートの日程は、もちろんあーちゃんが決めたのよ! だって、デートは天気がいい方が楽しいでしょ。……私も力を貸したわ。一緒に遊べる遊園地とか、美味しい料理を食べることができるレストランとかね」
「早央里先生は、そういうのに詳しいんですか?」
「あー、えー、……んとね、詳しくは無いのよ。……でもね、丁度その頃、私も彼氏ができてね、いっぱいデートしてたの……まあ、それがウチの旦那なんだけどね!」
そっか、だから早央里先生も、その頃楽しかったんだ。
「あーちゃんは、一生懸命考えて、デートの日を決めたの。もちろん天気予報も見たわよ。
……私のデートの日も相談したわ。全部、快晴だったの。例え天気予報が雨でもね」
「じゃあ、天日去先生のデートの日も天気が良かったんですね」
「……ところがよ……ダメ。……全部、外れだったの。休日に、彼女がデートに出かけると、急に雨が降って来るの。レストランで食事をしていても、急に竜巻が発生して停電になったわ。彼女が選んだ遊園地だけ雨が降ったりもしたのよね。……散々だったのよ」
「“晴れ女”じゃなかったんですか?」
「そうね、私もずーっと、彼女は“晴れ女”だと思っていたの。……まあ、そんなことが続いてデートも上手くいかず、自然に2人の仲は醒めたみたいなのよね」
「残念でしたね」
僕は、やっぱりそんな天気を自由に当てられる人は居ないのかとガッカリした顔になっていたと思う。そんな僕の様子に、早央里先生は、すぐに気づいたらしくて、慌ててその先の話をし出した。
「ああ、えっとね。その時は、少し残念がってたの、彼女もね。……でもね、すぐに彼女は“良かったよ~”って、報告してくれたの。実は、そのお付き合いしていた彼は、とってもお酒癖が悪くて、すぐに威張り散らすことが分かったの。あーちゃんと別れてから、別な女性とお付き合いしたんだけど、やっぱり上手くいかなかったんだって! まあ、次にお付き合いした女性も、私達と同じ学校の同僚で、すぐに情報は入ってきたのよね!」
「へー、そうなんですか。じゃあ、天気予報が当たらなくて良かったじゃないですか」
天気予報が当たらなかったと、僕は勝手に思い込んでいたけど、早央里先生は勝ち誇ったように自慢げに僕の言葉を訂正してきたんだ。
「当たらなかったんじゃなくて、天気が彼女を守ってくれたのね……きっと!」
僕は、益々意味が分からず、口を開けたまま、早央里先生を眺めてしまった。
(つづく)
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