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12:恥を積極的に積み重ねる人生②
しおりを挟む電車を降りて、駅を出たらすぐに映画館が見えた。
「おお、デカイな」
「はい」
予約していた席、と言うか部屋だな。
二人掛けの椅子がこじんまりとした部屋の中央に置かれていた。
サングラスを取って、椅子に腰掛けた。
当然、颯太が隣に座ってきたが……手を握るだけで何もしてこない。
「颯太? ここ密室だぞ?」
「はは、気が早いですね。大和さん、密室のこういうところには犯罪防止の為に監視カメラがあるんですよ。キス以上はマナー違反でしょ?」
「……おい」
前面の大きな窓はマジックミラーとなって同じ映画を見る観覧者達にこちらは見えないが、こちらを見ている監視カメラの存在で緊張感が上がる。
露骨な動きは出来ないと言う事だ。
「音は聞こえないので、声は出して大丈夫です」
『ヴン』
「あっ」
スイッチが入り、中が再び動き出す。
『ヴヴヴ』とくぐもった機械音と共に俺の中で存在感をアピールしてくる。
座っている分、より奥に入り込んでいた。
「ふ、ぅ……っ……」
椅子の背凭れに背中を押し付けて悶える。声が漏れないように噛み締めた口から熱い吐息が溢れてしまう。
颯太は隣に座るだけで触れて来ない。けれど、俺の様子を窺って楽しんでいる様子だけは伝わってくる。
バイブレーションで中を弄ばれながら、緩やかな刺激の焦らしが続く。
「(もっと……激しいのが、いい……足りない)」
貞操帯に阻まれて勃起出来ず、熱が腹部に溜まっていく一方だ。
腰が波打つ。内腿を擦り合わせながら、予告映像を眺める。
「大和さん、すごいエッチな顔してますね。物足りないですか?」
「颯太、はぅ……足りない、もっと……強く」
「素直で可愛い。でも、強くしちゃったら、きっと我慢できないでしょうから……お預け」
「はッ、ン! そんなの」
「“待て”がちゃんとできたら、ご褒美あげますからね」
よしよしと頭を撫でられながら、颯太に微笑まれる。
決して高圧的な命令ではない。強要もされていないのに、俺は颯太の言葉に逆らえなかった。そして、自ら“待て”の選択を取った。
上映中、何度かバイブの動きが変わり、不意打ちにあられも無い声が出てしまう。
「ああんッ……ふ、ン」
『グプン、ヴヴヴ……』
映像を見ているが内容が半分も頭に入って来ない。
席に座ったまま身をくねらせ、下腹部の熱を必死に紛らわそうとしているのに、身体が言う事を利かない。熱がどんどん蓄積されていくだけだ。
気が狂いそうな時間だった。
絶頂に昇れそうになると刺激が止まる。寸止めばかり。
感動シーンに違う意味で嗚咽を溢している。映画の人物達に申し訳無かった。
そして、クライマックスを迎える頃には、映画の内容は大半を忘れてしまっていた。
映画の結末はハッピーエンドだったが、生憎俺はスッキリとイかなかった。
「ふぁ……ぁッ……」
「大和さん大丈夫ですか?」
「……ァア……」
真面に返事が出来ない。
ここまで焦らされたらこうなるに決まってるだろ。座席に座ったまま腰をくねらしてしまう。物欲しげに蕩けた顔で颯太からの接触を只管待った。
颯太は満足気にクスクス笑いながら、涙に濡れた俺の頬を指で拭って、それから前面の窓に視線をやった。
「ッ!?」
窓の反射に股を広げて卑猥にくねる俺の姿が写ってる。それ以上に……こちらを眺めるギャラリーにゾクっと背筋が凄まじい含羞に痺れた。
向こう側ではこちらは見えて居ない。が、黒いガラスは鏡にもなる。涙でのメイク落ちを気にした数人の女性達と彼氏と思われる男性達が俺達の個室の前へ顔をむけていた。
「情欲的に腰くねらせて、お尻をシートに擦り付けて……今すぐにでも僕とセックスしたいって訴え続けてる蕩けた顔も、全部見られてるみたいですね」
「ぅ、ぅう……あ、ああがッ!」
目の前がチカチカとスパークし、身体が痙攣した。派手に動かないように手足に力を込めた。
バイブは動いていない。
俺は……颯太による辱めでメスイキしてしまった。
「興奮し過ぎですよ。ふふ、妬けちゃうな」
「そーた……ごほーび、ごほぉび」
「え? 今、我慢出来ずにイきましたよね?」
「!!?」
颯太は俺の顔をハンカチでぐしぐしと拭ってサングラスをかけてきた。そしてグッと腕を引っ張り無理矢理立たせて、杖を握らされる。
「やり直し♡」
ご褒美はお預けとなってしまった。
俺は絶望と共に、男には無いはずの下腹部の臓器がキュンキュンと疼く感覚に身悶えるのだった。
「お客様、大丈夫ですか?」
「はッ、はい。もん、問題ありません。ズビ」
「すみません。泣き過ぎちゃったみたいで、ぽぉっとしちゃってるんです」
係員に声をかけられた時、俺はサングラスが無ければ、人前で到底晒せぬような表情を浮かべていたと颯太に指摘された。
幸い映画館であまり顔を見られず終わったので良かったものの、羞恥プレイばかり施されまくって頭がパンク寸前だ。
今から食事だが、食べ物が喉を通る気がしない。
颯太の腕にしがみつきながら、足を進める。
「大和さん、食欲あります?」
「ん、んぅ」
ブンブンと顔を振って意思表示をすれば、颯太は苦笑いを浮かべながら俺の腰を抱いた。
「先にショッピングへ行きましょうか」
「はぁ……はっ……?」
映画館での仕打ちを思えば、決して普通のショッピングではないだろう。
別の意味で鼓動が高鳴り、中のバイブをキュッと締め付ける。
杖が無ければ早々にしゃがみ込んでしまっているところだ。
そして、案の定普通のショッピングではなかった。
「ぅぐ……」
「外観は普通ですけど、中はエゲツないですね」
雑居ビルの入り口で厳重な年齢確認をされて通された場所は、アダルトグッズの専門店だった。しかも、ノンケ、ビアン、ゲイとそれぞれ階層が分かれていた。
「(……初デートでこれは尖り過ぎだろ)」
「大和さん、メンズ用のメイド服とかありますよ。可愛いですねぇ」
「はぁ……どれ着て欲しいんだ?」
「僕的には……これ」
珍しくセクシーアパレルコーナーまであった。
颯太が手に取ったのは、ミリタリーブーツだった。迷彩服と合わせるアイテムだが、颯太は単品で選んだ様子。
「これに革手袋」
「……??」
「…………逆バニー、みたいな」
「ぅ……っわ」
逆バニーというのは、通常バニー服の露出が逆転した装いの事だ。手足はしっかり着込んでいるのに胸と股は丸出し。
颯太は、俺に手袋とブーツだけを身に付けさせたがっているのだ。俺が言えた事ではないが、大分ド変態な性癖を拗らせている。
思わずドン引きしてしまった。
「大丈夫ですよ。無理強いはしませんから」
「……しないとは言ってないだろ」
「やった。ありがとうございます。じゃぁ、大和さんはどんな服で僕に抱かれたいですか? 選んでください。買ってあげますから」
耳元で囁かれて、ズクンと腰に響いた。
すげえ事言うじゃん。それを俺に選ばせるのか。
颯太の目の前で、俺は颯太とのセックスを想定して自らをデコレーションしていくという訳だ。
なんというか……羞恥プレイの極みだな。
「…………そ、颯太、選ばないとダメか?」
「気に入るのが無ければ別に選ばなくても大丈夫ですよ」
「そうか」
颯太の優しさにホッとしながらも、一応ペラペラと種類を見ていく。特に気になるのが無ければ……
『ピタ』
「………………」
「?」
不意に手を止めてしまった。
「……ああーなるほど。大和さんなら好きですよね。こういうの」
SM拘束具のコスチューム。シルエット的には、アームカバーのようだ。剥き出しの胸を強調するように谷間を通り、両脇へ回るベルトのデザイン。
「結構良いですね。思ったより柔らかいし傷の心配もなさそう」
ヒョイっと拘束具をカゴに入れた颯太は嬉しそうに俺の頭を撫でた。
「大和さん、お会計してくるので少し待ってて下さいね」
「あ、ああ……」
颯太はさっさとレジへ向かって行ってしまった。
その間にフラッと他のコーナーも見て回る。
アナルプラグってこんな多種多様なのか?
今、俺が着用しているバイブもあった。これ幸いと裏面を見て機能を確認する。
「(……モーションのバリエーション多いな……振動や動きの強さも五段階)」
前戯のような動きから、突き上げるピストンのような動きも出来るとあった。
これ一本で楽しめる事多過ぎだろ。よくココまでコンパクトに出来たな。技術の進歩をココで感じたくない。
『ヴヴ』
「ッ」
「お待たせしました」
「颯太、ちょ……今は、ヤバいから」
落ち着いていたのに、またも熱がぶり返してくる。中でゆったりと動くバイブの解像度が上がった所為で、妙に生々しく感じた。
「悪い子ですね。カンニングはいけませんよ」
「ご、ごめん……」
「ココで仕方ないと甘やかしたら、ダメなんですよね? お仕置きしないと」
学習してるのは嬉しいが、颯太のお仕置きはちゃんと俺に効くお仕置きだから困る。
「この後ホテルにでも行こうかとも思ってたんですが……やめましょうか」
「ぅえ!? ほ、本当に悪かった! 俺が悪かったから!」
コレ以上お預けされたら、マジでおかしくなる。
「……家まで我慢しましょうね」
「うっ……」
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