自愛の薔薇には棘がある

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9・デート

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 最近、占い師のお爺さんが言っていた棘の意味がわかってきた。
 痴漢対策と言うか、痴漢撃退と言ったほうがいい。
 痴漢ってのは、自分を認識されないように背後から姑息に狙ってくるから、振り向いて目を合わせ、ギッと睨み付けて舌打ちすると面白いぐらい引いていく。
 僕の睨みは相当効くようだ。髭生やしといて良かった。
 それでも触れてくる場合は、自己防衛で指を掴んで少し捻ってやる。
 それでモメても微物検査でアウトになるのは向こうだ。
 
「希さんご機嫌ですね。何かありました?」
「ふふ、ん~~? 麗華さんが近くに居るから」
「はぁぁ~~……なんでそんな可愛い事をサラッと」

 コンプレックスだった男らしくない身体。
 けれど、麗華さんのおかげで自分の身体を大事にするようになった。
 無断で背後から触れられて、怖い、恐ろしいと震えて時が過ぎるのを待つのではなく、触れる手を叩き落として相手に牽制する。
 麗華さん以外に触れられたくないというセルフ束縛が、いつしか自分の身を守る棘になっていた。
 痴漢に対する恐怖心が大分薄れたし、中学のトラウマにもケリが付いた……大分、心に余裕が出来た。

 今、僕は麗華さんの家にいる。
 ベッドでただ身を寄せ合ってイチャイチャしてるだけ。

「麗華さん、好き」
「俺も、好きですよ」

 短く愛を囁き合うだけで、こんなにも胸が満たされる。
 この人に見つけてもらえて、本当によかった。好きになってよかった。好きになってもらえてよかった。

「……んふふ」
「今日は甘えたがりですね」
「ねぇ、麗華さん。今度の休み、僕の家に来ませんか?」
「え? 希さんの家ですか?」
「はい」

 パチパチと長い睫毛を瞬かせて、僕の言葉を噛み砕いている様子だ。

「い、いんですか?」
「はい」
「おと、お泊まりでも?」
「はい。お泊まりでも」
「……ェ……エ、エッチな、事も?」

 顔を赤らめてもじもじしながら聞いてくる麗華さんに胸がきゅんきゅんする。

「はい。エッチな事、してください」
「…………それ、俺以外に言わないでくださいよ?」
「ははは! 言うわけないじゃないですか!」

 真剣に心配してくる麗華さんの鼻にキスをする。

「麗華さん。僕の初めて、貰ってくれますか?」
「……喜んで」

 順風満帆とは正にこの事だ。幸せすぎて、涙が出そうになる。
 

 自宅にて。

「(しかし……家に誘ったものの……)」

 僕の家は、麗華さんの家より一室多いぐらいの違いだけで、大体間取りも同じだ。
 衣服が散らばってるわけではないが、綺麗に整頓されているとも言えない。
 地味な部屋だ。ムードなんて皆無。

「(意気込んで何か洒落たもの買って飾っても、部屋で浮くし、逆に何もないと殺風景だし……)」

 今あるものでどうにかならないかと頭を悩ませるが、これと言って良い案が思いつかない。

「(その場凌ぎで取り繕ってもどうせボロが出ちゃうし……ありのままが一番いいのかな?)」

 一周回って、今が一番僕らしいと言える気がしてきた。
 
「(でも、麗華さん僕のこと可愛いって……よく言ってくれる。何処が可愛いのかわからなけど、麗華さんの可愛い僕のイメージは守りたい)」

 僕は男だから、女の子みたいに可愛く着飾りたい願望はない。
 だけど、麗華さんに好かれる僕でありたい。

「(僕の、出来る、可愛い……)」

 僕のなけなしの可愛い概念を抽出して、ネット通販でポチった。
 届いたものを見て、まぁ悪くないと思った。
 まんまる一頭身の犬のぬいぐるみ。マシュマロみたいなふわふわ感に堪らず顔をズボッと突っ込んでしまう。
 新品の布の匂いがして気持ちが良い。
 
「前足短い。ちっちゃぁい」

 購入前のサンプル画像で確認はしていたが、思っていたより前足が短く、小さかった。
 
「僕と一緒だ……は、はは」

 麗華さんと比べて自分の足の短さを一人で思い出して乾いた笑いが溢す。
 顔を埋めていたぬいぐるみを持ち上げ、正面から見てみる。

「……ふーん」

 目がクリッと大きくて、口元がホニャっと緩んでいる。

「君、あざといな。気に入ったぞ」

 一人暮らしだと独り言増えるんだよね。
 ベッドで共に日々を過ごす相棒として優秀な柔らかさだった。

※※※

 麗華さんのお泊まり当日となり、ドキドキしながら駅の方へ歩いていくと、既に麗華さんが待っていた。
 今日も清楚な装いだけど、いつもよりおめかししているのが分かって嬉しくなる。

「麗華さん」
「希さ……」

 声をかけた僕の方を見た瞬間、麗華さんの時が止まった。

「麗華さん? 僕の顔に何か?」
「めが、ね……丸眼鏡、ですね」
「普段はコンタクトですけど、プライベートではこの眼鏡です」

 眼鏡の縁をクイっと、上げてアピールすれば麗華さんが両手で口を覆ってしまった。

「麗華さん?」
「あ、いや、すみません。その……びっくりして」
「大袈裟ですよ」

 眼鏡一つで麗華さんがここまで驚くのは、ちょっと予想外だ。
 
「(今度からは、眼鏡で麗華さんの家に行こうかな。喜んでくれてるみたいだし)」

 そんな事を考えていると、麗華さんが僕の手を取った。

「いつもと違う希さんも素敵です」
「そちらこそ、いつも綺麗なのに更に麗しくなって……ドキドキします」

 繋いだ手をそのまま恋人繋ぎに変えて指を絡める。
 今日はボクがエスコートする番だ。
 麗華さんの手を引いて、まずは食事へ向かった。
 予約していたイタリアンレストランは、パスタの種類が豊富で、麗華さんはカルボナーラ、僕はナポリタンを頼んでシェアする事にした。

「ん~! 美味しいですね!」
「本当、美味しいです。本格的なパスタなんて初めてかもしれません」

 麗華さんが目を輝かせて食べている姿が愛おしくて仕方がない。

「希さんは、普段からこのお店に来てるんですか?」
「時々。急に食べたくなる時があるんですよね」

 ここの味が恋しくなって足を運んだ事が何度かある。
 
「希さん、口元赤いですよ」
「ああ。ナポリタンだとどうしても」
「ふふっ、子供みたい」
「えぇ? 酷いなぁ」

 クスクス笑う麗華さんにつられて僕も笑ってしまう。
 ナプキンで口元を拭うと、キスマークみたいな跡が出来てしまった。
 
「(結構ガッツリついてた。恥ずかしい……)」
『ゴシゴシ』
「……希さん。口紅とか興味無いですか?」
「無いよ!? 似合わないから、唇だけ浮いちゃうよ」
「カラーを合わせれば男性でも色艶の良い唇に仕上がります」
「えーー……」

 麗華さんに勧められるが、あまり気乗りしない。
 僕は日焼け止めクリームや虫除けスプレーとか、体に塗ったり撒布するの苦手だし、勿論リップクリームも苦手。
 
「……麗華さんが、してくれるなら……やってもいい、です」
「……」

 ソワソワと唇に触れながらお願いしてみたら、麗華さんが眉間を押さえて天を仰いだ。

「全力で……やらせていただきます」
「あ、ありがとうございます」

 クリアネイルもそうだったけど、麗華さんに触れられたい下心が満載の提案だ。
 
「(麗華さん、僕の事考えて選んでくれるんだろうな……)」

 ……うん。苦手とか言ってる場合じゃないな。
 食事を終えて、次は映画館。チケットは先に買ってある。

「(映画館はデートって感じがしていいな)」

 映画の内容はよくあるラブストーリー。
 主人公とヒロインが紆余曲折を経て結ばれていく物語。
 洋画だとキスが激しくて、僕は目線を泳がせてしまう。

「(……なんか、変な気分になる)」

 隣に座った麗華さんの横顔を盗み見る。
 スクリーンに照らされた横顔はとても綺麗で、映画のヒロイン以上に僕の目を惹く。

「なんですか?」
「ぁ、いえ……」
「…………」
『ちゅっ』
「!?」

 軽く唇を重ねたキスをされて、僕は咄嵯に口を固く閉ざして声を封じ込めた。
 
「…………ふふ、続きは後で」
「っ~~……」

 人差し指を立てて唇に当てながらシーッと息を抜く麗華さんがセクシーで腰が抜けた。映画の内容も抜けた。
 DVD出たらレンタルしよう。
 映画館を出たら、次はショッピングだ。
 先程の映画の感想を喋りながら各々好きな店に寄る。
 良かった。食事を先にしておいて。詳しく話す場を設けなくて良かった。映画の内容うろ覚えって寝てたのと変わらないからな。

「希さん、こっちとこっち。どっちが良いですか? どっち買うか迷っちゃって」
「!」

 ユニセックスの服屋で、麗華さんが服を両手に持って僕に意見を求めてきた。

「……うーん。僕は服の良し悪しはわかんないけど、麗華さんはどっちが良いですか?」
「強いて言うなら、うーん……こっち、かな?」
「じゃあ、もう片方は僕が買いますね」
「え?」

 強いて言われなかった方の服を受け取り、レジへ向かう。

「どっちかの麗華さんしか見れないのは勿体無いですから」
「希さん……」

 会計を終えた商品をプレゼントし、そのまま麗華さんの手を繋いで歩き出す。
 手荷物が増えていくのが、なんだか浮かれ具合が目に見えてしまう。
 
「(今日だけでどのくらいバリエーションが増えたんだろう)」

 麗華さんのファッションショーが頭の中で繰り広げられる。
 レディースファッションなのに、どうしてこんなにもかっこいいんだろう。ポテンシャル半端ないなぁ~。

「希さん」
「ぁはい!」
「疲れちゃいましたか?」
「いえ、全然。麗華さんは大丈夫ですか? ヒールだと足痛くなったりとかしません?」
「俺は平気です。今日は、いつもより低いんで」

 確かに、いつもより目線が近い。
 背伸びしたら、キス出来そうなぐらいには近い。

「(あ、ヤバい。すごい、キスしたい)」

 映画館でさりげなくされたキスの感覚が蘇る。

「ボーッとしてますよ? やっぱり疲れてませんか?」
「あ、いや、すみません。考え事を」
「俺といるのに、何を考えてたんですか?」

 少しムッとして首を傾げる麗華さんに、ゆっくり大きく心臓が跳ねる。

「……キス、したいなって……ヒールが低いから、背伸びしたら届くかな……とか、すみません。僕だけ先走っちゃってて」
「っ……希さん、俺もキスしたいです」
「じゃ、うち来る?」
「はい」

 元々その予定だったけど、成り行きみたいな誘い方になってしまった。
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