自愛の薔薇には棘がある

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8・ざまぁみやがれ※

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 あれから、僕と麗華さんに食事や買い物以外にも一緒にする事が増えた。
 それはホテルか麗華さんの家でする。人に見せられる事ではない。

『ぬちゅ、にゅぷ』
「ん、んん、んむ」
『じゅぽ、ぢゅぷ』
「あぁ、あ、麗華さん……!」
「希さん、指増やしますね」

 麗華さんを受け入れる為に僕の後ろは日夜解されている。最初は一本しか入らなかったのが二本三本と徐々に増えていき、今まさに四本まで入るようになっていた。
 そして、慣れもあって快楽を拾えるようにもなった。

「希さん……可愛いです」
「あ、ぐっ! そこ……!」
「ここ、気持ちいいんですよね?」

 麗華さんの言う通り、前立腺を刺激されると気持ちよくて声が抑えられなくなる。

「あぁ、ん! ふぁ! あぁぁ!」

 固く閉ざされていた後ろが麗華さんによってもうトロトロに解されている。
 これなら今日にでも受け入れられるかも……

「希さん、今日はこれくらいにしておきましょう」
「え……」

 指が抜き去られ、後ろが切なくヒクつく。

「あまりやり過ぎても負担が大きいでしょうから」
「…………そう、ですか」
「もしかして……期待、してたんですか?」
「……はい」

 素直に答えると、麗華さんに抱き締められた。

「俺もしたいです。けど、希さんの身体は大事にしたいんです。大好きな貴方の身体を万が一にも傷付けたくない」

 麗華さんの優しい言葉が胸に染み渡る。
 僕は麗華さんの背中に腕を回す。
 麗華さんとの触れ合いはとても心地良い。
 けど、僕にも欲が出てきてもっと深く繋がりたいと、この人を全身で感じたいと、そう思うようになってきた。
 その日は抜き合いで終わってしまったけど、きっとそろそろ頃合いだ。

「(麗華さんに、抱かれたい)」

 僕の中で何かが変わっていく。
 麗華さんに抱かれる為の準備は着々と進んでいたが、肉体とは別に心にも変化が出ていた。

 ストーカーの痴漢に少し抵抗出来るようになってきた。
 触れてきた手を払う程度だけど。
 無抵抗で怯えて震えてばかりだった僕にとって大きな進歩だと思う。

「伊織、明るくなったよな。どうした?」
「自分で痴漢をペッペッて払えるようになった」
「す、すっげぇ……どうしたよ。おいおい泣いてたお前が、立派になって」
「その節はお世話になりました……」

 佐々木さんも瞠目するレベルの成長っぷりに胸を張った。

「じゃ、今日の飲み会も大丈夫そうだな」
「へ?」

 そういえば、今日は部署での仕事が一息つくからって、飲み会の予定があった。
 すっかり忘れていた。
 部署上げての飲み会は久しぶりだけど、大丈夫だろうか。

※※※

「伊織~飲んでるか?」
「飲んでます飲んでます。ほら、部長グラス空いてますよ」
「お前は気が利くな~」
「はは……」

 セクハラ部長の手は払えない。
 腰に回された手が尻を撫で回してきて鳥肌が立つ。
 僕が男だから良いってわけじゃないのにな。

「伊織さん、ごめん。部長の隣で」
「いえ、女性陣の防波堤になれてるなら僕の犠牲も無駄ではないでしょうし」
「本当にごめん」

 幹事を担当した係長に耳打ちで謝られる。
 酔うと手癖が一層悪くなるから。
 やんわりと断ると機嫌が悪くなるのが面倒臭い。
 あーあ……僕も飲んじゃお。
 この状況から逃げるように酒を呷る。
 部署内での飲み会は一次会で終わり、飲みたい人だけ二次会へ行った。
 僕は佐々木さんに救出され、一次会で離脱した。

「災難だったな」
「……はぁ、そうですね」

 帰り道が逆方向の佐々木さんと別れ、一人、乗客の少ない電車のに揺られながら自宅の最寄り駅へ着くのを待つ。
 そういえば、手を払ってからあのストーカー痴漢は、最近来なくなった。
 諦めてくれたのかも。

「(……ちょっと飲み過ぎたかも)」

 駅に着いて家まで歩いて帰っている途中、少し催して近くの公園にある公衆トイレへ向かった。
 用を足し終えて手を洗っていると、個室の方から声がした。

『コンコン』
「すみません。外に誰か居ますか?」
「? はい」
「紙が無くなってしまって、トイレットペーパー取って貰って良いですか?」

 この人もすごい災難だな。
 けど、良かった。僕が立ち寄って。
 開いている個室にある予備のトイレットペーパーを一個取って扉をノックする。

「僕が通りがかって良かったですね」
「はい」

 少しだけ開かれた扉へトイレペーパーを差し出すと、男の手がスッと伸びてきた。

「俺は運がいいみたいだ……希」
『グイン』
「!?」

 伸ばされた手が掴んだのは、僕の手首。
 強い力で引っ張られてバランスを崩してしまい、個室へ引き摺り込まれる。
 掴んだ腕を捻られて背中に押し付けるように固定される。もう片方も掴み寄せられて、同じように捕まった。
 洋式トイレの蓋の上に押し倒された。
 一瞬の事で、何が起きたかわからなかった。

「お前さお前さ……メスのくせに抵抗しやがって」
『サワ……』
「(この触り方……ストーカー!)」

 ズボン越しに太腿を撫でられ、ようやく気付く。
 どうして、どうやって、そんな疑問よりも、個室で二人きりという状況に頭が真っ白になる。
 
「(あれ? そういえば、名前……)」

 なんで僕の名前知ってるんだ? 

「だ、誰……!」

 恐怖と混乱で上手く声が出せなかった。
 身体が震えて歯がカチカチ鳴る。
 
「(怖い、気持ち悪い、嫌だ、助けて……)」

 必死に藻掻いても、腕はビクともしない。
 寧ろ、強く押さえつけられて痛みに動きが止まってしまう。

「ずっとずっとさ、お前のこの身体はかわんねえ……やっぱり男じゃねえんだよ。メスなんだ」
「ぃ、た……やめ、て、ください」

 ストーカー痴漢は興奮しているようで、荒い息遣いが聞こえてくる。
 首を捻って、なんとか顔を見てやろうと抵抗する。
 見えたのは、血走った目で僕を見下ろしている窶れた男の顔。

「……あ、ぁあっ……」

 僕はこの人を知っている。
 鮮烈なフラッシュバックが脳裏を過った。

涼太りょうた、君?」
「覚えててくれたのか……希」

 忘れたくても、忘れられるわけがない。
 夢にまで出てくるじゃないか。

「お前の所為で、俺の人生めちゃくちゃだ! お前がこんな身体してる所為で!」

 中学の時、僕をひん剥いた事件の主犯格だった同級生。
 十代の姿とは似ても似つかないが、僕の身体を見下ろすあの目。全く変わっていない。
 思い出したくもない記憶が昨日の事のように蘇る。

『ガン!』
「いた!」
「家族も友達も先生も、みんな俺を変態扱いしやがって……俺は悪くねえ……お前が悪い、希……お前が悪いんだ」

 頭を便器のタンクに打ち付けられ、鈍痛に涙が出てくる。
 頭を押さえつけていた手が離れたと思ったら、涼太君が自分のズボンに手をかけてゴソゴソしているのが耳に届いて背筋が凍る。

「なに、して……?」

 答えは返ってこなかった。変わりにゴリっと硬い物がお尻に押し付けられる。
 それが何かなんて考えなくてもわかった。

「ひっ! やだ、やめて! やだ!!」
『ガン!』
「うっ……」

 後頭部を殴られる。
 意識が飛びそうになるのを堪えると、今度は僕のベルトが外され、ズボンと下着が膝まで下ろされた。
 外気に晒されて鳥肌が立つ。
 下半身がスースーする。

「なんだ。お前……後ろ使ってんのか?」
『グニ』
「広げ、ないで」

 尻たぶを掴まれ親指で後孔の皺を伸ばすように広げられる。

「誰かに触ってもらってんのか? それとも自分で? まぁ、どっちでもいいか」
『トプ』
「!?」

 手が離れたと思ったら、何かの先端が後孔に挿し込まれた。

『プビュルル』
「ひゃ! 何か……中に……」
「ただのローションだ」

 ボトンと足元にローションボトルが転がった。
 指先が、後孔を円を描くように撫で付けてくる。

「嘘、嘘、無理、ダメ、そこは……やだ、やだ、お願いだからやめて」

 中学の教室で脱がされた時とは違う。
 ここは深夜の公衆トイレで、誰も来なくて、狭い密室……逃げられない。

『グプ』
「うっわ簡単に入る」

 涼太君の指が二本入ってきた。
 中を探るような動きが気持ち悪い。
 早く抜いて、と願いながら身を捩って抵抗するけど、痛みが走るばかりで意味が無い。
 
「ん、んん!」
「ああ、ここか」

 ある一点を掠めた瞬間、腰が跳ね上がる程の衝撃が走った。
 その反応を見た涼太君は、ニヤリと笑ってそこばかりを狙ってくる。
 気持ち悪いのに勝手に声が出る。

「はは、きもちーんだ」
「ちが、ぅ、やだ、もう、許してぇ」

 三本目が入ってくると、圧迫感が増して苦しくなった。
 ローションが絡んだジュポジュポという粘着質な水音が響く。

「艶っぽい声出して、腰揺らして、その身体で何人の人生狂わせてきたんだ? あ?」

 涼太君の言葉の意味がわからなかった。
 理解しようとすればするほど、頭が混乱してくる。

『ヌポン!』
「うあ!」

 勢いよく指が引き抜かれた。
 変わりに充てがわれた熱くて硬いモノに血の気が引く。

「俺はずっとあの日に縛り付けられて生きてきた。コレは復讐と訣別だ。その身体に俺を刻んでやる……お前を完全なメスに落として……俺が正しかったと全員に認めさせてやる。ついでに俺のモノにしてやるよ……希」
「う、わああ!」

 耳元で囁かれる呪詛に半ばパニックになり、なんとか逃げ出そうと腕を振るえば、激痛を伴いながらも左手だけ自由になった。

「(あっ)」

 蛍光灯の光に爪が反射している。
 コーティングされた爪。麗華さんに塗ってもらった爪だ。

「(そうだ……僕は)」

 恐れも怯えも刹那に消え失せ、内に噴き上がってきたのは、今まで感じた事の無い純粋な『怒り』だった。

「は、な……せ」
「あ?」
「離せって、言ってるんだ……このッ変態野郎!」
『ゴッ!!』
「あがっ!!」

 上半身を一気に起き上がらせ、右腕の痛みを無視して身体を捻り、勢いよく腕を振るい涼太君の顔面へ肘打ちを食らわせた。
 人に暴力を振るったのは初めてだが、罪悪感は感じない。
 僕の思わぬ反撃で拘束を解いた隙に、踵を返し真っ向から対峙した。
 鼻を押さえて鼻血を垂らす涼太君は……僕が思っていた以上に小さなヤツだった。

「希……てめえ! なにしやが」
「こっちのセリフだ」
『ガンッ!』
「!?」

 ズボンと下着を腰まで戻しながら、涼太君の顔を踏み潰す勢いで扉に蹴りを入れる。

「僕の身体に触るな」
「……は?」

 僕自身、自分の行動に少々驚いているが、怒りの根っこ部分はわかっているつもりだ。
 単純な話し、麗華さん以外に触れられたくない。気安く触れさせるべきではない。
 僕の身体は、あの人のだ。もう僕だけの身体じゃない。汚すのも傷付けられるのも、無性に腹が立って仕方ない。

「なんだぁ? その口の利き方……お前がいくら凄んだところで、力は俺の方が強いんだ。状況がわかるか?」
「……僕をどうしたいんだっけ?」
「ああ? お前のクソエロい尻かっぴらいて孔に突っ込んで俺をお前に刻んでやるって言ってんだ。気が変わったから手酷くヤリ捨ててやる。泣いても許さねえぞ」

 鼻血は止まったらしいが、今度は額に青筋を浮かべて唾を飛ばしてくる。
 涼太君の言う通り力では敵わない。だけど、そんな事は関係ない。
 立ち上がって、僕に手を伸ばしてきた涼太君……いや、厄介な変質者に向けて膝を思いっきり振り上げる。

『ドッチン』
「ごッッ!」
「僕は男だぞ。弱点ぐらい知ってるよ」

 膝蹴りで金的を食らわせてやれば、相手は内股になって床に倒れ込んだ。

「お前が勝手に破滅したんだ。その挙句になんで逆ギレされて、レイプされなきゃいけないんだ。ふざけんな」
「ぐ……ぅ……」
「じゃ、僕帰るから。二度と顔出すなよゴミムシ野郎」

 言いたい事を口汚く吐き出し、ベルトを締め直した。まだ股間を両手で押さえている涼太君は痛みに悶絶している。
 サッカーボールのように顔面を蹴り上げたいところだが、流石にそれは自己防衛を逸脱しそうなので脳内だけに留めておいた。
 
「(……なんか、お尻は気持ち悪いけど、胸の内はスッキリした)」

 あの日に戻って主犯格をぶん殴って、金的で沈めてやった気分だ。

「(あの頃に縛り付けられて生きてきた自分との訣別が出来たのは、僕の方だったな。ざまぁみろ)」

 僕は家に帰って、入れられたローションを処理してさっさと寝た。
 その日は、久しぶりにぐっすりと眠れた。

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