期間限定のズッ友

7ズ

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7:ヤキモキ&ヤキモキ

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 旅行から帰って来て、日常に戻った。
 湊も宗馬も仕事は普通にこなしていたが、家に帰ってからの動きが若干変わった。
 親友としてあと一ヶ月過ごす予定だが、お互いに抱える気持ちがどんどん強くなってきてしまっていた。

「麦谷、これありがとう」
「どういたし、まして」

 物の貸し借りの際に指先が触れ合うだけで、宗馬は顔を赤らめるようになってしまった。
 そんな初々しい様子を見た湊は、毎度歯を食いしばって心を落ち着かせた。
 
「そういえば、ケントッチーの割引き券があったからチキン買ってきた。麦谷ケントッチー好きだろ? 食べる?」
「食べる」

 照れが嘘のように引いてススーッと隣にやってくる宗馬。
 箱に入っているチキンにニッコリと口元が緩んでいる。
 旨い物を前にした無邪気な姿に湊はホッと肩を落とす。

「(今まで、この笑顔を見落としてたのかも……自分の欲ばかり優先して)」
「(これ、僕の好きな部位ばっか。本当に、湊は優しいな)」

 湊が自分の欲が強い所為で宗馬にいろいろ我慢させていた事を考えているように、宗馬も自分の態度についていろいろ考えていた。

「(こういう湊の優しさに慣れきって、当たり前になって……ありがとうさえ、言わない時もあったな)」

 食卓で隣り合って、チキンを齧る。
 薄い衣と柔らかくジューシーな肉を口内で噛み締めれば肉汁がジュワッと溢れ出る。
 
「久しぶりに食べたけど、前より美味く感じる」
「ちゃんと美味いよね。ありがとう、黒田君」
「どーいたしまして。はは、また口元ベタベタにして」

 紙ナプキンでグシグシと宗馬の口を拭う湊。
 薄っぺらい紙越しに感じる唇の柔らかさに、簡単に漣立つ気持ちに飲まれぬように踏ん張る。
 一方で宗馬は、ふにふにと唇に触れてくる湊の指を食まぬように踏ん張っていた。

「(キスしてぇぇ……)」
「(キスしたいぃ……)」

 名残惜しくも離れる指と唇に、二人して苦笑する。
 親友の距離感で、恋人同士の触れ合いに飢えていく。想いが積み重なる。
 それはまるで、片想い中の恋心のようだった。
 日常の中で、ゲームをして、話をして、横顔を見つめる。
 堪らなく愛おしい。
 チキンを食べ終えて、口の中の脂を炭酸水で洗い流している最中、自然と会話が途切れてしまう。
 湊は自分の心臓が異常に早くうるさい事が宗馬に伝わっていないだろうかと心配になってしまった。

「ぁ……ケプ」
「出るよなぁ」
「炭酸だからね」

 控えめにケプケプとガス抜きをする宗馬に、酸欠の金魚を連想して首を振る湊。これは口に出してはいけないイメージであると判断して、テレビの電源を入れた。

「お、再放送してる」
「あーこの番組、久しぶりに見た。今じゃ仕事で見れない時間帯だから」
「懐かしいな」

 二人が学生の頃からやっている長寿番組の再放送。
 都道府県別にご当地の常識を知れる情報バラエティー番組。

「これ見た後、方言移っちゃうんだよね」
「わかるわかる。関西弁とか特にな」
「そーそー」

 上部だけでも取り繕って、親友を続ける。
 けれど、二人の間に漂う空気感が親友というには怪しい事を、お互いに薄々理解していた。

「ねぇ、黒田君。夜、観たいホラー映画があるんだけど、いい?」
「良いけど……珍しいな」
「えっと……」

 ソワソワと身体を動かして、モジモジと手遊びを始める宗馬。
 湊はテレビを見ていた視線を、隣にいる宗馬へと動かすとバッと勢いよく顔を逸らされる。

「麦谷……怖いの苦手だろ」
「得意じゃないけど、そういう気分」
「ふーん。途中で中断して別の観てもいいからな」
「ありがとう」

 優しい気遣いにほっこりと笑みを浮かべながら、その日の夜はホラー映画を鑑賞する事にした。
 何故、苦手なホラーをわざわざ宗馬が見たがったのか湊は理解していなかったが……見始めて三十分頃に、解らされる。

「(……くっつきたかったのか)」
「ぅう……」

 ホラー映画は、親友であっても自然と密着出来る方法ではあるが、お互いに生殺し状態になってしまう諸刃の剣。
 宗馬は演技ではなく、ガチビビリでくっ付いている為、視聴中は湊の心情に寄り添う余裕はない。

「(宗馬の感触が腕に……髪が頬に当たる)」

 付き合う前にもあったシチュエーションだが、親友の役得と言って満足していた子どもなら良かった。大人の湊には最早、拷問にも等しい耐久を強いられている。
 無表情で、怖がる宗馬を支えるしか出来なかった。

『バン!』
「ぎゃ!」
「っ!」
『バンバンバン!』

 暗闇の奥から、窓を叩く手だけの演出に二人で驚いて自然と身を寄せ合う。
 湊の気は少し紛れたものの、激しい心音で映画の内容なんて途中から何一つ聞き取れなかった。


 その後、ホラー映画は無事に観終わった。
 しかし、宗馬が子どものように怖がって、一人で寝れないと言い出した。

「……俺、寝相悪いから旅行の時みたいな事になるぞ」
「間に何か置くから……お願いぃ、一緒に居てぇ」
「わかった。わかったから、引っ付くなよ!」

 宗馬のホラー耐性上、懇願に下心は一切含まれていない。心を埋めているのは恐怖だけなので、湊もそれをわかっている為、渋々受け入れるしか無かった。
 親友の頼みだ。断れない。

「抱き人形持ってきたのか」
「良い壁になる」

 一人分の布団敷いて丁度の部屋に、もう一つ布団がきたらぎゅうぎゅうになる。
 重なっている布団の部分に、宗馬が持参したパンダの抱き人形が横になっていた。

「おやすみ」
「……おやすみ」

 湊は宗馬に背を向け合う形で、目を閉じる。
 普段であればすぐ睡魔に襲われるが、今日はソワソワして眠れそうもない。
 
「………………なぁ、麦谷。もう寝たか?」
「ぐす、うん?」
「泣いてんのか?」
「……あくび」

 湊が振り返ると宗馬は天井を見上げながら、瞳いっぱい涙溜め込んでグスッと鼻を鳴らしていた。

「……」
「泣いてない」
「そうか」

 男の涙は見ないふり、聞かないフリ。
 けれど、愛する男の涙を放っておくわけにもいかない。

「眠れないから、雑談でもしようぜ」
「あぁ……そうだな」

 互いに天井を見上げた状態のまま、ぽつりぽつりと他愛のない言葉を交わす。好きな動物だったり、本だったり、音楽だったり、今日の食事だったり……静かな部屋の中、声量が落ちていく声を聞きながらゆっくりと眠りに就いた。
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