巻き込まれ転移者の特殊スキルはエロいだけではないようです。

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おまけ②

おまけ②・潮時

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※純一郎目線

 俺達の生活が、ある日ガラリと変わった。

「アカリ、アカリ、もう時間だぞー」
「ぅん……まだ眠いぃ」
「うんうん眠いなぁ。はい、水飲んで」

 朝、寝起きの悪いアカリを起き上がらせて冷水を飲ませて目を覚まさせる。
 下の三つ子達はまだ夢の中。

「……ごはん」
「出来てる。ゆっくりでいいから食べておいで」
「はぁい」

 冷水の喉越しに眠気が吹っ飛んだのか、素直に起きて食卓へ。

「モモパパ、ヒカリ、おはよう」
「「おはよう」」

 寝起きの良いヒカリと共に朝食を先に摂っていたモモがアカリに挨拶を返す。

「学校、嫌じゃない?」
「早起きは嫌いだけど、学校は好き」
「いっぱい遊具あるし、いっぱい遊べる」

 オーラル王国が運営する教育機関で新たに設立された初等部の入学試験があった。
 そして、うちの双子は無事合格し、三ヶ月前に学校へ通い始めている。
 元勇者達の尽力や口添えもあったようで、授業科目に道徳まであった。
 
「「いってきまぁす!」」
「いってらしゃい」

 モモお手製のランドセルを背負ってヒカリとアカリは手を繋いで通学路を歩きだす。
 大丈夫だとは思うが、行き帰りの見守りはカムフラがひっそりと行っている。
 エルフや獣人という高知能亜人種とのハーフはそれなりに存在している。
 しかし、ウシガイという食用家畜にもされている魔物とのハーフは滅多に居ない。
 希少性から人攫いに合う可能性がある。
 頭から生えた触手、マダラのピンク模様。赤い瞳の瞳孔も、人とは少し違う。
 
「(まだ七歳なのに……モモに似て二人とも顔が良いし、裏で過保護になるのも仕方ないよな。うんうん)」
「パパ?」
「あ、おはようヒヨリ」
「おねぇちゃん達いっちゃった?」
「うん。寂しい?」
「……ん」

 起きてきたヒヨリが大好きな姉が学校に行ってしまったと気付き、しょんぼりと頭と触手を垂れさせる。
 大きくなった次女を抱き上げて頭を撫でて、ご機嫌をとる。

「帰りは迎えに行こうか」
「うん」

 目を擦りながら、俺の肩に凭れかかり欠伸を漏らす。
 
「うううう……」
「おっと、ヒナタがグズってる」

 モモが子ども達の寝室に入ると、弟しかいない空の布団の上で唸るヒナタがいた。
 
「よしよし、みんな居るぞ」
「……ジュンパパがいい」

 あーあーあ……モモがしょげちゃった。
 もぞもぞと嫌がりグズるヒナタをリビングに連れてくると、パタパタと俺の元へ走ってきてぎゅっと足にしがみつく。
 気分屋なヒナタも抱き上げて、着替えの準備をする。

「……モモパパ~よしよし」

 しょげるモモを寝起きのアサヒが慰めている。
 三つ子の中で一番身体が小さかったアサヒも今では、ヒヨリとヒナタと同じ背丈だ。
 
 着替えが終わったら朝食を食べさせる。とは言っても、三人とも自分で食べられるから、見守るだけだ。
 双子の学校と三つ子の成長で、大分手が空くようになってきた。
 
「カムフラ、おかえり」
「ばう!」

 帰ってきたカムフラにもご飯を用意する。

 洗濯物を干して、家の掃除をして、昼と晩の仕込みをする。
 子ども達と遊ぶ。今日一日は何も予定を入れていない。
 砂浜で遊び回っても、子どもの体力について行ける身体は素晴らしい。
 お昼後に公園へ行くと同じぐらいの歳の子と遊び出す。
 時々喧嘩もあるが、殴る蹴るの前に止めに入れば大事にはならない。
 ヒカリやアカリの時は容姿の事でちょくちょく子ども同士でいざこざがあったが、基本は子ども同士で解決していた。
 怪我しないように注意して見守るのも親である俺達の仕事だが、幼い子ども達にとって遊びは人生だ。
 いつかくる不自由な日々に、この時期の自由は支えとなるはず。
 手を繋いだ母と父にサポートされて、ぴょいっと階段をジャンプしたあの頃。もう会えないけれど、あの日の温もりはずっと俺の中にある。
 子ども達にも、その時間を持っていて欲しい。俺のエゴだ。

 日が少し傾いてきた頃、そろそろヒカリ達が帰ってくる。
 三人の子ども達と手を繋いで二人を迎えに行く。
 まだまだ狭い歩幅に歩みを合わせて。

「ヒヨリ、髪伸びたな」
「モモパパはなんで髪伸びないの?」
「パパの髪は髪じゃないからな。ほら」

 モモが髪を摘んでスッと伸ばす。子ども達がギョッと目を見開く。
 そして三つ子が同時に自分の髪を引っ張った。勿論、ビンと張って伸びる事はない。

「……え?」
「モモパパの髪は触手で出来てるんだよ。細さがほぼ髪だけど」
「????」

 モモ本来のウシガイ姿を知っているが、人の形をどのように形成しているのかは知らない。

「……動く?」
「ああ」
『ウネウネ』
「「「わっわっわ!」」」

 モモの髪が伸び縮みを繰り返してコロコロと髪型を変えていく。顔の造形が良いからどれも似合う。
 子ども達が大はしゃぎでモモの変形に歓声をあげる。
 モモが腕を増やす時はこんな驚かないのに。まぁ、多腕は小さい頃から見てるから慣れきってるんだろうけど……ふふ、可愛い。

「あ! パパ達だ!」
「本当だ」
「お姉ちゃん! お兄ちゃん! モモパパの髪すごいよ!」
「「?」」

 帰宅途中だったヒカリとアカリと合流し、モモの髪の報告をされて顔を見合わせている。
 あれ? 二人も知らなかったっけ?

「わーー! すごい動く! ミミズみたい!」
「言い方……」

 知らなかったらしい。双子がお互いの髪を引っ張る。勿論、ビンと張るだけ。

「モモパパの髪、どうなってるの?」
「一本一本触手なんだって……切ると痛い?」
「一本なら痛くないが、一気に切ると少し痛い」
「少しなんだ……」

 わちゃわちゃとモモの髪に触れる子ども達と穏やかな顔でしたいようにさせているモモ。
 子ども達が楽しそうで、モモも幸せそうで……俺の目頭が、思わず熱くなる。
 みんなで家に帰ってから、晩御飯までヘアセット大会になった。
 食卓に着く頃には、全員酷い頭。ついでにカムフラもステゴザウルスみたいになった。

「モモパパ、他にも身体変わる?」
「何処でも動くぞ。小さくもなれる」

 スッと二、三歳児程に体を縮めるモモ。
 おいおい、そんな事まで出来るのかよ。幼児の再現度高過ぎだろ。
 すぐに戻ったが、もしモモが人間だったのなら、あんな幼少期があったのだろうな。
 賑やかな食事を終えて、双子の宿題を見ている間に、モモが三つ子を風呂へ入れる。

「……ジュンパパ」
「ん?」

 アカリが俺の腹を撫でながら難しい顔をする。

「私ずっと良い子にしてる。妹まだこないの?」
「……そうだね。アカリは良い子だし、もう立派なお姉ちゃんだもんね」
「僕もお兄ちゃんだよ」
「うんうん。ヒカリも良い子だよ。新しい兄弟が出来たら、いっぱい遊んであげてくれ」
「勿論!」

 妹が欲しい……二年間ずっと飽きずにお願いされ続けている。良い子の元にくると言う俺達の言い訳を素直に信じて、この健気な天使がどれだけ頑張っているのか俺はよく知っている。
 わがままも殆ど言わず、家の事も手伝ってくれて、下の子達の面倒も見てくれる。
 ……三つ子達ももう立って走れる程だ。

「(……今年かな……)」

 願いを叶える時がきた。
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