大好きなBLゲームの世界に転生したので、最推しの隣に居座り続けます。 〜名も無き君への献身〜

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33:名誉のマナー

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 名誉賞授与式当日。
 スーツを店で着付けしてもらって、ブローチも着けた。
 髪型もきっちり整えたから、大丈夫。


 と、思ってたら……授与式は王室内で行われる為、王の前に出るならただきっちりとしただけではダメだった。
 王城に到着した途端、何十人ものメイドと執事に出迎えられたと思ったら、あれよあれよと入浴させられた。マッサージ付きで。その後、髪や肌を王室御用達のプロが整えてくれた。

「……ここまでしてくれるんですね」
「通常はここまでしませんが、王様から直々におもてなしをするよう申し付けられたので、王室式のおもてなしフルコースになっております」
「恐縮です」

 すでに肌がスベスベだし、カサついてた唇も潤ってる。

「王城にも、貴方様の功績は轟いております。その若さで成し遂げられるには、並々ならぬ努力と苦労があったでしょう。ご立派です」
「ありがとうございます」
「お食事のご用意もございます」
「しょ、食事まで」

 王室式のおもてなしは規模が違う。
 通された個室のテーブルに用意されたカトラリーセット。もう高級。家にある食器より多い。頭悪い感想しか出てこない。

「あの……私、マナーがわからなくて」
「ご安心ください。自由に召し上がっていただいて結構です」
「……はい」

 懸命に笑うけど正直キツイ。正面から飛んでくるメイドさん達の完璧な微笑に意識が遠退きそう。
 自由にって言われたけど、頑張ってる感出さないと。
 マナー礼節紳士を作る。

「(何度も見返した映画がある。その中でテーブルマナーのシーンがあった。すごい好きなシーンだから覚えてる)」
「!」

 食器は外側から使う事。
 ペンを握るようにナイフは持たない事。
 食器を置く際は皿の上で八の字に。

「お飲み物は」
「何がありますか?」
「赤ワイン、白ワイン、水、コーラがございます」
「コーラあるんですね。お願いします」

 炭酸飲料用のコップをスッと差し出すと、給仕係が笑ってくれた。

「……王室のコーラは自家製ですか?」
「はい」
「ふむ。香りがスパイシー……オリジナルより食卓向きですね。ふふ、こんなところまで」
「?」
「いえ、なんでも」

 不安にかられる迷子が、見知った顔を発見した時並みの安堵感だ。
 コース料理を着々と食べ進めて、やっと終わりが見えてきた。美味しいけど、全然楽しくない。
 
「兄様見える?」
「見えねえな」
「!」

 背後から声が聞こえて来て、出入り口を見てみるとドアノブあたりに子どもの顔が二つ並んでこちらを覗いていた。

「……よろしければ、一緒にケーキでも如何ですか?」
「え! ケーキ!?」
『ガチャ』
「ちょっ兄様!」
「センフォニア様! リントニア様まで!」
「すみません、お食事が終わってから伺おうかと思っていたんですが」

 リントニア王子が覗きの経緯を説明しているのに、センフォニア王子はメイドに椅子を用意させて、既に私の隣に着席してデザート待ち。

「お前が名誉の民だな。歓迎するぞ」
「ありがとうございます」
「兄様、お食事の最中ですからご挨拶は後にしましょう」
「二人にケーキをよろしくお願いします」
「……かしこまりました」

 私のケーキ追加の言葉にリントニア王子は驚きながらあたふたしていた。
 キャラグラの面影はあるが、可愛い九つの子ども達だ。

「リントニア王子様、よろしければご一緒願いますか? 一人では食べ辛くて」
「う……名誉のお客人のお願いです。王子として断れません」

 仕方ないと言いつつも目が輝いてる。二人とも、甘い物が好きなのは把握済みだ。
 ゲームでは、街で新しいケーキや菓子が出たら兄弟揃ってお忍びで食べに行くイベントがあるくらいだ。

「ブルーベリーのホイップケーキでございます」
「おお……」

 ブルーベリーをふんだんに使ったホイップケーキ。シンプルだが贅沢なケーキだ。

「美味しいですねぇ」
「はい、すごく美味しいです」
「ん~~甘酸っぱくて顎がキュッとなるな」

 一気に騒がしくなって、やっと息が吸えた気分だ。
 ケーキはすぐに無くなった。紅茶を入れてもらい食休み。

「名誉の民、食事終わったな」
「はい」
「……平民にしてはマナーがなっていますね。何処かで習ったんですか」
「少々調べました」
「良い心がけだ。ところで名誉の民」

 センフォニア王子が興味津々で私の前に身を乗り出した。

「魔力コントロールがすごいと聞いた。ココの魔法士よりも」
「人よりは上手い自負があります」
「水晶をやる。是非そのコントロールを見せてくれ」
「はい。では、よくご覧ください」

 大きめな水晶がスッと出て来て財力にクラっとくる。
 水晶を受け取って、二人の前で魔力を注いで絵を描く。細やかな幾何学模様を。
 周りで見ていた執事やメイドさん達もおお~~っと思わず感嘆が漏れていた。

「水晶に魔力が滲んでない! こんなの有り得るのかリント!」
「……一点に魔力を凝縮すれば、線は引けると思います。ですが、ここまで自由自在に操れるのは、もはや神業としか言いようがありません」
「ほわあ、すげえ!」

 楽しんで頂けているようだ。
 そして新しい水晶が差し出された。

「次は大輪の華を描いてくれ」
「はい。仰せのままに」
「ぼ、僕もいいですか?」
「勿論です」

 ポンポンと出てくる水晶に、二人のリクエストを描いて答えていく。
 二人ははしゃいで水晶の絵を角度を変えて眺めていた。
 
「ありがとうございます!」
「喜んでいただけて、私も嬉しいです」
「お前凄いな。他には何か出来ないのか?」
「そうですね。友人達に好評なのは、口頭で聞かせる冒険譚です」

 冒険譚と聞いて、再び二人の目が輝いた。なんか椅子に座ってるはずが、すごい近い距離まで迫ってきている。

「聞かせてくれ」
「では……富、名声──」

 その場の全員が、物語にのめり込んでくれたのが伝わった。
 緊迫感に息を呑み、ギャグでフッと息を吐き、山場で高揚感を覚える。
 丁度、次会う時は敵同士となる友との別れ、新たな仲間と海へと漕ぎ出すシーンでそろそろ時間ですと扉越しに声をかけられた。

「では、ここで区切りましょう」
「ええ!! 続きは!?」
「もっと聞きたいです!」

 立ち上がる私に王子様達が腰にくっついてくる。
 
「残念ながらお時間ですので……」
「授与が終わった後ならいいか?」
「私に滞在許可があれば」
「わかった! 父上に聞いてくる!」
「僕も、お願いしてみます」

 部屋を飛び出して行った子ども達の微笑ましさに、その場で小さな笑いが起きた。
 スーツを再び着付けてもらい、王の御前へと向かう。
 謁見の間の前に行くと、親衛の騎士が扉の両端に立っていたので会釈をしておく。

「(緊張する……コーラ飲んだし、ゲップとか出たらどうしよう)」

 くだらない心配をしていたら、眼前の扉が開き王の前へと続くレッドカーペットが見えた。一直線ではなく進行方向を変える必要がある。

「(……まぁ、謁見の間とは言え、紛い者が居たら扉開けて王が直線上にいたら魔法ブッパで危ないもんね)」

 コレも王族の身を守る一種なのかもしれないとごちゃごちゃ考えて気を紛らわせていた。
 カーペットの順路に従い、騎士が並ぶ辺りで九十度方向を変える。まさか、学校で習った集団行動の足捌きが役に立つ日が来るなんて思わなかった。
 騎士隊長と思われる方の前が停止の目印だ。

「にしし」

 目の前の玉座には、王様、王妃様、二人の王子様がいらした。センフォニア王子が手を振ってくれて、思わず頬が綻んだ。
 膝を着いて首を垂れる。

「名誉の民、アーサンよ」
「はい」
「王の名のもとに貴殿へ三つの名誉の勲章を贈る」
「有難き幸せにございます」
「うむ。では、アーサン。前へ」

 礼をしながら一歩前進して玉座の前に向かう。
 執事が持つ専用トレーに乗せられた三つのケースが目に入った。

「観光名誉賞。貴殿は我が国に美しき彩を与え、大いに経済発展に貢献した。よって、この賞を授ける」
「ありがとうございます」

 ケースの中から勲章が取り出されて、私の胸元に飾られる。

「魔法医学名誉賞。我が国の病魔を払う幾つもの新薬の開発。民の健康に大いに貢献した功績を讃え、この賞を授ける」
「ありがとうございます」

 二つ目の勲章が胸に飾られる。
 もう手汗がやばい。

「栄誉国民賞。貴殿は類稀なる才で我が国に新たな産業を齎し、技術発展に貢献した。よって、この賞を授ける」
「ありがとうございます」

 三つ目が胸に飾られる。よし、終わった。

「最後に、名誉の民アーサンよ。貴殿の働きに敬意を表し、褒美として貴殿の願う物を一つ、国から与えよう」
「!」
「何か、望む物は無いか?」
「…………このような、名誉をいただいたのです。他に望む物などありません」

 お断りを入れると、王様と王妃様の表情が曇った。
 ミスった! 何か間違えたか!?

「遠慮せず、申してみよ」
「……で、では、恐れながら」

 少し考えて、フと昔の事を思い出した。顔面が痛い思い出。
 私にはどうにも出来ないけれど、国が対処すれば変わるだろう。
 あの地域の治安改善をお願いした。

「なんと……お主自身の事でなくて良いのか?」
「私ではどうする事も出来ない願いなのです。どうか、よろしくお願いします」

 深々と頭を下げる。謁見の間にざわめきが起きたが、すぐに収まった。

「……本当に、其方は絵に描いたような聖人君子なのだな。では、貴殿のその願い、聞き入れよう」
「ありがとうございます!」

 漸く、授与式を終えられた。
 私は謁見の間を後にして、帰り支度をしていたところ腰にドンっと衝撃が走る。

「名誉の民! 父上から滞在の許可が下りたぞ!」
「さぁ、こちらへ」

 双子の王子にグイグイ引っ張られて、連れて来られたのは茶会を開くような素晴らしい庭園だった。
 ガゼボの中で、メイド達が既に紅茶と茶菓子をスタンバイしていたのを見て、諦めてガゼボの大きな長椅子に腰を下ろす。
 私にくっついたまま二人で話の催促をしてくる。

「では、先程の続きから」

 そこから数時間にも及ぶ冒険譚を語って聞かせた。
 二人のリアクションが良いから、こちらも楽しくなってきて、語りに力が入る。
 日が暮れ始めた時、二人の目からポロポロと涙が溢れていた。いつしかのマグナさんと同じだ。トナカイの門出を見送るシーンである。

「……ふぅぅ……この辺りでお開きにしましょうか」
「ひっく、んぅ。嫌だ。もっと居てくれ」
「まだ帰らないでください」

 一張羅に王子達の涙が落ちる。これもすごい勲章だな。
 それでも、貰ったのは滞在の許可で宿泊ではない。感動の余韻でぐずぐず鼻を鳴らす二人にくっつかれたまま帰る為に王城の門へと向かう途中……すっげえ形相の騎士がこちらに向かって来た。

「貴様ッ王子様達に何をした!」
「!?」

 今にも斬りかからんと剣に手をかけた少年騎士が私を睨み付けた。
 コ、コイツ知ってるぞ!!
 センフォニア王子の近衛騎士だ!! 攻略対象でもある!! うっわ、顔まんまじゃん! 忠義この頃からたっけぇ!

「ふぐ、モリス。この者に危害を加えたらクビだぞ」
「なっ! ですが、何か悲しい事があったのではないのですか? お二人共、そのように涙を流されて……この物に何かされたのでしょう」
「アーサンに手を出す事は許しません」

 リントニア王子が咄嗟に私の前に立つ。その姿に、少年騎士モリスはギョッとした様子だ。
 
「俺達はただ、名誉の民……アーサンの話を聞いて感動し過ぎただけだ。悲しくて泣いてるわけじゃない」
「……そうだったのですか。大変、失礼致しました」
「いえいえ。若いのに主人の為に刃を振るう覚悟のある騎士の忠義。悪い事ではありません。今後とも、王子様達の為にそのように動いてください」
「アーサン、斬られかけたのに怖くないのか」
「それが彼の仕事ですから。紛らわしい私の方に非があります。まぁ、怖かったですけど」

 私が怖かったと言うと双子がキッとモリスを睨んだ。
 いや、すごい懐かれたな。
 モリスも合流して共に門外まで見送ってくれた。

「いつでも来いよ」
「無理ですよ。招待状がないと」
「招待状書きます」
「モリスさん、二人が招待状を量産しないように注意して見ててください」
「はい!」

 長い一日だったが、一気に三人の攻略対象に出会えてしまった。
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