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36:心模様のジェムストーン
しおりを挟む「随分と遅かったわね」
「約束通り来たじゃないですか」
四年前の約束通り、宝石商へ彼を連れて結婚指輪を買いに来た。
「名誉国民が結婚指輪を選びに来た店は箔がつくから、利子はそれで勘弁してあげる」
「ありがとうございます」
「ところで……彼、大丈夫? 固まっちゃってるけど」
「あーーはは、こういったお洒落で豪華なお店が初めてで、びっくりしちゃってるんです」
彼は宝石商の煌びやかな雰囲気に完全にやられている。シャンデリアや色とりどりの宝石達、そしてゼロの多いプライスカード。
店主から歳の近い女性店員へ担当が代わり、話を進ませる。
「それでは、お二人の指のサイズを測らせて頂きますね」
「お願いします」
サイズの計測、指輪デザインに合わせて、提示された候補の中から石を選ぶ。
「人気はダイヤモンド。鉱石の中で一番硬く、美しく輝き続ける宝石。カラーレパートリーも多いですよ」
ホワイトダイヤモンドは『純潔の愛』
ピンクは『完全無欠の愛』
イエローは『笑顔』
ブルーは『永遠の幸せ』
グリーンは『安らぎと健康』
レッドは『永遠の命』
ブラックは『格を上げる』
宝石の持つ意味を選定基準にする方も多いらしい。
「他に人気なのは、ルビーとサファイアです」
「なるほど」
参考にと、ケースに入った本物を見せてもらえた。
どれもうっとりする程、美しい。
「どれがいい?」
「どれって……選べない。全部綺麗だ」
「うん。私も選ぶのは難しい」
こういう時、相手の目の色を参考にしたりするんだろうけど……彼の黒緑を表現出来る宝石があろうが、どの色を出されても私は納得出来ないだろう。拘りが強過ぎて。
「選ぶのが難しい時は、お二人の特別な思い出に合わせるのも一つです」
「なるほど。うーん……そうだなぁ」
「出会いの場所も再会の場所も最低だからな」
「言えてる」
檻の中で初めて出会い、治安の悪い路地裏での再会。
何処か一緒に遠出もした事ない。
共に居る日々は特別なものだが、思い出かと言われたら微妙だ。
「……思い付かない」
「挙式の予定が無ければ、急いで今日中に決める必要はありませんよ。ゆっくりとお二人で決めてください。その時間も特別な物ですから」
「では、お言葉に甘えて……」
すぐには決められない。
また数日後に伺う事にした。
「思い出か……」
店を出た後にポツリと溢した彼は、悲しげな表情をしていた。
「俺、ずっと家に居たし……酒飲んでたから記憶があやふやなところも多い。後は病院だ。お前が居たから、嫌な思い出になってないけど、結婚指輪の選定にあげる程じゃない」
「初めてキスした思い出はすごく輝かしいよ」
「それは、二人だけの思い出にしたい」
人に説明出来るラインの思い出……ぶっちゃけ、無い。
「……よし、無いなら作ろう」
「作る?」
「思い出を作りに行こう」
「!」
そうだ。わざわざ過去から選ばなくても、今から拵えればいい。
「でも、仕事あるだろ。落ち着いても、それなりに忙しそうだし。今度、学会にも顔出すって聞いたぞ」
「いろいろ予定はあるけど、ちゃんと有給休暇取れるから大丈夫。それに、新婚旅行の下見って言えば、喜んで送り出してくれるよ」
「しんこんりょこー」
初めて聞いた単語のように、彼は心底驚いた顔をした。
「新婚旅行、行くでしょ?」
「……ああ」
自分には縁が無いと思っていた事が身に起きて、むず痒そうに頭を掻いていた。
私も、前の世界では考えもしなかった。そんな余裕ないし、相手の人生も左右するものだからだ。
「何処行こうか」
「…………海、見たい」
「あ、私も見たい」
そういえば、この世界で海見た事ないや。ゲームのCGグラフィックでは綺麗な海が見えていたから期待出来る。
日本の砂は黒いから海も黒っぽく見えるって聞いた。だから海外の白い砂を輸入して海岸に撒いて青い海のビーチ作ったとか。
真偽もわからないし、誰から教えてもらったかも覚えてないけど、海と聞くと思い出してしまう。
海に面する近場の観光スポットを探す為に職場で海地方の出身者に聞き込みを行った。まだこの世界に観光ガイドブックは存在しないから。
「新婚旅行かぁ~~」
「アーサンもやりますね」
「下見ですよ。下見」
「海が綺麗で人気なのは、カルティカ王国のシアノ海。観光名所だし、魚も美味い」
カルティカ王国は東寄りの国だ。地図で場所を確認して、順路と必要資金を割り出す。往復する馬車が通ってるから、それに乗れば日帰りも可能。
「でも、観光客狙ったボッタクリも多いし、怪しい噂も多いって」
「それは……ちょっと」
「まぁ、行くならちゃんと準備してからだな。あと、シアノ海は夏場が人気だ。今はもう寒い時期だから、空いてると思う」
「「お土産よろしく~」」
さて、このプランを彼に相談しよう。
「寒いなら、着込んだ方がいいか?」
「そうだね。こっちよりも冷えるだろうし」
服装は大事だ。快適に過ごさなければ観光にも身が入らない。
それに旅行はいつもと気候や国の環境が変わって風邪を引きやすい。
「体調はどう?」
「良い感じだ。ほら、肉付きも戻ってきた」
浮いていた肋骨が目立たなくなってきた。適度な運動と栄養バランスの良い食事で健康的な身体が出来上がりつつある。
服を捲り晒された肌。目のやり場に困る。
「あ、ああ……うん。良い感じ」
「ちゃんと見ろ。俺の努力を」
「うん。うん、君の努力はよくわかってるから……」
「見ないなら触れ」
「へ!?」
目を逸らしてアタフタしてる私の手をとって、腹に押し付けてきた。
腹筋の凹凸を感じる。
「……お、男の身体って感じ」
「はは、んだよその感想……ちゃんと見ろ」
彼の手が、私の手に重なってスルリと肌を滑る。
滑らかで張りのある肌。彼の体に触れている。無意識に喉が鳴り、目が離せなくなる。
「良かった……ちゃんと俺で興奮出来るんだな」
「ッ、いや! コ、コレは!」
「婚約者の身体に反応して何が悪い」
「恥ずかしい……」
「……まだそんな事言ってんのか」
勃起した股間を隠す私に、彼は服を直しつつ、肩を組んできた。
「お前は、痩せ細って枯れ枝みたいになった俺に対しても世界一可愛いとか言ってたけど……それでも、不安だったんだよ。あんな状態の俺見たらさ……もう、そういう目で俺を見れないんじゃないかって。キスから先に全く進まねえから」
「いや、いやいや! 君のあの姿を見たからって、私の愛や君の魅力が減るわけじゃない! 君はいつでも私の性癖ど真ん中を突いてきてるよ! ガンガンに勃つから安心して!」
何故か髪伸ばし始めて、色っぽくなってきたのも、寝起きのポヤポヤでキスしてくるのも、運動後の水を飲む姿も……全部エッチで困ってるのに。
「しかもさ……最近さ……君、髭伸ばそうとしてるよね。髪だけじゃなくて」
「……髭剃り前の俺をガン見してるの知ってるからな?」
「ご、ごめん! でも、ちょっと待って! 髪はいいけど、髭伸ばしちゃったら、マジで我慢出来なくなる!」
ゲームと同じ姿になってしまう!
婚前交渉は控えたいのに、推しが完全体になってしまったら、私の理性がマジでやばい!
私の中の腐女子と夢女子と男が暴走してしまう!
「そんな事で理性が決壊するのかお前……」
「今でもギリギリなんだって……頼むよ。結婚まで、待ってくれ」
「…………仕方ねえな」
不服そうに腕を組んでいるが、私の話に自信がついたのか余裕の笑みも浮かべていた。
「お前って本当に俺の事、大好きなんだな」
「え? あ、うん。大好き」
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