大好きなBLゲームの世界に転生したので、最推しの隣に居座り続けます。 〜名も無き君への献身〜

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名高き君への献身

68:命のリレー

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※残酷描写有り
ーーーーーーーーーー




 王宮の宮門が爆破され、武装した国民が雪崩れ込んだ。
 水不足に加えて、重税で日々苦しんでいた民の怒りがついに爆発した。
 徒党を組んで攻め入る手際は頗る良かった。

「シロ! こっちだ!」

 王子様達に抱えられて、背後に迫る者達に目を向ける。
 民が扱う武器ならば、鎌や鍬、斧になるはずだ。だが、刀や槍を持って押し入っている。

「(動きに迷いがない。王宮内の間取りを把握してる……武器は……近衛兵と同じタイプ)」

 ああ……ああ、クソ!
 謁見の間で顔を顰めていた近衛兵か!
 こんなにもド派手に堂々と反旗を翻せたのは、内部の人間も結託して革命に乗り出したからだ。
 
「ケホッ!」

 火を放たれて、建物内に煙が充満し始める。

「自分で走れます!」
「ダメだ。お前は遅い」

 追われる第四王子様の腕の中に私が居ては、邪魔にしかならない。
 
「くっ、シロ! しっかり前を見ろ!」
「!?」

『ザン!』

 別の王子様に私を受け渡した瞬間……私を先程まで抱えていたはずの第四王子様の首が飛んだ。
 血飛沫をあげて、力無く倒れていく。
 そして、倒れ込んだ体は乱雑に蹴飛ばされて、隅に追いやられた。

「ぁ、ああ……ヘンローン様……ぃや」
「シロ! シロ!! 前見てろ! 絶対に振り返るな!」
「ッ!」

 またも受け渡され……王子様の首が飛ぶ。

「こっちを見るな! 前を見ろ!」
「シロを頼むぞ!」
「この子だけは死守しろ!」
「お前だけでも、生きるんだ!」
「愛してるぞ。シロ」

 次々と薙ぎ払われる王子様。残酷で呆気ない命の終わりが、私の網膜に焼き付いていく。
 
「王子様! こちらへ!」
「んっ!」

 ボロボロの使用人が、一室へ王子様達を招くと、中には年少者の王子様達も避難していた。
 
「シロ、お前はココにいろ」
「エレン様! だ、駄目です! 数が多すぎます!」

 部屋にあった武器を手にして、エレン様が門番になってくれた。無謀な判断だ。
 この部屋の出入り口は一箇所だけで……しかも最上階だ。

「…………」

 年少の王子様達に囲まれて、どうすればいいかわからず……固まっていると、ポンと肩を叩かれた。

「……ダゴン様」
「シロ……お前だけは逃げても追われない。父上と血の繋がりは無いし、身分の低いお前なら、見逃される」
「ぇ?」
「……シロ」

 王子様……子ども達が、しゃがみ込む私に次々とハグと、頬や額にキスをしていく。

「元気でね」
「……死なないで」
「僕達、シロが大好きだよ」
「大好き」
「…………ぃや、嫌だ、嫌だ!」

 子ども達が私を部屋の窓の方へと押し出す。

「シロ、早く行って」
「デコン様までっ!」

 王宮の最上階。今考えられる脱出経路はそこしかない。

『ダァン!』

 扉が開け放たれ、大人達が私達を目視した瞬間手の平をこちらに向けた。
 その意味を理解するのに、瞬き一つとかからない。
 
「ダゴン様! 待ってくださいダゴン様!! 子ども達が──」
「ッ!」

 ダゴン様が私の口を手で塞いだ。そして、そのまま私を引き摺って窓の外へと身を乗り出した瞬間。

『ゴオオオオオオオ!!』

 部屋の中に火の魔法が打ち込まれ、扉を封じ、閉じ込められた子ども達が──

「ぎゃああああ!!」
「わああああ!!」
「熱い熱いいい!!」
「いたいいたいいたいいいい!」
「父上ぇ……母上ぇ……!!」

 幾つもの小さな紅葉のような手が、炎に包まれ揺れている。
 もがき苦しむ子ども達の絶叫が延々と聞こえてくる。一秒もかからなかったはずの落下時間が永遠のようだった。

「ぅう!!」
『ガッ!」
「……」

 二階の開け放たれた窓で靡いていたカーテンをダゴン様が掴んで、その部屋へ私を放り込んでから自分もよじ登った。

「…………」
「シロ、走るぞ」
「…………むり、です」
「なら、抱えて走ってやる」
「じ、自分で走ります!」

 年長の王子様達の最期がフラッシュバックして、私は立ち上がってダゴン様と共に炎と煙の中を走り抜ける。
 その途中で、聞き慣れた乳母の声がした。
 通り過ぎる部屋の中が見えた。
 窓の外に何かを投げ捨てている鎧に身を包んだ民と、それを必死に止めようと泣き叫ぶ拘束された乳母達が居た。

「ぎゃあああああああああ! おやめてください! どうか、どうかその子達だけはあああ!!」
「王の穢れた血を継ぐ者は、須く悪魔である」
「悪魔はあんたたちよ!!」
『ザシュッ!』

 歯向かった瞬間に、乳母の首が切り付けられて、身体が床に打ち付けられる。咄嗟に目を逸らしてしまった。
 
「シロ!! 前見て走れ!! 生きる事だけ考えろ!!」
「……ぅ、ぅううわあああああああ」

 惨状に耐えられず、私はダゴン様に手を引かれて、泣きながら必死に走った。

「(もう……もう、いやだ)」
「こっちだ!」

 もう、嫌だ。見たくない。聞きたくない。感じたくない。逃げたい、逃げたいのに足が縺れてしまう。転ぶ前にダゴン様が私を抱えて引っ張るが、ダゴン様の足取りも酸欠で覚束ない。
 引っ張り連れて来られたのは、厨房近くにある王宮内の枯れた地下水路。

「兄上達に教えてもらった。この水路の行き先は、街の中らしい。水が枯れてからは、殆んどお飾りだけどな」

 子ども一人が入れる小さなめの酒樽に入れられる。

「……だご、だごん様?」
『ちゅ』

 ダゴン様が乗り込むのを待っていたら、頬にキスをされた。

「シロ……お前との生活は楽しかった。良い弟を持てて、俺は鼻が高い」
「!!?」
「愛してるぞ。幸せになってくれよ、シロ」
「ダゴン様!!」
『ガン!』

 蓋を閉められて、水路へ容赦無く蹴っ飛ばされた。

「俺達の事は、全部水に流して忘れちまえ!」

 枯れ果てていた水路に大量の水が流れ込む。
 ダゴン様の水の魔法だ。魔力枯渇どころか致死量にもなりかねない程無理矢理出したであろう大量の水が、私を勢いよく押し流していく。

『ザブン!』

 酒樽が水流に飲み込まれた瞬間……ダゴン様の、王子様達や乳母達、使用人達の笑顔と最期が繰り返し再生される。

「わ、私は……私は、私は!」

 彼らを使って生き延びる事しか考えてなかった。
 倫理観や道徳心を持って欲しかっただけで……彼らにこんな事をさせるつもりはなかった。
 国の王子様が、たった一つの命を投げ出してまで、守る価値なんて私には無い。
 そして、国民の血税を貪っていたのは私も同じだ。
 身分不相応に、施されて浮かれていたんだ。施しが国民の血肉である事を忘れて。

 生き残る為に、王子様達と仲良くなった。死なせる為に、仲良くなったわけじゃない。
 母の言葉が脳裏で私にずっと訴えかけてくる。




《お前なんか、生まれてこなければよかったんだ》





 私が居なければ、私が生まれなければ、王子様達の何人かは生き残れたかもしれない可能性に、身体が捻れ切れそうな程の絶望感に見舞われる。
 私が、居たから。産まれたから、死なせてしまった。私が……我が身可愛さで、大事な子ども達を、殺してしまった。
 
「ぅ、ううう……ぅう……」

 ダゴン様の水に運ばれて、私は街の中の水路へと流れついたが、ヒョイっと誰かに拾い上げられた。

『カパ』
「なんだガキかよ」

 蓋を開けたのは、戦火のおこぼれを狙っていた乞食だった。何か転がって来ないかと水路を見ていたようだ。
 騒がしい外へと私をつまみあげて、革命軍の民に私を突き出しに行く。

「おい、コイツきっと王宮から逃げてきたガキだぞ」
「…………はぁ……どう見ても、王族の関係者ではないだろう。髪色も目の色も何もかも違う。嘘を吐くなら、もっとマシな子どもを持ってくるんだな」
「はああ?? あーあー、もう偉くなったつもりかよ。ケッ」

 乞食は交渉が無理だとわかると、私を引き摺って街外れまで歩いて行った。

「コイツ、いくらで売れる?」
「……うーん、顔は良いが、無気力でもう長くなさそうだし……二万ギル」
「もう一声ねえか?」
「処分に二万ギルも払ってやるって言ってんだ。大人しく引き下がれ」
「チッ……どいつもこいつも」

 誰かに私を売り払って、乞食は去って行った。

「(……ああ……無理だ…………抱えられない)」

 ブツンと私の中で、何かが千切れて世界が暗転した。
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