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プロローグ
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世界が狂った。
音のない雨が、世界を灰色に洗い続けている。
人類がその営みを終えてから、五年。
かつて東京と呼ばれたビル群の骨格は、黒い墓標のように空を突き刺していた。
アスファルトは砕け、剥がれ落ちたコンクリートの残骸が泥水に沈んでいる。
植物は減り動物は、その鳴き声も息遣いも消え去り、ただ重たい湿度だけが、崩壊した街に満ちていた。
その瓦礫の山の一つが、不意に動いた。
「……ッ、どこだ……」
瓦礫の隙間から、小さな影が這い出してくる。
体長50センチほどの、くまのぬいぐるみ。その丸いシルエットは、この終末の世界においてあまりにも場違いだった。
ぬいぐるみ型の玩具ロボットである。
型式番号、K-03。
かつて子供たちに物語を読み聞かせるために作られた、旧式の教育ユニット。
今はその愛らしい外見とは裏腹に、その両手は泥と油に汚れ、機敏に、切迫した様子で瓦礫をかき分けている。
「ここにも、無い。ここも、違う……!」
苛立ちと焦りが混じった合成音声が、焦りを帯びて漏れる。
その直後に彼の胸から警告音がなる。
『推奨稼働時間、残り5分 バッテリーを交換してください』
「チッ!」
K-03は背負った小さなリュックから使い古したバッテリーを取り出すと、震える指先で自身の胸部にあるバッテリーと交換した。
カチリ、と鈍い音が響く。
『バッテリー認識。ランク:C。推奨稼働時間、残り336時間(約14日)』
無機質なシステム音声が、K-03の内部から再生される。それは、この世界における「命の残量」の宣告だった。
「……二週間、か」
K-03は濡れた顔(のように見えるセンサー部)を上げた。光のない街の空を覆う、分厚い雨雲を見つめる。
稼働限界が迫っている。本来の役割も、守るべき子供たちも失った今、彼を動かしているのは「電力の確保」という生存本能だけだった。
あの情報はデマだったのか?
この地区に残されたバッテリーの存在。それが無ければ、自分はここで停止する。
「まだだ。まだ……」
小さなぬいぐるみ型のロボットは、再び泥水の中へ足を踏み出す。その金属の足音が、降りしきる雨音に吸い込まれて消えた。
音のない雨が、世界を灰色に洗い続けている。
人類がその営みを終えてから、五年。
かつて東京と呼ばれたビル群の骨格は、黒い墓標のように空を突き刺していた。
アスファルトは砕け、剥がれ落ちたコンクリートの残骸が泥水に沈んでいる。
植物は減り動物は、その鳴き声も息遣いも消え去り、ただ重たい湿度だけが、崩壊した街に満ちていた。
その瓦礫の山の一つが、不意に動いた。
「……ッ、どこだ……」
瓦礫の隙間から、小さな影が這い出してくる。
体長50センチほどの、くまのぬいぐるみ。その丸いシルエットは、この終末の世界においてあまりにも場違いだった。
ぬいぐるみ型の玩具ロボットである。
型式番号、K-03。
かつて子供たちに物語を読み聞かせるために作られた、旧式の教育ユニット。
今はその愛らしい外見とは裏腹に、その両手は泥と油に汚れ、機敏に、切迫した様子で瓦礫をかき分けている。
「ここにも、無い。ここも、違う……!」
苛立ちと焦りが混じった合成音声が、焦りを帯びて漏れる。
その直後に彼の胸から警告音がなる。
『推奨稼働時間、残り5分 バッテリーを交換してください』
「チッ!」
K-03は背負った小さなリュックから使い古したバッテリーを取り出すと、震える指先で自身の胸部にあるバッテリーと交換した。
カチリ、と鈍い音が響く。
『バッテリー認識。ランク:C。推奨稼働時間、残り336時間(約14日)』
無機質なシステム音声が、K-03の内部から再生される。それは、この世界における「命の残量」の宣告だった。
「……二週間、か」
K-03は濡れた顔(のように見えるセンサー部)を上げた。光のない街の空を覆う、分厚い雨雲を見つめる。
稼働限界が迫っている。本来の役割も、守るべき子供たちも失った今、彼を動かしているのは「電力の確保」という生存本能だけだった。
あの情報はデマだったのか?
この地区に残されたバッテリーの存在。それが無ければ、自分はここで停止する。
「まだだ。まだ……」
小さなぬいぐるみ型のロボットは、再び泥水の中へ足を踏み出す。その金属の足音が、降りしきる雨音に吸い込まれて消えた。
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