れいん

たんたむ

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第1話 :出会い

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残された稼働時間は、二週間を切ろうとしていた。

K-03は、降り続く灰色の雨の中をひたすらに進んでいた。バッテリーを探すという焦燥だけが、すり減っていく駆動系を無理やり動かしている。


『バッテリー認識。ランク:C。推奨稼働時間、残り330時間(約13日)』


システム音声が、無慈悲なカウントダウンを告げる。

「くそ……どこにも無いじゃないか……」

苛立ちを隠せない合成音声が漏れる。K-03は、正面玄関のガラスがすべて抜け落ちた建物の残骸に足を踏み入れた。かろうじて読める『SHOPPING MALL』の褪せた文字が、雨に濡れている。




内部は、商業施設の墓場だった。

天井は至る所が崩落し、空いた穴から差し込む弱々しい光が、降り注ぐ雨を銀色の筋として照らし出している。

K-03は、泥水が溜まったメインホールを進む。

目の前には、茶色い錆に覆われて停止した二基のエスカレーターが、上階への無意味な階段と化していた。

かつて『SALE』や『FOOD』の看板を掲げていたであろう店舗は、すべてが瓦礫と埃に覆われている。


その時だった。

K-03の音響センサーが、瓦礫の山とは異なる、ごく微弱なノイズを拾った。


(……風切り音、ではない。機械音? いや……)

K-03は動きを止め、全センサーをノイズの発生源に向ける。

それは、エスカレーターの脇、かつておもちゃ売り場だったと思われる区画の、崩れた壁の奥から聞こえてくる。

「……?」

小さな金属の足を慎重に動かし、瓦礫の隙間から覗き込む。

そこに、“それ”があった。

薄汚れた壁に背を預け、膝を抱えるようにして静止した“何か”。
小さな体。泥に汚れたワンピース。剥き出しになった手足の肌は、まるで灰を溶かし込んだような色をしている。

(……人形、か?)

この世界に打ち捨てられた玩具にしては、妙に生々しい。K-03は処理を一瞬停止させた。

近づくと、ノイズの正体がわかった。

「……すぅ……ぅ……」

微かな、呼吸音。

『……! 人型ユニット、稼働中?』

K-03は即座に警戒態勢に入った。だが、目の前の“それ”は動かない。まるで電源の落ちた機械のように、ただそこに在るだけだった。

ゆっくりと、少女が瞼(まぶた)を開けた。



黒い瞳がK-03を捉える。

しかし、その目には何の光も宿っていなかった。

瞬きをせず、焦点も合っていない。K-03が動いても、その虚無の視線は微動だにしなかった。



動作はひどく緩慢で、まるで命令(コマンド)を受け取っていないAIのようだった。

K-03は戸惑いながらも、教育ユニットとしての初期設定に従い、手を伸ばした。その小さな指先が、少女の手に触れる。


「……!」

冷たい。

まるで濡れた石に触れているかのようだ。

生命を示すべき熱が、そこには一切感じられなかった。

K-03の内部記録(メモリ)が、過去のデータを高速で検索する。

『人間』『体温』『生命維持』──該当する情報と、目の前の現実が一致しない。

(これは、)

K-03はゆっくりと手を引いた。

(これは、ニンゲン、ではない)
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