れいん

たんたむ

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第2話 :沈黙

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K-03は、結論と同時にわずかに後ずさった。

目の前の少女は、生命反応があまりにも希薄だ。

旧時代に廃棄された高度なアンドロイドか、あるいは……。



K-03は、対象のスペックを分析するかのように、無機質な合成音声で問いかけた。


「キミは、何者だ?」


少女は虚無の表情のまま、動かない。


「……応答しろ。言語機能は搭載されているのか?」


返ってきたのは、崩れた天井から滴り落ちる、雨だれの音だけだった。





(ダメか……)


まるで、起動シーケンスそのものを拒否しているAIロボットか、あるいは、生存本能のすべてを放棄した、末期のニンゲンのようだ。



『推奨稼働時間、残り329時間(約13日)』

内部システムが、再び冷酷な現実をK-03に突きつける。

こんなモノに関わっている時間はない 。

バッテリーを探さねば、自分もここで停止する。



K-03は小さく溜息(のような排気音)をつくと、踵(きびす)を返した。

その時だった。

K-03の動作センサーが、微弱な動きを捉えた。

振り返ると、少女の視線が動いていた。


先ほどまでの虚無ではない。

焦点は定まらないながらも、確かに空間を彷徨い、K-03の存在を捉えようとしている。

K-03は動きを止めた。


「……キミは、機械(ロボット)なのか?」


少女はまたも応えない。

だが、その視線がゆっくりと下を向き、泥に汚れた自分の足元に落ちた。

(……起動は、している)

K-03は分析する。

外部からの情報(インプット)は処理されている。

だが、応答(アウトプット)が返ってこない。

まるで対話インターフェースが機能不全に陥っているかのようだ。


「無駄だ。何をしても……」


自分の活動限界が迫っている焦燥が、再びK-03を動かそうとする 。彼は、今度こそこの場を立ち去ろうとした。


その瞬間。


少女の瞳から、一滴の水が静かに溢れた。



それは灰色の頬を伝い、透明な筋を描いて、顎の先から滴り落ちた。

「……なみだ?」

K-03の光学センサーが、それを拡大してスキャンする。

『塩分、水分。データベース照合:ニンゲンの情動反応』。



K-03の内部処理が激しく混乱した。

『エラー。論理矛盾。対象は著しい低体温状態。しかし、高度な情動反応を検出』



心を持っている。

K-03は動揺した。

しかし、バッテリーを探さねばならない。

命が切れかけているユニットに、他人を構っている余裕など万に一つもない。




K-03は、その場に縫い付けられたように動けなかった。

目の前で静かに涙を流す存在を、どうしても無視することができなかった。



K-03は、バッテリー探索へ向かおうとしていた金属の足をゆっくりと下ろし、再び少女の前に向き直った。
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