一億円の福袋と空っぽの僕ら

北大路京介

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すべてが決着したのは、一月四日の朝だった。

銀座の空気は、昨日までの祝祭感が嘘のように、冷徹なビジネスの熱気に切り替わっていた。三丸屋の正面玄関。勝利を確信していた専務の前に、武史が差し出した袋に入っていたのは、一億円のダイヤではなく、使い古された一足の子供用スニーカーと、不正の証拠を記録したボイスレコーダーだった。

百貨店の巨大スクリーンには、武史が命がけで撮影した専務たちの醜い姿が映し出されていた。本当のダイヤは、武史の「臆病ゆえの慎重さ」によって、すでに警察へと届けられていたのだ。

騒動が落ち着き、出勤する社員たちの靴音が響く中、二人は巨大な円柱の影で立ち止まった。 ルカはコートの襟を正し、いつもの外商の顔に戻ろうとしたが、武史が言った。

「石川さん。あの中身がもし、ただの飴玉とかだったら、僕たち、もっと早くに解散してましたよね」

「そうかもしれませんね。一億円という数字がなければ、私はあなたを引き止めなかった。数字は、時に人と人を無理やり繋ぐ接着剤になりますから」

「でも。接着剤が乾いた後って、指と指がくっついて、剥がす時にちょっと痛いじゃないですか。僕、今、その、ちょっと痛い感じがしてるんです」

ルカは遠くの信号機を見つめた。 「戸崎さん。四日になると、世界は本当のことを言い始める。私、嘘が剥がれ落ちるこの朝が、世界で一番嫌いでした。でも、今年は、そんなに悪くないなって思っています」

武史はポケットの中で、残された片方の古いスニーカーを握りしめた。 「もし、僕が間違えて焼き芋を拾っちゃったら、その時はまた、一緒に逃げてくれますか?」

ルカはふっと微笑んだ。 「焼き芋なら、逃げる必要はありません。冷める前に、どこかの公園のベンチで食べればいいんです。……ただし、皮は戸崎さんが剥いてくださいね。私、ネイルが傷つくのは嫌いなんです」

「はい。喜んで。僕、皮剥くのだけは、一億円分くらい上手いですから」

逆方向に進む背中と背中。 銀座の交差点、信号が青に変わる。

「石川さん! お正月、ありがとうございました!」

武史が振り返って叫ぶ。 ルカは振り返らず、ただ右手を少しだけ高く上げた。 その手首には、一億円の価値などとうに超えた、新しい一年の光が反射していた。
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