一億円の福袋と空っぽの僕ら
銀座の喧騒は、元旦の鋭い冷気に包まれていた。
高級百貨店、三丸屋の特別室で、石川ルカは完璧な所作でお辞儀をした。彼女の着ている濃紺のスーツにはシワひとつなく、その表情からは一切の感情が削ぎ落とされている。彼女が扱うのは、ただの品物ではない。選ばれた者だけが手にできる特権そのものだ。
手違いは、初売りの熱気がピークに達した午前11時に起きた。
ルカが裏ルートで手配した、一億円相当の未鑑定ダイヤモンド入りの極秘福袋。政界への献金代わりとなるはずだったその紙袋が、配送スタッフのミスによって、一般販売の山に紛れ込んでしまった。それを手にしたのが、戸崎武史だった。
武史は、正月の商店街を歩くベージュのダッフルコートのように、どこにでもいて、どこにも居場所のない男だ。不運を絵に描いたような人生で、この日も貯金を下ろして買ったばかりの一万円の福袋を抱え、安アパートへ帰る途中だった。
「待ってください」
地下鉄の入り口で、ルカは武史の腕を掴んだ。息を切らしながらも、その瞳には凍てつくような光が宿っている。
「この袋、中身を間違えました。交換してください」
武史は目を丸くした。 「え、でもこれ、僕がちゃんと並んで買ったやつですよ。開運って書いてあるし」
開運どころか、それは破滅への招待状だった。袋を狙うのはルカだけではない。三丸屋の闇を知り、ダイヤを奪取しようとする謎の集団が、すでに二人の背後に迫っていた。
ルカは迷わなかった。武史の腕を強く引き、発車直前の地下鉄に飛び乗る。
「いいですか、戸崎さん。今、あなたの持っている袋は一億円の価値があります。そして、それを奪おうとしている人たちは、人を傷つけることを躊躇いません。私と一緒に来てください」
武史は呆然としたまま、揺れる車内で自分の膝の上の袋を見つめた。 「一億円……。僕、一万円しか払ってないのに。そんなの、おみくじで大凶を引くより怖いです」
逃走劇は、正月の静まり返った東京を舞台に始まった。華やかなイルミネーションが、追ってくる黒塗りの車のライトと交差する。
高級百貨店、三丸屋の特別室で、石川ルカは完璧な所作でお辞儀をした。彼女の着ている濃紺のスーツにはシワひとつなく、その表情からは一切の感情が削ぎ落とされている。彼女が扱うのは、ただの品物ではない。選ばれた者だけが手にできる特権そのものだ。
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「待ってください」
地下鉄の入り口で、ルカは武史の腕を掴んだ。息を切らしながらも、その瞳には凍てつくような光が宿っている。
「この袋、中身を間違えました。交換してください」
武史は目を丸くした。 「え、でもこれ、僕がちゃんと並んで買ったやつですよ。開運って書いてあるし」
開運どころか、それは破滅への招待状だった。袋を狙うのはルカだけではない。三丸屋の闇を知り、ダイヤを奪取しようとする謎の集団が、すでに二人の背後に迫っていた。
ルカは迷わなかった。武史の腕を強く引き、発車直前の地下鉄に飛び乗る。
「いいですか、戸崎さん。今、あなたの持っている袋は一億円の価値があります。そして、それを奪おうとしている人たちは、人を傷つけることを躊躇いません。私と一緒に来てください」
武史は呆然としたまま、揺れる車内で自分の膝の上の袋を見つめた。 「一億円……。僕、一万円しか払ってないのに。そんなの、おみくじで大凶を引くより怖いです」
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