婚約者が私の見舞いには来ず、他の女の茶会に行っていたので――気づいた時には、もう愛は完全に冷めていました

唯崎りいち

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「——私の病の時には来てくれなかったのに」

「——私の病の時には来てくれなかったのに」

 口に出してはみたものの、怒りも悲しみもない。

 婚約者のアルフォンス様が私が病で伏せっている間に、「忙しい」と一度も見舞いに来てはくれなかった。

 そんなに「忙しい」彼なのに、公爵令嬢の茶会には出席していたらしい。

 怒ったり、泣いたりすべき出来事に、私の心は揺れ動かなかった。


「そんな婚約者、捨ててやればいいのよ」

 性格の悪い姉と兄が笑った。

「でも、アルフォンス様は侯爵令息だから家の付き合いもあるし、公爵家に誘いは断れなかったんだと思うの」

 私エルナが言うと、姉セシリアは笑う。

「エルナ、断れなかったとしても、あなたのお見舞いに来なかった理由にはならないでしょう?」

「それは……」

「エルナ、俺と姉さんに相談したい事があると言ってきたのは君だ。アルフォンスを信じているなら、こんな相談はしないだろう」

 兄のギルバートが言う。

 ギルバート兄さんの言う通りで、アルフォンス様を疑っていなければ、相談なんてそもそもしないだろう。

 死んだように動かない私の心にもまだ彼への興味が残っているのかしら?


 以前にも私が病に倒れた時にもアルフォンス様はお見舞いに来てくださらなかった。
 理由は忘れてしまったけど些細なことだったと思う。
 その時は、お見舞いに来てくださらないくらいの事が問題だとは思わなかった……。


 今、問題だと思っているのは、やっぱり日頃のアルフォンス様の振る舞いのせいね……。

公爵令嬢のミレニア・ド・アークランド様と、私の婚約者のアルフォンス・ル・グラン様は子供の頃からの幼馴染で婚約されると誰もが思っていたと噂で聞いてしまった。
 それからはアルフォンス様が「忙しい」と言って何かと私との用事を断る時に、公爵令嬢のミレニア様の顔が浮かぶようになった。

 今回もミレニア様の茶会には出席して、私のお見舞いに来なかったのだ。

 アルフォンス様は私と同じ学園の一つ上の三年生で18歳。
 ミレニア様は私より二つ年上の19歳で、学園からは数ヶ月前に卒業している。

 ミレニア様がいないだけで、学園の居心地が良くなった。

 私は相当にミレニア様とアルフォンス様との関係に悩まされていたらしいと、この時に自覚した。
 私は後になってから自分の気持ちに気づく事が多い。

 私は学園の二年生で17歳のエルナだ。
 今は、気持ちを見失ってる。

 少し考えたら学園で会わなくなったからって、別の場所でも会っていないとは限らないのは分かったはず。
 思い至らなかったのは真実を知るのが怖かったからかしら?
 それとも、興味がなくなっていたから?

 たまたま、今回は私の病が少し重く一時は意識が朦朧としていたらしく、婚約者のアルフォンス様がお見舞いに来られなった理由も少し追求されただけだ。
 姉や兄は怒ってくれるけど、両親にとっては公爵令嬢の茶会に出席していたからと言うのはそれほど大事な問題でもないらしく、理由を聞いただけで終わってしまったけれど。



「ゴホッゴホ!」

「あら、エルナ、まだ完全に病が治っていないのね。ギルバート、エルナを部屋まで連れて行ってあげて」

「はい、姉さん」

 私が少し咳をしただけで、姉と兄は大騒ぎだ。
 兄が私を抱えて部屋まで連れて行ってくれる。

 公爵令嬢と同じく2歳年上の、姉セシリア・ヴァンデール。
 私の婚約者と同じく1歳年上の、兄ギルバート・ヴァンデール。

 二人は実は乙女ゲームの悪役令嬢と悪役令息だ。

 私が学園に通うようになった一年生の時に自分が転生者だと気づいた。

 ちょうど、姉が三年生で兄が二年生の時のゲーム期間の一年間が、私が一年生の時だったのだ。

 ヒロインは姉と同じ三年生の平民出身の子だった。

 ゲーム内では理不尽なイジメをしたりする姉だけど、それはシナリオの都合にるところが大きかったと思う。

 ゲーム内でもノーマルエンドに至るシナリオだと理不尽な事はしない。
 嫌味を言ってくる程度で、その嫌味も常識的な正論なだけで、わざわざ言わなくてもいいのにとは思うけど、悪役令嬢と言われるほど悪い事はしていない。

 この世界のヒロインはノーマルエンドを迎え、学園の攻略対象たちとは結ばれずに田舎でひっそり暮らしているらしい。
 悪役令嬢の姉と手紙のやり取りをしていて近況は知れるが、元来明るい性格のヒロインなので、田舎でも楽しく過ごしているらしい。

 そんなわけで、姉はヒロインと仲がいいのだけど、学園での言わなくていい正論の嵐のせいで、悪役令嬢としての地位を確立している。
 その姉にくっついている兄もやはり悪役令息と思われて、性格が悪いなどと言われているのだ。
 ノーマルエンドの場合は兄は本当に何も悪い事をしていないと思う。



「エルナ、ちゃんと寝ているんだよ。明日は学園に一緒に登校して、アルフォンスに直接の文句を言ってやろう。姉さんが言ったように捨ててやるのもいいだろうね」

 兄は妹の肩を抱いて、慰めの言葉を残して部屋を出ていく。

 兄がいなくなると、肩が寒くなって震えた。

 兄さんと姉さんが優しくしてくれるのは嬉しいけど、姉さんは早々に隣国の王太子との結婚を決めているし、我が侯爵家の跡取りは兄さんだから、アルフォンス様と婚約を解消したら私の行く場所がなくなってしまうの。

 すぐに出て行けとは兄さんは言わないでしょうけど、兄さんの奥方や子供がいる中で病に倒れたら、兄さんだって私を後回しにするでしょう?

 何処かでまた別の人と婚約して結婚しなければならないけど、私なんかの面倒を見てくれる人はいないもの。

 だったら、アルフォンス様と結婚していた方が妻と言う地位があるだけマシと言うもの。

 今までの積み重ねで完全になくなっているアルフォンス様への期待。
 ただ、私の居場所というだけで利用価値がある。

 だから、アルフォンス様を本気で捨てるなんて私には出来ないの。

 それでも、傷ついたふりをしてまで、姉と兄に相談したのは、愛のある結婚と言うものへの憧れが捨てきれないから。

 この世界で私は恋をしていたのか、もう思い出せない。

 ただ、前世では悪役とは言え、姉思いの悪役令息だった兄の事は気に入っていたと思う。
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