文字の大きさ
大
中
小
3 / 8
3 泣いているメイド、王太子に見つかる
王太子の事は嫌いじゃない。
最初にノアに似て茶色い髪と瞳に不釣り合いな整った顔に、見惚れてしまったのは私だもの。
「愛してる、エマ」って囁かれて、ずっと優しくしてくれる。
私の意思を聞いていない事を除いたら、王太子様の事は嫌いになりきれない……。
愛妾として自分の意思がない人形でも、何不自由なく暮らせるのは平民の私からしたら夢見たいな事だ。
でも、ノアが私と暮らせる日を楽しみに外国で頑張ってるのに……。
ノアの事はこのまま忘れてしまいそうな気がする……。
ノアには会えないのに、別の人から強烈な溺愛をされたら、忘れてしまう……。
私は、弱い……。
「エマ、愛してるよ」
部屋に行くと、フェリクス様が私を抱きしめる。
いつものこと。
早く、メイド宿舎の自分の部屋に戻りたい……。
「エマ? どうしたんだ、何かあったのか?」
「え……?」
フェリクス様が私の様子を気にされている……?
「悩みがあるなら俺に言うんだ、俺なら解決できる」
フェリクス様から逃げたい……って言ったら解決して貰えるんでしょうか……?
ベッドの上じゃなく、ソファの上で抱きしめられる。
唇が近づきそうなほど顔が近づいてるのに、顔を覗き込むだけ……。
ほ……本当に、心配してくれてるの……!?
「あ……」
私は言おう思って、やっぱり言えない……。
「大丈夫だ、エマ。俺がお前を絶対に傷つけない!」
フェリクス様に傷付けられてるのに……。
私はフェリクス様を見る。
最初に見惚れて以来、ちゃんと見たことがなかった。
やっぱり、とても調った美しい顔をしている。
その顔が、私を優しく見つめている……。
なんでも受け入れて貰えそうな気がした……。
——ノアに会いたい。
「外国に、行きたいです……」
私は言った。
フェリクス様の顔が輝いている。
「違う場所で俺と愛し合いたいんだな!」
そんな事は言ってない。
「すぐに行けるように仕事を片付けよう! エマと初めての旅行、楽しみだ~!」
フェリクス様は来なくていいのに。
上機嫌になったフェリクス様は、私を抱きしめて、キスして、いつもと同じことをした。
——国外に出れるなら、ノアのところまで逃げるチャンスはあるかもしれない……。
でも、ノアは行商をしてるから、どこにいるかわからないわ。
手紙も送らないでって言っちゃったし……。
「エマ、あなたの恋人からの手紙です」
王太子の侍従が私に手紙を渡す。
「ハンスさん、が……どうして?」
手紙はメイド長から渡されるもので……王太子の侍従とはそもそも関わりなんてないのに……。
「フェリクス様にあなたの恋人の手紙が見つかったら大変な事になるので、見つけ次第に手紙を処分する為に毎日手紙の確認をしていたんです」
ノアからの手紙は開けられていた。
何故、処分せずに私に……?
『結婚しました』
ノアからの手紙には、そう書いてあった。
ノアが……結婚……。
目の前が真っ暗になった。
「もう諦めて、フェリクス様と……」
侍従の言葉が聞こえないくらい、ショックで泣き崩れた。
王太子様の愛妾になるのもいいかもと思ったりなんかしたからだ……。
ずっと一緒だったノアが私を捨てて遠くへ行ってしまった……。
もう思い出す事も出来ないノアとの最後のキス……。
それだけじゃなくノアの姿もおぼろげにしか思い出せない……。
王太子の茶色い髪と瞳が、ノアの茶色い髪と瞳を思い出そうとするたびに邪魔する……。
私はノアをこんなにも愛しているのに……!
「何してる……」
暗い声が響いた。
落雷にあったような衝撃に身体がこわばった。
自分の身体じゃないみたいに動かしづらい。
何も考えられないまま、振り返って見上げた。
フェリクス様がいた。
——ノアの手紙……ノアの事を知られてしまう……!
私が手紙を隠そうと迷った瞬間。
「ハンス……! 俺のエマに何をした……!」
フェリクス様が私の横を通って、侍従ハンスに手を伸ばそうとしている。
ハンスさんが怯えていた。
「や、やめてください」
私はとっさに叫んでいた。
フェリクス様が私を見た。
と、止まってくれた!
フェリクス様が止まってくれた!
「エマ……」
フェリクス様が私の前で膝をついて、視線を合わせる。
「ハ、ハンスさんは、か、関係ないです…」
でも、なんで泣いてるのか、聞かれたら……。
私はノアの手紙を握りしめた。
「手紙か……。何が書いてあったんだ……? 君を泣かせるモノは全部俺が排除する」
「……いいんです! これは……いいの……」
私はフェリクス様に手紙を渡さないように、強く握り締めた。
フェリクス様は私をしばらく見つめていた。
「わかった。エマがいいと言うなら無理には見ない」
フェリクス様が優しい目で私を見る。
……。
フェリクス様は……なんでも強引に、自分勝手に進める人じゃないの……?
やめてって言ったら、止まってくれるの……?
フェリクス様に抱き上げられていた。
「エマ、今日は俺の部屋に泊まるんだ。泣いている君を一人には出来ない」
フェリクス様が私を真剣に見つめている。
でも、手紙を持ったまま部屋に行ったら見られるかもしれない……。
早く処分しないと……。
ノアの居場所も覚えて……会いに行かなきゃ……。
本当に結婚したのか確かめたい……。
私が手紙を書かないでって言ったからなの……?
また、私の目から涙がこぼれだす。
ノアが結婚してしまった。
私が誤解させたからかもしれない……。
フェリクス様は私にキスする。
慰めてくれようとしてる……。
「……自分の部屋に戻ります」
私は言った。
もしかしたら、部屋に返して貰えるかも……。
「……わかった。エマがそうしたいなら。ただ、部屋まで送らせて欲しい、君が心配なんだ……それもダメか?」
フェリクス様が私に聞いてる……。
私は手紙を握りしめると、小さくうなづいた。
フェリクス様は寂しそうだったけど、私がうなずくのと同時にまた輝くように元気になった。
「旅行の手配は俺がするから、早く元気になるんだ、エマ。楽しみだな、旅行」
……フェリクス様は、ちゃんと話せばわかってくれる人なのかも……。
フェリクス様に抱き抱えられて部屋の前まで行くとメイドたちがざわついた。
そんな事は気にせず、フェリクス様は私にキスすると元気に手を振って自分の部屋にもどっていく。
私はメイドたちの視線から逃れるように、自分の部屋に入った。
握りしめていた手紙がくしゃくしゃで、少し破れたり穴が空いてる。
すぐに処分するつもりだったけど……もしかしたら、フェリクス様は見ないでいてくれるかも……。
私は手紙を旅行カバンの中にしまった。
最初にノアに似て茶色い髪と瞳に不釣り合いな整った顔に、見惚れてしまったのは私だもの。
「愛してる、エマ」って囁かれて、ずっと優しくしてくれる。
私の意思を聞いていない事を除いたら、王太子様の事は嫌いになりきれない……。
愛妾として自分の意思がない人形でも、何不自由なく暮らせるのは平民の私からしたら夢見たいな事だ。
でも、ノアが私と暮らせる日を楽しみに外国で頑張ってるのに……。
ノアの事はこのまま忘れてしまいそうな気がする……。
ノアには会えないのに、別の人から強烈な溺愛をされたら、忘れてしまう……。
私は、弱い……。
「エマ、愛してるよ」
部屋に行くと、フェリクス様が私を抱きしめる。
いつものこと。
早く、メイド宿舎の自分の部屋に戻りたい……。
「エマ? どうしたんだ、何かあったのか?」
「え……?」
フェリクス様が私の様子を気にされている……?
「悩みがあるなら俺に言うんだ、俺なら解決できる」
フェリクス様から逃げたい……って言ったら解決して貰えるんでしょうか……?
ベッドの上じゃなく、ソファの上で抱きしめられる。
唇が近づきそうなほど顔が近づいてるのに、顔を覗き込むだけ……。
ほ……本当に、心配してくれてるの……!?
「あ……」
私は言おう思って、やっぱり言えない……。
「大丈夫だ、エマ。俺がお前を絶対に傷つけない!」
フェリクス様に傷付けられてるのに……。
私はフェリクス様を見る。
最初に見惚れて以来、ちゃんと見たことがなかった。
やっぱり、とても調った美しい顔をしている。
その顔が、私を優しく見つめている……。
なんでも受け入れて貰えそうな気がした……。
——ノアに会いたい。
「外国に、行きたいです……」
私は言った。
フェリクス様の顔が輝いている。
「違う場所で俺と愛し合いたいんだな!」
そんな事は言ってない。
「すぐに行けるように仕事を片付けよう! エマと初めての旅行、楽しみだ~!」
フェリクス様は来なくていいのに。
上機嫌になったフェリクス様は、私を抱きしめて、キスして、いつもと同じことをした。
——国外に出れるなら、ノアのところまで逃げるチャンスはあるかもしれない……。
でも、ノアは行商をしてるから、どこにいるかわからないわ。
手紙も送らないでって言っちゃったし……。
「エマ、あなたの恋人からの手紙です」
王太子の侍従が私に手紙を渡す。
「ハンスさん、が……どうして?」
手紙はメイド長から渡されるもので……王太子の侍従とはそもそも関わりなんてないのに……。
「フェリクス様にあなたの恋人の手紙が見つかったら大変な事になるので、見つけ次第に手紙を処分する為に毎日手紙の確認をしていたんです」
ノアからの手紙は開けられていた。
何故、処分せずに私に……?
『結婚しました』
ノアからの手紙には、そう書いてあった。
ノアが……結婚……。
目の前が真っ暗になった。
「もう諦めて、フェリクス様と……」
侍従の言葉が聞こえないくらい、ショックで泣き崩れた。
王太子様の愛妾になるのもいいかもと思ったりなんかしたからだ……。
ずっと一緒だったノアが私を捨てて遠くへ行ってしまった……。
もう思い出す事も出来ないノアとの最後のキス……。
それだけじゃなくノアの姿もおぼろげにしか思い出せない……。
王太子の茶色い髪と瞳が、ノアの茶色い髪と瞳を思い出そうとするたびに邪魔する……。
私はノアをこんなにも愛しているのに……!
「何してる……」
暗い声が響いた。
落雷にあったような衝撃に身体がこわばった。
自分の身体じゃないみたいに動かしづらい。
何も考えられないまま、振り返って見上げた。
フェリクス様がいた。
——ノアの手紙……ノアの事を知られてしまう……!
私が手紙を隠そうと迷った瞬間。
「ハンス……! 俺のエマに何をした……!」
フェリクス様が私の横を通って、侍従ハンスに手を伸ばそうとしている。
ハンスさんが怯えていた。
「や、やめてください」
私はとっさに叫んでいた。
フェリクス様が私を見た。
と、止まってくれた!
フェリクス様が止まってくれた!
「エマ……」
フェリクス様が私の前で膝をついて、視線を合わせる。
「ハ、ハンスさんは、か、関係ないです…」
でも、なんで泣いてるのか、聞かれたら……。
私はノアの手紙を握りしめた。
「手紙か……。何が書いてあったんだ……? 君を泣かせるモノは全部俺が排除する」
「……いいんです! これは……いいの……」
私はフェリクス様に手紙を渡さないように、強く握り締めた。
フェリクス様は私をしばらく見つめていた。
「わかった。エマがいいと言うなら無理には見ない」
フェリクス様が優しい目で私を見る。
……。
フェリクス様は……なんでも強引に、自分勝手に進める人じゃないの……?
やめてって言ったら、止まってくれるの……?
フェリクス様に抱き上げられていた。
「エマ、今日は俺の部屋に泊まるんだ。泣いている君を一人には出来ない」
フェリクス様が私を真剣に見つめている。
でも、手紙を持ったまま部屋に行ったら見られるかもしれない……。
早く処分しないと……。
ノアの居場所も覚えて……会いに行かなきゃ……。
本当に結婚したのか確かめたい……。
私が手紙を書かないでって言ったからなの……?
また、私の目から涙がこぼれだす。
ノアが結婚してしまった。
私が誤解させたからかもしれない……。
フェリクス様は私にキスする。
慰めてくれようとしてる……。
「……自分の部屋に戻ります」
私は言った。
もしかしたら、部屋に返して貰えるかも……。
「……わかった。エマがそうしたいなら。ただ、部屋まで送らせて欲しい、君が心配なんだ……それもダメか?」
フェリクス様が私に聞いてる……。
私は手紙を握りしめると、小さくうなづいた。
フェリクス様は寂しそうだったけど、私がうなずくのと同時にまた輝くように元気になった。
「旅行の手配は俺がするから、早く元気になるんだ、エマ。楽しみだな、旅行」
……フェリクス様は、ちゃんと話せばわかってくれる人なのかも……。
フェリクス様に抱き抱えられて部屋の前まで行くとメイドたちがざわついた。
そんな事は気にせず、フェリクス様は私にキスすると元気に手を振って自分の部屋にもどっていく。
私はメイドたちの視線から逃れるように、自分の部屋に入った。
握りしめていた手紙がくしゃくしゃで、少し破れたり穴が空いてる。
すぐに処分するつもりだったけど……もしかしたら、フェリクス様は見ないでいてくれるかも……。
私は手紙を旅行カバンの中にしまった。
感想 0
あなたにおすすめの小説
愛していました苦しくて切なくてもう限界です
ララ愛アリサは騎士の婚約者がいる。彼が護衛している時に弟が飛び出してしまいそれをかばうのにアリサが怪我をしてしまいその償いに婚約が決まった経過があり愛されているわけではない。わかっていたのに彼が優しい眼で女騎士の同期と一緒にいる時苦しくてたまらない・・・切ないのは私だけが愛しているから切なくてもう限界・・・
夫が運命の番と出会いました
重田いの幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。
だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。
しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?
好きな人が嬢を身請けするのが辛くて逃げたら捕まりました~黒服の私は執着騎士に囲われる~
こじまき騎士が集う高級酒場「夜香楼」で女性黒服として働くソフィアは、客である寡黙な騎士ゼインに恋していた。けれど彼が指名するのはいつも人気花嬢イサナで、身請けも近いと予想されていた。
ソフィアは、叶わない想いにと嫉妬に耐えきれず、衝動的に店を去る。
もう二度と会うことはないはずだったのに、身請けした嬢と幸せに暮らしているはずの彼が追ってきて――
「お前への愛は焼き印のように刻まれていて、もう消えない」
――失恋したと思い込んで逃げた黒服が、執着系騎士様に捕まって囲われる話。
※小説家になろうにも投稿しています
私の婚約者様との婚約を望む王女様に大事なお話があります
木蓮とあるお茶会で。恋多き王女が美形の婚約者がいる伯爵令嬢に「私と彼は愛しあっているの。別れてちょうだい」と言い放った。
伯爵令嬢は王女に彼の話をしだす――。
わがまま王女様を天然な令嬢が追い返すお話。
醜女の私と政略結婚した旦那様の様子がおかしい
サトウミこの国一番の醜女である私と結婚したイバン様。眉目秀麗で数多の女性と浮き名を流した彼は、不祥事を起こしたせいで私なんかと結婚することになってしまった。それでも真面目な彼は、必死に私を愛そうと努力してくださる。
──無駄な努力だ。
こんな色白で目と胸の大きい女を、愛せるはずがない。
〖完結〗愛しているから、あなたを愛していないフリをします。
藍川みいな
ずっと大好きだった幼なじみの侯爵令息、ウォルシュ様。そんなウォルシュ様から、結婚をして欲しいと言われました。
但し、条件付きで。
「子を産めれば誰でもよかったのだが、やっぱり俺の事を分かってくれている君に頼みたい。愛のない結婚をしてくれ。」
彼は、私の気持ちを知りません。もしも、私が彼を愛している事を知られてしまったら捨てられてしまう。
だから、私は全力であなたを愛していないフリをします。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全7話で完結になります。
恋人でいる意味が分からないので幼馴染に戻ろうとしたら‥‥
矢野りと婚約者も恋人もいない私を憐れんで、なぜか幼馴染の騎士が恋人のふりをしてくれることになった。
でも恋人のふりをして貰ってから、私を取り巻く状況は悪くなった気がする…。
周りからは『釣り合っていない』と言われるし、彼は私を庇うこともしてくれない。
――あれっ?
私って恋人でいる意味あるかしら…。
*設定はゆるいです。