151 / 167
アナザールート その110 診察
しおりを挟む
早川さんに連れられて、最近流行りの、いわゆる“ガチ中華”のお店でコースのランチをいただいた。
そして、支払いの時になると、早川さんがご主人様から預かっているカードを取り出す。
そのカードはご主人様が僕の為に作ってくれたカードだった。
“外出”の時に監視役がご主人様から預かり、何かの支払いの時に僕がサインだけするという使い方を命じられていた。
要するに僕がカードを持って、逃亡資金を引き出して逃げ出さないようにする為の予防策なのだろう。
それについては今更どうも思わずに、請求書の金額を見て“わ、結構なお値段だ・・・”と思いながら事務的にサインを済ませ、
「ご馳走様でした。」
と、お店のスタッフさん達に挨拶をして店を後にして、その後は少しだけ買い物をした。
ご主人様には“好きなだけお金を使っていい”と言われていたけれど、僕は元々ミニマリスト志向が強くてそんなに欲しいものはない。
ハイブランドなんてモノも分不相応な結構な気がして落ち着かなくて・・・結局、自分の為の買い物は、G◯、ユ◯クロ、◯印といった買い慣れた店で済ませる。
あ、コスメの補充だけ遠慮なく良い物を買わせていただきました。
そうして、ランチの後のショッピングで少し時間を潰した後、僕らは病院に向かった。
それも、性同一性障害の人が通院し、ホルモン治療や性別適合手術を受ける専門病院だった。
その病院は、外観こそ控えめだけれど、扉を開けると、清潔感あふれるロビーが広がっていて、受付のカウンターの奥に見える最新の事務機器の数々が、この病院の設備の充実ぶりを物語っている。
僕はご主人様の命令で、ここに週一回通うことを義務付けられていた。
“外出”の目的は結局これなのだ。
ここでは、身長、体重測定からはじまり、血液から尿、精液まで採取されて健康状態をチェックされる。
そしてその結果から、僕の身体と精神の健康を害さないギリギリの量を計算した大量の“女性ホルモン”の注射を受けるのだ。
可愛い男の娘であり続ける為に、そしてご主人様好みのオンナになる為に・・・
受付の女性は、柔らかな笑顔で僕らを迎え入れ、明るく静かな待合室に案内してくれた。壁には落ち着いた色合いのアートが飾られ、柔らかな椅子が並んでいる。
僕と早川さんが並んでその椅子に座ると、早川さんが僕の手をぎゅっと握ってくれた。
大人の欲望の生贄になる為に、歪んだ性的嗜好を満足させる為に、僕が・・・歳下の子供がここで身体を内側から作り変えられる。
それを知っていながら、僕を守るどころか手を貸すような行為をせざるを得ないことに心を痛めている。
僕の手を握ったその手からの微かな震えが、早川さんの心の痛みを伝えていた。
そんな優しいお姉さんを少しでも安心させてあげたくて、僕はその手を握り返し、そして早川さんと目を合わせて、笑顔を作って見せた
“僕は大丈夫です”
そんな、気持ちを伝える為に。
やがて、少しすると看護師さんが呼びに来て、僕を検査室へと案内した。
まず最初に行われたのは、血液検査だった。最新の自動分析装置が設置された部屋で、看護師さんは手早く血液を採取し、即座に検査装置にかけた。
次に案内されるのは、心電図検査室だ。
僕はベッドに横たわり、心臓の動きを記録する電極を体に装着された。
機械が規則正しいビープ音を刻みながら、心臓の活動を詳細にモニターしていく。
その後、更にCTスキャン室に移動した。
大型のスキャナーが部屋の中央に鎮座し、技師が優しく声をかけながら装置の使い方を説明する。僕は静かに息を整え、装置の中に入っていく。機械が静かに回転し、体の内部を詳細に映し出してゆく。
そうして、検査がすべて終わると、僕は最後に担当医師の診察を受ける。
診察室に入ると、僕を待っていたのは、いつもの白髪混じりで人の良さそうな初老のお医者さん・・・ではないことに違和感を覚えた。
「時雨君だね、いつもの先生は都合が悪いので、今日は私が担当します。」
そのお医者さんは僕に笑いかけて軽く会釈をしながら言った。
30代半ばだろうか?
細身の体躯でありながら、精悍なイメージを受ける、“仕事ができそう”な印象の先生だった。
笑顔にも嫌味がなくて、大抵の人なら好印象を受けるだろう。
だけど僕は“ぞくり”と背筋に冷たい何かが奔るのを感じた。
どこかで聞いたことのあるような声だった。
お店で僕を買ったお客さんでは・・・とも思ったけれど、見覚えのある顔ではなかった。
「あ・・・よろしくお願いします・・・」
そのお医者さんの態度に威圧的なところは微塵も無いのにも関わらず、僕は何となく気圧されて、たどたどしく挨拶を返した。
「さあ、身体をチェックするから服を脱いで裸になって。」
「はい・・・」
ああ、またなのか。
僕はここで立たされて、裸にされ、全身を調べられる。
いつものことだった。
僕は諦めのため息を漏らしながら、パーカーを、Tシャツを、全ての服を脱ぎ捨てて生まれたままの姿になった。
女性ホルモンの影響で少しづつ変わりつある裸体を、他人に晒すのは強烈に恥ずかしくて、辛い。
医者も立ち上がって、素裸のまま立ち尽くす僕の周囲をぐるりとひと回りし、じろじろと遠慮のない視線を浴びせられる。
「うん、怪我もなくて・・・“クスリ”もちゃんと効いているようだね・・・」
そう言いながら、医者がニコニコとした笑みを貼り付けた顔で、僕の背中から腰に手のひらを這わせてゆく。
いつもの“触診”のはずだった。
だけど、僕の身体中を触り、撫で回すその感触は、まるで僕の身体を弄ぶ行為を楽しんでいるように感じるのは自意識過剰なのだろうか
いつも診てもらっている担当のお医者さんと、この医者は何か違う、僕はそう感じ始めた。
いったんそう思い始めると、その手のひらから伝わる体温さえも気味が悪くて、軽い吐き気が込み上げてくる。
「ほら、足を開いて、両手を後ろに回してくれるかな?」
「う・・・」
いつもの診察のはずなのに、いつもは感じたことは無い気持ち悪さと、屈辱感と、そして惨めさが心の中でごちゃ混ぜになって、目に涙を浮かべながら医者の指示に従う。
そして、医者はいつもの診察と同じに、デジカメを取り出して僕の裸体を記録してゆく。
普通の男の子ではあり得ない、きめが細かく、艶やかになった肌。
全体的に筋肉が落ち、その分全身に薄い皮下脂肪がまとわりつき、特に腰回りが丸みを増した身体のライン。
胸元は僅かに柔らかな膨らみが盛り上がり始め、その先端にあるのは、服が擦れる刺激が日増しに強くなり、日常生活が辛くなり始めたピンク色の乳首。
成長期の不安定な僕の身体が・・・女性ホルモンの力で無理矢理に成長の方向を捻じ曲げられる様子が逐一記録されてゆく。
男の娘からオンナへと変貌を遂げつつある身体を、毎週隅から隅まで写真に残される。
医者が薄っぺらい笑顔を崩さないまま、ぐるぐると僕の周りを回る。
デジカメを通して医者の視線が僕の肌にじっとりとまとわりついて、まるで全身を舐め回されるような気持ち悪さで気が遠くなりそうだった。
デジカメの電子的なシャッター音、次々と浴びせられるフラッシュ。
その音が、光が、不意にあの夜の記憶を連想させた。
僕と夕立が大勢の大人に拷問同然に弄ばれ、壊された“あの夜”のことだ。
心を折られ、犬耳のついたカチューシャ、革製の黒い首輪、お尻に尻尾付きのバイブを捩じ込まれた雌犬の姿で。
四つん這いで惨めに泣きじゃくりながら引きまわされ大人達に囲まれて。あらゆる方向からスマホでその姿を撮影された。
医者の持つデジカメのシャッター音とフラッシュが、僕の脳裏にあの時の恐怖と、屈辱感と、そして気が狂う程の快感を、フラッシュバックを呼び起こした。
「ぁ・・・あ゛・・・ゃあ・・・、嫌ぁ・・・・・・」
僕は目眩を起こし、その場に崩れ落ちる。
「もう・・・止め・・・て・・・、もう許し・・・て・・・」
全裸のまま、女の子座りで床にへたり込み、両手で顔を覆い、医者に弱々しく懇願する。
だけど、僕はこの時医者から視線を外すべきではなかった。
なぜなら、医者はそんな僕を見下ろしながら、初めてその本性を現していたのだから。
それは瀕死の獲物を弄ぶ、獰猛な捕食者の、
弱者をいたぶることを心底愉しむ加虐者の、
そんな心からの笑顔を浮かべ、僕を見下ろしていたのだから・・・
そして、支払いの時になると、早川さんがご主人様から預かっているカードを取り出す。
そのカードはご主人様が僕の為に作ってくれたカードだった。
“外出”の時に監視役がご主人様から預かり、何かの支払いの時に僕がサインだけするという使い方を命じられていた。
要するに僕がカードを持って、逃亡資金を引き出して逃げ出さないようにする為の予防策なのだろう。
それについては今更どうも思わずに、請求書の金額を見て“わ、結構なお値段だ・・・”と思いながら事務的にサインを済ませ、
「ご馳走様でした。」
と、お店のスタッフさん達に挨拶をして店を後にして、その後は少しだけ買い物をした。
ご主人様には“好きなだけお金を使っていい”と言われていたけれど、僕は元々ミニマリスト志向が強くてそんなに欲しいものはない。
ハイブランドなんてモノも分不相応な結構な気がして落ち着かなくて・・・結局、自分の為の買い物は、G◯、ユ◯クロ、◯印といった買い慣れた店で済ませる。
あ、コスメの補充だけ遠慮なく良い物を買わせていただきました。
そうして、ランチの後のショッピングで少し時間を潰した後、僕らは病院に向かった。
それも、性同一性障害の人が通院し、ホルモン治療や性別適合手術を受ける専門病院だった。
その病院は、外観こそ控えめだけれど、扉を開けると、清潔感あふれるロビーが広がっていて、受付のカウンターの奥に見える最新の事務機器の数々が、この病院の設備の充実ぶりを物語っている。
僕はご主人様の命令で、ここに週一回通うことを義務付けられていた。
“外出”の目的は結局これなのだ。
ここでは、身長、体重測定からはじまり、血液から尿、精液まで採取されて健康状態をチェックされる。
そしてその結果から、僕の身体と精神の健康を害さないギリギリの量を計算した大量の“女性ホルモン”の注射を受けるのだ。
可愛い男の娘であり続ける為に、そしてご主人様好みのオンナになる為に・・・
受付の女性は、柔らかな笑顔で僕らを迎え入れ、明るく静かな待合室に案内してくれた。壁には落ち着いた色合いのアートが飾られ、柔らかな椅子が並んでいる。
僕と早川さんが並んでその椅子に座ると、早川さんが僕の手をぎゅっと握ってくれた。
大人の欲望の生贄になる為に、歪んだ性的嗜好を満足させる為に、僕が・・・歳下の子供がここで身体を内側から作り変えられる。
それを知っていながら、僕を守るどころか手を貸すような行為をせざるを得ないことに心を痛めている。
僕の手を握ったその手からの微かな震えが、早川さんの心の痛みを伝えていた。
そんな優しいお姉さんを少しでも安心させてあげたくて、僕はその手を握り返し、そして早川さんと目を合わせて、笑顔を作って見せた
“僕は大丈夫です”
そんな、気持ちを伝える為に。
やがて、少しすると看護師さんが呼びに来て、僕を検査室へと案内した。
まず最初に行われたのは、血液検査だった。最新の自動分析装置が設置された部屋で、看護師さんは手早く血液を採取し、即座に検査装置にかけた。
次に案内されるのは、心電図検査室だ。
僕はベッドに横たわり、心臓の動きを記録する電極を体に装着された。
機械が規則正しいビープ音を刻みながら、心臓の活動を詳細にモニターしていく。
その後、更にCTスキャン室に移動した。
大型のスキャナーが部屋の中央に鎮座し、技師が優しく声をかけながら装置の使い方を説明する。僕は静かに息を整え、装置の中に入っていく。機械が静かに回転し、体の内部を詳細に映し出してゆく。
そうして、検査がすべて終わると、僕は最後に担当医師の診察を受ける。
診察室に入ると、僕を待っていたのは、いつもの白髪混じりで人の良さそうな初老のお医者さん・・・ではないことに違和感を覚えた。
「時雨君だね、いつもの先生は都合が悪いので、今日は私が担当します。」
そのお医者さんは僕に笑いかけて軽く会釈をしながら言った。
30代半ばだろうか?
細身の体躯でありながら、精悍なイメージを受ける、“仕事ができそう”な印象の先生だった。
笑顔にも嫌味がなくて、大抵の人なら好印象を受けるだろう。
だけど僕は“ぞくり”と背筋に冷たい何かが奔るのを感じた。
どこかで聞いたことのあるような声だった。
お店で僕を買ったお客さんでは・・・とも思ったけれど、見覚えのある顔ではなかった。
「あ・・・よろしくお願いします・・・」
そのお医者さんの態度に威圧的なところは微塵も無いのにも関わらず、僕は何となく気圧されて、たどたどしく挨拶を返した。
「さあ、身体をチェックするから服を脱いで裸になって。」
「はい・・・」
ああ、またなのか。
僕はここで立たされて、裸にされ、全身を調べられる。
いつものことだった。
僕は諦めのため息を漏らしながら、パーカーを、Tシャツを、全ての服を脱ぎ捨てて生まれたままの姿になった。
女性ホルモンの影響で少しづつ変わりつある裸体を、他人に晒すのは強烈に恥ずかしくて、辛い。
医者も立ち上がって、素裸のまま立ち尽くす僕の周囲をぐるりとひと回りし、じろじろと遠慮のない視線を浴びせられる。
「うん、怪我もなくて・・・“クスリ”もちゃんと効いているようだね・・・」
そう言いながら、医者がニコニコとした笑みを貼り付けた顔で、僕の背中から腰に手のひらを這わせてゆく。
いつもの“触診”のはずだった。
だけど、僕の身体中を触り、撫で回すその感触は、まるで僕の身体を弄ぶ行為を楽しんでいるように感じるのは自意識過剰なのだろうか
いつも診てもらっている担当のお医者さんと、この医者は何か違う、僕はそう感じ始めた。
いったんそう思い始めると、その手のひらから伝わる体温さえも気味が悪くて、軽い吐き気が込み上げてくる。
「ほら、足を開いて、両手を後ろに回してくれるかな?」
「う・・・」
いつもの診察のはずなのに、いつもは感じたことは無い気持ち悪さと、屈辱感と、そして惨めさが心の中でごちゃ混ぜになって、目に涙を浮かべながら医者の指示に従う。
そして、医者はいつもの診察と同じに、デジカメを取り出して僕の裸体を記録してゆく。
普通の男の子ではあり得ない、きめが細かく、艶やかになった肌。
全体的に筋肉が落ち、その分全身に薄い皮下脂肪がまとわりつき、特に腰回りが丸みを増した身体のライン。
胸元は僅かに柔らかな膨らみが盛り上がり始め、その先端にあるのは、服が擦れる刺激が日増しに強くなり、日常生活が辛くなり始めたピンク色の乳首。
成長期の不安定な僕の身体が・・・女性ホルモンの力で無理矢理に成長の方向を捻じ曲げられる様子が逐一記録されてゆく。
男の娘からオンナへと変貌を遂げつつある身体を、毎週隅から隅まで写真に残される。
医者が薄っぺらい笑顔を崩さないまま、ぐるぐると僕の周りを回る。
デジカメを通して医者の視線が僕の肌にじっとりとまとわりついて、まるで全身を舐め回されるような気持ち悪さで気が遠くなりそうだった。
デジカメの電子的なシャッター音、次々と浴びせられるフラッシュ。
その音が、光が、不意にあの夜の記憶を連想させた。
僕と夕立が大勢の大人に拷問同然に弄ばれ、壊された“あの夜”のことだ。
心を折られ、犬耳のついたカチューシャ、革製の黒い首輪、お尻に尻尾付きのバイブを捩じ込まれた雌犬の姿で。
四つん這いで惨めに泣きじゃくりながら引きまわされ大人達に囲まれて。あらゆる方向からスマホでその姿を撮影された。
医者の持つデジカメのシャッター音とフラッシュが、僕の脳裏にあの時の恐怖と、屈辱感と、そして気が狂う程の快感を、フラッシュバックを呼び起こした。
「ぁ・・・あ゛・・・ゃあ・・・、嫌ぁ・・・・・・」
僕は目眩を起こし、その場に崩れ落ちる。
「もう・・・止め・・・て・・・、もう許し・・・て・・・」
全裸のまま、女の子座りで床にへたり込み、両手で顔を覆い、医者に弱々しく懇願する。
だけど、僕はこの時医者から視線を外すべきではなかった。
なぜなら、医者はそんな僕を見下ろしながら、初めてその本性を現していたのだから。
それは瀕死の獲物を弄ぶ、獰猛な捕食者の、
弱者をいたぶることを心底愉しむ加虐者の、
そんな心からの笑顔を浮かべ、僕を見下ろしていたのだから・・・
16
あなたにおすすめの小説
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる