男の娘レイヤー時雨-メス堕ち調教-

清盛

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アナザールート その118 さよなら

そうして、ベッドの中で丸くなってどれくらい経っただろうか。僕は毛布に包まったまま、いつの間にか微睡みに深く、深く落ちていた──まるで、このまま何もかも忘れてしまいたかったかのように。

このままずっと、意識の底で、全ての苦痛から逃れていたいと魂が願っていた。

「……れ……時雨……」

ふと気づくと、誰かが僕の名を呼んでいた。

その声がご主人様のものだと朧げに理解した瞬間、全身の毛穴が開き、心臓が跳ねる。

しまった! ご主人様のお出迎えもせず、夕食の用意もせず、なんて無様な……! 

瞬時に意識が覚醒し、毛布から恐る恐る顔を出すと、ベッドの上から僕の顔を覗き込むご主人様と視線が絡み合った。

僕はベッドの上で、跳ねるように上半身を起こし、ベットに額が触れるほどにご主人様に頭を深く下げた。

羞恥と罪悪感が、僕の頬を熱く染める。

「ご……ご主人……様……っ、ずっと……っ、寝ておりました……っ。申し訳、ありませんでした……っ!」

そうして、うなだれる僕の頭に、ご主人様の大きくてゴツゴツした、大人の男の手が、唐突に、そして、そっと乗せられた。

「ひっ!」

その瞬間に、医者に前髪を鷲掴みにされながら嬲られた深い恐怖と屈辱が、鮮やかに、ぞっとするほどリアルに蘇った。

このまま殴られるんじゃないかと思って、僕は反射的に身体を硬直させ、両手を上げて顔を必死に庇った。

全身が小刻みに震え、瞳には止めどなく熱い涙が溢れ出した。

だけど、ご主人様の手は僕を傷つけなかった。

それどころか、細い髪の毛をすくように僕の頭をそっと、穏やかに、慈しむように撫でてゆく。

その指先が、僕の髪の根元を愛おしむように触れ、微かな電流が頭皮を駆け抜けた。

痛みを予想した身体に流れ込む、予想外の優しさ。
その落差が、僕の神経を痺れさせる。

「へぁ……?」

その不意打ちの優しさに、僕は間抜けな、情けない声をあげてご主人様と目を合わせた。

怒っている……そう思い込んでいたその瞳には、深く、優しく、そして僕の存在そのものを気遣う、暖かな光が宿っていた。

「体調が悪いんだってな、謝らなくていい。」

どうやら、早川さんが僕の体調のことを、ご主人様に伝えておいてくれたらしい。

僕の胸には、安堵と、同時に言いようのない罪悪感が入り混じった。

「それより大丈夫なのか? 病院で何かあったのか?」

「それ……は……っ」

僕は言葉に詰まり、ご主人様から目を逸らした。

あの悪夢のような出来事を、僕を気遣ってくれるご主人様にどんな言葉にすればいいのか、喉が詰まって声が出なかった。

あの診察室で味わった極限の快感と、それに伴う屈辱を、どう説明すればいいのか。
それは僕だけの、汚れた秘密なのだ。

裸にされ、写真を撮られた。

アナルをクスコでこじ開けられ、中を“触診”で弄ばれた。

内視鏡を捩じ込まれ、敏感な尿道粘膜から膀胱まで串刺しに貫かれた。

どれも、言葉にすれば診察の範囲内だ……気が狂いそうな程の快感で僕が悶絶したのは僕の勝手だ、と言われれば、反論のしようがない。

僕が、あの医者をそうさせたのだ。
僕の奥底に眠る「魔性」が、彼のサディズムを呼び覚ましたのだ。

“時雨ちゃんが悪いんだ”

医者のあのねっとりとした声が、頭の中で何度も、何度も、残酷に繰り返される。

僕が……変態でマゾだから、だからあんな目に遭わされたんだ……。

そう思うと、瞳が熱い涙で潤み、何も言えない。

ただ、唇をぎゅっと噛みしめ、震える身体を必死に堪える。
喉の奥から、嗚咽がせり上がってくる。

「あ、あ…………っ」

僕はもう耐えられず、ご主人様の胸に縋りつくように抱き付き、その温かい胸に顔を深く埋めて声を上げて、嗚咽を漏らして泣いた。

熱い涙がご主人様のシャツを濡らし、僕の嗚咽がご主人様の胸に吸い込まれていく。

この抱擁が、僕を汚れた存在から浄化してくれるようにも、あるいは、さらに深く奈落へと引きずり込むようにも感じられた。

診察で何度も絶頂を強いられた後、医者にレイプされた……だけど、あれは……無意識にとはいえ、僕が、僕自身が誘ったんだ。

僕の身体が、意識とは裏腹に、あの快楽を求めていたのだ。

そんな、汚れた真実を、ご主人様に言える訳がない。
言えば嫌われて…捨てられる。

そんな恐怖が、僕を縛り付けた。

「あああ゛あ゛あ゛あ゛!!」

ご主人様の胸で、僕は号泣する。
痛みと苦しみが、僕の身体を内側から食い破り、身体が震えて呼吸はひきつけを起こした。

「時雨、どうした、何があったんだ?」

ご主人様は困惑しながらも、僕をそっと、力強く抱き締め、優しい声をかけてくれた。

その腕が、僕の壊れそうな心を、まるで守るかのように包み込む。

ご主人様の体温が、僕の冷え切った身体に染み渡る。この優しさが、僕の深淵に潜む「もっと、もっと」という渇望を刺激する。

「何も……っ、何も、ありませんでした……っ!」

僕には、そうとしか答えられなかった。それ以上は、何も言えなかった。
これ以上を語れば、僕の「魔性」が露呈してしまう。

ただ、今日僕を診察した医者は“あの夜”のピエロの仮面の男でしたと。

もう二度とあの医者の“診察”だけは受けたくないと。

僕は子供みたいに泣きじゃくりながら、それだけを必死に訴えた。

声にならない悲鳴が、僕の胸の奥で、叫びとなってこだました。

「怖かった……っ、怖かった……っ、怖かったんですっ!!」

ご主人様は、そんな僕をただ黙って抱き留め、優しく頭を撫で続けてくれた。

その手は、まるで壊れ物を扱うように、僕の髪をそっと梳き、僕の混乱した心を鎮めようとしてくれる。

そして僕が落ち着くのを待ってから、病院にあの医者が僕を担当しないよう連絡すると、力強くそして確かな響きで約束してくれた。

「ところで、時雨、腹減ってないか?」

僕が落ち着くのを見計らって、ご主人様が僕の頭を撫でる手をそっと止めて言った。

その声は、僕の心の緊張を解きほぐすように柔らかく、温かかった。

「あ、そう言えば……っ、ちょっと……っ」

ご主人様に言われて初めて、僕は自分が空腹であることに気づく。

意識が現実へと引き戻され、顔を上げて時計を見れば、時間はもう夜の9時過ぎだった。
今日は、ご主人様の帰宅はいつもよりだいぶ遅かったみたいだ。

「ごめん……なさい……っ。お出迎えも……っ、お食事の用意も出来なくて……っ」

メイドの、いや、奴隷としての勤めを全く果たせず、ベッドの中で泣いてばかりいた自分が情けなくて、僕は身体を縮めて、深く、深く頭を下げる。

深い無力感が、僕の胸を締め付け、呼吸を苦しくさせた。

「体調が悪いなら仕方ないさ。適当に買ってきたから、今日はこれでも食って寝ておけよ。」

そう言って、ご主人様が僕に差し出してくれたのは、コンビニのロゴが入ったビニール袋。

中を覗くとペットボトルのお茶やおにぎり、サンドイッチがパンパンに詰め込まれていた。

ご主人様の温かい気遣いが、僕の胸を締め付け、同時に、言いようのない切なさがこみ上げてきた。
この優しさが、僕をより深く縛り付ける鎖になるのだと、本能が予感した。

「じゃあな、ゆっくり休め。明日も休んでいいからな……」

ご主人様はそう言って僕に背中を向け、片手をひらひらと振って、部屋から立ち去ろうとした。

その足音が、僕の心臓に響く。

僕は無意識に、伸ばされたご主人様の服の裾を震える手で掴み止めていた。

このまま一人にされるのが、たまらなく嫌だった。

僕を支配する存在が、傍から離れるのが耐えられなかった。

そして、僕は蚊の鳴くような、か細く、消え入りそうな声で言った。

「待って……っ、行かないで……っ、下さい……っ。今夜は……っ、ご主人様と、一緒に、いたいんです……っ」

ご主人様は、一瞬の間、何を言われたのか分からない、そんな驚きの顔をして僕の顔を見つめた。

ご主人様の目に映る僕の顔は、羞恥と必死さでぐしゃぐしゃなのだろう。

しかし、すぐに、ご主人様はその顔に柔らかな笑みを浮かべ、そして僕を強く、深く抱きしめた。

その抱擁が、僕の心の奥底に染み渡る。
この温かい腕が、かつて僕を深く深く、縛り付け、痛みを与えた。

そしてこれからも…

それでもなお僕は、この抱擁を求めていた。

不安定な状態の僕の心ごと、僕の全てを包み込むように抱きしめるご主人様の腕は、暖かく、そして力強かった。

僕の中で、不思議なほどに絶対的な安心感が満ち、僕の身体はご主人様の胸に吸い込まれていくようだった。
ご主人様の匂いが、僕の五感を満たしていく。

「ぁ……っ」

そして、その太い腕でご主人様の身体に押しつけられた圧力に、安堵と微かな甘さが混じり合った吐息が漏れた。

僕の心は、この温かい胸の中に溶けていくような感覚だった。
この幸福は、彼の支配下にある僕にのみ許された特権なのだと、僕は感じていた。

「この部屋のベッドは2人で寝るには小さいからな、俺の部屋に行こうか。」

ご主人様はそう言って立ち上がり、僕の手を引いて歩きだす。

僕は手を引かれ、母鳥の後をついてゆく雛鳥みたいに、震える足でご主人様についてゆく。

僕の足は、まるで吸い寄せられるかのように、ご主人様の後に続いた。

行き先は、地下にあるあの拷問部屋ではなく、ご主人様の寝室だ。

多分……ご主人様は今夜は僕を抱かないだろう。

今のご主人様からは、僕を抱く時のいつものギラギラとした、雄の欲望を感じない。

むしろ僕を気遣い、守ってくれようとする柔らかな父性、いや、それ以上の深く、どこか切ない愛情を感じていた。

今夜ご主人様が、僕と一緒にいてくれるなら、僕は抱かれても構わなかった。

だけど、今は、今だけはご主人様の優しさに、ひたすらに甘えていたかった。

ただ二人だけで、ご主人様の暖かさを感じて、ご主人様の腕の中で眠りたかった。

僕の心は、ご主人様の温もりをただひたすらに求めていた。

そして、僕はご主人様の寝室に招き入れられ、豪奢な天蓋付きのベッドに横たわる。

僕を見下ろすご主人様に、僕は震える両手をゆっくりと伸ばし、

「ご主人……さ……ま……っ」

と、途切れ途切れに、切なく呼びかける。

自分から誘うようなはしたない真似をして、きっと僕の顔は羞恥と期待で真っ赤になっているのだろう。

そして僕の目は、熱い涙と甘い潤みで、きらきらと輝いているのだろう。

いつものご主人様なら、有無を言わさずに僕に襲いかかるシチュエーションだったはずだ。

だけど、今日のご主人様は、真っ直ぐ伸ばした僕の腕に導かれるように、ゆっくりと、愛おしむように僕に覆い被さり、そして、僕の唇にご主人様の温かい、甘い唇をそっと重ねた。

それは、まるで僕の魂を吸い上げるかのように深く、優しく、そして限りなく甘美な口づけだった。

ご主人様の唇の圧力、息遣い、全てが僕を縛り付け、この上ない幸福を与えてくれる。

「……んっ……っ」

僕の喉の奥で、甘く、切ない声が鳴る。

僕は目を閉じ、伸ばした両手でご主人様の背中に回し、その太く、重い身体を精一杯に抱き締めた。

ご主人様の硬い筋肉が、僕の腕の中で心地よく軋み、僕の身体にぴったりと重なり、2人の身体の暖かさが、僕の全身に溶け込んでいくようだった。

僕を押し包むご主人様の重みが、今は何よりも、何よりも嬉しかった。

このまま時間が止まってしまえばいいと、心から願った。

この重みが、僕がご主人様の「もの」であることを教えてくれる。

そんなひと時、数秒のような、数時間のような夢心地の時間が過ぎ、ご主人様は僕の唇を解放した。

2人の唇は、互いを繋ぐ細い銀色の糸が引かれ、そして、ゆっくりと、名残惜しそうに途切れた。

「可愛い時雨……俺のものだ……っ」

そうして、僕を深く抱き寄せ、僕らは大きなベッドの中、身体を寄せ合って眠りについた。

ご主人様の腕の中で、僕は初めて、心から深い安らぎと、言いようのない幸福を感じた。

幸せで……でも、同時に胸が締め付けられるほど切ない夜。

僕はご主人様に、身体は奪われても、どれだけ辱められても、心だけは大好きな織田さんのモノ……そう、ずっと固く信じていた。

だけど、今日、この夜の僕がご主人様を誘って、ただ一緒に眠るそのことこそが、織田さんへの許されない裏切り行為に思え、不意に瞳に熱い涙が、とめどなく溢れ出した。

だけど……僕は、魔性と呼ばれた僕には……多分、優しくて穏やかな織田さんには相応しくないんだ。

僕には……きっと、ご主人様の奴隷として、ご主人様の掌で弄ばれるのが相応しいんだ。

無自覚にサディストを引きつけ、身体も、心も蹂躙されることを望み、全てを踏み躙られて……いつか力尽き、被虐的な幸せの中で僕は息絶える、そんな気がしてならない。

それが、僕に与えられた運命であり、僕の中で蠢く被虐の魔性の真実。

そして、そんな僕を殺す罪を背負うのは、優しい織田さんではなく、残酷で、僕を深く支配するご主人様こそが相応しい。

そう、心の底から、強く思った。

“だから……っ、ごめんなさい……っ”

僕はそう心の中でつぶやいて、泣きながら、ご主人様の腕の中で、深い眠りに堕ちてゆく。

ご主人様は、そんな僕をただ黙って、優しく抱き締め続けてくれたのだった。

その腕の温かさが、僕の冷え切った心を、ゆっくりと、しかし確実に溶かしていくようだった。そして、その温もりは、僕を深い依存へと誘う甘い罠だった。


翌朝、僕はご主人様がまだ深く眠っているうち……いつもの早朝に目覚め、そおっと、まるで夢から覚めるようにベッドから抜け出して自室に戻った。

ご主人様の穏やかな寝息が、僕の耳元で心地よく響いていた。

手早くシャワーを浴びて、メイクを整える。

鏡に映る僕の顔は、毎週大量に投与されている女性ホルモンの効果で、男の子っぽい角が落ちて丸みをおび、まるで本物の女の子のように、繊細に変化していた。

「あはは……っ」

僕の口元から、知らず知らずのうちに乾いた、小さな、しかしどこか虚ろな笑い声が漏れる。

この顔は、もう、優しい織田さんが“天使”と言って愛してくれた、あの無邪気な男の娘の時雨の顔じゃない。

あの医者が「魔性」と呼んだオンナ……ご主人様にどんな酷いことをされても、いや、殺されるまで陵辱されることを望む、醜くも愛おしいマゾメス奴隷の顔なんだ。

「さよなら……っ」

僕は小さく、しかし決意を込めて、別れを告げた。

男の子で男の娘だった、過去の僕に。

大好きだった、遠い日の織田さんに。

そして、親友だった夕立…ハルカに。

もう会えない。もう、あの頃には戻れない。

僕は、この屋敷の中で、ご主人様のメス奴隷として、生きて……そして、ご主人様の腕の中で、死ぬ。

それが、今の僕に課せられた、唯一の狂った幸福なのだ。
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