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続・魔界王立幼稚園ひまわり組
閑話:神は頭が痛い
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「ちーちーうーえー! どういう事ですか?」
ああ、頭痛の種その一が来た……。
まったく、儂は何かと子には悩まされっぱなしだの。これでも一応神の末員に属する存在であるというのに。何がいけなかったのだろうか。
それぞれ最上位の天使となした子であるし、才もあり気立ても悪くない。器量はまあ……小さい頃は皆それはそれは可愛かったのだがな。それでも愛嬌はあるのだぞ、うん。こういうのが好みだという者もおるし、現に言い寄る者も多数いる。なのに誰一人決まった伴侶を持つものもおらず、気がつけば行き遅れの娘に一向に独り立ち出来ぬ息子。少し甘やかしすぎたのだろうか。
やや痩せすぎだが一番器量良く生まれたのに、気弱や邪視という気の毒なところばかり引き継いでしまった末のサリエノーアを、兄妹揃って溺愛し過ぎたのが原因だろうか。その可愛くてならん末娘が一番の頭痛の種になろうとは。
まさか天使が家出の上に婚姻前に出来ちゃったなんぞ、儂の管轄の人間界の庶民の娘のような事をするとはなぁ……しかも相手が魔族だとは。
「ボクの大事なサリエちゃんがっ! 何っすか、魔界って! 子供だぁ?! 殺す! サリエちゃんを穢した汚らわしい魔族など滅ぼしてしまいましょう! いやっ、魔界を消し去ってしまいましょう!」
絶対そう言うと思ってコイツには黙っていたのに。誰だ、明かした奴は。
「まあ、落ち着けゾフィエ。まだサリエノーアは堕天しておらぬ。今、ザラキエルノが迎えに魔界に行っておる」
「お、義母様が……」
流石のゾフィエも少し勢いが落ちた。怖いものな、アレは裁きの天使だからな。いつもはどこか抜けているあたりが娘と同じで可愛いのだが、本気で怒ると儂も怖い。血の涙を流しながら睨まれたら儂でもうっかり石にされそうな時があるし。
「大体な、魔界は主が置かれた正統な世界なのだぞ? 魔王は魔神に代わり全ての世界を支える柱の一つ。天界と魔界は光と影の関係、均衡を崩せば天界も無事では済まん。いかに天界と相反するとはいえ、下級神や天使ごときが手を出して良いものではない。思っても口にするな。神罰が下るぞ」
「だからって! お義母様もなんで招待状をもらってホイホイ行っちゃうんですか? 危ないでしょう。なんで止めないんですか父上も!」
「そりゃお前、子供は命に代え難いほど可愛いし、孫だし」
「子供なんて何処が可愛いんですか! 大体父上も……」
ぎゃんぎゃん文句を言っているゾフィエの声など聞きもしない。こいつは親になってないから気持ちがわからんのだな。揃いも揃って子育てを放棄した母に代わり、儂一人でこ奴等を大きくしたのだぞ。自分の子は育て方を間違った気もしなくはないが……儂は一応人の子供を守る神なのだ。というわけで子供は大好きだ。
ああ、だがいいなぁ、ザラさん。いかに相手が魔族とはいえ、孫だぞ孫っ! そりゃ招待状が来たら行くよな~。ザラさんは他の天使との間に既に何人か孫がいるらしいが、儂にとっては初孫だ。しかもあのサリエノーアの子。ちらっと覗いたが滅茶苦茶可愛かったしなぁ。抱っこしてすりすりしたい。おじい様ーなんて呼んで欲しい。人間の年寄りも孫には甘いし、他の神や天使が孫は自分の子よりも倍は可愛いぞーと言っていたが、本当なんだな。それに会いに行けるなんてなぁ。
そう思うと早く儂に孫を見せてくれないこの馬鹿息子や娘に怒りさえ湧いて来る。ここに他の孫でもいれば、もう少し諦めもついただろう。もうこの際魔族の血が入っていようと構わぬ。正反対とは言え、高位魔族と天使は一番近い種族だ。子を成す事も可能ではあるし、前例が無いわけでもない。まあ、その場合親は魔に染まった堕天使として天界を追い出される事にはなるが、サリエノーアは無駄に上位の親のせいでまだ魔に完全に染まってはおらぬ。しかも魔王が保護してくれているとなると、主も神罰は下されぬだろう。孫のほうも儂が何とかすればこちらに住めん事も無かろう。
あー、儂も行けるものなら行きたかったぞ。
「……しかし遅いな。ちょっと様子を覗いてみよう」
前みたいに意識だけ飛ばすのもまた向こうを驚かすし、正規の覗き窓から見ることにした。庭の隅の金林檎の横の小屋だったな、魔王城直通は。どっこらしょっと。
「父上何処にお行きに?」
もう煩いゾフィエなんぞ無視だ、無視。ついてくるなと釘だけ刺して、儂はさっさと窓に向かった。
「こっ、これは……!」
魔界といえど子供は可愛い。お行儀良く並んで歌を歌っておる様に、つい頬が緩んでしまった。
ナニコレ、お遊戯会ってこんなものだったのか! ザラさんこれに招かれたのか! 羨ましすぎる!
魔界では勝手に住み着いた人間と魔族の関係は良くないと聞いていたが、何故か仲良く一緒におり、小さな子供達が楽器に合わせて歌っている歌も人間の世界のものだ。うーん、何があったのかは知らんが、魔界って結構開けてるな。そういえば、あの日も祭りの最中だったが楽しそうだった。
あ、ザラさんご機嫌だな。サリエノーアも周りの者と親しげにしている。うーん、しかし魔王は若いな。本体を現さず人型になっている時は頼りなさそうな若造ではないか。それに何だ、人間を眷属にしたのか? 息子がいるのは知っていたが、黒髪の女の子までおるな。
会が終わり、魔王と話を始めたザラさん。
「本当は娘を強制的にでも連れて帰ろうと思っていました。孫も一緒に。しかし今日の歌や劇を見て、考えが変りました。お友達とあんなに仲良く楽しそうにしている子を、どうしてここと引き離せましょう」
おーい、ザラさん何を言っておるのだ? 連れ戻しに行って絆されてどうするというのだ。
まあなぁ……なんかわからなくも無いがな。歌っていた子供達はとてもニコニコと元気に笑っていた。孫もだ。子供は正直だ、幸せでないと笑顔は見せないが心からの笑顔を見せると言う事は、皆幸せなのだろう。
その後ザラさんがサリエノーアを一度連れ帰り堕天させるという話を始めた。確かに彼女は死と裁きの天使。ここ長い事神に背き堕ちるような天使がいなかったが、悪逆な行いをした人間には死を、天使を堕天させるのが彼女の職務。
そうだな、娘も子の親になったのだ。もしも娘が魔界にいることを望んだのならそれが一番正しい方法なのだろうが……ザラさんはそれがこちらでどういう意味を持つのかもちゃんと説明してくれた。流石にそこで魔王側も勢いが落ちた。そうか、儂等の事も気にはかけてくれるのだな。
「例えばもし裁きを受けてではなく、魔側に堕とされたのであれば、残された家族は被害者として立場は悪くはならないのでは? こちらでサリエノーアさんに堕ちていただければ、後はご家族の了解だけで話は丸く収まると思いまして」
この堕天使、なかなかの策士と見える。ふむ、それはそうなのだが……ザラさんの力でなく堕天させるとなると、方法は……考えたくも無いのだが。
「ま、まあ。それはそうなのですけども。私も娘の事に関しては既に子供まで出来る様な事をいたしたという地点で納得しておりますし、主人も説得すれば。しかし、それでも駄目だったのに……ねぇ」
説得されんでも聞いておるわ、ザラさん。というか、君はいつも反対しようが問答無用だろうが。
それよりだ。相手は誰なのだ! 事と次第によっては反対するぞ、父は! 大体子供を産んでも堕天出来なかった娘を変えられるほどの者が……と、懸念していた時、いきなり魔王の求婚が始まった。
「娘さんを私に下さい」
そうかー! その手があったか。うん、行ける。魔界最高位の魔王なら。だがしかしっ! ああああ、娘の父としては複雑な心境。
「父上―、どうしてサリエちゃんを堕天させるという話からいきなり魔王の求婚になるのでしょうか?」
……下でもまだ子供の魔王の息子も同じ事を訊いているが、ここに魔王より年上で同じ事を訊いている奴がおる……って! おい!
「ゾフィエ、いつから?」
「ずーっと一緒に見てましたけど?」
不覚。娘と孫に真剣になっていてこの馬鹿息子に気がつかないとは。
「ついてくるなと言ったはず」
「いいじゃないですか。それよりなんで?」
……。
「要は、魔王にあーんな事やこーんな事をされて抱かれたらサリエノーアは完全に堕天出来るという事だ。お前も子供ではないからやる事はわかるだろう」
「ち、父上っ! なっ、なんという不埒な事を――――!」
ゾフィエが四枚羽根を広げて飛んで行った。お前さぁ、不埒とか言ってるけど自分は何人可愛い子を侍らせてるんだ。ひょっとして孫が出来ましたという報告も無いからまさかキヨラカ?
まあいい、それよりザラさんの方は?
「……何と言う勿体無いお言葉。親の私が言うのも何ですが、他の男の子持ちのこの娘は傷物です。それでもよろしいと仰るのでしょうか?」
「私とて既に子もある。そう言う意味では傷物だが」
「魔王様はちゃんと王妃との間に設けられた正しいお子ではございませんか。婚姻もせずに設けた子とは違いましょう」
「子供に正しい生まれも間違った生まれも無いと思う。私は誰の子であろうと自分の子として愛せる自信がある」
魔王、そなたは良い男だな。そこまで言い切れる者は天界にもそうはおらんぞ。うーん、ここまで言われたら儂だって心も動く。良いかもしれない、というかもう他の男に任せたくない。確かに勿体無いほどの事だ。
もう後はザラさんの報告を待とうと、窓を覗くのをやめた。
どうせもうサリエノーアは帰ってこないのだ。あの子も大人になったのだ。こうして見守る事もできる、手が届かなくとも孫を見る事も出来る。今更ながら嫁に出したのと同じだ。そう思うと寂しくは無いか……。
儂もなんだか複雑だが少しすっきりした気分で館に戻った。あの馬鹿息子や娘にも報告せねばと思っていたのに、妙に静かだった。
「ゾフィエはどうした?」
「お兄様は、ぷんぷん怒りながら絵筆を持ってどこかにお行きになりました。お義母上に任せられないのなら自分がサリエちゃんを連れ戻すとかなんとか言いながら」
ええええぇ? おーい、折角魔王側とザラさんが上手く纏めようとしてくれてるのに、勝手な事をするんじゃない! この馬鹿息子が! 魔界と天界で戦争でもやるつもりか!
可愛らしい孫とその友達の魔族の子供達の笑顔が思い出された。あの笑顔を消すような事があってはならん、絶対に。
ああ、頭が割れるように痛い……。
ああ、頭痛の種その一が来た……。
まったく、儂は何かと子には悩まされっぱなしだの。これでも一応神の末員に属する存在であるというのに。何がいけなかったのだろうか。
それぞれ最上位の天使となした子であるし、才もあり気立ても悪くない。器量はまあ……小さい頃は皆それはそれは可愛かったのだがな。それでも愛嬌はあるのだぞ、うん。こういうのが好みだという者もおるし、現に言い寄る者も多数いる。なのに誰一人決まった伴侶を持つものもおらず、気がつけば行き遅れの娘に一向に独り立ち出来ぬ息子。少し甘やかしすぎたのだろうか。
やや痩せすぎだが一番器量良く生まれたのに、気弱や邪視という気の毒なところばかり引き継いでしまった末のサリエノーアを、兄妹揃って溺愛し過ぎたのが原因だろうか。その可愛くてならん末娘が一番の頭痛の種になろうとは。
まさか天使が家出の上に婚姻前に出来ちゃったなんぞ、儂の管轄の人間界の庶民の娘のような事をするとはなぁ……しかも相手が魔族だとは。
「ボクの大事なサリエちゃんがっ! 何っすか、魔界って! 子供だぁ?! 殺す! サリエちゃんを穢した汚らわしい魔族など滅ぼしてしまいましょう! いやっ、魔界を消し去ってしまいましょう!」
絶対そう言うと思ってコイツには黙っていたのに。誰だ、明かした奴は。
「まあ、落ち着けゾフィエ。まだサリエノーアは堕天しておらぬ。今、ザラキエルノが迎えに魔界に行っておる」
「お、義母様が……」
流石のゾフィエも少し勢いが落ちた。怖いものな、アレは裁きの天使だからな。いつもはどこか抜けているあたりが娘と同じで可愛いのだが、本気で怒ると儂も怖い。血の涙を流しながら睨まれたら儂でもうっかり石にされそうな時があるし。
「大体な、魔界は主が置かれた正統な世界なのだぞ? 魔王は魔神に代わり全ての世界を支える柱の一つ。天界と魔界は光と影の関係、均衡を崩せば天界も無事では済まん。いかに天界と相反するとはいえ、下級神や天使ごときが手を出して良いものではない。思っても口にするな。神罰が下るぞ」
「だからって! お義母様もなんで招待状をもらってホイホイ行っちゃうんですか? 危ないでしょう。なんで止めないんですか父上も!」
「そりゃお前、子供は命に代え難いほど可愛いし、孫だし」
「子供なんて何処が可愛いんですか! 大体父上も……」
ぎゃんぎゃん文句を言っているゾフィエの声など聞きもしない。こいつは親になってないから気持ちがわからんのだな。揃いも揃って子育てを放棄した母に代わり、儂一人でこ奴等を大きくしたのだぞ。自分の子は育て方を間違った気もしなくはないが……儂は一応人の子供を守る神なのだ。というわけで子供は大好きだ。
ああ、だがいいなぁ、ザラさん。いかに相手が魔族とはいえ、孫だぞ孫っ! そりゃ招待状が来たら行くよな~。ザラさんは他の天使との間に既に何人か孫がいるらしいが、儂にとっては初孫だ。しかもあのサリエノーアの子。ちらっと覗いたが滅茶苦茶可愛かったしなぁ。抱っこしてすりすりしたい。おじい様ーなんて呼んで欲しい。人間の年寄りも孫には甘いし、他の神や天使が孫は自分の子よりも倍は可愛いぞーと言っていたが、本当なんだな。それに会いに行けるなんてなぁ。
そう思うと早く儂に孫を見せてくれないこの馬鹿息子や娘に怒りさえ湧いて来る。ここに他の孫でもいれば、もう少し諦めもついただろう。もうこの際魔族の血が入っていようと構わぬ。正反対とは言え、高位魔族と天使は一番近い種族だ。子を成す事も可能ではあるし、前例が無いわけでもない。まあ、その場合親は魔に染まった堕天使として天界を追い出される事にはなるが、サリエノーアは無駄に上位の親のせいでまだ魔に完全に染まってはおらぬ。しかも魔王が保護してくれているとなると、主も神罰は下されぬだろう。孫のほうも儂が何とかすればこちらに住めん事も無かろう。
あー、儂も行けるものなら行きたかったぞ。
「……しかし遅いな。ちょっと様子を覗いてみよう」
前みたいに意識だけ飛ばすのもまた向こうを驚かすし、正規の覗き窓から見ることにした。庭の隅の金林檎の横の小屋だったな、魔王城直通は。どっこらしょっと。
「父上何処にお行きに?」
もう煩いゾフィエなんぞ無視だ、無視。ついてくるなと釘だけ刺して、儂はさっさと窓に向かった。
「こっ、これは……!」
魔界といえど子供は可愛い。お行儀良く並んで歌を歌っておる様に、つい頬が緩んでしまった。
ナニコレ、お遊戯会ってこんなものだったのか! ザラさんこれに招かれたのか! 羨ましすぎる!
魔界では勝手に住み着いた人間と魔族の関係は良くないと聞いていたが、何故か仲良く一緒におり、小さな子供達が楽器に合わせて歌っている歌も人間の世界のものだ。うーん、何があったのかは知らんが、魔界って結構開けてるな。そういえば、あの日も祭りの最中だったが楽しそうだった。
あ、ザラさんご機嫌だな。サリエノーアも周りの者と親しげにしている。うーん、しかし魔王は若いな。本体を現さず人型になっている時は頼りなさそうな若造ではないか。それに何だ、人間を眷属にしたのか? 息子がいるのは知っていたが、黒髪の女の子までおるな。
会が終わり、魔王と話を始めたザラさん。
「本当は娘を強制的にでも連れて帰ろうと思っていました。孫も一緒に。しかし今日の歌や劇を見て、考えが変りました。お友達とあんなに仲良く楽しそうにしている子を、どうしてここと引き離せましょう」
おーい、ザラさん何を言っておるのだ? 連れ戻しに行って絆されてどうするというのだ。
まあなぁ……なんかわからなくも無いがな。歌っていた子供達はとてもニコニコと元気に笑っていた。孫もだ。子供は正直だ、幸せでないと笑顔は見せないが心からの笑顔を見せると言う事は、皆幸せなのだろう。
その後ザラさんがサリエノーアを一度連れ帰り堕天させるという話を始めた。確かに彼女は死と裁きの天使。ここ長い事神に背き堕ちるような天使がいなかったが、悪逆な行いをした人間には死を、天使を堕天させるのが彼女の職務。
そうだな、娘も子の親になったのだ。もしも娘が魔界にいることを望んだのならそれが一番正しい方法なのだろうが……ザラさんはそれがこちらでどういう意味を持つのかもちゃんと説明してくれた。流石にそこで魔王側も勢いが落ちた。そうか、儂等の事も気にはかけてくれるのだな。
「例えばもし裁きを受けてではなく、魔側に堕とされたのであれば、残された家族は被害者として立場は悪くはならないのでは? こちらでサリエノーアさんに堕ちていただければ、後はご家族の了解だけで話は丸く収まると思いまして」
この堕天使、なかなかの策士と見える。ふむ、それはそうなのだが……ザラさんの力でなく堕天させるとなると、方法は……考えたくも無いのだが。
「ま、まあ。それはそうなのですけども。私も娘の事に関しては既に子供まで出来る様な事をいたしたという地点で納得しておりますし、主人も説得すれば。しかし、それでも駄目だったのに……ねぇ」
説得されんでも聞いておるわ、ザラさん。というか、君はいつも反対しようが問答無用だろうが。
それよりだ。相手は誰なのだ! 事と次第によっては反対するぞ、父は! 大体子供を産んでも堕天出来なかった娘を変えられるほどの者が……と、懸念していた時、いきなり魔王の求婚が始まった。
「娘さんを私に下さい」
そうかー! その手があったか。うん、行ける。魔界最高位の魔王なら。だがしかしっ! ああああ、娘の父としては複雑な心境。
「父上―、どうしてサリエちゃんを堕天させるという話からいきなり魔王の求婚になるのでしょうか?」
……下でもまだ子供の魔王の息子も同じ事を訊いているが、ここに魔王より年上で同じ事を訊いている奴がおる……って! おい!
「ゾフィエ、いつから?」
「ずーっと一緒に見てましたけど?」
不覚。娘と孫に真剣になっていてこの馬鹿息子に気がつかないとは。
「ついてくるなと言ったはず」
「いいじゃないですか。それよりなんで?」
……。
「要は、魔王にあーんな事やこーんな事をされて抱かれたらサリエノーアは完全に堕天出来るという事だ。お前も子供ではないからやる事はわかるだろう」
「ち、父上っ! なっ、なんという不埒な事を――――!」
ゾフィエが四枚羽根を広げて飛んで行った。お前さぁ、不埒とか言ってるけど自分は何人可愛い子を侍らせてるんだ。ひょっとして孫が出来ましたという報告も無いからまさかキヨラカ?
まあいい、それよりザラさんの方は?
「……何と言う勿体無いお言葉。親の私が言うのも何ですが、他の男の子持ちのこの娘は傷物です。それでもよろしいと仰るのでしょうか?」
「私とて既に子もある。そう言う意味では傷物だが」
「魔王様はちゃんと王妃との間に設けられた正しいお子ではございませんか。婚姻もせずに設けた子とは違いましょう」
「子供に正しい生まれも間違った生まれも無いと思う。私は誰の子であろうと自分の子として愛せる自信がある」
魔王、そなたは良い男だな。そこまで言い切れる者は天界にもそうはおらんぞ。うーん、ここまで言われたら儂だって心も動く。良いかもしれない、というかもう他の男に任せたくない。確かに勿体無いほどの事だ。
もう後はザラさんの報告を待とうと、窓を覗くのをやめた。
どうせもうサリエノーアは帰ってこないのだ。あの子も大人になったのだ。こうして見守る事もできる、手が届かなくとも孫を見る事も出来る。今更ながら嫁に出したのと同じだ。そう思うと寂しくは無いか……。
儂もなんだか複雑だが少しすっきりした気分で館に戻った。あの馬鹿息子や娘にも報告せねばと思っていたのに、妙に静かだった。
「ゾフィエはどうした?」
「お兄様は、ぷんぷん怒りながら絵筆を持ってどこかにお行きになりました。お義母上に任せられないのなら自分がサリエちゃんを連れ戻すとかなんとか言いながら」
ええええぇ? おーい、折角魔王側とザラさんが上手く纏めようとしてくれてるのに、勝手な事をするんじゃない! この馬鹿息子が! 魔界と天界で戦争でもやるつもりか!
可愛らしい孫とその友達の魔族の子供達の笑顔が思い出された。あの笑顔を消すような事があってはならん、絶対に。
ああ、頭が割れるように痛い……。
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