魔界王立幼稚園ひまわり組

まりの

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続・魔界王立幼稚園ひまわり組

30:女だから母だから

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「知っているかな? 言ってもわからない子のお仕置きはお尻ぺんぺんだ」
 魔王様……やんちゃさんを相手にする時の園長モードになっておいでです。見た目も言動も幼児のようですが、魔王様より年上なんですよ、その方。
「ボク、痛いの嫌い!」
「私もお手伝いしますわ」
 また少しだけ大きくなられたザラキエルノ様が、お兄ちゃんを小脇に抱えて魔王様のほうにぷりぷりお尻を向けておいでだ。ううっ、なんだろう、こう言っちゃなんですが、ザラキエルノ様と魔王様が子供を叱る夫婦のように見えちゃいます。なんでそんなに息ぴったりなんでしょう? 
 なんか久しぶりですねぇ、魔王様のお尻ぺんぺん。ユーリちゃんが五歳くらいのときに拝見しましたが、ぺちぺちと形だけで、すっごく手加減しておいででしたが、ゆーりちゃんには精神的には効いたようです。
 今回は大人なんで、そこまでは手加減成されないでしょうね。
「お手が穢れますわ」
「うむ。ではこれで」
 魔王様が手を翳されると、紫色に輝く真っ黒のハリセンみたいなのが現れた。なんというチョイスですか、魔王様。魔界にもあったんだ、ハリセン。
 お母さんに小脇に抱えられてお尻を突き出したお兄ちゃんに、ハリセン構える魔王様。超シュールな眺めなんですけど……そこで何故か私とさっちゃんはウリちゃんに目を塞がれた。
「見ない方がいいですよ。お母さんにお尻めくられちゃってますから」
「……」
 見たくないわ、確かに。
「これは肉付きが良くて叩き甲斐のありそうな尻だな」
 説明いただくと見たくは無いけど気になるじゃないですか、魔王様。本気出したら大変なのでちゃんと少しは手加減してくださいよ?
 すぱーん! と、すっごい気持ちのいい音が響いた。
「ひぃ!」
「おお、よい音がするな」
 魔王様、微妙に嬉しそうな声に聞えますけど。ウリちゃんの手がぶるぶる震えてますね。絶対に笑いを堪えてるんだと思う。
「反省するかな? 街の者、絵に描いた物、親に、妹にごめんなさいは?」
「だっ、誰が! 反省なんか……」
「ではわかるまで、もう一回」
 もう一度すぱこーん!
「ごめんなさい、ごめんなさい! 謝りますから! みんなごめんなさい!」
「うむ。反省したならよろしい」
 声と音だけでも、充分にその表情まで想像できた。きっとお兄ちゃんは涙目になってると思う。
 やっと手が放されて、見えるようになったが、涙目になってるのは天使お兄ちゃんだけでは無かった。ウリちゃんも魔王様も笑いを堪えすぎたような顔だね。
 ちょっと他の人の事を考えずにやりすぎちゃったお兄さんだけど、考えてみたらちょっと可哀相だ。このむちむちぷりぷりのお兄ちゃんは、嫌なお馬鹿さんというより、何の打算も無く悪意もないのだろう。こんな風に叱られた事が無いからわからなかっただけ。本当に心が正直すぎるお子様なのだ。無垢な心で無いと、きっとあんな綺麗な絵は描けないだろう。
 解放されて多分真っ赤になっちゃったであろうお尻をさすりつつ、お兄ちゃんは俯いたままぽつりと溢した。

「迷惑をかけてしまってたボクが悪かった。でも、サリエちゃんが好きでも無い相手と結婚するなんて嫌だし、可哀相だと思って……」
「……」
 ぽつりぽつりと、天界の窓から魔王様がさっちゃんにプロポーズをしたのを見た瞬間に飛び出してきた事を話してくれた。なんと言っていいかわからず、沈黙した私達だったが、
「お兄様、私可哀相じゃないです。好きでも無い相手って……?」
 さっちゃんの声にはっとした。
 そういえば、最後の大事なところを聞く前にこの騒動で出てきちゃったから。さっちゃんが天界を飛び出してしまうほど本当に好きになったのは誰なのか。
 真っ赤になって俯いたさっちゃんに、お兄ちゃん含め皆で注目。
「あの……私……お、恐れ多くて言い出せませんでしたけど……」
 ごくり。いよいよ言うのね。アイマスクで半分見えない顔の口元が微かに開いてその名前を――――。
「い、言ってもいいのでしょうか、本当に?」
 さっちゃーん! 焦らさないでよ。コントみたいにウリちゃんとお兄ちゃんがカクッてなっちゃったでしょ。魔王様は耳ぴくぴくしてる気もしなくもないし。
「正直に言いなさい、魔王様はたとえそれが誰でも許してくださる」
 ザラキエルノ様がそう仰ったが、保障しかねる。多分平然とした顔はなさっているだろうけど、謎の草くらいでは済まなさそうだけどね。
 再びごくり。

 今度はさっちゃんも覚悟を決めたらしい。
「わたし、私、本当は……ま、魔王様をお慕い申しております!」
 一瞬の沈黙の後、ぴかっと空が光ったと思うと、地響きをたてるほどの音が、どかーんと派手に響き渡った。
「また落雷ですね。被害が出ていないといいんですが」
 誰の仕業かはもう聞くまでも無いけどもね。
 というか、それどころじゃなくて! 好きなのが魔王様なんだったら、ここまで苦労しなくても何の問題もなかったんじゃないのよ、最初から。
 考えてみたら、それなら突然ロボットみたいになっちゃうさっちゃんの怪しい言動など納得いくことが沢山ある。怖いというより緊張してたんだ。それに一度街でペルちゃんのパパの事を話した時に言ってた事も今ならわかる。
「ずっとずっと。まだ小さかった頃からずっと、魔王様だけを見てきました。お父様の屋敷の隅にある窓は魔界直通。そこで初めて黒い髪のお姿を見た時からずっと……」
 誰ももう声を掛けなかった。むっちりお兄ちゃんですら黙って聞いている。
 今まで言えなかった思いの丈を全て吐き出すように、さっちゃんは語り続けた。
「最初は誰なのかも知らなかった。住む世界が違う、それだけで無く特別な方だとわかっても、決して届く事はないとわかっていても、それでも本当に好きでした。でもご結婚なさった時、諦めようと思いました。それでも諦め切れなくて……縁談の話が来た時に思わずこちらに……」
 よーく考えたら、ずっと覗き見てたストーカーみたいだと思わなくも無いけど、それほどまでに長い事想い続けていたんだね。
「夢のようでした。手の届く距離に、声が聞こえるほど魔王様の傍にいられる事が。でも……私は一時とはいえ、違う方の妻になりました。最初は彼も私をこの魔界で生きて行けるようにと協力するだけだと言っていましたが、偽りではなく愛しました。その方の子も授かりました。そしてその人の命を奪ってしまいました……」
「……」
「言い出せなかった。本当に好きなのは魔王様だったと。あんなに愛おしい可愛い子供をくれたあの方を踏み台にしてしまったのに。こんな罪深い私が、自分だけ幸せになるなんていけない事なのに……いつも涙が出そうで、でもペルにはそんな私を見せたくないからずっと……」
 私はそんなに悲しい思いをした事がないから、お前に何がわかるだけど、自分もそうだったとしたら、私だってそんな風に考えると思う。自分だけが幸せになんかなれないって。
 ついに顔を覆って泣き出したさっちゃんを、思わず抱きしめた。
「辛かったね。苦しかったね。でもペルちゃんには悲しい顔を見せないあなたはとっても強かったと思うよ」
「ココナさん……」
「ママ友でしょ、私達」
「はい」
「もっと早くに言ってくれたら良かったのに。女にしかわからない事も、母にしかわからない事もあるもんね」
 もう一人の母もまた横で血の涙を流しておいでです。
「男にしかわからない事も、父にしかわからない事もありますよ」
 ウリちゃんが魔王様の腕につかまっている。臣下としてでなく、幼馴染の親友モードの時だね、これは。
「ペルちゃんのお父さんも本当にあなたの事を好きだったでしょう。あなたを恨む言葉を吐いて亡くなりましたか? 違うでしょう?」
「ええ。でもどうしてそれを?」
 魔王様とウリちゃんは顔を合わせて微かに笑みを浮かべた。
「それは、私達が彼と同じ子の父だからだ。もしも自分が同じ立場なら、あなたを、子供を本当に愛していたらその幸せを望むだけで恨みはしない。あなたが幸せになれるなら許せるだろう、きっと」
 そうなのかな。そんなもんなのかな? 私は男じゃないからわからないけど。
 空を見上げるともう閉じてしまった目のお父様も笑っておいでな気がした。
 お兄ちゃんだけはまだ複雑な顔をしていたが、お父さんになる日が来たらわかるんだろうか。
「サリエちゃん、私はもう魔王様にあなたをお任せする事に迷いは無くなりました。あなたもよいですね? ここで、あの可愛いペルちゃんを幸せにしてあげてくれるわね?」
「はい……お母様」
 ばさりと六枚の美しい羽根が夢のように広がった。
「では、私は一度天界に戻ります。魔王様のお姉さまに元に戻っていただかないと」
 そうでした。すみません、メルヒノア様、すっかり忘れておりました。
「さあ、行きますよ、ゾフィエさん」
「えー、帰ったら父上に叱られそうで……」
 連れて帰っていただかないと困るので、お願いしますザラキエルノ様。
 結局、大きくなったザラキエルノ様の小脇に抱えられ、真ん丸お兄ちゃんもお空に帰って行ったのだが……。
 私は何か大事な事を忘れていた。ええ、その後も事件が起きるまですっかりと。

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