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4:デート……だよね
しおりを挟むそんなわけで、転倒防止のため、ぎこちな~く私の肩に手を置いて彼は横を歩いている。
実際はデートというより、介護の状態なのだが、やっぱりすれ違う女性達の視線が痛い。
しかも今、彼は眼鏡を掛けていない。それだけでとても珍しいことなので……そりゃこんだけ目が悪かったら外せないわなぁ……放っておいても周囲の視線が集まる。そして覗きに来た人達を驚かせた。
全体の印象も何倍も男らしい感じだし、何より、いつもソフトに眼鏡で隠されている切れ長の目……アイスブルーの瞳と長い睫毛は、露になって周りの人を固まらせ、次の瞬間に溶かしてしまった。めろめろ~んみたいな音が聞こえてくる気がするわ。
先程、何一つ褒められるところが無いなんて本人は言っていたが、それは素顔の自分を鏡で見たことが無いからなんだわ。ってか、物理的に見られないし。
で、そんな自覚の無い危ない、いや危なっかしいイケメンを、微妙に密着した状態で連れて歩いているうちに、私はなんだか変に優越感を覚えて、視線を気にするどころかいい気分になってきた。
ど~よ! うらやましいだろう。えっへん。
「椅子、わかります?」
「それはなんとかわかる」
とか言いながら、かなり危なっかしいぞ。片手も使えないので仕方ないけど。
「あ~、もうちょっと右後ろ」
「……すまない」
椅子に腰掛けるだけで彼は早くもへこんでいる。うう~ん、そういうのも結構いい。
「飲み物を取ってきますから座っていてくださいね。転ぶといけないので」
「……なんだか情けない気分になってきたよ……」
「現在は要介護者だと割り切ってください」
何処の誰がこの人を介護の必要のある状態にしたのだかは棚にぽ~いっと。
G・A・N・P本部のカフェは広くて結構綺麗。余所の支部から来ている人もいるし、仕事の合間に休憩している隊員も結構いる。
保護されてきた非合法のA・Hの雇用訓練の場にもなっているので、店員さんは見た目が人間離れしてる人が多いけど、職種上ほとんどが若い女の子だ。私もたまに息抜きに来るので顔見知りの子も多い。
愛玩用にこんな姿に造られたのか、ウサギの耳の可愛いアニーが声を掛けてきた。
「ちょっとぉ~、マルカさん聞きましたよぉ。ウォレスさんを蹴り飛ばしたらしいですねぇ」
……すでに噂は広まってるか。人の口に戸は立てられないもんね。
「うん、まあ、蹴ったワケではないんだけど成り行きで……あそこに見える通り、全治一週間の怪我を負わせてしまいました。おまけに眼鏡まで壊しちゃって」
「ひど~い。アニーのお気に入りなのに~。あんまり苛めないであげてくださいよぉ」
「ゴメン」
っていうか、なぜこの娘に謝らなきゃならんのだ。
アニーは妙に嬉しそうに私に訊いてくる。
「で、で? なんでケンカしたんですか? ウォレスさんが浮気でも?」
「はぁ? ケンカなんかしてないわよ」
「もぅ~とぼけちゃってぇ。でも今一緒って事は仲直りしたんですね」
「……どうでもいいから、早くコーヒーをちょうだい。あ、そこのラズベリータルトも二個ね」
これはどうも噂に尻尾やヒレがいろいろくっついてるみたいだぞ。
「アニーが持って行ってあげますね。眼鏡ないウォレスさん近くで見たいもん」
「いや、私が持ってく。あんたは見ないほうがいい」
でも結局飲み物だけ私に渡して、タルトを持ってアニーがついてきた。
「おまたせしま……」
テーブルにお皿を置きかけて、間近で彼の顔をのぞいたアニーが固まった。
がちゃん。
ほうら、だから見るなと言ったのに。あ、溶けた。
「きゃ~~ん!」
変な声を上げてアニーが逃げていった。
「何? 今の」
「気にしないでください」
しかしアニーが他の女の子達に報告したものだから、次から次へと覗きにきてるし……いかんいかん、被害者が増える。ってか邪魔よ。しっしっ。あっちへお行き。
うーん、彼のためだけでなく、他の人のためにも眼鏡は必要だったんだわ。
「なんだか皆、俺の顔を見て逃げていく気がするんだが……お、俺ってそんなに怖い?」
あ、なんか勘違いして、彼はものすごく落ち込んでいる。
「いえ、逆です。今度、一度眼鏡を掛けずにご自分の顔を鏡で見てください」
無理だとわかっててつい言ってしまう。
「意味がわからないんだけど?」
「もういいです……」
自覚の無い人に説明しても仕方ないわ。
「お砂糖は入れますか?」
「うん、二杯」
「……意外と甘党なんですね」
「変かな?」
「いえ、糖分も取らないと脳が活発に動きませんから」
かなりイメージは違うが、きっとこの人の脳は普通の人の何倍もエネルギーを必要とするだろうしね。
さすがに香りがあるので、コーヒーは上手くつかめた。って、なんか観察日記みたいだなぁ。
「あつっ」
距離感はいまいちだったが……。
「では甘党ならタルトも大丈夫ですね」
「好きだよ。とってもいい匂いがする」
いやん、なんか可愛い~。クールな見た目でそういうのって。
でも私はフォークを見て、ふと冷静になって思い出した。
「あの、聞くの忘れてましたけど、利き腕って……」
「左だよ……」
うわぁ、最悪。
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