6 / 11
6:運の悪い男
しおりを挟むその後、二人で中庭に出た。
もう本当に開き直ったのか、転倒防止の為に肩に置かれた彼の手も自然になった。
今日も暑いわぁ。もうすぐ秋がくるっていうのに。
最近は空調の効いた研究棟に篭ってる事が多いから体の調節機能がうまく働いてないかもしれない。でも熱帯の植物に覆われた中庭の空気はなんとなく気持ちがいい。それに誰もいなくて静か。きっとあの噂のせいで私たちから遠ざかってるのね。でもいいや。
デートなんだし~。密着してるし~。
「大丈夫? 暑くないですか?」
「平気だよ。もう慣れた。ここに来てすぐは堪えたけどね」
彼は確か北極圏に近い北国の出身だと聞いた事がある。さぞやこの気候は体に堪えただろう。毛穴の数も違うし、きっとこの肌の色も目の色も、色素欠乏だけじゃなく日照時間の少ない土地で生まれたからだろう。
以前フィールドワークでアラスカに行ったときに見たことのある、真っ白な毛並みとアイスブルーの目の大きなツンドラオオカミが頭に浮かんだ。あれに熱帯雨林は似合わない。
さっきは私の秘密を教えたので、今度は私が訊く番だ。
「なんで狼を選んだんですか? 私達は生まれを選べませんが、あなたは自分で選べたでしょう?」
「そうだな……何でかな? 他の選択肢は考えた事も無かった。小さい頃から狼になりたかったから」
「こんな職業につきたいとかでもなく?」
「そう。昔、凍死するところを狼の群れに救われた事があって……覚えてない位小さい頃だけど。不思議だろ? 彼らは俺を食べなかった。暖めて護ってくれたんだ。でも彼らは理由を語らない。だからそれがわかるようになりたいと思ったんだ」
「で、研究者になったんですか」
「まあね。あと、キリシマ博士に憧れて」
ちょっと眩しそうに彼は目を細めた。
熱帯の日光はその超淡色の瞳には強すぎるわね。
ん……? 瞳……色……日光。EYCL……1・3……
「あ!」
「どうしたの?」
「いえ、なんとなく仕事で行き詰っていた所の答えが見えてきた気がして」
う~ん、でもまだあそこだけがはっきりとはわからないんだけど……。
「今何の仕事をしてるの?」
「医局からの依頼で、疾患のあるA・Hの原因遺伝子の箇所を調べて、機能改善のための試薬を作るんです。私の検体の解析が完全に終わらないと、薬品部の方の仕事が出来なくて」
「面白そうなことやってるね」
「面白くなんかないですよ。三日かかってもわからない不確定要素が含まれる検体で」
「あとで……」
彼が何か言いかけてはっと気がついた様に上を向いた。私も何か漠然とした恐怖を感じた。
それは本能が告げた危険のサイン。
「よけろ!」
パリーン!!
ガラスの割れる音と、片腕で私を抱き寄せて彼が数メートル跳んだのとはほぼ同時だった。
「えっ? えっ?」
三階から何かがガラスの破片とともに降ってきた。さっき二人が立ってた場所に!
ブィ―――――ン。
G・A・N・P本部の敷地内に緊急事態を告げるサイレンが鳴り響いた。
「何が起きて……?」
そうだ! この人は見えないんだ! 反射でよけられたに過ぎないんだわ。
『戦闘型H・KがB棟三階から逃走しました。総員第一級警備体制に入ってください。救護班は至急B棟へ。待機中のタイプB、C、DおよびP耐の隊員は捕獲に向かってください。繰り返します――――』
ええ~~~!! まさにそのH・Kが目の前にいるんですけどっ! 救護班がいるってことは怪我人まででてる、って事はすごく危ないんじゃないの!
「ウォレスさん、放送聞こえましたね? 今まさに私たちの目の前にいるんですがっ!」
「俺って運悪いから」
ホントに悪すぎるわっ! 特に今日は運勢最悪なんじゃないの?
0
あなたにおすすめの小説
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】
佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。
新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。
「せめて回復魔法とかが良かった……」
戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。
「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」
家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。
「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」
そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。
絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。
これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。
異世界でまったり村づくり ~追放された錬金術師、薬草と動物たちに囲まれて再出発します。いつの間にか辺境の村が聖地になっていた件~
たまごころ
ファンタジー
王都で役立たずと追放された中年の錬金術師リオネル。
たどり着いたのは、魔物に怯える小さな辺境の村だった。
薬草で傷を癒し、料理で笑顔を生み、動物たちと畑を耕す日々。
仲間と絆を育むうちに、村は次第に「奇跡の地」と呼ばれていく――。
剣も魔法も最強じゃない。けれど、誰かを癒す力が世界を変えていく。
ゆるやかな時間の中で少しずつ花開く、スロー成長の異世界物語。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる