狼さんの眼鏡~Wild in Blood番外編~

まりの

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6:運の悪い男

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 その後、二人で中庭に出た。
 もう本当に開き直ったのか、転倒防止の為に肩に置かれた彼の手も自然になった。
 今日も暑いわぁ。もうすぐ秋がくるっていうのに。
 最近は空調の効いた研究棟に篭ってる事が多いから体の調節機能がうまく働いてないかもしれない。でも熱帯の植物に覆われた中庭の空気はなんとなく気持ちがいい。それに誰もいなくて静か。きっとあの噂のせいで私たちから遠ざかってるのね。でもいいや。
 デートなんだし~。密着してるし~。
「大丈夫? 暑くないですか?」
「平気だよ。もう慣れた。ここに来てすぐは堪えたけどね」
 彼は確か北極圏に近い北国の出身だと聞いた事がある。さぞやこの気候は体に堪えただろう。毛穴の数も違うし、きっとこの肌の色も目の色も、色素欠乏だけじゃなく日照時間の少ない土地で生まれたからだろう。
 以前フィールドワークでアラスカに行ったときに見たことのある、真っ白な毛並みとアイスブルーの目の大きなツンドラオオカミが頭に浮かんだ。あれに熱帯雨林は似合わない。
 さっきは私の秘密を教えたので、今度は私が訊く番だ。
「なんで狼を選んだんですか? 私達は生まれを選べませんが、あなたは自分で選べたでしょう?」
「そうだな……何でかな? 他の選択肢は考えた事も無かった。小さい頃から狼になりたかったから」
「こんな職業につきたいとかでもなく?」
「そう。昔、凍死するところを狼の群れに救われた事があって……覚えてない位小さい頃だけど。不思議だろ? 彼らは俺を食べなかった。暖めて護ってくれたんだ。でも彼らは理由を語らない。だからそれがわかるようになりたいと思ったんだ」
「で、研究者になったんですか」
「まあね。あと、キリシマ博士に憧れて」
 ちょっと眩しそうに彼は目を細めた。
 熱帯の日光はその超淡色の瞳には強すぎるわね。
 ん……? 瞳……色……日光。EYCL……1・3……
「あ!」
「どうしたの?」
「いえ、なんとなく仕事で行き詰っていた所の答えが見えてきた気がして」
 う~ん、でもまだあそこだけがはっきりとはわからないんだけど……。
「今何の仕事をしてるの?」
「医局からの依頼で、疾患のあるA・Hの原因遺伝子の箇所を調べて、機能改善のための試薬を作るんです。私の検体の解析が完全に終わらないと、薬品部の方の仕事が出来なくて」
「面白そうなことやってるね」
「面白くなんかないですよ。三日かかってもわからない不確定要素が含まれる検体で」
「あとで……」
 彼が何か言いかけてはっと気がついた様に上を向いた。私も何か漠然とした恐怖を感じた。
 それは本能が告げた危険のサイン。
「よけろ!」
 パリーン!!
 ガラスの割れる音と、片腕で私を抱き寄せて彼が数メートル跳んだのとはほぼ同時だった。
「えっ? えっ?」
 三階から何かがガラスの破片とともに降ってきた。さっき二人が立ってた場所に!
 ブィ―――――ン。
 G・A・N・P本部の敷地内に緊急事態を告げるサイレンが鳴り響いた。
「何が起きて……?」
 そうだ! この人は見えないんだ! 反射でよけられたに過ぎないんだわ。
『戦闘型H・KがB棟三階から逃走しました。総員第一級警備体制に入ってください。救護班は至急B棟へ。待機中のタイプB、C、DおよびP耐の隊員は捕獲に向かってください。繰り返します――――』
 ええ~~~!! まさにそのH・Kが目の前にいるんですけどっ! 救護班がいるってことは怪我人まででてる、って事はすごく危ないんじゃないの!
「ウォレスさん、放送聞こえましたね? 今まさに私たちの目の前にいるんですがっ!」
「俺って運悪いから」
 ホントに悪すぎるわっ! 特に今日は運勢最悪なんじゃないの?

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