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7:本当に運の悪い男
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さすがに三階からガラスを突き破って飛び降りたからかH・Kはすぐには動かなかったので、一応彼を引っ張りながらじりじりと後ずさるが、背を向けて駆け出す事は躊躇われた。そう、これも刻み込まれた本能が告げる危機回避行動。派手に動いた瞬間に襲われるとなぜかわかる。たぶん私一人なら余裕で逃げ切れる。そしていつもの彼なら充分逃げられるし戦えるだろう。でも廊下だってまともに歩けないほど目が悪くて、しかも利き腕の使えない人を置いていく訳にもいかない。
『事の重大さがわかるわ』
ああ! あの女医さんが言ってた――――――。
「……危険な臭いだ。爬虫類系か? P耐性がいるって事は毒をもってるな。形態は?」
「れ、冷静ですね……下半身および右手は人間です。性別は男性。左手に蛇の頭部が接合されてます。種類はインドコブラ。頭部も一見人間ですが蛇の長い舌がちろちろ見えてます。体高はおよそ百七十五センチ。相手までの距離は六メートル強」
「君も冷静だね」
落ち着いてる訳では無い。蛇の頭に睨まれてるんですもの。ここで冷静さを失ったら飛びかかってくる。このH・Kは声をかけても聞いてくれそうにない。目が狂ってるもの。それは見えなくても彼にも感じられるらしい。
じりじり。足は止めない。よし、七メートル以上離れた。
「他の隊員が来たぞ。助かったのか余計に危険なのか」
足音が聞こえたらしい。私にはまだ聞こえないがそう遠くはないんだろう。彼の言葉通り、助けが来たのは嬉しいが、刺激すると真っ先に私達が襲われる。頼むから反対側から来てくれ~。
蛇のH・Kがついに立ち上がった。左手の蛇だけでなく、男の狂った目も私たちに向けられた。
「すごい殺気だ」
背中に回っていた彼の手は、いつの間にか庇うように私の胸前に広げられていた。
「……逃げろ。この距離なら君の足なら逃げられる」
「なに言ってんですか! あなたも……」
「勿論逃げる。転ばなきゃね。だから先に行け!」
シャ~ッ。左手の蛇が首を擡げた。
蛇に睨まれた蛙の気持ちがわかるわ……ってそんな場合じゃないわっ!
こんな状態に自分がした人を置いていけますかっ!
「いたぞ!」
他の隊員の声が聞こえた。最悪な事に後ろから!
蛇男が向かってくる!
もうその瞬間、私ははじけた。こうなりゃヤケだわっ!
「ごめんっ!」
おもいっきりウォレスさんを植え込みの方へ突き飛ばした次の瞬間、私は男に背を向け跳んだ。
高さ三メートル、飛距離九メートルくらいは跳べる。さすがに長い蛇も届かない。そして勢いよく襲い掛かってきてバランスを崩した蛇男がいる場所もばっちり!
着地!
自分でも驚くほど上手くいった。
何とも嫌な音をたてて、私の足は蛇男の後頭部にヒットした。
そう、誰かさんにお見舞いしたアレだ。破壊力は実証済みだ。
前のめりに倒れた蛇男は動かない。
「ふん! よくもデートの邪魔をしたわね」
もう少し言うことがなかったのかと後で反省した……
咄嗟に何も考えずにやったけど、もし外れていたらどうなったんだと思うと足が震える。
ひゃ~~! 私ってばなんちゅうことをっ! 草食動物のする事ではないわっ!
「死んでない……よね?」
どんな凶悪犯でも捕獲対象を死なせてしまう事はG・A・N・Pではご法度だ。
あ、蛇が動いてる。生きてるか。丈夫なH・Kでよかった……。
「ええと……」
気がつくと、呆然とした顔で数名の隊員たちが立ち尽くしていた。
そりゃびっくりだな。実働隊でもない白衣のちっこい女学者に目の前で凶暴H・Kを倒されちゃ。
またも開き直るしかない。誰かさんじゃないがもういいっ。
「あんた達何やってるの。まだ蛇動いてるわよ。ネットでもかけて早く連れてってよ」
「は、はいっ!」
よかったよかった。
……って! ウォレスさんはっ!?
「お……い」
植え込みの方から声がした。彼はまだ倒れたままだった。というより起き上がれなかったのだ。
あ、なんだかぐったりしてる。
必死だったとはいえ、渾身の力をこめて突き飛ばしたからなぁ。
そういや、衝撃もさけてねって女医さんに言われてたわねぇ……たらり。
「きゃ~っ! ごめんなさい~!」
私は慌てて抱き起こしにその場へ行って、うっ、と詰まった。
植え込みがあるから衝撃は少ないかと思っていたのに、丁度その場所にはベンチがあったのだ。
状況を察するに、一度ベンチに激突してから現在の場所に倒れて……って、おいっ!
彼は左肩を押さえている。右から押したんだから当たり前だが……
「ひょっとして、これにこっちから当たりました?」
「うん……そして前より痛い……」
私が超運の悪い常連さんを、再び医局に運んだのは言うまでもない。
幸いなことに、今回の犯人は私ではなく逃走H・Kということになったのでコワイ女医さんには叱られずにすんだものの……。
全治一週間が二週間になった。
『事の重大さがわかるわ』
ああ! あの女医さんが言ってた――――――。
「……危険な臭いだ。爬虫類系か? P耐性がいるって事は毒をもってるな。形態は?」
「れ、冷静ですね……下半身および右手は人間です。性別は男性。左手に蛇の頭部が接合されてます。種類はインドコブラ。頭部も一見人間ですが蛇の長い舌がちろちろ見えてます。体高はおよそ百七十五センチ。相手までの距離は六メートル強」
「君も冷静だね」
落ち着いてる訳では無い。蛇の頭に睨まれてるんですもの。ここで冷静さを失ったら飛びかかってくる。このH・Kは声をかけても聞いてくれそうにない。目が狂ってるもの。それは見えなくても彼にも感じられるらしい。
じりじり。足は止めない。よし、七メートル以上離れた。
「他の隊員が来たぞ。助かったのか余計に危険なのか」
足音が聞こえたらしい。私にはまだ聞こえないがそう遠くはないんだろう。彼の言葉通り、助けが来たのは嬉しいが、刺激すると真っ先に私達が襲われる。頼むから反対側から来てくれ~。
蛇のH・Kがついに立ち上がった。左手の蛇だけでなく、男の狂った目も私たちに向けられた。
「すごい殺気だ」
背中に回っていた彼の手は、いつの間にか庇うように私の胸前に広げられていた。
「……逃げろ。この距離なら君の足なら逃げられる」
「なに言ってんですか! あなたも……」
「勿論逃げる。転ばなきゃね。だから先に行け!」
シャ~ッ。左手の蛇が首を擡げた。
蛇に睨まれた蛙の気持ちがわかるわ……ってそんな場合じゃないわっ!
こんな状態に自分がした人を置いていけますかっ!
「いたぞ!」
他の隊員の声が聞こえた。最悪な事に後ろから!
蛇男が向かってくる!
もうその瞬間、私ははじけた。こうなりゃヤケだわっ!
「ごめんっ!」
おもいっきりウォレスさんを植え込みの方へ突き飛ばした次の瞬間、私は男に背を向け跳んだ。
高さ三メートル、飛距離九メートルくらいは跳べる。さすがに長い蛇も届かない。そして勢いよく襲い掛かってきてバランスを崩した蛇男がいる場所もばっちり!
着地!
自分でも驚くほど上手くいった。
何とも嫌な音をたてて、私の足は蛇男の後頭部にヒットした。
そう、誰かさんにお見舞いしたアレだ。破壊力は実証済みだ。
前のめりに倒れた蛇男は動かない。
「ふん! よくもデートの邪魔をしたわね」
もう少し言うことがなかったのかと後で反省した……
咄嗟に何も考えずにやったけど、もし外れていたらどうなったんだと思うと足が震える。
ひゃ~~! 私ってばなんちゅうことをっ! 草食動物のする事ではないわっ!
「死んでない……よね?」
どんな凶悪犯でも捕獲対象を死なせてしまう事はG・A・N・Pではご法度だ。
あ、蛇が動いてる。生きてるか。丈夫なH・Kでよかった……。
「ええと……」
気がつくと、呆然とした顔で数名の隊員たちが立ち尽くしていた。
そりゃびっくりだな。実働隊でもない白衣のちっこい女学者に目の前で凶暴H・Kを倒されちゃ。
またも開き直るしかない。誰かさんじゃないがもういいっ。
「あんた達何やってるの。まだ蛇動いてるわよ。ネットでもかけて早く連れてってよ」
「は、はいっ!」
よかったよかった。
……って! ウォレスさんはっ!?
「お……い」
植え込みの方から声がした。彼はまだ倒れたままだった。というより起き上がれなかったのだ。
あ、なんだかぐったりしてる。
必死だったとはいえ、渾身の力をこめて突き飛ばしたからなぁ。
そういや、衝撃もさけてねって女医さんに言われてたわねぇ……たらり。
「きゃ~っ! ごめんなさい~!」
私は慌てて抱き起こしにその場へ行って、うっ、と詰まった。
植え込みがあるから衝撃は少ないかと思っていたのに、丁度その場所にはベンチがあったのだ。
状況を察するに、一度ベンチに激突してから現在の場所に倒れて……って、おいっ!
彼は左肩を押さえている。右から押したんだから当たり前だが……
「ひょっとして、これにこっちから当たりました?」
「うん……そして前より痛い……」
私が超運の悪い常連さんを、再び医局に運んだのは言うまでもない。
幸いなことに、今回の犯人は私ではなく逃走H・Kということになったのでコワイ女医さんには叱られずにすんだものの……。
全治一週間が二週間になった。
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