狼さんの眼鏡~Wild in Blood番外編~

まりの

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11:で、どうなるんでしょう

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「マルカちゃん……遅かったですね」
 案の定、研究室ではユーリがふてくされていた。
「色々あってね」
「で、楽しかったですか? 憧れの狼さんとのデートは?」
 ううっ!
「……知ってたの?」
「ものすごい噂になってますからねぇ。僕も驚きましたよ。君が彼と付き合っていたとは。しかも痴話喧嘩で飛び蹴りをくらわしたとか?」
「だから、それは根拠のないただの噂で……」
「わかってますよ。でも、きっと明日あたり現場からスカウトに来ますよ。ウォレスさんを医局送りにして、凶悪H・Kをのした最強女ですからね。困りますね、ただでさえ研究班は手が足りないのに」
「……以後おしとやかにします。だからもう勘弁してよ~~」
 こいつは本当にちくちくと。でも噂を鵜呑みにするようなお馬鹿で無いことは確かだ。
「いっそウォレスさんにここの勤務になってもらえればいいんですがね」
「……それ本気で言ってるの?」
「本気ですとも。僕は公私は混同しませんよ。いかに自分よりモテる男で、愛しのマルカ姫の好きな人で、僕のかなわない恋のライバルだとしても、仕事が出来る人なら大歓迎です。もっとも現場の方が離してくれませんけどね」
しれっと今告白した? したよね?
「ユーリ……私は確かに彼は好きだし、あなたのその白々しい告白にもすぐには応えてあげられないかもしれないけど……彼と一緒に仕事だけはしたくないわ。他人や動物はおろか自分の遺伝子配列や何十億の構造分子まで空で覚えてる様な怖い人と。あれは人間業じゃないわ」
 しれっとソフトに即答は避けてみた。
「そ、それは怖いね」
「うん。そりゃもう。で、一ついいコト教えてあげるわ。私が異性でファーストネームで呼び捨てにして、年上相手にタメ口で喋ってるのって、あなただけだって知ってた? それに彼は私より年下よ」
「え……」
 でも、今はまだ……もうちょっとね。
 夢や恋や憧れと現実は違うのかもしれない。さっきまでは夢の中だったのだから。
 一日だけの夢。

 すっかり夜になった。研究室の大窓に映る自分の姿を見てみた。
 『人に言ってないで自分こそ鏡を見なさい』
 真っ赤な長い髪、けっこう白い肌。はっきりしたアーモンドみたいな大きな目。化粧はしないけど赤みの強い唇。広めのおでことやわらかそうな頬がちょっと子供っぽいけどチャームポイントかも。胸は残念な感じだけど、ウエストはまあまあのくびれ。そして、背が小さい割りに細くて長いこの脚。
 『本当に可愛い……』
 まだなんとなく唇に余韻が残ってる。
 ありがとう。キリシマ博士。私をこんなふうに作ってくれて……。

 翌日の昼ごろ、おそるおそるカフェに休憩に行くと見事によからぬ噂は払拭されていた。昨日は勘違いしてヒドイ事言ってごめんね~と謝られまでした。
 いったいウォレスさんはどんな魔法を使ったのだろう。
 その答えを聞いたのはさらに三日後、例の薬が完成してからだった。
「簡単な事だよ。噂は新しい噂で消せばいい。この本部で一番目と二番目にお喋りで、かつ影響力のある人に事実をありのまま話せば、あっという間に広まるよ」
 なるほどね。そういうことでしたか。そのお喋りさん達が誰かまでは明かしてくれなかったが、私の推理ではそのうちの一人は医局の女医さんだ。もうほとんど彼の怖いお母さんみたいだもの。
「さて、先日の解析の結果ですが、ヒト染色体9番と15番にごく小さな異常と損傷が見られました。まあ本人はすでに先日でお気づきかとは思いますが」
「XP(光線過敏)と瞳の虹彩の異常。まあこの色の目であること自体が異変だから、そこへ激務のストレスと服薬あたりが原因で9番に損傷が起きたのかな? 皮膚にはまだ発症してないけど……」
「珍しいパターンですが視神経に最初に出たみたいです。紫外線に弱い色の瞳ですから。元々の近視と乱視は手術で少しは回復するかもしれませんが、あなたは外まわりが多いのでこのままだとまたすぐ悪くなります。XPは昔は治療出来ない難病でしたが、現在は薬物治療で簡単に治せます。でも放っておくと全身の神経異常や皮膚乾癬も出てきます。肌が白いから目立ちますよ」
「白いって言うな。すごく気にしてるのに。そうか、少しでもと日焼けしようとしてたのが原因か……」
 おや、そんなところにコンプレックスがあったのか……ごめん。
「そんなわけで紫外線対策の薬が出来ましたので、しばらく使ってください」
「確かにXP用の完全防備とサングラスで仕事はしたくないからな」
 想像もつかんわっ。ってかこわいわ。宇宙服みたいなのを着たオオカミなんて。
 彼の前には約束のブルーベリーパイ。まだ腕が治ってないので手づかみだけど。嬉しそうね。
「で、話は戻りますが、先ほどの噂の件で。確かに噂は修正されましたが、新しい噂が上乗せされているのですが……あれは一体なんでしょう?」
「一緒にいるうちに本当に俺が君の事を好きになった……ってやつ? そのあたりはお姉様方に勝手に脚色されてしまったみたいだけどね」
「否定しなかったんですか?」
「否定して欲しかったのか?」
 ううっ……!
 どこまでが本心なのがわからないわ。う~ん、眼鏡が邪魔でイマイチ表情が読めない。かといってまた眼鏡が無くなるとえらいことになるし。
 でも……なんだか……あれぇ? 夢の続きあるかも? ユーリ、ごめん。
「あ、なんかまたドキドキしてるぞ」
「……その薬、私に告白した男が作りました。毒でない事を祈ります」
 彼の手から、ぽろっとパイが落ちた。

(END)
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