Dragon maze~Wild in Blood 2~

まりの

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翼蛇の章 後編

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「ルイ、暴れんなよ」
「だってぇ。こんなにお外がよくみえるの、はじめてなんだも~ん」
 なぜかオレの肩の上が定位置になったルイが嬉しそうに言った。
 そういえば、この子は今まで目がほとんど見えていなかったんだったな。今はちっちゃな眼鏡を作ってもらって、人並に見えている。
 うう、でもなんか、誰かさんにそっくりなのを肩車してるのって複雑な気分。誰が用意したのか、ミニサイズのG・A・N・Pの制服まで着せてもらって、もうご機嫌。
 ただし、一つだけ面白い所がある。おでこにデカイたんこぶと絆創膏。
「ごっちんこしちゃったから、音だせないよ」
 ぷぷっ。ボールを追いかけて走っていて、おもいっきり柱にぶつかったもんな。
「すぐに治る。泣かなかったから偉かったぞ。それに見えてるんだからいいじゃん」
「えへへ、そうだね。これね、パパとおそろいなんだって~」
 ルイが嬉しそうに言う。眼鏡がお揃いか。変な所が遺伝したな、ウォレスさん。
「はやく元気になるといいな」
 とりあえず命だけはあったから、ルイもやっと安心したようだ。
―――だが、今のところ回復の見込みはほぼ無い。その事はルイには内緒にしてある。
「パパが元気になるまで、オレと仲良くしてような」
「うん。カイにいちゃんだいすき~」
 ああっ、可愛いっ! オレも自分の子供が欲しくなって来た……といっても、出来れば仕事には連れて歩きたくはないけどな。
 オレ達は今、例の印による被害者の状況調査に来ている。
 一件目は近場で本部と同じバンコク市内。こちらの事件は、印が現れたのが肩だったため、弾けても命に別状は無く、本人に直接話を聞くことが出来た。
 被害者は地下作業に従事している若い男性で、見た目は普通の人間と変わらないが、オレと同じネコのA・Hだそうだ。暗がりでも目が利くからな。
「蛇の印が出てきた時は、正直嬉しかった。選ばれた者にだけ現れて、理想郷に連れていってもらえるって噂だったから。でも仕事中に突然弾けた」
「その時何か変わった事はありましたか?」
「別に。いつもとは違う穴に入っただけかな。地下配管の点検が僕の仕事なんだ。その日は、今は使われて無い昔の排水設備の調査に行った。他にもう二人いたけど、いつもの仕事仲間だし。それ以外はコウモリぐらいしかいなかったよ」
 ……メイファやウォレスさんと共通点なんか無いな。
「軽傷で済んで良かったですね」
「まあね、この世に理想郷なんて無いってわかったよ」
 彼は苦笑いでルイの頭を撫でた。
 二件目はバカンスで有名な島に船で渡った。
 一週間前、ここでショーダイバーをしていたイルカの若いA・Hが死亡したらしい。
 印が現れたのがこめかみだったのは不運だ。しかもこの海域にはサメも多い。話を聞いていて、思わずオレはルイの耳を塞いだ。
「そりゃ酷いもんだったよ。いつも彼が野生のイルカを呼んで、観光客に見せていたんだ。例の印が現れた次の日に、いつもと同じように泳ぎ始めた途端……集まって来たイルカ達が、サメを追い払ってくれたからそんなには齧られずに済んだのだが」
 そんなにはって……少しは齧られたんだな。ひぇえ~コワイ!
 話を聞いたのは観光船の船長。日焼けした逞しい男で、優しげな目が印象的だった。彼はノーマルタイプの人間だが、死亡したA・Hの若者を、息子のように可愛がっていたらしい。
「いい奴だったのに……何も悪いことなんかしてないのに」
 船長の目に涙が浮かぶのを見て、オレは胸が痛んだ。
「おじちゃん、なかないで」
 ルイがちっちゃな手を伸ばして船長の手に重ねる。
「ありがとな、チビさん。いい子だなぁ。兄さん、大事にしてやんなよ」
 船長に別れを告げて、オレ達は次へ向かうことにした。
 ここまで二つの事件を調査しても、謎はますます深まるばかりだ。オレの見た二件を合わせてみても、印が現れる体の部位も、破裂した状況も様々すぎる。共通点らしきものもみつからない。
「困ったなぁ、ルイ」
 オレの掛けた言葉に返事はなかった。移動のヘリの中、島の船長にもらった貝殻を大事そうに握ったまま、オレに凭れかかって寝ていた。
 オレの今の相棒はまだお昼寝の必要な歳なのだ。
 三件目。今度は少し離れて、旧カンボジアまで来た。
 大昔の有名な寺院の遺跡、アンコールワットの近くでガイドの手伝いをしていた女性が、五日前に重傷を負ったらしい。
 本人は入院中のため、夫であるホンさんから話を聞くことになった。
「事件の三日前、彼女は背中の開いた服を着ていて、突然チクリとしたらしくて。この辺りは毒虫も多いから、刺されていないかと私に見せた。確かめたら肩甲骨の上辺りに丸い印が……」
 この夫婦は最近結婚したばかりで、二人ともイヌのA・Hだ。優れた嗅覚や聴覚で遺跡周辺に異常が無いかを警備するのが仕事だそうだ。
「印が出てきたその日も、その翌日も異常はなかった。事件当日は、夕方、家の中にコウモリが入っていてね。遺跡にはコウモリが沢山いるからよく迷い込んでくる。追い払うのに彼女がホウキを振り回した後……」
「ぱん、って?」
「そう。命には別状は無かったものの大怪我だ。もう何が何だか」
 う~ん、今度は背中か……。
 でも少しだけ共通点がみつかった。今までの被害者のすべてが肌が露出している部分、そして今回の虫に刺されたみたいにちくっときたというのは、ウォレスさんの時と同じ。他の人は何も言わなかったが、虫刺され程度なら気にもとめないかもしれない。とはいえ、それ以外の共通点と言えば……。
 ん? コウモリ。そういえば、地下作業員の口からもコウモリの名前が出た。それでも、死んだ奴は海だったし、メイファの時も、ウォレスさんの時もコウモリはいなかった。
 とりあえず今日はここまでかと、オレ達はホンさん家から退去することにする。
「奥さん、早く良くなるといいですね」
「ありがとう。私達も早くこんな可愛い子が欲しいよ」
 ホンさんはそう言って、黙って大人しく話を聞いていたルイの頬を撫でた。その彼の腕にちらりと見えたのは!
「ちょっと、ホンさん、その二の腕……」
「え……あっ!」
 またもあの印が! 本人は今まで気がついていなかったのか大慌てだ。
「ど、どうしよう……私も妻のように?」
「わかりません。弾けるきっかけがわかったらすぐに連絡します。その印があっても、普通に生活している人も沢山います。でも、出来るだけ当日の奥さんと同じ行動だけはとらないで。関係ないかもしれませんが、コウモリには近づかないでください」
 ホンさんにそれだけ言い残して、大急ぎで本部に帰ることにした。

 コウモリ、イルカ……何かもやもやと形が見えてきた気がする。と言っても、オレの見た二件の事件現場には何もいなかった。
 いや、待て。イルカはいたぞ。フェイとルイが。でもさっきホンさんは何とも無かった。やっぱ思い違いかな――――だといいんだが。
 
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