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番外
思い出の品:飴とおはぎとサブレ・ディアマン(有紀side)
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いろんな匂いにいろんな音。いろんな色。いろんな人達。日本のお祭りって独特の雰囲気で楽しい。
神社の参道、道の両脇に並ぶ屋台や出店。勇ましい格好のお兄さん達が担いでいった神輿を見送った後、ふらふら二人で散策。
色あせたテントの出店、普段だったら絶対に欲しくないだろう安いおもちゃに夢中の子供達の声、呼び込みの声、甘い匂いに香ばしい匂い。すっごく体に悪そうなりんご飴のけばけばしい赤さえ美味しそうに見える。
「わあ、いいニオイ!」
醤油を焦がす香ばしい匂い。思わずお腹がぐうってなりそう。
「イカ焼きか。ビールを飲みたくなるな、この匂いは」
「なんかわかる」
今日は清さんと近くの神社の秋祭りに来たんだ。まだ秋って言っても日中はそこそこ暑いし、こんなに人が多いと熱気でホカホカ。確かに冷たいビールが恋しくなるのはわかる。
地元ではわりと有名な神社だから、お祭りもとっても賑やか。商売の神様だからって僕も誘われた。いつもは静かな場所なのに、今日はすごい人に目が回りそうだ。
はぐれたら嫌だから清さんの腕に手を回したら、やんわり退けられた。
「こら、流石に手を繋ぐのはちょっと……」
「えー、いいじゃないか。僕の事嫌い?」
「真っ昼間だし、その……知り合いも結構いるし」
ちょっと赤くなった清さんが可愛くて、抱きしめたい衝動に駆られたけど、ぐぐっと我慢。そっか、やっぱり清さんも人目を気にしたりするんだ。まだまだ同性が愛し合うのは普通に受けとってもらえない日本。特に顔見知りの前では肩身が狭いんだよね。
考えてみたら、清さんとまだ日も高い昼間の時間に一緒に近場で出歩くなんて初めてかも。夜一緒に食事や飲みに行ったりはあるし、朝からドライブに行ったことはあるけど、車の中は密室だし遠出してしまえば知ってる人はいない。それでも腕を組んだり手を繋いでは歩かない。
僕達は他の人から見たら一体どんな関係に見えるんだろう……そう考えはじめたら、何か少し胸がちくんとした。
歳が離れてる以前に、もっと根本的なところから違うのかもしれない。僕は普通に店の子に「恋人だよ」って言ったけど、冗談にしか受け取ってもらえなかったし、誰も信じてはくれない。お父さんと間違われたこともある。そして清さんは僕の事を他の人になんて説明するんだろう。
なんだか急に悲しくなって、それが顔に出てたのか、清さんが僕の肘をつんつんとつついた。
「その……嫌いじゃないけど……す、好きだけど……ほら、夫婦だったって大人は外で手をつないだりあまりしないだろ?」
「ああ、そっか。シャイだもんね、日本人」
いや僕も日本人なんだけどさ。ううっ、でもその嫌いじゃない好きだけどって言うの、超嬉しいんだけど。
ぴーひよろろっていう笛の音にどんどんと太鼓の音が遠くから聞こえる中、つかず離れずで一緒に歩く。見上げると真っ青な空、とっても気持ちがいい。悲しくなった気持ちは空みたいに晴れた気がする。でも……。
「清ぼん! 寄ってきなよ!」
声がかかって、振り返ると地元の人が出してるテントから手を振ってる年配の女の人が見えた。清ぼんって清さんの事だよね? この横で難しい顔してる和服のお侍みたいな人に「ぼん」って! ちっちゃい男の子の事だよね?
「き、清ぼん……」
「笑うなよ。親父の代からの知り合いで赤ん坊の時から見てるもんだから、この歳でもガキ扱いだ」
「く……笑って、ないよ?」
ダメだ、笑いを堪えてちょっとお腹が痛い。
「笑ってるじゃねぇか。ちょっと寄ってくる。すぐ戻るから動くなよ」
って、ええ? 置き去り? うそぉ。清さん走って行っちゃったし。
動くなって言われてもなぁ。こんな往来の真中でぼけっと立ってるのも邪魔になるよね?
どこか横にでも避けようかと思って辺りを見回してると、子供達のすごーいという声が耳に入った。それにこの甘い匂い。
匂いと声に引かれてその方へ向かってみると、お揃いの青い上着……えーとはっぴって言うんだったっけ? を着た幼稚園から小学生くらいの子供達が、一つの出店の前で一生懸命何かを見つめていた。
「わあ……!」
それは飴細工の店だった。細い棒の先に動物や鳥、飴で作られた色んな姿が飾ってある。そして目の前では今まさに職人さんがそれを作っているところだった。デモンストレーションして見せるんだな。これは面白い。
「次は何がいい? 恐竜さんか? 鳥さんか?」
店の人の声に、口々に色々と聞いたことも無いようなアニメのキャラクターらしき名前が飛び交う。
「うーん、おっちゃんはその妖怪なんとかは知らないな。勉強しとくな」
ぶーと子供達は不満気だ。そんな中、一人の小さな女の子が声を張り上げる。
「にゃんこ! にゃんこっ!」
そうの声に、店の人はにっこり笑った。動物が得意なんだろうか。見本に飾ってあるのは干支だろうか、虎や龍、イノシシなんか。後は花とか白鳥とかだもんね。中にはアニメのキャラクターもいるものの、全体に生き物が多い。
色が着けてあるのも見えるけど、ベースの飴は白か薄い何色かだけみたい。シャブロンだったらとっても可愛いだろうなと思った。
「うん、僕も猫がいいなぁ……」
思わず声を上げると、ちらと眼鏡越しに職人さんの目が僕を見た。お小遣いで買うには千円はちょっと高いからか、子供相手にはただ見せてるだけらしいけど、そうだよね、大人だったらお金を出して買わなきゃね。ポケットからお金を出して渡すと、毎度ありと更に笑みが深くなった。
「三毛猫、縞猫何がいい?」
「えっと……白い猫」
僕がそう言うと、にゃんこと声を上げていた女の子が小さな手を顔の前でパチパチと叩いて喜んでいる。可愛いなぁ。一緒に見ようね。
柔らかそうな白い飴を丸めて竹串に刺す職人さん。うわぁ、あれ絶対熱いよね。大丈夫なのかな。
手でくいくいと軽く成形して、小さなハサミを取り出した。清さんの家の裁縫箱にも入ってたね、あのハサミ。握りバサミっていうんだよね。チョキンととってもいい音がする。子供達もじーっとその手元に集中して見ている中……
「そろそろ集まって! 子供神輿がもうすぐ出るわよ!」
鉢巻の若いお姉さんが呼びに来て、子供達がわーっとそちらに走って行った。お兄ちゃんらしき大きい男の子に手を引かれながら、あの女の子は残念そうに振り返っている。
「また後で見においで」
職人さんが声を掛けると、女の子は笑顔になって手を振りながら行った。
わあわあなってた飴屋さんは急にがらんと人の気配が無くなってしまったが、それでも気にした様子もなく、ハサミでちょきちょきしながら引っ張ったり伸ばしたりして、細工を続ける職人さん。早く細工しないと硬くなっちゃうからね。棒に刺さった白いただの飴の塊だったものは、みるみるうちにスタイルのいい見事な猫に姿を変えた。ピンクの細い飴でリボンをつけるあたりが芸が細かい。
「目を入れて……と。あ、ヒゲも」
細い筆を使い、しゅしゅっと食紅で線を書く動作にも無駄が全くない。
「ほい。猫さんの完成だ。お客さんに似てるだろ?」
僕に飴を手渡して、職人さんはにっこり笑った。三十代半ばくらいだろうか。僕より年上みたいだけど、まだそんなに歳はいってない、清さんみたいに作務衣を着た、頭に日本手拭を被った眼鏡のわりと男前。ピアスと顎だけのヒゲがオシャレ。
白い猫はデフォルメされているのに、耳や尻尾まで精巧に出来ていた。首のピンクのリボンがとても可愛い。四本の足は今にも歩き出しそう。細い線で描かれた目もヒゲも笑ってるみたい。僕に似てるかはよくわからないけど……。
さっきの女の子にも最後まで見せてあげたかったな。
「すごいね、とっても素敵!」
「気に入った? 日本語上手だね」
僕、これでも一応日本人なんだけどな……見た目は母にしか似てないし、もう慣れちゃったから訂正するのも面倒なんで、まあいいか。
「今はあまり見かけなくなったけど、日本では昔からある飴細工だよ」
「伝統工芸ってやつ? すごく面白い。僕も飴細工を作るけど、全然方法が違う」
思わず言っちゃって、あっと思った。近い業種の人間って気を悪くしないだろうか。でも、職人さんは気にした様子も無かった。
「ま、でも冷えるまでの時間勝負なのは一緒だろ?」
「うん。でも素手で飴触るんだね。手袋しなくても火傷しないの?」
「熱いけど細かい事をしようと思ったら素手じゃないとね。温度もわかるし」
「ふうん……」
僕はシュクル・ティレ(引き飴)の時は手袋をはめる。それが普通だと思ってたけど、日本の職人さんってすごいな。ずっとやってたら手の皮が厚くなって熱さもあまり感じなくなるんだろうか?
「手、見せて?」
「いいよ」
ちょっとゴツゴツした男らしい手だけど、別に分厚いってワケでもない普通の手。何となく清さんの手の感触に似てる。清さんもお餅練ったるするの熱いって言ってたもんな。
「……」
えーと、僕、何やってるんだろうか。いきなり名前も知らない人の手を見せてって……失礼だろう。
慌てて放そうとすると、なぜか両手で握られて離れなくなってしまった。今度見られているのは僕の手の方だった。
「うわぁ、何この白い綺麗な手。柔らかくてスベスベだな。気持ちいい」
「あの……」
そ、そこまで撫で回さなくても……。
「あ、いたいた。待ってろって言ったのに。探したんだぞ。ゆう……」
後ろから清さんの声がして、僕は慌てて手を引き離した。別に疚しい事をしてたわけじゃないのだけど、他の男の人と手を繋いでいる所を清さんには見せたくなかった。
「あれ? 清彦さんじゃん」
「おう、吉田の勝ちゃんじゃねえか。さっきお袋さんに店の飴もらったぞ。へえ、細工の実演やってんだな」
この職人さん、清さんの知り合いなんだ。さっき呼び止めてたおばさんの息子なのか。じゃあ全然知らない人じゃないからいいか。
「見てたらすごく面白かったよ。ほら、猫を作ってもらったんだ」
「へぇ、可愛いな」
清さんにも見せてあげたら感心して見ている。こういうのも勉強だよね。
飴の職人さんが清さんに尋ねる。
「この男前、清彦さんの知り合い?」
「あ、ああ。隣町でケーキ屋をやってる……」
「パテシェの風間有紀です」
何となく清さんが説明しづらそうだったので、僕は自分で名乗った。
「へえ、パテシェなんだ。だから専門的なところに興味があったのか。ってことはアレか、歳からみても真ちゃんの友達?」
「いえ僕は……」
「そう、真の友達だ」
清さん……?
その後、清さんと飴屋さんがちょっと話をして、飾ってあった干支の龍もオマケだってくれたので、かわりに白い猫は、もしあの女の子が来たらあげてと置いておいた。
飴屋さんを後にして歩き出したのはいいけど、清さんとちょっと離れて歩く。僕は微妙にふくれっ面になっていたかもしれない。
「何怒ってるんだよ?」
「別に。怒ってなんか無い」
……怒ってるけどね。真とは仲直りしたし、今は確かに友達だけど、自分は全く他人みたいな言い方をして。僕との関係はそこまで人に隠さないといけないようなものなのだろうか。そんなに恥ずかしいのだろうか。そう思うと無性に腹が立った。
「どうせ、僕は真の友達だし」
「言葉のあやってやつだろ? なあ、機嫌直せよ。そうだ、店に帰ろう。いい物作っておいたから」
「物で釣ろうってしても駄目」
少し強めにそう言うと、清さんが立ち止まった。
「……じゃあ言うけど、俺だってちょっと怒ってるぞ。なんで勝ちゃんに嬉しそうに手を撫でられてたんだよ?」
清さんが怖い顔をしてる。見てたんだ。でもなんかちょっと……それって。
「清さん、ひょとしてヤキモチ妬いた?」
「んな事っ……!」
あ、俯いて赤くなった。
拗ねてる? うわあぁ、可愛いいいぃ! ヤバイ、理性が飛んでいきそう! もう外でも何でもいいや、とにかく抱きしめる。一応ギリギリのところで踏みとどまって、キスまではしなかったけど。
「おいっ! 人が見て……」
「大丈夫。僕、日本人に見えないらしいから」
ふふふ、この金髪に日本人に見えない顔も役に立つのだ。オーバーな事やったって「外国の人は大胆だね」で終わる。外でハグしようとキスしようと、これが普通なんだよって言えるから。実際は違ってもね。もっと早くから気がついていればよかった。
「清さん以外の人にもう触らせたりしないからねっ! ああっ、可愛いっ!」
ジタバタもがいてる清さんをもう離すもんかと、がっしりつかまえて店まで歩いた。ご機嫌なんか直ったを通り越して、舞い上がりそう。
その横を可愛らしい子供神輿がホイッスルと太鼓の響きと共に通り過ぎ、さっきの小さな女の子が手を振って笑っていた。
★
物で釣られないと言っていたわりに、目の前のお皿に並べられた「いい物」に僕はすでに釘付けにされている。清さんも経緯を説明するとご機嫌が直ったようだ。
「あんこのお餅大好き!」
「これはおはぎだ。食ったこと無いか?」
「うん。お餅じゃないの? おはぎ?」
「季節が違ったらぼたもちともいうけど、今は秋だから萩。中が餅じゃない」
そうなんだ、中がお餅じゃないんだ? 何だろう。あんこの他にきなこのと青のりらしき緑のもある。すごく美味しそう。
「ま、食ってみな」
いただきまーす。ではまず、このたっぷりあんこがついてるのを、ぱくっと。
ん? ホントだ。普通のお餅じゃない。ご飯? 潰してあるけど伸びない。
「おにぎりにも似てる。お餅より歯切れがよくて食べやすいね。美味しい!」
「腹減っただろ。いっぱい食え」
へへへ、言われなくてもいっぱい食べるよ! 僕は甘いものをいっぱい食べても太らない便利な体質だもんね……とか言ってたら、清さんに三十五過ぎたら知らないぞと言われた。でもまだ二十代だからね。
飾り気の無い素朴な舌触りに、じんわりと心が温かくなるような味。初めて食べたのに、何故か懐かしい気がする。きな粉の塗してあるやつは、ご飯の部分に刻んだ栗が混ぜてあって、中はこしあんだった。これも美味しいなぁ。
「ウチさ、じいさんの代から菓子屋だろ? ばあさんはメシは作っても甘い物は作らなかった。文句言われるから嫌だって言ってな。だがおはぎだけは唯一作ってくれた。なんつーかその……思い出の味ってやつかな」
「思い出の味……」
「おはぎは昔はどこの家でも作った。家庭によって味や形が違って面白かったんだぜ。こしあんでつくる家、中の飯が普通の米だけの家、きなこや青のりだけの家、一個で腹一杯になるくらいデカイ家とかさ。俺はばあさんが作ってくれるのが一番好きだった。もち米とうるち米が半々で飯がうっすら塩味でつき方も粗めに、店に出せない煮崩れすぎたつぶあんをたっぷりつけて」
そっか。このじんわり懐かしいって感じはそういうところから来てるのか。おばあさんの味。きっと色んな思い出が詰まった味なんだね。
「でもなぁ、俺が作るとやっぱりちょっと違うんだよな」
そう言いながらぱくんと清さんも一口食べた。
「思い出の味かぁ……僕も母の記憶はあまり無いけど、なぜかいつも缶にサブレを作って入れておいてくれて、すごく美味しかったのだけは覚えてる」
母は僕がまだ三歳の時に死んだから、顔すらも写真の中でしか覚えていない。でもいつも僕が泣いていると、可愛い絵の描いた缶を出してくれたのだけは覚えている。中にはさくさくしててとっても美味しいサブレが入っていた。
『メディカモン・プー・ラ・プルラール』(泣き虫のお薬)
そんな優しい声とともに思い出す味。
「僕も今は店に出すのによく作るけど、なんかね、僕が作ると気取った味になっちゃうんだ」
「気取った味か……そうかもな。俺のおはぎがばあさんのと違うのもそうかもしれない。やっぱ、素人と職人の違いなのかな」
味も記憶の中で少しずつ変わって行くものなのかもしれないけど、どうあっても同じ味は作れない。材料がどうのじゃなく、きっと作る人の気持が隠し味になっていると思うから。
仲直りしておはぎでお腹も膨れたし、表からまだお祭りの音の響いてくる清さんの店を後にして、今度は僕の店兼住居に行くことにした。誰か来るかもって思ったら、あんまりベタベタしていられないから。
僕の家の扉を閉めた途端、思わずキス。我慢してたんだよ、すごく。
「おい……」
「愛してるよ、清さん」
「どんだけストレートなんだよお前は」
呆れてるけど逃げないよね。なんかもう、キスする唇も鍵に合った鍵穴みたいにすごく自然に噛み合うんだ。
まあまだ昼間だし、いきなり押し倒してってほど僕はケダモノじゃない。一緒にいるだけでもすごく嬉しいから。夜までおあずけ。
何するでもなく本を見たり、話をしたり。大抵は仕事の話だけど内容なんかどうでもいい。同じ空間にいるというだけで僕には意味があるのだ。
どうしてこんなに好きになっちゃったんだろう。今でもそれが自分にもわからないんだけど、とにかくそのほんの些細な一挙一動、声まで全部全部が僕を刺激する。
映画なんかで、運命的な恋をして結婚する男女が生まれる前から一緒になる定めだった……みたいな台詞がある。僕は清さんにその定めみたいなのを感じる。言ったら清さんは笑って流すし、歳も離れてるのにって言う。だけどそんなの関係ないと思う。
それでも表では大ぴらに出来ないこの関係……。
何気なく話していて、清さんがもらってきた飴の話になった。
「これもまあ思い出の味の一つかな。飴屋の吉田さん家には、水飴を買いに行く親父に着いてって、よく切れっ端をもらった」
飴を眺める。色んな色の飴で人の顔。金太郎飴っていうんだよね。
「切っても切っても同じ顔……面白いな。でも難しいんだろうね」
「何だかんだで細かい細工は機械では出来ないんだってさ。見たらびっくりするぞ。色んな色の飴を絵になるように積み上げて、一抱えもあるようなでっかい塊にするんだ。それを伸ばして引っ張ってここまで細くするんだ。すごいよな」
そういえばテレビで見たことがある。練りとカットの工程以外は手作業。最近は様々な難しい柄もオーダーメイドで作れるらしいとはいえ、やっぱり全部職人さんの勘と技によるもの。こういうのって本当に日本人にしか出来ない技だよね。
一個摘んで口に放り込んだ。甘い素朴な味がした。
飴のついでに、あの勝っちゃんと呼ばれていた飴細工の職人さんの話になった。
「勝也はこの飴を作ってる吉田さんとこの末っ子だ。悪い奴じゃねぇし、ガキの頃から知ってるから気心は知れてるんだが……アイツも嫁さんももらわねぇでいるのは、やっぱ男しか駄目なクチだからなんだよ。しかもかなり手が早い」
「まあ何となく雰囲気でわかったけどね。やっぱりそうなんだ」
「ああ。だから、その……」
口籠っちゃう清さんが可愛いので、つい意地悪をしたくなってしまう。
「その人と僕が一緒にいたから面白くなかったんだね」
何にも言わずに小さく頷く清さん。もう、なんだろうな。このキュンとくる感じ。
「そうか、だから真の友達だって言ったんだ。ゴメンね、それで怒ったりして」
またこくり。少し頬が赤い気がして、堪らずぎゅーっと抱きしめる。外じゃないからか清さんも逃げない。難しい顔してるけどやはりこの人は可愛いや。
「でも清さんがヤキモチ妬いてくれるんなら、また会っちゃうかも」
「馬鹿、許さねぇからな絶対」
そしてまた重なる口唇。しばらく貪りあって口を離すと、うっとりしたみたいな目の清さんが吐息混じりに呟いた。
「甘い……」
「飴食べてたんだった」
もう一度キス。舌で少し小さくなった飴を清さんの口に送る。そしてまた返ってくる。
歯に当たってカランと微かな音をたてる飴。金太郎さんが舌の橋を通って二人の口を行ったり来たり。ただの甘いだけの飴が、とっても色っぽい味になった気がする。
小さくなって最後は僕が噛み砕いた。
キスの余韻でぼうっとする中、もう一個飴を掴んで見てみると、金太郎がちょっとエッチに笑っているように見えた。
「僕もこういうの作ってみたいな……」
でも飴ではここまで上手く出来ないだろうな……と、そこで僕はいい事思いついた。
思い出の味って話。僕の思い出の味、泣き虫のお薬。あれでダミエ柄(市松模様)やマーブルにするけど、考えてみたら金太郎飴の作り方に似ている。上手く顔に生地を組んだら、金太郎飴みたいになるよね。
思いついたらすぐ動かないと気がすまないんだよね、僕は。折角盛り上がってたところだけどまあいいや。
「ちょっと生地の仕込みしてくるから待ってて」
「え? 今?」
「うん。その間にシャワー浴びててね。結構暑かったから汗かいただろ?」
ふふふ、全身綺麗にして待っててね。美味しく食べてあげるから。
★
生地を作って長細い棒状に纏め、ラップにくるんで冷蔵庫に冷やすと仕込みが終わり。僕の勘と腕が確かなら、絶対に上手く出来るはず。
細工に少し時間がかかってしまったので、待たせて悪かったなーと思いながら部屋に戻ると、清さんはソファーにもたれかかってうとうとしてた。
今日も早くから起きてあのおはぎを作ってたんだろう。お祭りにも行ったし疲れたのかな。着替えの作務衣も浴衣も置いてあるけど、今日は僕が出しておいたグレーの部屋着の上下を着ている。和装以外の格好もよく似合うよ。
頬を撫でても清さんは起きない。シャワーを浴びてサラサラの肌。微かに石鹸の匂いがする。
くううっ、欲しい! 今すぐ食べてしまいたい! でもとりあえず我慢我慢。
僕も汗を流して着替えて来ると、目を擦りながら清さんがあくびをしてて、それにまたキュンと来ちゃったので、僕の我慢ももう限界。
「奥の部屋に行こう」
ちらと目に入った卓袱台の上の金太郎飴。その顔と目が合った気がする。
君も一緒に行きたい? じゃあ一緒に行こうか。
無言で抱き合って一緒にベッドに倒れ込む。折角着た服だけど、脱がしちゃう。ボタンを外すとむき出しになった胸とお腹が僕を誘う。
口唇を落とすと、ちょっとねちゃっとくっついた。
「あっ、お前また飴を口に入れたまんま……ベタベタになっちまうだろ」
「大丈夫だよ」
いけない金太郎さんを肌の上に転がす。なんかすごく新鮮で興奮する。
胸の突起はつんと立ってて、そこに飴が当たると清さんがぴくんと震えた。
こっちのちっちゃなボンボンもいただきますね。口に含んでれろれろっと舐めると、僕の頭を押さえるように回った清さんの手に力が篭った。
「んっ……」
熱い吐息が漏れる。
その仰け反った喉も顎も、全部全部舐めてあげる。甘い甘い僕の恋人。
くまなく全身を転げまわって清さんを一緒に責めた金太郎さんは、ここから先は進入禁止のところで胃袋に強制退場していただいた。清さんの中に入っていいのは僕だけだから。
ちょっと激しくしすぎたのか、清さんはぐったりしてベッドから起きられないみたいなので、休んでいてもらって僕は厨房に戻る。
冷蔵庫で寝かしておいた生地は丁度いい感じに固まっていた。その生地を荒いグラニュー糖を敷き詰めた台の上を転がしてキラキラのお化粧。砂糖の結晶が光るのが宝石みたいに見えるからディアマン(ダイヤモンド)。
上手く柄になったかな。ドキドキしながら一センチくらいの幅に切ってみると、丁度金太郎飴みたいに切っても切っても同じ柄に出来ていた。思わずにんまりしながら天板に並べてオーブンへ。
しばらくすると、ほろ苦いショコラと甘いバターの香りが厨房一杯に広がる。焼き菓子を作っていて、この瞬間が一番好き。ほんといい匂い。
焼き過ぎないように注意しながら取り出すと、とても素敵に出来上がった。
サブレは焼きたてより少し冷えたくらいがサクサクして美味しいんだけど、まあいいや。いっぱい喘いでお疲れみたいだから、何か飲んで焼きたてを一緒に食べよう。
二階に持って上がると、まだ少し疲れたような顔だったけど、起きてちゃんと服を着ている清さんが居間の方にいた。
「二階までいい匂いがした」
「でしょ? 焼きあがったよ、僕の思い出の味。おはぎのお返し」
お茶を入れてお菓子を盛った籠を目の前に置く。
「じゃーん! 金太郎飴風顔入りサブレ・ディアマンだよ」
我ながら上手に出来たと思う。ちゃんと思った位置に目鼻が来たし、ショコラ色の髪もいい。思ったより目の角度が下がっちゃったけど、これはこれで。周りのキラキラの砂糖は愛しい顔を飾る僕の愛!
「うっ!」
差し出したサブレを見て清さんが固まった。
「……怖い」
「なんでー? 可愛いだろ、笑顔の清さんがいっぱい」
「これ、やっぱ俺なのか……」
生地を転がして纏める時にちょっと目の角度が下がったのと、僅かに口が歪んだので、ニコニコ顔に見えるのだ。
「切っても切ってもおっさんの笑顔って洒落にならんぞ」
僕は素敵だと思うんだけどな。
切っても切っても同じ顔。これからの僕の時間、どこを切っても清さんがいる。そんな思いも籠めてあるんだよ。
大好きだよ、本当に大好き。食べちゃいたいくらい大好きだから、代わりにさくさくの清さんを食べちゃうよ。
「何か……自分だって言われたら齧られたら痛い気がする」
「あはは、じゃあもう一口齧ってやる。清さんをぱくっ」
「あいたた」
清さんがサブレの柄と同じにっこり笑顔になった。
やっぱり手作りサブレはお薬なんだと思う。サブレだけじゃない、清さんのおはぎも和菓子も、僕がつくるお菓子も、今日の飴屋さんの飴細工も金太郎飴も全部。甘いお菓子は笑顔のお薬。メディカモン・プー・ラ・スーリール。
こんな風に一緒にいろんな物をこれからも作って一緒に食べようね、清さん。いつかそれらが僕達の思い出の味になればいいよね。
神社の参道、道の両脇に並ぶ屋台や出店。勇ましい格好のお兄さん達が担いでいった神輿を見送った後、ふらふら二人で散策。
色あせたテントの出店、普段だったら絶対に欲しくないだろう安いおもちゃに夢中の子供達の声、呼び込みの声、甘い匂いに香ばしい匂い。すっごく体に悪そうなりんご飴のけばけばしい赤さえ美味しそうに見える。
「わあ、いいニオイ!」
醤油を焦がす香ばしい匂い。思わずお腹がぐうってなりそう。
「イカ焼きか。ビールを飲みたくなるな、この匂いは」
「なんかわかる」
今日は清さんと近くの神社の秋祭りに来たんだ。まだ秋って言っても日中はそこそこ暑いし、こんなに人が多いと熱気でホカホカ。確かに冷たいビールが恋しくなるのはわかる。
地元ではわりと有名な神社だから、お祭りもとっても賑やか。商売の神様だからって僕も誘われた。いつもは静かな場所なのに、今日はすごい人に目が回りそうだ。
はぐれたら嫌だから清さんの腕に手を回したら、やんわり退けられた。
「こら、流石に手を繋ぐのはちょっと……」
「えー、いいじゃないか。僕の事嫌い?」
「真っ昼間だし、その……知り合いも結構いるし」
ちょっと赤くなった清さんが可愛くて、抱きしめたい衝動に駆られたけど、ぐぐっと我慢。そっか、やっぱり清さんも人目を気にしたりするんだ。まだまだ同性が愛し合うのは普通に受けとってもらえない日本。特に顔見知りの前では肩身が狭いんだよね。
考えてみたら、清さんとまだ日も高い昼間の時間に一緒に近場で出歩くなんて初めてかも。夜一緒に食事や飲みに行ったりはあるし、朝からドライブに行ったことはあるけど、車の中は密室だし遠出してしまえば知ってる人はいない。それでも腕を組んだり手を繋いでは歩かない。
僕達は他の人から見たら一体どんな関係に見えるんだろう……そう考えはじめたら、何か少し胸がちくんとした。
歳が離れてる以前に、もっと根本的なところから違うのかもしれない。僕は普通に店の子に「恋人だよ」って言ったけど、冗談にしか受け取ってもらえなかったし、誰も信じてはくれない。お父さんと間違われたこともある。そして清さんは僕の事を他の人になんて説明するんだろう。
なんだか急に悲しくなって、それが顔に出てたのか、清さんが僕の肘をつんつんとつついた。
「その……嫌いじゃないけど……す、好きだけど……ほら、夫婦だったって大人は外で手をつないだりあまりしないだろ?」
「ああ、そっか。シャイだもんね、日本人」
いや僕も日本人なんだけどさ。ううっ、でもその嫌いじゃない好きだけどって言うの、超嬉しいんだけど。
ぴーひよろろっていう笛の音にどんどんと太鼓の音が遠くから聞こえる中、つかず離れずで一緒に歩く。見上げると真っ青な空、とっても気持ちがいい。悲しくなった気持ちは空みたいに晴れた気がする。でも……。
「清ぼん! 寄ってきなよ!」
声がかかって、振り返ると地元の人が出してるテントから手を振ってる年配の女の人が見えた。清ぼんって清さんの事だよね? この横で難しい顔してる和服のお侍みたいな人に「ぼん」って! ちっちゃい男の子の事だよね?
「き、清ぼん……」
「笑うなよ。親父の代からの知り合いで赤ん坊の時から見てるもんだから、この歳でもガキ扱いだ」
「く……笑って、ないよ?」
ダメだ、笑いを堪えてちょっとお腹が痛い。
「笑ってるじゃねぇか。ちょっと寄ってくる。すぐ戻るから動くなよ」
って、ええ? 置き去り? うそぉ。清さん走って行っちゃったし。
動くなって言われてもなぁ。こんな往来の真中でぼけっと立ってるのも邪魔になるよね?
どこか横にでも避けようかと思って辺りを見回してると、子供達のすごーいという声が耳に入った。それにこの甘い匂い。
匂いと声に引かれてその方へ向かってみると、お揃いの青い上着……えーとはっぴって言うんだったっけ? を着た幼稚園から小学生くらいの子供達が、一つの出店の前で一生懸命何かを見つめていた。
「わあ……!」
それは飴細工の店だった。細い棒の先に動物や鳥、飴で作られた色んな姿が飾ってある。そして目の前では今まさに職人さんがそれを作っているところだった。デモンストレーションして見せるんだな。これは面白い。
「次は何がいい? 恐竜さんか? 鳥さんか?」
店の人の声に、口々に色々と聞いたことも無いようなアニメのキャラクターらしき名前が飛び交う。
「うーん、おっちゃんはその妖怪なんとかは知らないな。勉強しとくな」
ぶーと子供達は不満気だ。そんな中、一人の小さな女の子が声を張り上げる。
「にゃんこ! にゃんこっ!」
そうの声に、店の人はにっこり笑った。動物が得意なんだろうか。見本に飾ってあるのは干支だろうか、虎や龍、イノシシなんか。後は花とか白鳥とかだもんね。中にはアニメのキャラクターもいるものの、全体に生き物が多い。
色が着けてあるのも見えるけど、ベースの飴は白か薄い何色かだけみたい。シャブロンだったらとっても可愛いだろうなと思った。
「うん、僕も猫がいいなぁ……」
思わず声を上げると、ちらと眼鏡越しに職人さんの目が僕を見た。お小遣いで買うには千円はちょっと高いからか、子供相手にはただ見せてるだけらしいけど、そうだよね、大人だったらお金を出して買わなきゃね。ポケットからお金を出して渡すと、毎度ありと更に笑みが深くなった。
「三毛猫、縞猫何がいい?」
「えっと……白い猫」
僕がそう言うと、にゃんこと声を上げていた女の子が小さな手を顔の前でパチパチと叩いて喜んでいる。可愛いなぁ。一緒に見ようね。
柔らかそうな白い飴を丸めて竹串に刺す職人さん。うわぁ、あれ絶対熱いよね。大丈夫なのかな。
手でくいくいと軽く成形して、小さなハサミを取り出した。清さんの家の裁縫箱にも入ってたね、あのハサミ。握りバサミっていうんだよね。チョキンととってもいい音がする。子供達もじーっとその手元に集中して見ている中……
「そろそろ集まって! 子供神輿がもうすぐ出るわよ!」
鉢巻の若いお姉さんが呼びに来て、子供達がわーっとそちらに走って行った。お兄ちゃんらしき大きい男の子に手を引かれながら、あの女の子は残念そうに振り返っている。
「また後で見においで」
職人さんが声を掛けると、女の子は笑顔になって手を振りながら行った。
わあわあなってた飴屋さんは急にがらんと人の気配が無くなってしまったが、それでも気にした様子もなく、ハサミでちょきちょきしながら引っ張ったり伸ばしたりして、細工を続ける職人さん。早く細工しないと硬くなっちゃうからね。棒に刺さった白いただの飴の塊だったものは、みるみるうちにスタイルのいい見事な猫に姿を変えた。ピンクの細い飴でリボンをつけるあたりが芸が細かい。
「目を入れて……と。あ、ヒゲも」
細い筆を使い、しゅしゅっと食紅で線を書く動作にも無駄が全くない。
「ほい。猫さんの完成だ。お客さんに似てるだろ?」
僕に飴を手渡して、職人さんはにっこり笑った。三十代半ばくらいだろうか。僕より年上みたいだけど、まだそんなに歳はいってない、清さんみたいに作務衣を着た、頭に日本手拭を被った眼鏡のわりと男前。ピアスと顎だけのヒゲがオシャレ。
白い猫はデフォルメされているのに、耳や尻尾まで精巧に出来ていた。首のピンクのリボンがとても可愛い。四本の足は今にも歩き出しそう。細い線で描かれた目もヒゲも笑ってるみたい。僕に似てるかはよくわからないけど……。
さっきの女の子にも最後まで見せてあげたかったな。
「すごいね、とっても素敵!」
「気に入った? 日本語上手だね」
僕、これでも一応日本人なんだけどな……見た目は母にしか似てないし、もう慣れちゃったから訂正するのも面倒なんで、まあいいか。
「今はあまり見かけなくなったけど、日本では昔からある飴細工だよ」
「伝統工芸ってやつ? すごく面白い。僕も飴細工を作るけど、全然方法が違う」
思わず言っちゃって、あっと思った。近い業種の人間って気を悪くしないだろうか。でも、職人さんは気にした様子も無かった。
「ま、でも冷えるまでの時間勝負なのは一緒だろ?」
「うん。でも素手で飴触るんだね。手袋しなくても火傷しないの?」
「熱いけど細かい事をしようと思ったら素手じゃないとね。温度もわかるし」
「ふうん……」
僕はシュクル・ティレ(引き飴)の時は手袋をはめる。それが普通だと思ってたけど、日本の職人さんってすごいな。ずっとやってたら手の皮が厚くなって熱さもあまり感じなくなるんだろうか?
「手、見せて?」
「いいよ」
ちょっとゴツゴツした男らしい手だけど、別に分厚いってワケでもない普通の手。何となく清さんの手の感触に似てる。清さんもお餅練ったるするの熱いって言ってたもんな。
「……」
えーと、僕、何やってるんだろうか。いきなり名前も知らない人の手を見せてって……失礼だろう。
慌てて放そうとすると、なぜか両手で握られて離れなくなってしまった。今度見られているのは僕の手の方だった。
「うわぁ、何この白い綺麗な手。柔らかくてスベスベだな。気持ちいい」
「あの……」
そ、そこまで撫で回さなくても……。
「あ、いたいた。待ってろって言ったのに。探したんだぞ。ゆう……」
後ろから清さんの声がして、僕は慌てて手を引き離した。別に疚しい事をしてたわけじゃないのだけど、他の男の人と手を繋いでいる所を清さんには見せたくなかった。
「あれ? 清彦さんじゃん」
「おう、吉田の勝ちゃんじゃねえか。さっきお袋さんに店の飴もらったぞ。へえ、細工の実演やってんだな」
この職人さん、清さんの知り合いなんだ。さっき呼び止めてたおばさんの息子なのか。じゃあ全然知らない人じゃないからいいか。
「見てたらすごく面白かったよ。ほら、猫を作ってもらったんだ」
「へぇ、可愛いな」
清さんにも見せてあげたら感心して見ている。こういうのも勉強だよね。
飴の職人さんが清さんに尋ねる。
「この男前、清彦さんの知り合い?」
「あ、ああ。隣町でケーキ屋をやってる……」
「パテシェの風間有紀です」
何となく清さんが説明しづらそうだったので、僕は自分で名乗った。
「へえ、パテシェなんだ。だから専門的なところに興味があったのか。ってことはアレか、歳からみても真ちゃんの友達?」
「いえ僕は……」
「そう、真の友達だ」
清さん……?
その後、清さんと飴屋さんがちょっと話をして、飾ってあった干支の龍もオマケだってくれたので、かわりに白い猫は、もしあの女の子が来たらあげてと置いておいた。
飴屋さんを後にして歩き出したのはいいけど、清さんとちょっと離れて歩く。僕は微妙にふくれっ面になっていたかもしれない。
「何怒ってるんだよ?」
「別に。怒ってなんか無い」
……怒ってるけどね。真とは仲直りしたし、今は確かに友達だけど、自分は全く他人みたいな言い方をして。僕との関係はそこまで人に隠さないといけないようなものなのだろうか。そんなに恥ずかしいのだろうか。そう思うと無性に腹が立った。
「どうせ、僕は真の友達だし」
「言葉のあやってやつだろ? なあ、機嫌直せよ。そうだ、店に帰ろう。いい物作っておいたから」
「物で釣ろうってしても駄目」
少し強めにそう言うと、清さんが立ち止まった。
「……じゃあ言うけど、俺だってちょっと怒ってるぞ。なんで勝ちゃんに嬉しそうに手を撫でられてたんだよ?」
清さんが怖い顔をしてる。見てたんだ。でもなんかちょっと……それって。
「清さん、ひょとしてヤキモチ妬いた?」
「んな事っ……!」
あ、俯いて赤くなった。
拗ねてる? うわあぁ、可愛いいいぃ! ヤバイ、理性が飛んでいきそう! もう外でも何でもいいや、とにかく抱きしめる。一応ギリギリのところで踏みとどまって、キスまではしなかったけど。
「おいっ! 人が見て……」
「大丈夫。僕、日本人に見えないらしいから」
ふふふ、この金髪に日本人に見えない顔も役に立つのだ。オーバーな事やったって「外国の人は大胆だね」で終わる。外でハグしようとキスしようと、これが普通なんだよって言えるから。実際は違ってもね。もっと早くから気がついていればよかった。
「清さん以外の人にもう触らせたりしないからねっ! ああっ、可愛いっ!」
ジタバタもがいてる清さんをもう離すもんかと、がっしりつかまえて店まで歩いた。ご機嫌なんか直ったを通り越して、舞い上がりそう。
その横を可愛らしい子供神輿がホイッスルと太鼓の響きと共に通り過ぎ、さっきの小さな女の子が手を振って笑っていた。
★
物で釣られないと言っていたわりに、目の前のお皿に並べられた「いい物」に僕はすでに釘付けにされている。清さんも経緯を説明するとご機嫌が直ったようだ。
「あんこのお餅大好き!」
「これはおはぎだ。食ったこと無いか?」
「うん。お餅じゃないの? おはぎ?」
「季節が違ったらぼたもちともいうけど、今は秋だから萩。中が餅じゃない」
そうなんだ、中がお餅じゃないんだ? 何だろう。あんこの他にきなこのと青のりらしき緑のもある。すごく美味しそう。
「ま、食ってみな」
いただきまーす。ではまず、このたっぷりあんこがついてるのを、ぱくっと。
ん? ホントだ。普通のお餅じゃない。ご飯? 潰してあるけど伸びない。
「おにぎりにも似てる。お餅より歯切れがよくて食べやすいね。美味しい!」
「腹減っただろ。いっぱい食え」
へへへ、言われなくてもいっぱい食べるよ! 僕は甘いものをいっぱい食べても太らない便利な体質だもんね……とか言ってたら、清さんに三十五過ぎたら知らないぞと言われた。でもまだ二十代だからね。
飾り気の無い素朴な舌触りに、じんわりと心が温かくなるような味。初めて食べたのに、何故か懐かしい気がする。きな粉の塗してあるやつは、ご飯の部分に刻んだ栗が混ぜてあって、中はこしあんだった。これも美味しいなぁ。
「ウチさ、じいさんの代から菓子屋だろ? ばあさんはメシは作っても甘い物は作らなかった。文句言われるから嫌だって言ってな。だがおはぎだけは唯一作ってくれた。なんつーかその……思い出の味ってやつかな」
「思い出の味……」
「おはぎは昔はどこの家でも作った。家庭によって味や形が違って面白かったんだぜ。こしあんでつくる家、中の飯が普通の米だけの家、きなこや青のりだけの家、一個で腹一杯になるくらいデカイ家とかさ。俺はばあさんが作ってくれるのが一番好きだった。もち米とうるち米が半々で飯がうっすら塩味でつき方も粗めに、店に出せない煮崩れすぎたつぶあんをたっぷりつけて」
そっか。このじんわり懐かしいって感じはそういうところから来てるのか。おばあさんの味。きっと色んな思い出が詰まった味なんだね。
「でもなぁ、俺が作るとやっぱりちょっと違うんだよな」
そう言いながらぱくんと清さんも一口食べた。
「思い出の味かぁ……僕も母の記憶はあまり無いけど、なぜかいつも缶にサブレを作って入れておいてくれて、すごく美味しかったのだけは覚えてる」
母は僕がまだ三歳の時に死んだから、顔すらも写真の中でしか覚えていない。でもいつも僕が泣いていると、可愛い絵の描いた缶を出してくれたのだけは覚えている。中にはさくさくしててとっても美味しいサブレが入っていた。
『メディカモン・プー・ラ・プルラール』(泣き虫のお薬)
そんな優しい声とともに思い出す味。
「僕も今は店に出すのによく作るけど、なんかね、僕が作ると気取った味になっちゃうんだ」
「気取った味か……そうかもな。俺のおはぎがばあさんのと違うのもそうかもしれない。やっぱ、素人と職人の違いなのかな」
味も記憶の中で少しずつ変わって行くものなのかもしれないけど、どうあっても同じ味は作れない。材料がどうのじゃなく、きっと作る人の気持が隠し味になっていると思うから。
仲直りしておはぎでお腹も膨れたし、表からまだお祭りの音の響いてくる清さんの店を後にして、今度は僕の店兼住居に行くことにした。誰か来るかもって思ったら、あんまりベタベタしていられないから。
僕の家の扉を閉めた途端、思わずキス。我慢してたんだよ、すごく。
「おい……」
「愛してるよ、清さん」
「どんだけストレートなんだよお前は」
呆れてるけど逃げないよね。なんかもう、キスする唇も鍵に合った鍵穴みたいにすごく自然に噛み合うんだ。
まあまだ昼間だし、いきなり押し倒してってほど僕はケダモノじゃない。一緒にいるだけでもすごく嬉しいから。夜までおあずけ。
何するでもなく本を見たり、話をしたり。大抵は仕事の話だけど内容なんかどうでもいい。同じ空間にいるというだけで僕には意味があるのだ。
どうしてこんなに好きになっちゃったんだろう。今でもそれが自分にもわからないんだけど、とにかくそのほんの些細な一挙一動、声まで全部全部が僕を刺激する。
映画なんかで、運命的な恋をして結婚する男女が生まれる前から一緒になる定めだった……みたいな台詞がある。僕は清さんにその定めみたいなのを感じる。言ったら清さんは笑って流すし、歳も離れてるのにって言う。だけどそんなの関係ないと思う。
それでも表では大ぴらに出来ないこの関係……。
何気なく話していて、清さんがもらってきた飴の話になった。
「これもまあ思い出の味の一つかな。飴屋の吉田さん家には、水飴を買いに行く親父に着いてって、よく切れっ端をもらった」
飴を眺める。色んな色の飴で人の顔。金太郎飴っていうんだよね。
「切っても切っても同じ顔……面白いな。でも難しいんだろうね」
「何だかんだで細かい細工は機械では出来ないんだってさ。見たらびっくりするぞ。色んな色の飴を絵になるように積み上げて、一抱えもあるようなでっかい塊にするんだ。それを伸ばして引っ張ってここまで細くするんだ。すごいよな」
そういえばテレビで見たことがある。練りとカットの工程以外は手作業。最近は様々な難しい柄もオーダーメイドで作れるらしいとはいえ、やっぱり全部職人さんの勘と技によるもの。こういうのって本当に日本人にしか出来ない技だよね。
一個摘んで口に放り込んだ。甘い素朴な味がした。
飴のついでに、あの勝っちゃんと呼ばれていた飴細工の職人さんの話になった。
「勝也はこの飴を作ってる吉田さんとこの末っ子だ。悪い奴じゃねぇし、ガキの頃から知ってるから気心は知れてるんだが……アイツも嫁さんももらわねぇでいるのは、やっぱ男しか駄目なクチだからなんだよ。しかもかなり手が早い」
「まあ何となく雰囲気でわかったけどね。やっぱりそうなんだ」
「ああ。だから、その……」
口籠っちゃう清さんが可愛いので、つい意地悪をしたくなってしまう。
「その人と僕が一緒にいたから面白くなかったんだね」
何にも言わずに小さく頷く清さん。もう、なんだろうな。このキュンとくる感じ。
「そうか、だから真の友達だって言ったんだ。ゴメンね、それで怒ったりして」
またこくり。少し頬が赤い気がして、堪らずぎゅーっと抱きしめる。外じゃないからか清さんも逃げない。難しい顔してるけどやはりこの人は可愛いや。
「でも清さんがヤキモチ妬いてくれるんなら、また会っちゃうかも」
「馬鹿、許さねぇからな絶対」
そしてまた重なる口唇。しばらく貪りあって口を離すと、うっとりしたみたいな目の清さんが吐息混じりに呟いた。
「甘い……」
「飴食べてたんだった」
もう一度キス。舌で少し小さくなった飴を清さんの口に送る。そしてまた返ってくる。
歯に当たってカランと微かな音をたてる飴。金太郎さんが舌の橋を通って二人の口を行ったり来たり。ただの甘いだけの飴が、とっても色っぽい味になった気がする。
小さくなって最後は僕が噛み砕いた。
キスの余韻でぼうっとする中、もう一個飴を掴んで見てみると、金太郎がちょっとエッチに笑っているように見えた。
「僕もこういうの作ってみたいな……」
でも飴ではここまで上手く出来ないだろうな……と、そこで僕はいい事思いついた。
思い出の味って話。僕の思い出の味、泣き虫のお薬。あれでダミエ柄(市松模様)やマーブルにするけど、考えてみたら金太郎飴の作り方に似ている。上手く顔に生地を組んだら、金太郎飴みたいになるよね。
思いついたらすぐ動かないと気がすまないんだよね、僕は。折角盛り上がってたところだけどまあいいや。
「ちょっと生地の仕込みしてくるから待ってて」
「え? 今?」
「うん。その間にシャワー浴びててね。結構暑かったから汗かいただろ?」
ふふふ、全身綺麗にして待っててね。美味しく食べてあげるから。
★
生地を作って長細い棒状に纏め、ラップにくるんで冷蔵庫に冷やすと仕込みが終わり。僕の勘と腕が確かなら、絶対に上手く出来るはず。
細工に少し時間がかかってしまったので、待たせて悪かったなーと思いながら部屋に戻ると、清さんはソファーにもたれかかってうとうとしてた。
今日も早くから起きてあのおはぎを作ってたんだろう。お祭りにも行ったし疲れたのかな。着替えの作務衣も浴衣も置いてあるけど、今日は僕が出しておいたグレーの部屋着の上下を着ている。和装以外の格好もよく似合うよ。
頬を撫でても清さんは起きない。シャワーを浴びてサラサラの肌。微かに石鹸の匂いがする。
くううっ、欲しい! 今すぐ食べてしまいたい! でもとりあえず我慢我慢。
僕も汗を流して着替えて来ると、目を擦りながら清さんがあくびをしてて、それにまたキュンと来ちゃったので、僕の我慢ももう限界。
「奥の部屋に行こう」
ちらと目に入った卓袱台の上の金太郎飴。その顔と目が合った気がする。
君も一緒に行きたい? じゃあ一緒に行こうか。
無言で抱き合って一緒にベッドに倒れ込む。折角着た服だけど、脱がしちゃう。ボタンを外すとむき出しになった胸とお腹が僕を誘う。
口唇を落とすと、ちょっとねちゃっとくっついた。
「あっ、お前また飴を口に入れたまんま……ベタベタになっちまうだろ」
「大丈夫だよ」
いけない金太郎さんを肌の上に転がす。なんかすごく新鮮で興奮する。
胸の突起はつんと立ってて、そこに飴が当たると清さんがぴくんと震えた。
こっちのちっちゃなボンボンもいただきますね。口に含んでれろれろっと舐めると、僕の頭を押さえるように回った清さんの手に力が篭った。
「んっ……」
熱い吐息が漏れる。
その仰け反った喉も顎も、全部全部舐めてあげる。甘い甘い僕の恋人。
くまなく全身を転げまわって清さんを一緒に責めた金太郎さんは、ここから先は進入禁止のところで胃袋に強制退場していただいた。清さんの中に入っていいのは僕だけだから。
ちょっと激しくしすぎたのか、清さんはぐったりしてベッドから起きられないみたいなので、休んでいてもらって僕は厨房に戻る。
冷蔵庫で寝かしておいた生地は丁度いい感じに固まっていた。その生地を荒いグラニュー糖を敷き詰めた台の上を転がしてキラキラのお化粧。砂糖の結晶が光るのが宝石みたいに見えるからディアマン(ダイヤモンド)。
上手く柄になったかな。ドキドキしながら一センチくらいの幅に切ってみると、丁度金太郎飴みたいに切っても切っても同じ柄に出来ていた。思わずにんまりしながら天板に並べてオーブンへ。
しばらくすると、ほろ苦いショコラと甘いバターの香りが厨房一杯に広がる。焼き菓子を作っていて、この瞬間が一番好き。ほんといい匂い。
焼き過ぎないように注意しながら取り出すと、とても素敵に出来上がった。
サブレは焼きたてより少し冷えたくらいがサクサクして美味しいんだけど、まあいいや。いっぱい喘いでお疲れみたいだから、何か飲んで焼きたてを一緒に食べよう。
二階に持って上がると、まだ少し疲れたような顔だったけど、起きてちゃんと服を着ている清さんが居間の方にいた。
「二階までいい匂いがした」
「でしょ? 焼きあがったよ、僕の思い出の味。おはぎのお返し」
お茶を入れてお菓子を盛った籠を目の前に置く。
「じゃーん! 金太郎飴風顔入りサブレ・ディアマンだよ」
我ながら上手に出来たと思う。ちゃんと思った位置に目鼻が来たし、ショコラ色の髪もいい。思ったより目の角度が下がっちゃったけど、これはこれで。周りのキラキラの砂糖は愛しい顔を飾る僕の愛!
「うっ!」
差し出したサブレを見て清さんが固まった。
「……怖い」
「なんでー? 可愛いだろ、笑顔の清さんがいっぱい」
「これ、やっぱ俺なのか……」
生地を転がして纏める時にちょっと目の角度が下がったのと、僅かに口が歪んだので、ニコニコ顔に見えるのだ。
「切っても切ってもおっさんの笑顔って洒落にならんぞ」
僕は素敵だと思うんだけどな。
切っても切っても同じ顔。これからの僕の時間、どこを切っても清さんがいる。そんな思いも籠めてあるんだよ。
大好きだよ、本当に大好き。食べちゃいたいくらい大好きだから、代わりにさくさくの清さんを食べちゃうよ。
「何か……自分だって言われたら齧られたら痛い気がする」
「あはは、じゃあもう一口齧ってやる。清さんをぱくっ」
「あいたた」
清さんがサブレの柄と同じにっこり笑顔になった。
やっぱり手作りサブレはお薬なんだと思う。サブレだけじゃない、清さんのおはぎも和菓子も、僕がつくるお菓子も、今日の飴屋さんの飴細工も金太郎飴も全部。甘いお菓子は笑顔のお薬。メディカモン・プー・ラ・スーリール。
こんな風に一緒にいろんな物をこれからも作って一緒に食べようね、清さん。いつかそれらが僕達の思い出の味になればいいよね。
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