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4.
僕は光穂の家の前に立っていた。
昨日彼女からなんの連絡もなかったが、また自分1人で行くと言い張っているに違いないと思ったからだった。
インターホンを押すと、彼女の母親であるすみれさんが出てきた。
光穂は成長するにつれ子供の頃からよく会っているその人に似てきていると思う。
くっきりとした二重と印象深い黒目がちな瞳、そして綺麗な輪郭や薄めの唇も。
「光穂を迎えに来ました」
そう言うとすみれさんは驚いたような、申し訳なさそうな顔をして、彼女は10分ほど前に1人で駅に向かってしまったと教えてくれた。
お辞儀をして車に戻り、駅に車を向かわせられないかと運転をする父に頼んだ。
父は光穂を、付き合ったりしないのか、などと言ってくるくらい気に入っているのですぐに車をUターンさせる。
駅のロータリーに車を停め、僕は駅の階段を駆け上がる。
朝早い時間だが駅には多くの人が忙しく行き交う。
スーツを着てキャリーケースを引っ張るサラリーマンや、時計を気にしながらずんずんと歩いていく学生……似てる制服の人を見かけては目が吸い寄せられる、が、光穂はなかなか見つからない。
小走りで進みながら首と目をくるくると動かす。
いた!
あの制服、あの後ろ姿……しかし、近付いていた足が自然と止まった。
彼女が昨日学校までおぶって来ていた男性と楽しそうに話していたからだ。
なんだかすごく距離が近いように思える。
もしかしたら僕の“普通の距離”の感覚がおかしいだけかもしれないけれど。
彼女らは向かい合って笑っていた。
光穂は口に当てた手よりも大きく口を開けていて、その真っ白で綺麗に並んだ歯が見えた。
足も口も動けないでいるうちに男性の方と目が合い、僕の方を指で示しながらなにかを光穂に言った。
そして男性は僕にも手を振りながら学校とは反対方向に歩いて行き、光穂は男性に向かって深々とお辞儀しながら僕の方に歩いて来た。
男性の方に視線を移した彼女の横顔。
それは今まで見てきたどの横顔よりも淋しそうに見えて、僕の心は爪楊枝が1本刺さったようなチクリとした痛みを感じた。
「あの人ね」
光穂がつぶやくように淋しさを含んだ沈黙を破る。
「写真家なんだって」
初めて知り合った写真家という職業の人に彼女はとても興味を持っているようだった。
僕の心臓にはチリチリした焦げるような痛みが走る。
「写真なんて、光穂は見られなくてつらいだけじゃないか」
「……うん、そうだね、ごめん」
つい感情に任せて出た言葉。
僕は彼女にそんな言葉を浴びせてしまったことを後悔した。
例えば、もちろん音楽鑑賞はできないけれど、クラシックのコンサートなどでは周りの観客の瞳の輝きや頬に表れる高揚感から、つまり視覚から音楽鑑賞を楽しめる。
ゆえに僕は「どうせ耳が聞こえないんだから」というような言葉をひどく嫌った。
それなのに僕は同じようなことを言ってしまった。
それを聞いた彼女は作り笑いをしていたが、その奥の悲しみの感情がありありと読み取れた。
とりあえず父の車まで誘導し、僕らは無言のまま車に乗り込み学校に向かった。
昨日彼女からなんの連絡もなかったが、また自分1人で行くと言い張っているに違いないと思ったからだった。
インターホンを押すと、彼女の母親であるすみれさんが出てきた。
光穂は成長するにつれ子供の頃からよく会っているその人に似てきていると思う。
くっきりとした二重と印象深い黒目がちな瞳、そして綺麗な輪郭や薄めの唇も。
「光穂を迎えに来ました」
そう言うとすみれさんは驚いたような、申し訳なさそうな顔をして、彼女は10分ほど前に1人で駅に向かってしまったと教えてくれた。
お辞儀をして車に戻り、駅に車を向かわせられないかと運転をする父に頼んだ。
父は光穂を、付き合ったりしないのか、などと言ってくるくらい気に入っているのですぐに車をUターンさせる。
駅のロータリーに車を停め、僕は駅の階段を駆け上がる。
朝早い時間だが駅には多くの人が忙しく行き交う。
スーツを着てキャリーケースを引っ張るサラリーマンや、時計を気にしながらずんずんと歩いていく学生……似てる制服の人を見かけては目が吸い寄せられる、が、光穂はなかなか見つからない。
小走りで進みながら首と目をくるくると動かす。
いた!
あの制服、あの後ろ姿……しかし、近付いていた足が自然と止まった。
彼女が昨日学校までおぶって来ていた男性と楽しそうに話していたからだ。
なんだかすごく距離が近いように思える。
もしかしたら僕の“普通の距離”の感覚がおかしいだけかもしれないけれど。
彼女らは向かい合って笑っていた。
光穂は口に当てた手よりも大きく口を開けていて、その真っ白で綺麗に並んだ歯が見えた。
足も口も動けないでいるうちに男性の方と目が合い、僕の方を指で示しながらなにかを光穂に言った。
そして男性は僕にも手を振りながら学校とは反対方向に歩いて行き、光穂は男性に向かって深々とお辞儀しながら僕の方に歩いて来た。
男性の方に視線を移した彼女の横顔。
それは今まで見てきたどの横顔よりも淋しそうに見えて、僕の心は爪楊枝が1本刺さったようなチクリとした痛みを感じた。
「あの人ね」
光穂がつぶやくように淋しさを含んだ沈黙を破る。
「写真家なんだって」
初めて知り合った写真家という職業の人に彼女はとても興味を持っているようだった。
僕の心臓にはチリチリした焦げるような痛みが走る。
「写真なんて、光穂は見られなくてつらいだけじゃないか」
「……うん、そうだね、ごめん」
つい感情に任せて出た言葉。
僕は彼女にそんな言葉を浴びせてしまったことを後悔した。
例えば、もちろん音楽鑑賞はできないけれど、クラシックのコンサートなどでは周りの観客の瞳の輝きや頬に表れる高揚感から、つまり視覚から音楽鑑賞を楽しめる。
ゆえに僕は「どうせ耳が聞こえないんだから」というような言葉をひどく嫌った。
それなのに僕は同じようなことを言ってしまった。
それを聞いた彼女は作り笑いをしていたが、その奥の悲しみの感情がありありと読み取れた。
とりあえず父の車まで誘導し、僕らは無言のまま車に乗り込み学校に向かった。
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