私のレンズに写るものは 〜視覚障害を持つ少女〜

梅屋さくら

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5. 〜清也〜

 俺がどうして写真家という職業に興味を持ったか。
それは今はもう会うことのできない祖父の影響がとても大きい。

 俺は祖父の撮る写真が好きだった。
主に風景を撮っていたが、時々無理やり頼み込んで俺の写り込んだ写真も撮ってもらっていた。
 葉の緑色や花のオレンジ色の鮮やかさ、太陽の光の眩しさ、滴る水の透明さ……それら自然の風景をなにも劣化させることなく、いやむしろ彩度を上げるくらいはっきりと祖父は写真として切り取っていた。
 祖父は日本中巡るのが趣味で(海外へは飛行機を信頼できないという理由で行くことはなかった)、祖父の家を訪れるたびに各地で撮った写真を見せてくれていたものだ。
俺はあまり実家のある東京から出ることはなかった。
だから祖父の見せてくれる温泉地や世界遺産の写真を見て自分がそこに旅行に行った想像をよくしていた。

 父は「フィルムに残すより心のメモリーに残したほうがいい」とかいうよくわからない理由で写真にはまったく興味を持たないどころか毛嫌いしていた。
だからこそ祖父は俺に気前良くカメラを買ってくれたり、撮り方のコツを教えてくれたりしたのだと思う。
 しかし中学生になり、カメラを持ち歩いて自然を撮り続けている俺はからかわれるようになった。
ずっと下を向いていて暗いだの、実はあのカメラで女子更衣室を盗撮しているだの、出どころのわからない噂に苦しめられた。
そして俺は祖父が買ってくれたカメラよりも、自分を守ることを取った。カメラと決別した。
 それからしばらく経って、俺は一般企業に就職。
その1年後、元気だった祖父が突然天国へ旅立った。
そして俺には祖父が亡くなる前日まで使用していた、年季の入ったカメラが遺された。
データフォルダには祖父が撮ったと一目でわかる瑞々しい写真たちがたくさん入っていて、俺は自然と涙が零《こぼ》れた。
 その祖父の形見となるカメラをきっかけに、俺は再び写真家の夢を追いかけることにした。
また俺のように写真の素晴らしさを誰かに感じて欲しい、そう思って。

 俺はあの日、被写体を探して駅をうろついていた。
もちろん都会の駅だから目を引く美人はたくさんいたが、写真越しにも溢れ出すような輝きは見られなかった。
 余所見《よそみ》をしていてぶつかってしまった、あの障害を持つ少女。
ぱっと視線を交わした瞬間に、脳を稲妻のような痺れが走って、つい目を離せなくなった。
 この子はすごく輝いている……
 そう思いつつ話していくうちに、その輝きは全盲というハンディキャップを受け入れた上で前向きに生きる姿勢から放たれるものだとわかった。
 仕事でも写真でも他の人の才能に嫉妬してしまう俺とは生き方のベクトルがまったく違う。そう感じた。
 彼女にモデルを頼もうと思ったが、不審に思われてはいけないのでひとまず何も言わなかった。

 翌日、俺はまた被写体を探すふりをして駅にいた。
彼女と偶然を装って再会しようと目論んだのだ。
女子高校生を待ち伏せなどという趣味はなかったが、こうせざるを得ないんだと自分にたくさん言い訳をして。
 そして計画通り彼女と再会した。

「また会ったね、怪我の調子はどう?」

 などと用意していたセリフを放つと、彼女は明るい笑顔で、

「大丈夫です、昨日はありがとうございました」

 と返してくれた。
 彼女の純粋さにつけ込むようで気分が悪かったが、自分が駆け出しの写真家であることを話し、被写体になってもらえないかと交渉を始めた。
初めは自信がないから、経験がないから、と断られたが、

「君じゃないと撮れない写真があるんだ」

 という言葉をきっかけに彼女の返答は好転した。
 きっと自分にしかできない手伝いというのが嬉しいのだろう。
 あと一押し……というところでまた昨日の少年(彼女に恋をしていると思われる)が現れた。
俺は今度は彼に不審に思われることを警戒し、少女にこの間の仕事用とは別の写真家としての名刺を渡してそそくさと立ち去った。

 その日の晩は彼女をメインにした写真の構図を考えてそれを絵におこしながら酒を飲んだ。
 今までとは比較できないほど絵はすらすらと何枚も描き上げ、酒はぐいぐいと進んだ。
 彼女からの連絡が来ないか来ないかと、告白の返事を待つ学生のような気持ちのままその夜は更《ふ》けていった。
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