私のレンズに写るものは 〜視覚障害を持つ少女〜

梅屋さくら

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 俺は週末、カメラを持って近所の公園などを散歩して過ごすことが多い。
一応出かけるたびになにかにピントを合わせて撮るのだが、満足する写真が撮れるのは5回に1回程度。
写真とはなんとも忍耐力が試されるものである。
 しかし今日俺は比較的わくわくした気持ちでこの公園を訪れていた。
なぜなら一昨日くらいに会社近くの木に赤くなった葉を見つけたからだ。
前回紅葉を撮影するために箱根を訪れてから1年が経ったのかと思うと時の流れは早い。

 箱根には……前の彼女と一緒に行った。
それから1ヶ月くらいで「他に好きな人ができた」と振られてしまったのだけれど。
 そう思い返すと俺はそうやって振られることが多いような気がする。
高校生のとき初めて出来た彼女にも同様のことを言われて別れ、その少し後に俺の友達と付き合ったっけ。
俺は束縛もしないし怒ることもほとんどないが、むしろそれが女の子を飽きさせるのではないか、そう男友達に言われたことがある。
 たしかに愛されてるかわからないと前の彼女に泣かれたっけな……。

 過去の恋愛を思い出しているうちに紅葉の絶景スポットにたどり着いた。
トンネルのようにもみじの木が空を覆い、ガードレールのようにコスモスの花が道の端を彩る。
360°どの方角も写真を撮りたくなる景色が広がっている。
 俺はこの時期の紅葉が1番好きだ。
もみじは真っ赤ではないが、一部分だけ赤色が見られる景観は差し色のような感覚だろうか、なんとも魅力的に見える。

「あの、すみません」

 後ろから女性に声をかけられ、自分が変な体勢であることに気が付き慌てて立ち上がる。
地面に寝そべるようにして撮ったり、コスモスに近付いて撮ったり、撮影してるときの俺はカメラの位置を考えすぎて自分の体勢を忘れてしまうことがよくあるのだ。
 後ろを振り返ると、背の高いすらりとした女性が立ってこちらを見ていた。
長い黒髪をかきあげながらはっきりした意志の強そうな目に見つめられ、思わずどきりとしてしまう。

「あの、カメラ、お得意ですか」
「まあ写真家やってるんで……」
「写真家さん! プロの方ですか!」

 ぱあっと晴れた表情。
 よく見ると女性の首には結構上等品と思われる一眼レフカメラが下げられている。
 俺の視線の先に気付いた女性は、照れたような笑いを浮かべてカメラを撫でた。

「元カレの趣味だったんです。それで私も彼と一緒に写真撮ろうって思って買って、でもすぐ別れちゃって半年くらい眠っていたのを引っ張り出してきました」
「今までどれくらい撮ったんですか?」
「プロの方には見せられないようなものを20枚程度」

 そういって見せてくれた写真はたしかにお世辞にも上手いとはいえないものだった。
 まず近くにあるコスモスを被写体として、ピントの合わせ方や光の入れ方を実践して見せた。

「えっと、こう、ですかね」
「もう少し斜めにして、こう……」

 少し手に触れて角度や被写体との距離を調整する。
俺は恐る恐る触れているというのに、女性はまったく気にしている様子はなかった。

「あなたをモデルに撮ってもいいですか」

 そう言われ、俺は柄にもなくカメラから目線を外してポージングをした。
彼女は真剣に構図などを考えながら撮ってくれた。
ポーズの合間に彼女をちらりと見たつもりが、ばっちりカメラ目線のところを撮られてしまい慌てて目線を空へと走らせた。
 交代して彼女を被写体として立たせる。
彼女は長身でスタイルも良く、なにかの雑誌のモデルのようだ。
こんな美人が被写体になってくれるというなかなかない機会を大切にしようと1回1回シャッターの重みを感じながら撮っていった。
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