私のレンズに写るものは 〜視覚障害を持つ少女〜

梅屋さくら

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12.

 清也と約束した撮影の日がやってきた。
 昨日は初めて被写体になるという緊張で2時間くらいしか眠れなかった。
肌の調子は最高と言えるほど良いことが幸いだ。
 待ち合わせ場所である廃校まで、母が車で送ってくれた。
撮影中はちょうど用事があった近くのショッピングモールでお買い物を済ませていると言う。
 車が停まりドアを開けると、清也が緊張気味に挨拶と自己紹介をする声が聞こえてきた。

「初めまして、光穂の母です。この子緊張してるみたいだけどよろしくお願いしますね」

 母はよそいきの声でそう言うと、2人はメールアドレスと電話番号を交換して車は走り去った。

「えーと、手、触っていいかな」

 優しくそう確認して私の手に自分の手を滑らせた。
ごつごつしたいかにも“男性の手”という手に引っ張られながら、私は廃校の中へ入っていった。

 おぶられながら階段を上っていく。
 初めは1段ずつ上がっていたのだが、なんだか危なっかしいとおぶってくれたのだ。

「ごめんね」

 清也はとても軽そうに私を背に乗せた。
キイ……とドアが開く音がして、ゆっくりと下ろされ、私は自分の足で立った。
太陽が私の黒髪をじっくりと焼いていく感覚がする。

「よし、屋上に着いたよ」

 家で着てきてと渡されたミニスカートとネクタイが風に乗って私から離れる。

「じゃあそこでくるくる回ったり、寝転がったり、自由に動いてみて」

 言われた通り動いてみる。
 くるくる回ると、ふわふわと暖かい空気を腕に纏っているような気分になって気持ちよかった。
 寝転がってみると、コンクリートから伝わるじんわりとした熱が気持ちよかった。
 うつぶせになって足をばたばたさせたり、真っ直ぐに伸びてすうっと息を深く吸ってみたり。

「いいね……」

 清也のいつもとは少し違う低くつぶやく声が、さらに私を動かす力になった。
 鼻歌を歌いながら屋上を隅々まで楽しむような気持ちで歩き回った。

「じゃあ教室に移動しよう」

 またおぶって階段を下りる途中、清也はたくさん褒めてくれた。
それは心からの褒め言葉のように聞こえて、どこかくすぐったかった。

 教室の1つの席に座った。
 木の椅子が座り直すたびにギシギシと音を立てる。
 机に突っ伏してみたり、頬杖をついてみたり、髪をくるくるといじってみたり……屋上での空気感のまま自然といろいろな動きができていたように思う。
 前髪をかき上げてみたとき、それまでパシャパシャとシャッターを切っていた清也が静かになった。
静けさの中で椅子の軋む音だけが響く。

「あの、どうかしましたか」

 私がそう尋ねたとき、明らかに清也が慌ててカメラを構え直す音が聞こえた。

「いやなんでもない、ごめん、続けて」

 その後は順調に撮影が進んでいき、教室の中の空気が夜の冷たさをはらんだそれに変わっていった。

 おぶられて階段を下りるとき、私の脚に触れた手はとても温かく感じた。
いつの間にか体が冷えていたようだ。
 学校の外に6時間ぶりに出たとき、清也は何も言わずに自分の着ていたパーカーを羽織らせてくれた。
 そこには迎えに来た母がいた。

「ありがとうございました、おかげでとても良い写真が撮れました」

 清也が母に話す言葉を聞いて私は思わずにやけた。

「すぐそこに良いレストランがあるのでもうこんな時間ですし、お食事行きませんか。もちろん僕がお支払いするので」

 その後「いや私が」「いや僕が」というやりとりが続き、結局清也が支払うことになったようだ。
 母は先にレストランの駐車場に車を停めに行き、私もまた彼に手を引っ張られながらレストランへ向かった。
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