20 / 41
20.
しおりを挟む
清也のことが好きなんだ、そう自覚してからここにいるのが気恥ずかしく感じるようになった。
作曲の話題の後も少し続いた会話の内容はまったく頭に入ってこなかった。
私が混乱している間に清也はまた眠りについていた。
料理や掃除をしたいところだが、私にはそれはできない。
きっと理人はそういうことをしてあげたんだろうな。そう思うと何もできない自分が不甲斐なかった。
だいぶ時間が経ったであろうか。
外から聞こえる風の音が、夜の冷たい風のそれに変わっている。
そろそろ帰らないとな、と思ったとき、スマホが震えた。
『清也さんの家の前にいる。帰るときは連絡して』
それは理人からのメッセージだった。
なんてタイミングだと思いながら、もう帰ると返信する。
ソファから立ち上がり、もう1度清也のベッドの方に顔を向けてから玄関のほうに行こうとした。
そのとき、私の右腕が大きな手に掴まれた。
先程私を撫でてくれたその手に。
「ありがとう」
私は胸がどくんと跳ねたのを感じた。
彼の感謝の言葉が体に染み渡っていく感覚だ。
「ではまた連絡します、お大事に」
私は緊張していつもよりぶっきらぼうに、そして簡潔にそう言って部屋を出た。
頬が熱いまま理人に会った。
帰ろう、とだけ言われたが、理人は私の清也への感情に気が付いているような予感がしてたまらなかった。
家に着いてから、今日の感情を曲として記録しておこうといつも使っているボイスレコーダーをバッグから取り出そうとした。
「ない……」
そのとき思い出した。
清也の部屋で歌っているときにボイスレコーダーを出して、そのまま置いてきてしまったことを。
中にはコンクール用に考えている曲の断片たちが入っている。
今すぐ連絡をしようと思ったが、彼はきっと寝ているだろう。
明日の朝にでも連絡をしようと思った。
作曲の話題の後も少し続いた会話の内容はまったく頭に入ってこなかった。
私が混乱している間に清也はまた眠りについていた。
料理や掃除をしたいところだが、私にはそれはできない。
きっと理人はそういうことをしてあげたんだろうな。そう思うと何もできない自分が不甲斐なかった。
だいぶ時間が経ったであろうか。
外から聞こえる風の音が、夜の冷たい風のそれに変わっている。
そろそろ帰らないとな、と思ったとき、スマホが震えた。
『清也さんの家の前にいる。帰るときは連絡して』
それは理人からのメッセージだった。
なんてタイミングだと思いながら、もう帰ると返信する。
ソファから立ち上がり、もう1度清也のベッドの方に顔を向けてから玄関のほうに行こうとした。
そのとき、私の右腕が大きな手に掴まれた。
先程私を撫でてくれたその手に。
「ありがとう」
私は胸がどくんと跳ねたのを感じた。
彼の感謝の言葉が体に染み渡っていく感覚だ。
「ではまた連絡します、お大事に」
私は緊張していつもよりぶっきらぼうに、そして簡潔にそう言って部屋を出た。
頬が熱いまま理人に会った。
帰ろう、とだけ言われたが、理人は私の清也への感情に気が付いているような予感がしてたまらなかった。
家に着いてから、今日の感情を曲として記録しておこうといつも使っているボイスレコーダーをバッグから取り出そうとした。
「ない……」
そのとき思い出した。
清也の部屋で歌っているときにボイスレコーダーを出して、そのまま置いてきてしまったことを。
中にはコンクール用に考えている曲の断片たちが入っている。
今すぐ連絡をしようと思ったが、彼はきっと寝ているだろう。
明日の朝にでも連絡をしようと思った。
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
灰かぶりの姉
吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。
「今日からあなたのお父さんと妹だよ」
そう言われたあの日から…。
* * *
『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。
国枝 那月×野口 航平の過去編です。
聖女は秘密の皇帝に抱かれる
アルケミスト
恋愛
神が皇帝を定める国、バラッハ帝国。
『次期皇帝は国の紋章を背負う者』という神託を得た聖女候補ツェリルは昔見た、腰に痣を持つ男を探し始める。
行き着いたのは権力を忌み嫌う皇太子、ドゥラコン、
痣を確かめたいと頼むが「俺は身も心も重ねる女にしか肌を見せない」と迫られる。
戸惑うツェリルだが、彼を『その気』にさせるため、寝室で、浴場で、淫らな逢瀬を重ねることになる。
快楽に溺れてはだめ。
そう思いつつも、いつまでも服を脱がない彼に焦れたある日、別の人間の腰に痣を見つけて……。
果たして次期皇帝は誰なのか?
ツェリルは無事聖女になることはできるのか?
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる