私のレンズに写るものは 〜視覚障害を持つ少女〜

梅屋さくら

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23.

 私はひさしぶりに鎖骨が見えるくらい胸元が大きく開いた赤いドレスを着てバーに来ていた。
肩紐のところに大きな金具が付いていて、裾には何層にも重なったフリルがある豪華なドレスだ。
 最近は仕事用のヒールの低いパンプスばかり履いていたので、ヒールの高い靴は違和感があった。
 髪も強めに巻いてメイクもばっちり、いつもの私とはまったく違った姿で中身まで入れ替わったような気分だった。

「ピンク・レディーひとつ」

 蝶ネクタイがびしっと決まった男性が注文を受け、カクテルを作り始めてくれる。
 周りを見ると美男美女のカップルや、疲れた様子でひとりで黙々と酒を楽しむ人、また女性に片っ端から声をかける若い男性など普段は集まらないような人々が集まっていた。
 自分がその中でも格段に疲れているように思えるのは自意識過剰と言うべきだろうか。
 暗い店内に青色の間接照明が神秘的に光っていて思わずカメラを向けそうになったが、今日はカメラから離れようと思い、カメラを持ってきていないことを思い出した。

「お待たせいたしました」

 先ほどの男性がグラスを運んでくる。
 光に透かして見るとローズクオーツのように透明なピンク色でうっとりしてしまう。
 少量液体を口に含むと、口の中にザクロ特有の酸味、渋味、甘味の混ざった複雑な味が広がる。
上唇についた卵白の泡を指で拭って、口内に残ったふくよかな甘味をゆったり味わった。

「ふう……」

 それから長い間私はカクテルの桃色を見つめていた。
 すると視界の端に赤い髪の束が写った。

「ひさしぶりだね、瑞希」
「万里絵《まりえ》!」

 それは高校時代の親友で、今は恋愛小説家をしている加藤《かとう》万里絵だった。
 赤髪にタイトな紫色のノースリーブワンピースという派手な格好に、高校生のときから変わらない黒縁のスクエア型眼鏡。
彼女は昔から自分のやりたいことに突き進む人で、そういうところを私は尊敬していた。
一見正反対に見える私たちが仲良しだったのは、むしろその正反対な部分に惹かれ合っていたからかもしれない。

「1年付き合ってた彼、やっぱり浮気してたわ。最悪」
「毎回浮気されたって言ってない?」
「うーん、3、いや、4人連続浮気かな……その前は既婚者だったし……」

 私は「大変だねえ」と苦笑するしかなかった。
 恋愛経験が少ない私と、恋愛経験が多い(し、なかなか長く続かない)万里絵。こんなところまであの頃と変わらない。
 一通り愚痴を言ったところで、彼女は微笑んで私のほうを見た。

「どうなの、彼氏とかできた?」

 そこで私は清也との出会いから、光穂が清也の家にいたことまですべてを話した。
 話し終わると万里絵は悩むような表情をして、こちらをちらりと見た。

「大変そうな恋してるのね、瑞希も」

 万里絵ほどではないけどね、という言葉を飲み込み、私は無言で彼女を見つめる。
 正直、私もどうしたら良いと思うとかアドバイスはできない、と前置きをした上で優しい瞳をこちらに向けて言った。

「恋とは無縁、って感じだった瑞希を恋する乙女にしてくれてる彼に感謝は忘れないようにね」

 それを聞いて私ははっとした。
 今まで“私は”どうしたら良いかと必死だったが、それを聞いて恋は相手、つまり清也あってこそだということに気付かされた。

 私は次々にカクテルを頼み、他愛もないことを話しながら気付けば普段飲まないくらいの量を何杯も飲んだ。
高校生の頃からの知り合いとの会話は弾み続け、ひさしぶりのオフらしいオフはとても楽しい日になった。
 「良い人紹介してよ」なんて言いながら私たちは反対方向に解散した。

 帰り道、浮ついた気分のまま、いつもより熱い手でスマホを取り出す。
 清也の電話番号を表示して電話をかけると、すぐに彼の優しい声が聞こえてきた。

「突然ごめんなさい。話したいことがあるんです」
「……じゃあ今度の休日、また会いましょう」

 不思議な空気が流れたまま約束をして、電話を切った。
 一度立ち止まり、正面に浮かぶ満月を見上げ、小さく頷いてから再び歩き出した。
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