私のレンズに写るものは 〜視覚障害を持つ少女〜

梅屋さくら

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24.

 連絡した日の後の金曜日。
 清也が学校に作業に来る日だ。
 仕事が私より早く終わる清也に学校近くのスーパーマーケットで少し待ってもらって、私がその後で合流をした。

「では行きましょう、おすすめのお店あるんです」

 目が合ったとき、清也は違和感のある笑みを浮かべた。
私は自然に微笑みかけたつもりだったが、実際どう見えていたかはわからない。
側《はた》から見たら私も同じような表情だったのかもしれない。
 話があると電話をしてから初めて直接会うこの日まで、私はどうしようもない緊張を抱えて日々を過ごしていた。
 彼の様子を見ると、彼もすでに勘付いているらしく、緊張が外まで溢れ出している。
 しかし“なにも意識していません”という風を装って私たちは会話を続けていた。

「この居酒屋、私が大学生のときバイトしてたお店なんです」
「へえ、居酒屋さんでバイトする瑞希さん、想像できないなあ」
「そうですか? 生ビールひとつお待たせしましたーとか毎日叫んでましたよ」

 このときの清也のははっという笑い声はいつも通りの爽やかな声だった。
 店内に入ると、見慣れた店長が慌ただしく注文を取ったり料理を運んだりしていた。
その白髪混じりの短髪の男性が私に気が付くと、手は止めずに笑顔を向けてきた。

「はい、ビール2杯サービス」
「いいんですか? ありがとうございます」

 すると店長がにやりと笑って耳打ちする。

「彼氏さんかっこいいじゃないか」
「ち、違います!」

 私が慌てて訂正したときには店長は後ろを向いて離れていっていた。
しかし後ろからでもにやけたままなのは明確だ。
 なにを話していたのかと首を傾げている清也に片方のビールを渡し、私たちは乾杯をして飲み始めた。

 なにも起きることなくいつものように時が過ぎていった。
そして私は酔い覚ましに散歩をしようと提案した。
本当はまったく酔ってなどいないのに。
 最寄りの駅まで歩くことになったが、今度は居酒屋とは違いまったく会話は弾まない。
 あからさまに緊張して声が震える私と、そんな私の様子を窺っている清也。
 私はその空気感に耐えられず、突然立ち止まり、

「清也さん」

 と彼の名前を呼ぶ。
 ゆっくりと振り向いた彼もまた緊張の表情をしていた。
 私は彼から目線を外して口を開く。

「私、清也さんのこと好きなんです……」

 顔がわっと熱くなる気分だ。
 清也の顔を見上げる。
 彼は……驚いたような、困ったような表情をしていた。
さらに言うと、驚いている表情には無意識的に演技が含まれているように見えた。
 そして彼はこちらに向かって歩き始め、顔を私とは反対方向に逸らして言った。

「少し時間をくれないか」

 それだけ言って清也は歩き去った。
 振り返るとそこには清也の広い背中だけが見えた。

「時間をくれって言っても、あなたのその表情が答えなんでしょう?」

 私の呟《つぶや》きは彼には聞こえずに空へと消えていった。
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