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30.
聴く前からそんな気はしていたのだが、やはり俺は泣いていた。
ただの水とは異なる、自分から溢れ出しているものだと確認させられるような温かい涙。
その涙の温かさとは対照的に、体には先ほどとは打って変わって冷や汗が浮かんでいた。
彼女の声の突起に躓かないように足元に注意を払いつつ、声のあまりの深さに沈んでしまわないように全方位に注意を払っていたからだ。
その危険と背中合わせの状況に、思わず俺は冷や汗を流していた。
彼女の曲はといえば、これもまた“美しい”ものだった。
歌詞はないが、俺にはそれが彼女のこれまでの人生を歌ったものであるという確信があった。
生まれながらの障害に苦しみ、家族や友人への愛に溢れ、障害を乗り越えようと強い眼差しで未来を見つめる光穂の姿がありありと浮かんだ。
聴いている間、思わず隣に座っている光穂の腕を掴んでしまいそうになる自分を止めるのに必死だった。
俺の中に浮かんでいた彼女の姿は、背筋を伸ばして足早に、先にあるなにかに引っ張られるように遠くへと歩いていってしまう。
それをここに引き戻すのにも、俺は必死だった。
「……ありがとうございました、まとまらない歌でごめんなさい」
自分の中の光穂に心を取られていたせいで、隣にいる光穂の歌が終わったことに気が付かなかった。
そのとき俺は、涙が何粒かこぼれ、しかし首から下は冷や汗で塗れているという奇妙な状態だったので光穂がこんな状態を目にしなくて良かったと思った。
「本当に素晴らしく、美しかった。君の声はなんというか、透き通っているのにあちこちに小さな突起のあるような、心に染みる声だ」
俺の言っていることを光穂が理解していたかはわからない。
それでも嬉しそうに俺のあまり上手いとは言えない言葉の羅列を聞いていた。
彼女自身に彼女の声や曲の魅力を伝えているとき、俺は光穂が好きなのだと悟った。
こんなに他人に自分の考えていたことを理解してもらいたい、理解してもらわないといけないと思ったのは初めてだった。
もっと心を近付けて、間違えたら1つになってしまうくらい近付けて、話し合いたいと思った。
俺が一生懸命感想を伝えた後、俺らは特に意味のないことをぽつりぽつりと話した。
それは俺の子供時代のことであったり、光穂の去年行った旅行のことであったり様々だ。
話が落ち着いたとき、俺は思い切って彼女のうかない表情の理由を聞いてみた。
すると少し言葉を探してから口を開けたかと思えば、また閉じた。
そしてまた開いて、
「友達に告白されたんです、好きだって」
とだけ言った。
「理人くん?」
と尋ねると、なぜわかったのかと驚いた様子で「はい」とだけ答えてくれた。
以前理人が光穂が好きだと宣言したときの表情がフラッシュバックする。
戦いを挑むような鋭い目。
つい全身がすくんだのを覚えている。
「断ったの?」
と聞くと、何も言わずに頷いた。
「どうして? 君たちはとても仲良さそうに見えたけど」
俺の胸の中に期待がないとは言い切れなかった。
もしかして、という淡い期待が俺を息切れさせる。
「私、好きな人がいて」
そう答えた光穂の頬は赤らんでいて林檎みたいだった。
それを見た瞬間、まるで告白されたときのように俺の頬まで赤くなった。
ただの水とは異なる、自分から溢れ出しているものだと確認させられるような温かい涙。
その涙の温かさとは対照的に、体には先ほどとは打って変わって冷や汗が浮かんでいた。
彼女の声の突起に躓かないように足元に注意を払いつつ、声のあまりの深さに沈んでしまわないように全方位に注意を払っていたからだ。
その危険と背中合わせの状況に、思わず俺は冷や汗を流していた。
彼女の曲はといえば、これもまた“美しい”ものだった。
歌詞はないが、俺にはそれが彼女のこれまでの人生を歌ったものであるという確信があった。
生まれながらの障害に苦しみ、家族や友人への愛に溢れ、障害を乗り越えようと強い眼差しで未来を見つめる光穂の姿がありありと浮かんだ。
聴いている間、思わず隣に座っている光穂の腕を掴んでしまいそうになる自分を止めるのに必死だった。
俺の中に浮かんでいた彼女の姿は、背筋を伸ばして足早に、先にあるなにかに引っ張られるように遠くへと歩いていってしまう。
それをここに引き戻すのにも、俺は必死だった。
「……ありがとうございました、まとまらない歌でごめんなさい」
自分の中の光穂に心を取られていたせいで、隣にいる光穂の歌が終わったことに気が付かなかった。
そのとき俺は、涙が何粒かこぼれ、しかし首から下は冷や汗で塗れているという奇妙な状態だったので光穂がこんな状態を目にしなくて良かったと思った。
「本当に素晴らしく、美しかった。君の声はなんというか、透き通っているのにあちこちに小さな突起のあるような、心に染みる声だ」
俺の言っていることを光穂が理解していたかはわからない。
それでも嬉しそうに俺のあまり上手いとは言えない言葉の羅列を聞いていた。
彼女自身に彼女の声や曲の魅力を伝えているとき、俺は光穂が好きなのだと悟った。
こんなに他人に自分の考えていたことを理解してもらいたい、理解してもらわないといけないと思ったのは初めてだった。
もっと心を近付けて、間違えたら1つになってしまうくらい近付けて、話し合いたいと思った。
俺が一生懸命感想を伝えた後、俺らは特に意味のないことをぽつりぽつりと話した。
それは俺の子供時代のことであったり、光穂の去年行った旅行のことであったり様々だ。
話が落ち着いたとき、俺は思い切って彼女のうかない表情の理由を聞いてみた。
すると少し言葉を探してから口を開けたかと思えば、また閉じた。
そしてまた開いて、
「友達に告白されたんです、好きだって」
とだけ言った。
「理人くん?」
と尋ねると、なぜわかったのかと驚いた様子で「はい」とだけ答えてくれた。
以前理人が光穂が好きだと宣言したときの表情がフラッシュバックする。
戦いを挑むような鋭い目。
つい全身がすくんだのを覚えている。
「断ったの?」
と聞くと、何も言わずに頷いた。
「どうして? 君たちはとても仲良さそうに見えたけど」
俺の胸の中に期待がないとは言い切れなかった。
もしかして、という淡い期待が俺を息切れさせる。
「私、好きな人がいて」
そう答えた光穂の頬は赤らんでいて林檎みたいだった。
それを見た瞬間、まるで告白されたときのように俺の頬まで赤くなった。
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