私のレンズに写るものは 〜視覚障害を持つ少女〜

梅屋さくら

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32. 〜理人〜

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 あくびをしたまま僕は校門から出ようとする。
 だが校門に寄りかかってスマホをいじる人物を見た途端、あくびは僕の中に吸い込まれていった。

「……清也さん?」

 声をかけるとスマホをスキニージーンズのポケットに押し込んで、さっぱりとした印象を与える短髪を手のひらでそっと整えた。
 光穂のことを待っているのかと思ったが、彼は僕に対して困ったような笑顔を浮かべて、

「ごめん、君のことを待ってたんだ。お話したいことがあるんだけど、これから隣駅のコーヒー店にでも行けないかな?」

 と誘ってきた。
 なんの用件か見当もつかないが、今日は特に用事もないしテストもこの間終わったばかりなので素直についていくことにした。

 清也の運転する車に乗り込み、あっという間にコーヒー店に到着する。
車内のシトラスのような香りがいかにも彼らしい。
 入店すると奥の方にある隣とは軽く仕切られた座席に案内され、清也は何も言わずにメニューを眺め始めた。
僕は適当にカフェオレを、清也はじっくり悩んだ挙句この店特製のブラックコーヒーを注文する。
 店員が戻ってから清也の様子を窺う僕をよそに彼は頬杖をついて窓の外の青空を見ていた。
 僕もつられて外を見ると、そこでは鳥の追いかけっこが行われていた。
丸いすずめが飛んで隣の枝に移ると、引き締まった体型のすずめも隣に移る。
それを繰り返しているうちに、2羽とも遠くへ飛び去ってしまった。
 同じ光景に注目していたのか、すずめが見えなくなった後、彼は口を開いた。

「俺も光穂ちゃんのことが好きだ」
「なに、この前僕が宣言したお返し?」

 面接かというくらい姿勢が良い。
真面目に宣言する清也がなんだかおかしくて、僕が思わず笑いながら意地悪く尋ねると、

「まあそんなものかな」

 と清也も照れくさそうに笑った。
 しかし突然真面目な顔に戻ると、

「光穂ちゃんを傷付けて、怒らせた。ごめん」

 机に両手をついて堅いお辞儀をした。

「なんで僕に言うんですか」

 呆れてそう聞くと、少し悩んで微笑んで言った。

「俺たちは光穂ちゃんを好きになった同士だから、かな」

 真剣に言われると僕はどうしても断れなくなる質《たち》だった。
 怒りを表に出すことの少ない光穂を怒らせた理由を聞くと、それは一言でいうと彼女の障害に関することだった。
 だから僕と一緒にいれば良かったのに。
 そう思いながらも、僕は不思議だった。
普段障害のことでなにかあっても、光穂は怒ることなどなかった。
彼女は決して短気ではないし、少しくらい気に障ってもそれを上手く取り繕う術を持つ。
 きっと清也に対してだから、感情が制御できなかったのだろう。僕はそう思った。
 一度光穂が好きだと宣言した僕に、こうやってすぐ相談できるところも彼の良いところなんだろうな。
僕だったらこんな真っ直ぐな目で相談できない。
 僕は彼ににやりと笑って、体を前に乗り出した。

「光穂の好きなものを教えますが、どれをどう渡すかはお任せします」
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