私のレンズに写るものは 〜視覚障害を持つ少女〜

梅屋さくら

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 何が起きているのかわからなかった。
それはもちろんこの感触のこともだが、脳内がカラフルな景色で満たされたこともそうだ。
 名前はわからないが、暖かみを感じる色がついた可愛らしい花で満たされた花畑。
 空はとても綺麗な色で、もこもこした雲……というのだろうか、なにかが空に浮かんでいる。
母親と手を繋いで歩く少女のノースリーブワンピースは明るい色で染められている。
花弁の間に覗く葉の部分は生命を弾けさせているような鮮やかな色を見せている。
それぞれが思い思いに色を発し、何かをこちらに訴えかけているように感じる。
 このとき私は初めて色を知った。
 私はそのときたしかに花に囲まれた景色の中にいて、心地良い感覚があった。
その私の世界では感じたことのない、この上ない美しさに私は呼吸することさえ忘れて見入る。
こちらが見入っていると、美しい景色もじっと私を見てゆっくりと、朗《ほが》らかな笑顔で手招きしているような錯覚に陥った。
 これはもしかしたらあの日清也が贈ってくれた写真の景色なのではないかと思い当たった。
 きっとそうだ、絶対そうだ。
 そう思って私は景色の隅々まで目を凝らして焼き付けようと努力する。
しかしその景色はぼんやりした部分を残したままどこかへと静かに消えてしまった。
 私がこの感触がキスであることに気付き、そして美しい景色が消えたときにはもう清也の唇は離れていた。

「高校卒業まで我慢してたから、やっとって思ったらつい……何も言わなくてごめんね。びっくりしたかな?」

 照れくさそうに笑う清也に、今度は私が手を伸ばす。
 そしてもう1度キスをした。
もうあの色付きの景色は浮かばなかったが、幸福感に満たされていた。
 手を繋いで歩き始めてすぐ、私は立ち止まって空を見上げた。
清也も私に合わせて歩みを止める。

「きっと」

 私はそうつぶやいた。

「良い天気」

 私たちの声は美しいハーモニーを奏で、そのハーモニーは空へと流れていった。

 私の心にはこの日の暖かさや桜の香りが強く刻まれた。
そしてあのときに浮かんだ色とりどりの花がずっとずっと、褪せることなく咲いていた。
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