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Episode7.恋だった。
ワガママである。
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頭を抱えていた梓は、再びこちらに向き直り、私の腕を両手でがしっと掴んだ。
その顔は今までの笑顔とは違って、怒っているような、泣いているような……曖昧な表情だった。
初めて見た表情に思わず後退りしてしまったが、後ろは壁で挟まれたような形になった。
「葵ちゃんにとって俺は、それ程度の存在だったのか?」
「……え?」
「葵ちゃんにとって俺は、怖いとか、嫌だというSOSを出すことも出来ないほど助けを求めるには頼りない存在だったのか?」
「いえ、そういうわけでは……ご、ごめんなさい……」
いや別にそういう事情で言わなかったわけではない。
そう言おうとしたが、梓の瞳は真っ直ぐで、さらに黒さを増したように見えた。
なんだか泣きそうな複雑な表情。
今まで人と付き合って来なかった私にとって、初めて見る表情だった。
思わず謝り、私たちの間には微妙な沈黙が訪れた。
「まあまあ梓先輩。葵先輩の考えていたことは、先輩にならわかっているんだと思っているのですが……そうですよね?」
私の肩を掴んでいた梓の手を茜がそっと下ろし、そう笑顔で言った。
すると梓は少しむくれてうつむき、
「まぁ……な。どうせ葵ちゃんのことだから、俺に迷惑をかけないように……なんて気遣いしてくれたんでしょ?」
「……っ……」
「それくらい優しい子だって言うのは知ってる。
だからさらに悔しいんだよ。茜ちゃんならわかる?」
「ま、まあはい。普通女性には自分だけ特別に思ってもらいたいですもんね」
「そう。葵ちゃん、今の意味わかった?」
「? いえ、まったく……」
私が彼に本当のことを言わなかった理由、『迷惑をかけたくなかったから』……は、茜にまで見透かされてしまっていた。
彼らには私の心が見透かせるというのに、私には彼らの心はまったく読めない。
「もぉそういう鈍いところも可愛いとか思っちゃうんだけどね。
茜ちゃん、説明してあげておくれ、俺のために……」
「え、は、はいっ!?」
「茜ちゃん、どういうことなのですか?」
「僕ですか……え、えっとですね。
普通僕たち男子は好きな女の子には『迷惑をかけても気にしない』と特別扱いしてもらいたいものなんです。
他の男子だったら遠慮するようなワガママも、『あいつだからワガママ言っても良いよね』と思って言ってもらいたいんですよ。
葵先輩にはわからないと思うのですが……もうとことん甘えて差し上げてください」
「ワガママなんて……い、言ったら嫌われてしまうのでは……」
「普通はそうなんですけど、そういう安心感というか。
家族のように、お兄ちゃんのようにでも思ってくれたら嬉しいんですよ」
「そうそう。俺はそんなことで嫌いにならないし、というか。
逆に言ってくれた方が喜んじゃう、何よりものプレゼントになっちゃうの!」
そういうものなの?
初めて恋をしてみて、初めて芽生えた感情に戸惑い、初めて嫉妬という醜い感情を知り、初めて甘えても良いという人物に出逢った。
恋とは、初めてのことだらけである。
甘えても良いんだよ、そう言われて私は嬉しかった。
今はあまり会えないお兄ちゃんや、お父さんお母さんがずっと側にいるようで。
「ほら、来て欲しい、甘えて欲しいんだよ」
と腕を広げて笑う梓。
私はその腕の中に、迷うことなく飛び込んだ。
あまりの勢いに彼をしりもちつかせてしまったが、先ほどの茜の話通り怒らずに笑ってくれた。
「これからなにして欲しい? たくさん、たくさん甘えて?」
そう微笑む梓の目を見つめ、
「またどこかへ……行きたい、です……」
と言ってみた。
するとなんだそんなことかと言うように驚いた顔をして、頷いた。
気が付けば近くにいたはずの茜はいなくなっていた。
私たちは授業間休みが終わることを告げるチャイムが鳴る直前に教室に戻った。
「本当にあいつら付き合ってるのか……」
なんていう失礼な言葉も聞こえたが、気にしなかった。
なぜかと言うと、今週末は私の初めてのお仕事……テレビ収録があるからだ。
こんなことで悩んでいる場合ではない。
そちらに全神経を集中させるべきだ、そう考えて私はメモにそういうことを記しておいた。
その顔は今までの笑顔とは違って、怒っているような、泣いているような……曖昧な表情だった。
初めて見た表情に思わず後退りしてしまったが、後ろは壁で挟まれたような形になった。
「葵ちゃんにとって俺は、それ程度の存在だったのか?」
「……え?」
「葵ちゃんにとって俺は、怖いとか、嫌だというSOSを出すことも出来ないほど助けを求めるには頼りない存在だったのか?」
「いえ、そういうわけでは……ご、ごめんなさい……」
いや別にそういう事情で言わなかったわけではない。
そう言おうとしたが、梓の瞳は真っ直ぐで、さらに黒さを増したように見えた。
なんだか泣きそうな複雑な表情。
今まで人と付き合って来なかった私にとって、初めて見る表情だった。
思わず謝り、私たちの間には微妙な沈黙が訪れた。
「まあまあ梓先輩。葵先輩の考えていたことは、先輩にならわかっているんだと思っているのですが……そうですよね?」
私の肩を掴んでいた梓の手を茜がそっと下ろし、そう笑顔で言った。
すると梓は少しむくれてうつむき、
「まぁ……な。どうせ葵ちゃんのことだから、俺に迷惑をかけないように……なんて気遣いしてくれたんでしょ?」
「……っ……」
「それくらい優しい子だって言うのは知ってる。
だからさらに悔しいんだよ。茜ちゃんならわかる?」
「ま、まあはい。普通女性には自分だけ特別に思ってもらいたいですもんね」
「そう。葵ちゃん、今の意味わかった?」
「? いえ、まったく……」
私が彼に本当のことを言わなかった理由、『迷惑をかけたくなかったから』……は、茜にまで見透かされてしまっていた。
彼らには私の心が見透かせるというのに、私には彼らの心はまったく読めない。
「もぉそういう鈍いところも可愛いとか思っちゃうんだけどね。
茜ちゃん、説明してあげておくれ、俺のために……」
「え、は、はいっ!?」
「茜ちゃん、どういうことなのですか?」
「僕ですか……え、えっとですね。
普通僕たち男子は好きな女の子には『迷惑をかけても気にしない』と特別扱いしてもらいたいものなんです。
他の男子だったら遠慮するようなワガママも、『あいつだからワガママ言っても良いよね』と思って言ってもらいたいんですよ。
葵先輩にはわからないと思うのですが……もうとことん甘えて差し上げてください」
「ワガママなんて……い、言ったら嫌われてしまうのでは……」
「普通はそうなんですけど、そういう安心感というか。
家族のように、お兄ちゃんのようにでも思ってくれたら嬉しいんですよ」
「そうそう。俺はそんなことで嫌いにならないし、というか。
逆に言ってくれた方が喜んじゃう、何よりものプレゼントになっちゃうの!」
そういうものなの?
初めて恋をしてみて、初めて芽生えた感情に戸惑い、初めて嫉妬という醜い感情を知り、初めて甘えても良いという人物に出逢った。
恋とは、初めてのことだらけである。
甘えても良いんだよ、そう言われて私は嬉しかった。
今はあまり会えないお兄ちゃんや、お父さんお母さんがずっと側にいるようで。
「ほら、来て欲しい、甘えて欲しいんだよ」
と腕を広げて笑う梓。
私はその腕の中に、迷うことなく飛び込んだ。
あまりの勢いに彼をしりもちつかせてしまったが、先ほどの茜の話通り怒らずに笑ってくれた。
「これからなにして欲しい? たくさん、たくさん甘えて?」
そう微笑む梓の目を見つめ、
「またどこかへ……行きたい、です……」
と言ってみた。
するとなんだそんなことかと言うように驚いた顔をして、頷いた。
気が付けば近くにいたはずの茜はいなくなっていた。
私たちは授業間休みが終わることを告げるチャイムが鳴る直前に教室に戻った。
「本当にあいつら付き合ってるのか……」
なんていう失礼な言葉も聞こえたが、気にしなかった。
なぜかと言うと、今週末は私の初めてのお仕事……テレビ収録があるからだ。
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そちらに全神経を集中させるべきだ、そう考えて私はメモにそういうことを記しておいた。
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