地味な雑草は眼鏡を外すと美しき薔薇だった。

梅屋さくら

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Episode7.恋だった。

共演者である。

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私は今日テレビ収録のためにとあるテレビ局に入った。
こんなところに足を踏み入れるのは初めてなので、なぜか震えが止まらない。
同じようなタイミングで入っていった周囲の人々は、みんながパーティかと疑うほどに煌びやかな服を着ているし、メイクも綺麗に施されている美男美女だらけ。
ついて来てくれた梓や楓も着飾っているためその人たちと同じように見えるが、さすがに怯えているようだった。

「皆さんこんにちは!」

そう挨拶してくれたのは、茜だった。
いつも着けているウィッグを外しているのであまり見ない茶髪姿である。
挨拶しながらも楓はとあることに気付く。

「あれ? 柚葉ちゃんは?」
「今日お姉ちゃんは……永澤先生との……でっ、『でーと』だって。
朝から浮かれちゃってさ、かなりめんどくさかったよ」
「まぁそういう気持ちは楓もわかるよな?
前茜ちゃんとデート行くときめんどくさいくらい服装の確認してきたもんな?」

姉のデート前の恥ずかしい一面を暴露し合う弟軍。
楓は本人の前でそんなそわそわしている様子を暴露され、にやにやしている梓を殴りまくっている。
茜は楓の照れて真っ赤に染まった顔を見ながら彼女にゆっくりと近付いた。
そしてそっと頰に手を添えて自分の方を向かせ、2人は見つめ合っていた。
唇が触れてしまうのか……それくらいの距離になったそのとき、

「あらこんにちは! あなたたちが今日出演してくれる子たちかな?
……あれ? 私お邪魔しちゃったかしら」

とどこかで見たことのある女性に話しかけられて我に帰る。
茜たちは慌てて離れ、なんでもない風を装う。

この女性……誰だろう?
どなたでしょうか、と尋ねるわけにはいかず困っているのは私だけだったらしい。
私以外の全員が、はっとした様子でその女性に頭を下げて挨拶していた。
私も一応それにならって挨拶するが、やっぱりわからない。

「じゃあ今日の収録、よろしくお願い致しますね。では失礼します」
「こちらこそよろしくお願い致します!」

女性が遠ざかって行ったとき、梓がこちらを見て、

「葵ちゃん……もしかして、だけど、あの女性の名前わかってる?」

と聞いてきた。
私はゆっくり首を振って、

「いえ、なぜ皆さん知ってらっしゃるのか不思議だったのですが」

と正直に言うと私を除く全員が驚いた顔をした。

「まぁ反応からしてそうなんじゃないかと思ったよ。
あの人は今日の番組の司会者なんだけど、本当は今をときめくアイドル。
最近は女優業や作家業、さらには料理家としても活躍してるんだよ。
UMIうみさん……って聞いたことない? 30代女性の憧れ」
「まったくです……そんな有名な方だったのですね……」
「まさか知らないとは思わなかったです。やっぱり梓先輩は葵先輩のことを良く見ていますね」
「いやっ別にっ? たまたま目に入っただけだから! ね!」

この頃テレビを観ていないなぁと思いつつ、梓の慌てる様子を真顔で見つめていた。

私と茜は、同じ……楽屋? と呼ばれるような場所に案内された。
ここでは楓も梓もいない。
私は眼鏡を外し、三つ編みを解いてメイクとヘアスタイリングしてくれるスタッフを待っていた。
すると、ばたばたと番組スタッフがやって来た。
息は切れ、汗ばみ、緊急事態だということがわかる。

「今日のメイクとヘアスタイリングスタッフが遅刻しておりまして、収録スタートまでに到着出来ないそうでして。
スタッフの到着を待っていたらUMIさんのスケジュールが合いませんので、申し訳ございませんが収録は延期ということで……」

延期。
なんだか私の今までのそわそわした気持ちが壊されたようで、どこか寂しさや虚しさを感じた。
それは私よりも隣にいる茜の方が強く感じているかもしれない。
そう思って隣を見ると、うつむいてなにかを考え込んでいるようだった。
勇気を出したようにその番組スタッフの目を真っ直ぐに見て言った。

「メイクもヘアスタイリングも、僕に任せてはいただけないでしょうか?」
「いや、素人さんを使うわけにも、出演者の方を使うわけにもいきませんから……」
「僕なら、今日の出演者全員のメイクとヘアスタイリングを10分で終わらせられます!
お願いします! 無理言ってるのは承知していますが、そこをどうにか……!」

頭を下げてお願いする茜。
ため息をついて、そんなわけにはいかないと言いかけたスタッフの声を遮って、女性の声が聞こえた。

「良いじゃない。一回だけ、試してみましょう」

それは番組の司会者であるUMIだった。
彼女は今人気急上昇中で、司会者ということでスタッフはその意見を無視することはできないらしい。
迷っているスタッフを無視し、UMIはこちらを向いて言った。

「チャンスは一度きりよ。ヘアスタイリングは私も手伝うから、ちゃんとこの一回で決めてやりなさい?」
「はい! 頑張ります!」

そう言って茜とUMIはこの部屋を出て、メイク道具などを取りに行った。
この部屋にはスタッフと私だけが残された。
だが私もどうしようと青ざめるスタッフを無視して茜たちを追って行った。

私も力になれたら……その一心だった。
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