地味な雑草は眼鏡を外すと美しき薔薇だった。

梅屋さくら

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Episode7.恋だった。

身体の変化である。

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どうやって世間を相手として闘っていくか?
また会見を開くと言ったものの、前回と同じでは意味がない。同じことの繰り返しだ。
繰り返さないように梓とは話し合いを重ねていたときだった。

木がもうすっかり赤く染まり、日が短くなってきた頃。
突然、これからのことを考えるよりも先に、私の身に異変が起きた。
なんだか体が重く、頭や腰も痛い。そして大好物である、猪瀬のおばさんのチョコレートミントケーキでさえ、見ただけで恐ろしい吐き気に襲われた。
不安に思って検索をかけると、ほぼ一つしか当てはまらなかった。
私は梓に黙って薬局へ行った。

「梓さん! どうしましょう……!」
「どうしたの、そんなに慌てて?」

私は戸惑う梓にとあるものを見せた。そして、自分の腹を手のひらでそっと撫でた。
その意味がわかった途端、梓は私の腕を引っ張ってぎゅっと抱き締めた。少し苦しく感じるほどの強い力には、いろいろな思いが込められていることだろう。

「私、新たな命を授かりました……!」
「うん、うん……ありがとう、ありがとう……」

同じ言葉を二回繰り返し、私たちは見つめ合った。その後、引き寄せられるようにキスをした。
離れていく唇に名残惜しさを感じた。
こんなにキスを求めあったのは初めてのことかもしれない。

私たちは二人で産婦人科へ足を運んだ。

「ええ、おめでとうございます。妊娠二ヶ月ですね」

私たちは思わず顔を合わせ、立ち上がって手を合わせた。

「まだ不安定な時期ですので、体調にお気を付けくださいね。この病院では毎月の受診を勧めておりますので、来月いらしてください」
「はい、わかりました。ありがとうございました」

私たちは病院を出た後も胸の中は期待によって高揚していた。
だがそれからずいぶんと冷え込んだ一ヶ月後、私たちは驚くべき事実を知ることになった。

「……え? 双子ですか?」

なんと私の腹には二つの命が宿っていることが判明したのだ。

「どうやら一卵性双生児のようです。なかなか厳しい出産になるかもしれませんね」

双子。なんだか一気に家族が二人増えるって楽しそうじゃない?
そんな風に双子だということを素直に喜んでいたのはつかの間……そのまた三ヶ月後、私の腹はどんどん大きくなっていった。
元から痩せていた私の腹には二人の赤子が入る隙間が狭いため、腹は破裂してしまうのではないかと悪いことを考えてしまうほど不自然に大きくなっていた。
大きくなっていくにつれて増えていく妊娠線。これは赤子が順調に成長していっている証なので嬉しいことだが、妊娠線が多くなる、つまり腹が苦しくなるということである。
私は重い腹を抱えつつ生活する日々が続き、もちろん芸能活動はしばらく休養した。

妊娠八ヶ月、梓はそっと私の寝る部屋に入り、そばに座った。

「大丈夫? これなら食べられる?」
「ん……無理。気持ち悪い……」
「だめだよ食べないと。栄養足りなくなっちゃうよ? ほら」
「……っるさい!」

カランカラン……スプーンがフローリングに叩きつけられる音が響く。部屋にしばし沈黙が訪れた。
この私たちの新居は一戸建てだから良かったが、もしマンションだったら下の階からの苦情が来たほどだろう。
吐き気がひどく、食べ物の匂いを嗅いだだけで吐いてしまうので、この頃なにも口にしていない私を心配してくれているのはわかっている。
だが、やはり無理矢理スプーンに乗せたかゆを口に近付けられても辛いだけだ。

「……ごめん」

ゆっくりと寝返りを打って梓から顔を背ける私に、ぽそりとそうつぶやいた。そして梓が私から遠ざかって行く足音がした。
私も謝らなければならないが、男になにがわかる、そう思ってしまい、なにも言わず最悪の展開を迎えてしまった。

……苦しい、気持ち悪い、泣きそう、泣きたい。

「あ、ずさ……さ……」

梓の名を必死に呼んでも、出るのはか細くてかすれた声。
梓を必死に掴もうとしてみても、私の手が掴むのは空だけ。
ああ、もっと早く謝っておけば良かった……そう思ってももう遅い。
私は上に手を伸ばし、ぎゅっと握り締めたまま、意識を失っていった。
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