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Episode5.家族だった。
コンソメスープである。
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翌朝、キッチンから甘い卵の香りを感じて目が覚めた。
時間は7:00。
毎日家を出る時間より10分ほど早い。
キッチンには、Myエプロンを着けたお兄ちゃんがいた。
いつもコンタクトをしているので、朝は貴重な黒縁メガネ姿である。
「おはよう。葵、勝手に卵使っちゃったけど大丈夫だよね?」
「おはよ……。うん、大丈夫だよ、ありがとう。
お兄ちゃんはここから会社に行くの?」
「そのつもり。だったんだけど、あまりにも遠いから有給休暇取っちゃった」
「休んじゃって大丈夫なの……!?」
会社ってそんな簡単に休んで良いものなのだろうか。
どこかで聞いた噂では、会社とはくだらない理由で会社を休むとすぐにクビにされる恐ろしいところだと言うのだが。
私の聞いたその噂は嘘だったんだと今知る。
「休む理由はもちろん嘘ついておいたけどね?」
それを聞いて私は唖然とした。
やっぱりそんな簡単に休んじゃいけないんじゃん……!
お兄ちゃんが作ったお砂糖入りの甘い卵焼きやたまねぎのコンソメスープなどをゆっくり食べて余裕を持って家を出た。
久しぶりに家を出るときに『いってらっしゃい』なんて言われたものだから嬉しくてついつい頬が緩んでしまった。
いつもよりも(たぶん)軽い足取りで学校に向かって歩いて行くと、曲がってすぐの道の端で壁にもたれかかって音楽を聴く梓を見つけた。
私はその人が梓だったと言うことよりもいきなり曲がったところに人がいることに驚き、そこに突っ立ったままになっていると、彼は私に気が付いた。
気付かれてしまった、そんな後悔があったが言わなかった。
「おはよーさん」
もたれていた壁と別れ、ぴょんぴょんとペンギンのように近付いてくる。
なんだかぶりっこ女子のようだ、なんて。
私はその様子をじっと見ていたが、ふっと目を離して会釈だけして通り過ぎようとした。
すると彼はすごい速さで私の腕を掴み、ぐいっと引き寄せられて向き合った。
「ちょちょ、この流れでぺこりだけ!?」
私はどうして良いか分からず目を逸らした。
困ったような顔をして、梓は私を掴む手から力を抜いた。
「ごめん、困らせたわ……んーっとどうして良いか考えて来てないし……。
あっそうだ、一緒に学校行こ?」
「はい……」
別に嫌でもなかったのでちらっと梓の目を見ながらうなずく。
「じゃあ、行こっか」
今度は私の肩を掴んで学校の方向=進行方向に体を向けられた。
そして手を無理矢理繋がれて歩き出した。
梓の腕は長く、ちょうどぴったり私の手の位置と合っていた。
彼の手は春とは思えないほど冷たく、つい心配になった。
「葵ちゃんの手、あったかいね……落ち着く」
「梓さんの手はなぜこんなに冷たいのですか」
「んーたぶん朝飯がアイスクリームと牛乳だったからかも」
「それで足りるのですか」
「んーん、ぜんっぜん足りない。だからこれから食堂でパン買うわ」
「私が持ってきたコンソメスープ飲みますか。
朝ご飯の余り物なんですが……」
あまりの冷たさについそんな提案をしてしまった。
お兄ちゃんが作ったコンソメスープ。
まだまだ残っていたので保温ボトルに入れて持ってきたのだが、もう体が温まって満腹になった私が飲むよりも、指先が冷えて空腹状態の梓が飲んだ方がコンソメスープも喜ぶ……そんな馬鹿らしいことを考えたのだ。
「良いの? 葵ちゃんの分は……」
「私は大丈夫ですので……どうぞ」
「ありがとう! ほわぁーあったけー」
ボトルを受け取ってすぐに蓋を開けた。
そしてボトルの飲み口に顔を近付け、湯気を浴びた。
「葵ちゃんが早起きして作ってくれたんだもんね。
大事にちょっとずつ飲むわ」
本当は作ったのは私でなくお兄ちゃん。
だがなぜかお兄ちゃんのことは言わない方が良い気がして黙っておいた。
その日の帰りも途中まで一緒に帰ることになった。
梓ファンの女の子からすごく見られていたが、何も気にしなかった。
私が教室を出たときに聞こえた悲鳴や怒鳴り声はさすがに怖かったが。
校門を出て少し歩いた先で自転車にまたがったままのお兄ちゃんがいた。
私のお迎えに来たらしく、私に気が付くとバッグを自転車のかごに入れてくれた。
「おかえりなさい。ん、この男の子はだれ?」
「どうも、猪瀬梓です。どなた、ですか?」
「ごめんね俺から挨拶するべきだったな……。
葵の兄の碧です、よろしく」
2人はぺこぺこしながら握手を交わした。
そしてお兄ちゃんが唐突に聞いた。
「君は葵が好きなのかい?」
「はい、葵ちゃんの素顔を知って好きになりました」
こんな恥ずかしい質問に恥ずかしげもなく答えられ、私が1番恥ずかしい。
お兄ちゃんは、そうなんだ、とだけ言った。
その場で私はお兄ちゃんの自転車の後ろに乗ったので別れた。
するといきなり自転車を道端で停めて私の方を振り向いた。
「葵。あの梓くんとはもう関わらない方が良いよ」
「なんで?」
「彼は葵の顔を見て好きになっただけみたいだからね……」
そのとき思った。
なんでお兄ちゃんに私の日々の関係までも制限されなければならないのだろうか……。
時間は7:00。
毎日家を出る時間より10分ほど早い。
キッチンには、Myエプロンを着けたお兄ちゃんがいた。
いつもコンタクトをしているので、朝は貴重な黒縁メガネ姿である。
「おはよう。葵、勝手に卵使っちゃったけど大丈夫だよね?」
「おはよ……。うん、大丈夫だよ、ありがとう。
お兄ちゃんはここから会社に行くの?」
「そのつもり。だったんだけど、あまりにも遠いから有給休暇取っちゃった」
「休んじゃって大丈夫なの……!?」
会社ってそんな簡単に休んで良いものなのだろうか。
どこかで聞いた噂では、会社とはくだらない理由で会社を休むとすぐにクビにされる恐ろしいところだと言うのだが。
私の聞いたその噂は嘘だったんだと今知る。
「休む理由はもちろん嘘ついておいたけどね?」
それを聞いて私は唖然とした。
やっぱりそんな簡単に休んじゃいけないんじゃん……!
お兄ちゃんが作ったお砂糖入りの甘い卵焼きやたまねぎのコンソメスープなどをゆっくり食べて余裕を持って家を出た。
久しぶりに家を出るときに『いってらっしゃい』なんて言われたものだから嬉しくてついつい頬が緩んでしまった。
いつもよりも(たぶん)軽い足取りで学校に向かって歩いて行くと、曲がってすぐの道の端で壁にもたれかかって音楽を聴く梓を見つけた。
私はその人が梓だったと言うことよりもいきなり曲がったところに人がいることに驚き、そこに突っ立ったままになっていると、彼は私に気が付いた。
気付かれてしまった、そんな後悔があったが言わなかった。
「おはよーさん」
もたれていた壁と別れ、ぴょんぴょんとペンギンのように近付いてくる。
なんだかぶりっこ女子のようだ、なんて。
私はその様子をじっと見ていたが、ふっと目を離して会釈だけして通り過ぎようとした。
すると彼はすごい速さで私の腕を掴み、ぐいっと引き寄せられて向き合った。
「ちょちょ、この流れでぺこりだけ!?」
私はどうして良いか分からず目を逸らした。
困ったような顔をして、梓は私を掴む手から力を抜いた。
「ごめん、困らせたわ……んーっとどうして良いか考えて来てないし……。
あっそうだ、一緒に学校行こ?」
「はい……」
別に嫌でもなかったのでちらっと梓の目を見ながらうなずく。
「じゃあ、行こっか」
今度は私の肩を掴んで学校の方向=進行方向に体を向けられた。
そして手を無理矢理繋がれて歩き出した。
梓の腕は長く、ちょうどぴったり私の手の位置と合っていた。
彼の手は春とは思えないほど冷たく、つい心配になった。
「葵ちゃんの手、あったかいね……落ち着く」
「梓さんの手はなぜこんなに冷たいのですか」
「んーたぶん朝飯がアイスクリームと牛乳だったからかも」
「それで足りるのですか」
「んーん、ぜんっぜん足りない。だからこれから食堂でパン買うわ」
「私が持ってきたコンソメスープ飲みますか。
朝ご飯の余り物なんですが……」
あまりの冷たさについそんな提案をしてしまった。
お兄ちゃんが作ったコンソメスープ。
まだまだ残っていたので保温ボトルに入れて持ってきたのだが、もう体が温まって満腹になった私が飲むよりも、指先が冷えて空腹状態の梓が飲んだ方がコンソメスープも喜ぶ……そんな馬鹿らしいことを考えたのだ。
「良いの? 葵ちゃんの分は……」
「私は大丈夫ですので……どうぞ」
「ありがとう! ほわぁーあったけー」
ボトルを受け取ってすぐに蓋を開けた。
そしてボトルの飲み口に顔を近付け、湯気を浴びた。
「葵ちゃんが早起きして作ってくれたんだもんね。
大事にちょっとずつ飲むわ」
本当は作ったのは私でなくお兄ちゃん。
だがなぜかお兄ちゃんのことは言わない方が良い気がして黙っておいた。
その日の帰りも途中まで一緒に帰ることになった。
梓ファンの女の子からすごく見られていたが、何も気にしなかった。
私が教室を出たときに聞こえた悲鳴や怒鳴り声はさすがに怖かったが。
校門を出て少し歩いた先で自転車にまたがったままのお兄ちゃんがいた。
私のお迎えに来たらしく、私に気が付くとバッグを自転車のかごに入れてくれた。
「おかえりなさい。ん、この男の子はだれ?」
「どうも、猪瀬梓です。どなた、ですか?」
「ごめんね俺から挨拶するべきだったな……。
葵の兄の碧です、よろしく」
2人はぺこぺこしながら握手を交わした。
そしてお兄ちゃんが唐突に聞いた。
「君は葵が好きなのかい?」
「はい、葵ちゃんの素顔を知って好きになりました」
こんな恥ずかしい質問に恥ずかしげもなく答えられ、私が1番恥ずかしい。
お兄ちゃんは、そうなんだ、とだけ言った。
その場で私はお兄ちゃんの自転車の後ろに乗ったので別れた。
するといきなり自転車を道端で停めて私の方を振り向いた。
「葵。あの梓くんとはもう関わらない方が良いよ」
「なんで?」
「彼は葵の顔を見て好きになっただけみたいだからね……」
そのとき思った。
なんでお兄ちゃんに私の日々の関係までも制限されなければならないのだろうか……。
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