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Episode5.家族だった。
葵のお兄ちゃんである。
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その場で私たちはオーディションの話からファッション、メイク、ポージングと話がころころと変わり、長く話していた。
ファッションに関して持論を展開し合い、お互いの意見に感銘を受けたりそれは違うと反論したりした。
ここまで思い切りファッション談義することがなかったので初めは緊張のようなものを感じていたが、時間が経つにつれて解れてきて自分の思っていることを存分に話すことが出来た。
話しすぎて気が付けば午後6時。
外は暗くなり始めたので2人は帰った。
私はというと。
「葵ちゃんはうちに泊まっていきなよ?
もうかなりうちにいるからほぼ猪瀬家の一員だよ。ね、梓」
「お、おー……慣れたわ」
「とか言って毎回来るごとに部屋を綺麗に掃除して『ああードキドキするー』ばっかり言ってるのは誰よ」
「やめろっ黙ってくれお願いだから!」
「む、むご。ぶーろくばんばーい」
焦った梓に口を手で塞がれた楓はもごもごとなにかを話した。
私には理解不能だったが、弟にはわかったらしく、うるせー! とだけ言って手を離した。
私は今までだったらお言葉に甘えていたのだが、
「いえ、今日は家に帰って明日の朝食作り置きしたいので遠慮しておきます。
ありがとうございました……」
「また来たいときに来てね!」
「泊まらないのか……んじゃあまた明日」
お見送りすると言ってくれたが、断ってゆっくり歩いて家に帰った。
猪瀬家から歩いて5分のところにある私の家。
少し急いでマンションの階段を上る。
ガチャガチャと鍵を差し込み回し、ドアノブを引っ張る。
ガチャンッ
「ひえぇっ!」
……はっ、つい私としたことが情けない声を出してしまった。
これは仕方ないと思う。
鍵を開けたと思っていたがなぜかドアは閉まっていて、思い切り引っ張ったら腕が外れそうになったからだ。
きっと鍵をかけ忘れて家を出たということはない……ということは!
今度は鍵がかかっていないか確認してからそっと開ける。
「ただいま……」
家の中を伺いながら小さい声で言ってみる。
するといつもとは違い部屋の中から、
「おかえりなさーい」
という若い男の声が聞こえた。
ちょっと嬉しくてどたばたと走ってリビングに行く。
そこには……寝転がってお笑い番組を観るお兄ちゃんがいた。
お兄ちゃんは今社会人2年生としてここから電車で30分ほどかかる会社に勤めている。
そして今は会社から近いところにある、お兄ちゃんの年上彼女の家で同棲中だ。
私と兄はかなり仲が良い兄妹だね、と言われるほど喧嘩もせず仲良く一緒にいる。
普段は同棲している家にいるはずなのにここにいる理由……それは。
「またあいつと喧嘩した。そんな気がして葵のところに連絡しといて良かったわ」
彼女さんと喧嘩したから、いつもそうだ。
昨日、私の元に『そろそろ喧嘩するかも』というイコール家に帰ります連絡があったので準備していた。
「たぶんお互いすぐ謝ると思う。だから一瞬で出て行くはず。
俺ももう24歳だから結婚とかも焦ってるんだよな……」
「そっか……お兄ちゃんも24歳かぁ……」
「葵だって俺と会わない間に17歳だろ? あんなに小さかったのになぁ」
目尻を下げて優しげに笑う。
私の兄は学校でも目立つタイプで、告白されるなんて日常茶飯事だったらしい。
以前私のクラスメートに言われたことだが、兄はたれ目気味で色白、そして身長190㎝という微妙なのっぽさ。
筋肉のない細いかんじがなぜか女子に人気だったようだ。
たしかに性格はどんな男子よりも良いと思うけどね?
私が自分とお兄ちゃんの分の豚肉の生姜焼きや切り干し大根、そしてトマト入りの豚汁を作っている間、お兄ちゃんはソファでぐっすり眠っていた。
頬にうっすら赤い手の跡があることから、2つ年上の彼女、羽瀬川 唯紅さんにビンタされたのだろうと予測できる。
かなり唯紅のほうが強いカップルではあるが、なんだかんだ言って仲が良い。
唯紅には会ったこともあるが、お兄ちゃんよりも男気のある男勝りな性格。
だがお兄ちゃんいわく、実は可愛い乙女の部分がある……らしい。
彼女は小さい頃からサッカークラブに所属していたらしく、そのせいか色がかなり黒く焼けている。
その色の黒さが、大きくてぱっちりした猫目を強調しているのかもしれない。
笑ったときに白い歯をにかっと出す唯紅の笑い方は女の私から見ても魅力的だと感じたことがある。
私は彼女と会うたびにその彼女に対する『憧れ』が強くなっている気がする。
ご飯が出来上がり、食卓に並べる。
お兄ちゃんのご飯の量は、この手が勝手に覚えてくれていた。
ソファにいるお兄ちゃんの体を揺さぶって起こす。
「お兄ちゃん、ご飯出来たよ。
今日はお兄ちゃんが好きな生姜焼き作ったから食べて」
「おおー、葵のご飯も久しぶりだなぁ。
やっぱり良い匂いだし、美味しい……懐かしいよ……」
2人で囲む食卓はいつもよりあったかく、安心した。
お兄ちゃんは私の過去も知っているからかぜんぜん緊張せずに話せる。
両親は私が産まれてからすぐに働いてしまったのであまり話していないので、今までの悩みや学校での話は親ではなくお兄ちゃんに話していた。
いつかお兄ちゃんと唯紅の結婚があるかもしれない、私はそう思っていて、そのときが来るのが楽しみだ。
お兄ちゃんに対して嫌だな、と思うことは1度もなかったのだが、この後お兄ちゃんと梓が会ったときに初めて嫌だという感情が湧いた。
お兄ちゃんも……そんなことを言うんだね……?
ファッションに関して持論を展開し合い、お互いの意見に感銘を受けたりそれは違うと反論したりした。
ここまで思い切りファッション談義することがなかったので初めは緊張のようなものを感じていたが、時間が経つにつれて解れてきて自分の思っていることを存分に話すことが出来た。
話しすぎて気が付けば午後6時。
外は暗くなり始めたので2人は帰った。
私はというと。
「葵ちゃんはうちに泊まっていきなよ?
もうかなりうちにいるからほぼ猪瀬家の一員だよ。ね、梓」
「お、おー……慣れたわ」
「とか言って毎回来るごとに部屋を綺麗に掃除して『ああードキドキするー』ばっかり言ってるのは誰よ」
「やめろっ黙ってくれお願いだから!」
「む、むご。ぶーろくばんばーい」
焦った梓に口を手で塞がれた楓はもごもごとなにかを話した。
私には理解不能だったが、弟にはわかったらしく、うるせー! とだけ言って手を離した。
私は今までだったらお言葉に甘えていたのだが、
「いえ、今日は家に帰って明日の朝食作り置きしたいので遠慮しておきます。
ありがとうございました……」
「また来たいときに来てね!」
「泊まらないのか……んじゃあまた明日」
お見送りすると言ってくれたが、断ってゆっくり歩いて家に帰った。
猪瀬家から歩いて5分のところにある私の家。
少し急いでマンションの階段を上る。
ガチャガチャと鍵を差し込み回し、ドアノブを引っ張る。
ガチャンッ
「ひえぇっ!」
……はっ、つい私としたことが情けない声を出してしまった。
これは仕方ないと思う。
鍵を開けたと思っていたがなぜかドアは閉まっていて、思い切り引っ張ったら腕が外れそうになったからだ。
きっと鍵をかけ忘れて家を出たということはない……ということは!
今度は鍵がかかっていないか確認してからそっと開ける。
「ただいま……」
家の中を伺いながら小さい声で言ってみる。
するといつもとは違い部屋の中から、
「おかえりなさーい」
という若い男の声が聞こえた。
ちょっと嬉しくてどたばたと走ってリビングに行く。
そこには……寝転がってお笑い番組を観るお兄ちゃんがいた。
お兄ちゃんは今社会人2年生としてここから電車で30分ほどかかる会社に勤めている。
そして今は会社から近いところにある、お兄ちゃんの年上彼女の家で同棲中だ。
私と兄はかなり仲が良い兄妹だね、と言われるほど喧嘩もせず仲良く一緒にいる。
普段は同棲している家にいるはずなのにここにいる理由……それは。
「またあいつと喧嘩した。そんな気がして葵のところに連絡しといて良かったわ」
彼女さんと喧嘩したから、いつもそうだ。
昨日、私の元に『そろそろ喧嘩するかも』というイコール家に帰ります連絡があったので準備していた。
「たぶんお互いすぐ謝ると思う。だから一瞬で出て行くはず。
俺ももう24歳だから結婚とかも焦ってるんだよな……」
「そっか……お兄ちゃんも24歳かぁ……」
「葵だって俺と会わない間に17歳だろ? あんなに小さかったのになぁ」
目尻を下げて優しげに笑う。
私の兄は学校でも目立つタイプで、告白されるなんて日常茶飯事だったらしい。
以前私のクラスメートに言われたことだが、兄はたれ目気味で色白、そして身長190㎝という微妙なのっぽさ。
筋肉のない細いかんじがなぜか女子に人気だったようだ。
たしかに性格はどんな男子よりも良いと思うけどね?
私が自分とお兄ちゃんの分の豚肉の生姜焼きや切り干し大根、そしてトマト入りの豚汁を作っている間、お兄ちゃんはソファでぐっすり眠っていた。
頬にうっすら赤い手の跡があることから、2つ年上の彼女、羽瀬川 唯紅さんにビンタされたのだろうと予測できる。
かなり唯紅のほうが強いカップルではあるが、なんだかんだ言って仲が良い。
唯紅には会ったこともあるが、お兄ちゃんよりも男気のある男勝りな性格。
だがお兄ちゃんいわく、実は可愛い乙女の部分がある……らしい。
彼女は小さい頃からサッカークラブに所属していたらしく、そのせいか色がかなり黒く焼けている。
その色の黒さが、大きくてぱっちりした猫目を強調しているのかもしれない。
笑ったときに白い歯をにかっと出す唯紅の笑い方は女の私から見ても魅力的だと感じたことがある。
私は彼女と会うたびにその彼女に対する『憧れ』が強くなっている気がする。
ご飯が出来上がり、食卓に並べる。
お兄ちゃんのご飯の量は、この手が勝手に覚えてくれていた。
ソファにいるお兄ちゃんの体を揺さぶって起こす。
「お兄ちゃん、ご飯出来たよ。
今日はお兄ちゃんが好きな生姜焼き作ったから食べて」
「おおー、葵のご飯も久しぶりだなぁ。
やっぱり良い匂いだし、美味しい……懐かしいよ……」
2人で囲む食卓はいつもよりあったかく、安心した。
お兄ちゃんは私の過去も知っているからかぜんぜん緊張せずに話せる。
両親は私が産まれてからすぐに働いてしまったのであまり話していないので、今までの悩みや学校での話は親ではなくお兄ちゃんに話していた。
いつかお兄ちゃんと唯紅の結婚があるかもしれない、私はそう思っていて、そのときが来るのが楽しみだ。
お兄ちゃんに対して嫌だな、と思うことは1度もなかったのだが、この後お兄ちゃんと梓が会ったときに初めて嫌だという感情が湧いた。
お兄ちゃんも……そんなことを言うんだね……?
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