つがいなんて冗談じゃない

ちか

文字の大きさ
29 / 39

ヴァーノン公爵令嬢side

しおりを挟む
 ずっと、ギルフォード殿下が好きだった。

 子供の頃、パーティーでお見かけして以来ずっと。

 公爵令嬢としての身分のおかげもあり、殿下の婚約者候補に選ばれた。他にも何人か候補者がいたが、それとなく私の想いを伝えたところよくわかってもらえたようだった。彼女たちは決して身分不相応な真似はしなかった。

 婚約者候補筆頭としてかなり殿下と交流を持つことができ、殿下のお屋敷で何度もお茶会をした。その際に私が嫁いだ後のことも考えて使用人とも親しくなるよう努めた。

 けれど、殿下は私を選んではくれなかった。どうしても番を諦めきれないからと。
 私はいつまでも待つ気でいたが、殿下に私のためにも次の縁談を探したほうがいいとまで言われてしまい、殿下の幸せを願っていますと言って大人しく引き下がった……というふりをした。どうせもう番いなんて現れないだろうからひとまず、様子を見て、また徐々にアプローチしていけばいいそう思っていた。

 こんなに殿下が好きなのにどうして私は彼の番じゃないのだろう?

 そんな悲しみを抱えたまま日々を過ごしていたが、ある日父からまだ内々のことだが殿下に番が現れたと聞かされた。

 私はとうとうこの日が来てしまったのかと大きな衝撃を受けた。いや!殿下が私以外の誰かになってしまうなんて!そう思っていたが、番なのだ。きっとお互いが惹かれあっているに違いない。そう思っていた。

 しかし、しばらくしてから殿下と共通の友人から信じられないことを聞いた。
 なんと殿下の番が彼に触れないで欲しいなんて言ったらしい。なんて無礼な!一体何様なの?

 番に触れてもらうなんてとても幸せなことじゃない。お可哀想な殿下。私が番だったらそんな悲しい思いをさせてあげくそんな相談なんて友人にさせて悩ませたりなんてしないのに!

 他国出身だがなんだが知らないけれど、他国の文化だと言い張ってそんなことを言いだすなんて殿下の気を引きたいだけに決まっているわ。そんなことするなんてなんで意地悪な番かしら。

 一体どんな女なのかしら?こうなったらその番とやらに私が直々に会って殿下に相応しいか確認しなくてはいけないわ。そしてこんな駆け引きにもならないようなふざけたことするなと注意をしてあげなくてはいけないわ。

 これも全て殿下の幸せのためだもの。その為なら嫌われ役だっていくらでも買って出てやるわ。


 ***


 殿下の番に会いに行ってみれば、なんとも間抜けな女だったわ。
 あんな女が殿下の番だなんて。あんな女より私の方が相応しいのにあんな女と結婚だなんて。

 どうして?お可哀想な殿下。

 あの女私がせっかく注意してあげたのに、ポカンと口を開けたまま聞いていたわね。私の話理解できていたのかしら?理解できない頭の出来なのかしら?もしかして、元の身分は平民だったのかしら?
 それに何の言い訳もしてこなかったわ。まぁ公爵令嬢の私に口答えしなかった点だけは褒められるわね。

 この私が直々に教えて差し上げたのだからきっと殿下とあの番の女は上手く行ってしまうわね。

 あぁなんて健気な私。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幸せな番が微笑みながら願うこと

矢野りと
恋愛
偉大な竜王に待望の番が見つかったのは10年前のこと。 まだ幼かった番は王宮で真綿に包まれるように大切にされ、成人になる16歳の時に竜王と婚姻を結ぶことが決まっていた。幸せな未来は確定されていたはずだった…。 だが獣人の要素が薄い番の扱いを周りは間違えてしまう。…それは大切に想うがあまりのすれ違いだった。 竜王の番の心は少しづつ追いつめられ蝕まれていく。 ※設定はゆるいです。

ただの新米騎士なのに、竜王陛下から妃として所望されています

柳葉うら
恋愛
北の砦で新米騎士をしているウェンディの相棒は美しい雄の黒竜のオブシディアン。 領主のアデルバートから譲り受けたその竜はウェンディを主人として認めておらず、背中に乗せてくれない。 しかしある日、砦に現れた刺客からオブシディアンを守ったウェンディは、武器に使われていた毒で生死を彷徨う。 幸にも目覚めたウェンディの前に現れたのは――竜王を名乗る美丈夫だった。 「命をかけ、勇気を振り絞って助けてくれたあなたを妃として迎える」 「お、畏れ多いので結構です!」 「それではあなたの忠実なしもべとして仕えよう」 「もっと重い提案がきた?!」 果たしてウェンディは竜王の求婚を断れるだろうか(※断れません。溺愛されて押されます)。 さくっとお読みいただけますと嬉しいです。

気がつけば異世界

波間柏
恋愛
 芹沢 ゆら(27)は、いつものように事務仕事を終え帰宅してみれば、母に小さい段ボールの箱を渡される。  それは、つい最近亡くなった骨董屋を営んでいた叔父からの品だった。  その段ボールから最後に取り出した小さなオルゴールの箱の中には指輪が1つ。やっと合う小指にはめてみたら、部屋にいたはずが円柱のてっぺんにいた。 これは現実なのだろうか?  私は、まだ事の重大さに気づいていなかった。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

番(つがい)と言われても愛せない

黒姫
恋愛
竜人族のつがい召喚で異世界に転移させられた2人の少女達の運命は?

番が見つけられなかったので諦めて婚約したら、番を見つけてしまった。←今ここ。

三谷朱花
恋愛
息が止まる。 フィオーレがその表現を理解したのは、今日が初めてだった。

忌むべき番

藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」 メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。 彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。 ※ 8/4 誤字修正しました。 ※ なろうにも投稿しています。

処理中です...