つがいなんて冗談じゃない

ちか

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騎士side

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 男性に暴行されたのではと思われる子どもが噴水広場にいるらしいと通報があり、向かうとそこには十二歳くらいの少女がいた。

 巡回は二人一組と決まっているが、本当に男性に暴行されたのであれば、いきなり騎士のような大柄の男が近づけば不必要に怖がらせてしまうかもしれないと、今日、俺と組んでいる騎士には見える範囲で離れていてもらうことにし、俺が少女に声をかけることにした。

 少女に声をかけようと近づいてみると何か思い出しているのか何かをぼうっと見ているのか目の前のことは視界に入っていないような焦っているような怯えているような妙な雰囲気が伝わって来た。

「君っ!」

 ビクッ!!

 やはり、近づいた俺に気付いてなかったのか、なるべく驚かせないように声をかけながらそっと肩に手を当てたらとても驚かれてしまった。もっと慎重になるべきだったのか。そんなに大きな声を出したつもりもないし、優しく触れたつもりだったのだが……

 振り返ってこちらを仰ぎ見る少女と目が合った。思ったよりも幼さの残る迷子のような顔を見たら暴行されたことについてどう話を切り出したらいいか逡巡している間に、少女の目がみるみる潤んできた。はっ?!やばいっと思った時にはもう遅く、少女に泣き出されてしまった。どうしたらいいかわからなかったが、以前他の騎士が子ども相手に目線を合わせて話していたことを思い出しとりあえず、真似をしてみることにした。

 「大丈夫か?驚かせてすまない。落ち着いて欲しい」とかなるべく怖がらせないように泣き止ませようと色々声をかけてみた。あまりに慌てていたため、自分でも何を言っていたのか覚えてはいないが。

 何となく周りの視線が痛い気がする。

 そんなことをしているうちにようやく少女の涙が止まり落ち着いて来たため、改めて話しかけた。

「大丈夫?落ち着いたかな?」

「はい、どうもご親切に。急に泣き出してしまってすみませんでした」

「いや、こちらこそ、急に声をかけて驚かせてしまって申し訳ない」

「いえ、本当にこちらこそすみませんでした」

 話してみると思ったよりも随分としっかりしているなという印象だった。見た目よりも子どもではないのだろうか?それよりもあの話題を切り出さなきゃいけないが……なんといったものか。

「私はこの辺りを巡回している騎士なのだが、先ほど噴水広場に手助けが必要な子どもがいると通報があって確認に来たのだ」

 何とかこれで通じてくれないだろうか。

「通報……ですか……」

 やはりこれでは無理か。仕方ない……

「あぁその、非常に言いづらいのだが暴行されて逃げてきたのだろうか……」

 っ!!!

 少女の表情が変わった。もしかして本当に?いや、この言葉では違う意味に取られるか?確実にするためにももう少しはっきり言ったほうがいいのか?

「いやっその申し訳ないのだが、君は男性に……」


「っ!いえ!大丈夫です。こ、これはちょっと転んで汚れただけです。それでちょっと休憩していただけで……」

 どうやらこちらの意図は伝わったようだが、本当に何もなかったのだろうか?

「いや、だがしかし……」

「いえ、本当に何もありません。大丈夫です」

「……そうか、わかった。失礼した。小さなレディにそのようなことを言ってしまい申し訳ない。もし、何かあれば巡回中の騎士に遠慮なく声をかけてくれ。もしくは詰所に来てくれても構わない」

「はい、分かりました。ありがとうございます」

 とりあえず何かあれば頼ってくれていいと伝えたが、このまま放っておくのもな。どうすべきか?

「他に私に出来ることはあるかな?」

 ひとまず俺に出来ることはないか聞いてみたところ意外な答えが返って来た。

「あっ、あのそれでは図書館ってありますか?」

「図書館?あぁ、それならそこの大通りを真っ直ぐ行った所にあるよ」


「分かりました。それで図書館って誰でも入れますか?」

「えっ?あぁ大丈夫だよ。かつては制限があったようだが、今は開かれた図書館として存在している」

 図書館を知らない?どうしてこんな当たり前のことを聞くのだろうか?確かにこの少女の髪色など見た目はこの国では珍しいが……移民なのか?場所がわからないだけならともかく。

 他国から来たばかりなのか?それともよっぽど田舎から出て来たのだろうか?

 その割には旅装でもないし、着いてすぐに図書館に行くというのもな。

 だが、まだ十二歳くらいだろう?そんな少女が一人で?仕事を探しに来たのか?奉公先から逃げて来たのだろうか?まさか違法な奴隷商人から?それとも本当に暴行されたのだろうか?

 様々な可能性が頭をよぎる。そんなことを考えていたら少女がぽつりと呟いた。

「開かれた図書館……」

「あぁ街にあるのは平民でも利用出来るということだ。印刷技術が向上して紙の本が増えたからな。それらの本を集めた図書館だ。まぁ従来の本や貴重書などは貴族図書館のみでしか閲覧を許されないし、そこに入るには貴族もしくは貴族から許可証を得た物しか利用できないがな」

 我が国以外でも印刷技術はそう変わらないはずだ。平民が利用出来る図書館もよっぽどの小国でもない限り、国力を見せつけるためにもたいていの国には存在している。そんなことははずなのだが。

「ありがとうございます。それでは行ってみたいと思いますのでここで失礼します」

 図書館の場所を教えるとぺこりと軽く頭を下げ、少女はそそくさとその場をあとにした。


 一体何者だ?あの少女は。
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